【VS.脚本家】「物をよく無くす人います。しかしどうか癇癪を起こす前に、もう一回自分の周りをよく探してみてください。眼鏡を無くして困っているお父さん、もう一回おでこにかかってないか調べてみてください。コンタクトを無くしたお姉さん、目の隅にずれてないか確認してみてください。入れ歯を無くしたおじいさん、口の中に落ちてないかもう一回調べてみてください。そう、探し物は大抵あなたのすぐ目の前にあるもんです。意外な所に…」
データ
あらすじ+人物相関図
脚本家・佐々木高代は、妹でマネージャー・佐々木和子との折り合いが悪かった。和子は高代の稼いだ金銭を管理し、慈善事業に寄付している。自分の金を無駄なことに使っていることや、自由に金を使うことができない不満から、彼女を殺害する計画を企てたのだった。
ある晩、高代は強盗殺人を装って和子を殴り殺した。自分で警察に通報をすると、古畑任三郎たちが現場検証に訪れた。証言の矛盾などから、すぐに高代の犯行だと睨んだ古畑は「この事件、凶器を見つければ解決だ」と宣言し、現場となった館内を探っていくのだった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:佐々木高代(ささき たかしろ)
役者:加藤治子(かとう はるこ)
職業:脚本家
殺害方法:撲殺(????)
動機:昔から嫌悪感があったため
今回の被害者:佐々木和子(ささき かずこ)
役者:絵沢萠子(えざわ もえこ)
職業:マネージャー
犯行計画/トリック
【強盗殺人に偽装】
①台所でかつお節を削っていた佐々木和子に、高代は声を掛ける。驚いてかつお節を床にばら撒いてしまう。拾い集めるため中腰になっていた和子の後頭部を『○○○○』で殴り殺す。その後、財布の中から現金を抜き出し、勝手口の扉を開けた。外には空になった財布を投げ捨てておく。
②警察に通報すると聴取の際「悲鳴と物音を聞いて階段から降りると不審な男がいた」と話す。妹は強盗に殺害されたように偽装した。
推理と捜査(第2幕まで)
視聴者への挑戦状
「えー、謎は解けました。やっと凶器を見つけました。佐々木高代は一体何を使って妹を殺したんでしょうか。えー、ヒントはこれです(料理本)。解決編はこの後で、古畑任三郎でした」
三幕構成
小ネタ・補足・元ネタ
〇佐々木高代の執筆道具:インクはパイロット社『30ml(黒・青)』。万年筆は形状から、プラチナ万年筆『#3776センチュリー(旧式:ブラック)』だと思われる。原稿用紙は、満寿屋『NO.15(ルビ無し:グレー)』である。
〇佐々木高代の犯人像としては、刑事コロンボ41話『死者のメッセージ』の犯人アビゲイル・ミッチェルをモデルにしていると思われる。推理小説家の女性でシリーズ最高齢の犯人である。古畑任三郎との会話でのはしゃぎようや、自白した際の「私はもう年寄りだし……」と情けを求めるシーンなどは、似ている箇所が多い。
〇佐々木高代の邸内には、芸能人から贈られた花が多数あり、古畑が「タモリみたいです」と言うシーンがある。これは『笑っていいとも』のテレフォンショッキングのことで、このコーナーでは芸能人から贈られた花が飾られる。
〇「もしこの事件をドラマ化したら?」と、古畑と高代がキャスティングについて話をする場面がある。配役は以下である。
古畑任三郎:ケビン・コスナー
今泉慎太郎:桜金造
被害者:ベティ・デイビス
犯人:キャサリン・ヘプバーン/ジャンヌ・モロー
まとめ
昭和を代表する名女優『加藤治子』さんの名演が光るエピソードなんですね。『凶器当て』がテーマで、古畑任三郎は冒頭から佐々木高代が犯人だと見抜き「凶器を見つければこの事件は解決」と断言しています。これにより事件の焦点は、凶器を探すだけになるシンプルな構成になりました。よろしいでしょうか?ここまでで話は10分過ぎました。このドラマ45分あります。
残り35分もの尺をどうやって稼いだのか?会話&会話なんですね。犯行現場となった邸内だけのワンシチュエーションで乗り切るんです。小説やら創作をしたことがある人ならわかるんですが、超絶難しいです。ここまで引っ張れるのは舞台劇作家・三谷幸喜氏のなせる技なんですね。
犯人概要をいつも書いているんですが、いつもよりも長尺になっています。他の事件の犯人は短めになるんですけど、尺を伸ばすべく犯人についての情報がたくさん出てくるんです。時間を稼ぐシーンと言えば、例えば俳優・山崎浩のやり取りなどは、本編には関係はありませんね。
この作品の脚本は非常にシンプルな構成である故に、演じる役者さんの演技の上手さに感動してしまいました。35分間ほとんど、古畑と犯人の会話ですよ。対決感は薄いですが、名女優の立ち振る舞いに感動して、最後はホロリときてしまうラストでした。(酷い犯人ですが…)
以上、『偽善の報酬』でした。