【VS.監察医】「ご無沙汰しております。皆さんお元気でした?あ、そうですか。早速ですが皆さん、占い信じますか?私の場合どうしても今ひとつ信用出来ないんです。
私のことを典型的な乙女座のA型という人がいます。頭が切れる割に情に流されやすく意外にミーハーである。性格は神経質でかなりねばり強い。確かに当たってます。
しかし一番肝心なのは、私はA型でもなければ乙女座でもないということです。占いと言えば…」
データ
あらすじ+人物相関図
遺体の肛門から犯行予告のおみくじが発見される『猟奇的殺人事件』が発生した。古畑任三郎たちは捜査を進めると、遺体の検案は監察医・黒岩健吾と助手・春木が行っている共通点を発見する。2人は事件に関与していると疑うが、目的が分からないでいた。
しかし、都議会議員秘書・小木智満が6人目の被害者として発見される。遺体の状況から、今までの遺体とは違う点が見受けられ、この殺人が彼らの狙いであったと古畑は推理をした。追い込まれた春木は弱気になり自首をほのめかすと、黒岩は彼を殺害してしまう。
監察医務院から飛び降りて自殺したとされる春木の遺体は、黒岩が検案を行い肛門からおみくじが発見された。占いの内容は、『おみくじ殺人』は春木が実行したことを指し、黒岩は全ての疑いを彼に擦り付けたのだった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:黒岩健吾
役者:緒形拳
職業:監察医
殺害方法:①小木智満(毒殺)/②春木(撲殺:杖)
動機:口封じ
共犯者:春木
役者:栗田寛一
職業:監察医
今回の被害者:小木智満(おぎ ともみつ)
役者:酒井敏也
職業:都議会議員秘書
犯行計画/トリック
②助手・春木は、都議会議員秘書・小木智満をバーに呼びだす。帰りに、良い飲み屋があると人眼がない陸橋の下に誘導する。春木は小木を羽交い絞めにすると、監察医・黒岩健吾は首元に薬品を注射して殺害した。そして、遺体の肛門におみくじを詰めた。
③古畑任三郎の捜査が迫ってくると、春木は自首をほのめかすようになる。黒岩博士は春木を殺害すると、監察医務院から飛び降り自殺したように偽装した。遺体は黒岩が検案を行い、肛門からはおみくじが発見される。内容は、自身がおみくじ殺人の実行犯であることを示すもので、春木におみくじ殺人の罪を擦り付けた。
推理と捜査(第2幕まで)
視聴者への挑戦状
「えー、いつになく難しい事件でした。しかし、どうやら今度こそ、黒岩博士の尻尾を掴んだようです。黒岩博士は、ある重要な手がかりを残してくれました。ヒントは、春木先生は、なぜ今日になって発見されたのか。古畑任三郎でした」
三幕構成
小ネタ・補足・元ネタ
〇動機に関して犯人の口からは明言されていない。西園寺守刑事の台詞を要約すると、去年の夏、政界のニューリーダーと呼ばれていた代議士・芹沢は、政界の揉め事に巻き込まれた直後に謎の死を遂げる。その時、芹沢の秘書をしていたのが都議会議員秘書・小木智満であった。
他殺の疑いがかけられたが、芹澤の遺体は黒岩博士が検案を行い自殺と調査書がまとめられる。実際には首に絞められたような跡があり、芹沢を殺した連中が多額の見返りを渡し、黒岩博士と助手・春木を買収して嘘の検案報告書を作らせた可能性がある。
小木もそれに加担していたが、やがて良心の呵責に耐えられなくなり、自首をすると言い出す。彼が自首すれば、黒岩と春木にも捜査の手が及んでしまうため、『おみくじ殺人』を企てる。連続殺人の加害者の中に、小木を紛れこませて殺害したのが今事件の動機とされる。
〇事件のアイディアでもある、『木を隠すなら森の中』の由来は、『ブラウン神父の童心』の「折れた剣」からである。ストーリー的には、アガサクリスティー『ABC殺人事件』を彷彿とさせる。
〇助手・春木役の『栗田貫一』氏は、1996年金曜ロードショーで放送されたルパン三世『トワイライト☆ジェミニの秘密』の中で、変装したルパンで古畑任三郎のモノマネを行っている。台詞の中には「通りすがりの古畑です」というものあり、見た目は白いローブとターバンを巻いた民族衣装であった。
〇犯人役に「緒形拳」氏をオファーする前は、「志村けん」さんに犯人役を依頼していた。
一度だけ志村さんにドラマのオファーをしたことがある。「古畑任三郎」の犯人役。殺した人間の肛門におみくじを隠すという、とんでもなく馬鹿馬鹿しい犯罪は、完全に志村さんに当てて書いたもの。残念ながらスケジュールの都合で実現しなかった。
【三谷幸喜のありふれた生活(987回)】より引用
〇おみくじの内容に関しては下記である。
おみくじ№1 大凶 高い所には気を付けべし
おみくじ№2 大凶 夜道にはくれぐれも注意
おみくじ№3 大凶 走り過ぎには注意
おみくじ№4 大凶 水に注意
おみくじ№5 大凶 車の事故には注意
おみくじ№6 大凶 飲み過ぎに注意
おみくじ№7 大凶 己れの罪は償うべし。
おみくじ№7では、『己れ』となっており、送り仮名として『れ』が余分である。
まとめ
演出がスタイリッシュなエピソードなんですね。早送りのように進む画面、モノクロで映し出される遺体のアップなど、最初に見たとき「いつもの古畑任三郎じゃなーい」と、クレヨンしんちゃんのネネちゃん(「いつものママじゃなーい」)みたいな声を出してしまいました。
『遺体の肛門からおみくじ』が発見されるというプロットも実にユニークな掴みだと思います。「一体どうなるんだ⁉」と先が見えないのがミソなんですね。
今までの古畑任三郎の場合、犯人の犯行計画or動機がしっかりと分かった状態で進んでいました。今回のエピソードではどちらも伏せられており、犯人だけはわかった状態で進み、徐々に謎が明らかになる半倒叙形式のようになっています。
1つ残念な点としては、ラストの詰め手になります。中盤以降で証拠となるやりとりが出現していれば良かったのですが、終盤20分前に証拠が出来るやりとりを行っているのです。さらに、それがアップになり映しだされてしまっています。
勘のいい視聴者であるならば、古畑の行動に対し「明らかに怪しい」と思ってしまいはず。決め手の元ネタである刑事コロンボ『二枚のドガの絵』のように、一見すると何の不自然さもないやりとりの中で証拠ができあがる場面。それがあれば、傑作エピソードになっていました。
以上、『黒岩博士の恐怖』でした。