今回紹介する作品は、ビデオ邦題『謎の完全殺人』です。脚本家は刑事コロンボの原作者『R・レヴィンソン&W・リンク』で、「ミステリドラマ3部作」の1作目にあたる記念すべき作品でもあるんですね。VHSを探し購入するまでに3年かかりました。
サスペンスな作品であり、さりげない台詞や動作から、流れるように繋がるストーリー展開が非常に美しいです。R・レヴィンソン&W・リンクのミステリドラマ3部作の中でどれが一番好きかと聞かれたならば、この作品かも知れません。
データ
監督:ロバート・デイ
脚本:R・レヴィンソン&W・リンク
製作:ロバート・A・パパツィアン
製作統括:R・レヴィンソン&W・リンク
音楽:ディック・デ・ベネディクティス
本編時間:92分
公開日:1979年
あらすじ
読心術師アーサー・シンクレアは、相手の心を読む超能力者『奇跡を演出する男』と人気を集め、今やテレビや講演会に引っ張りだこな人物である。莫大な資産に目が眩んだ若い妻・アリスンは、不倫相手の俳優・ギル・ウェストンをそそのかし、心臓に持病があるアーサーを自然死に見せかける殺人計画を実行するのであった
人物紹介(キャスト)
名前:アーサー・シンクレア
役者:ハル・ホルブルック
概要:読心術師の男性。相手の心を読み取る読心術を用い、テレビや講演会にも引っ張りだこな人物。実態は相手の身辺調査を探偵・エディに依頼し、その確かな演技力と話術で集めた情報を駆使して相手の心を読んだかように見せかけるインチキ超能力者である。
元々はマジシャンをしており、相方の女性と組んで読心術を披露していたがまったく売れていなかった。それが最近になり売れ出した理由については、「コンピューター時代にこそ人は奇跡を求める」「インチキだという保証はない。逆に思わせぶりが強いほど受ける」と自らを分析している。
本も出版しており、タイトルは『心の状態』である。出版社からは、3年間に3冊の本を執筆してほしいと前金として30万ドルを渡す契約も持ち掛けられている。「講演で本が売れ、本がテレビ出演を促す」と、マーケティング展開の上手さと商売熱心さ伺うことができる。(1978年1ドル平均=209円 30万ドル=6.270万円)
心臓に異常があり、2年前に起きた発作以来ペース・メーカーを植込んでいる。カード番号は8986でロサンゼルスで登録しているようだ。
名前:アリスン・シンクレア
役者:キャサリン・ロス
概要:アーサーの妻である女性。アーサーとは画廊で知り合い結婚して5年になるようだ。自宅にいる際は、アーサーから出演する番組の録画を頼まれている。
やがて金に目が眩んだようで、離婚して慰謝料を半額もらうより、保険金も資産も全てを手に入れたいと、不倫相手・ギルをそそのかし密かに殺人計画を進める悪女。
名前:ギル・ウェストン
役者:バリー・ボストウィック
概要:俳優の男性。アリスンの愛人である。俳優としては鳴かず飛ばずであり、『舞台が成功すれば次は大きな仕事が手に入る』と自身を過大評価している思考がある。この考え方についてアリスンは、「朝起きるたびに”今日こそいい仕事が入る””今度こそ世に出られる”と思うのは、切ない幻想じゃない」と直球火の玉ストレートな心が折られそうになる言葉を贈られる。
後日、舞台出演後の新聞では、「彼の演技には才能のかけらも見あたらなかった」「観客も座礁しあた芝居を見放し最初の幕間で席を立った」「主役に耐えるだけの技量も華もない」と酷評されてしまう。
アーサー殺人計画については『殺人に手を染めるだけは勘弁』という立場であったが、上記のやりとりで俳優として成功できそうもないと悟り、アリスンの計画に加担することを決意する。
一応テレビのCMに出演しており、『キャロライン! これがインスタントだって⁉』という台詞の亭主役とのこと。作品内でそのCMを確認するすべはない。
補足
〇原題『MURDER BY NATURAL CAUSES』訳:自然な原因による殺人。
心臓に異常があるアーサーを突然死に見せかけ殺害する計画であるためだろう。
〇R・レヴィンソン&W・リンクのミステリドラマ3部作の1作目である。2作目『殺しのリハーサル』3作目『ギルティ・コンサイエンス』がDVD化されているのに対し、今作品だけはDVDでの発売がなく、VHS(ビデオ)を入手して視聴するしか方法がない。(内緒だけど原題で探すとYo〇〇ubeで観ることができるようでした)
〇アリスンが自宅での不倫中、ギルにお酒を頼むシーンがある。酒には氷を入れており、彼女から「氷はいらないのよ」と言われている。酒の好みを把握しておらず、まだ彼女のことを詳しく知らない(それ程親密な関係ではない)という伏線だったのかも?
〇その他キャスト(一部のみ)
弁護士:ジョージ・ブルーベイカー
俳優:リチャード・アンダーソン
探偵:エディ
俳優:フィル・リーズ
〇ビデオ『謎の完全殺人』を探すにあたり、『キラー・スキャナーズ 謎の完全殺人』という似たタイトルの映画が何度も検索に表示され、こっちも気になっているぞ! ジャケットから怖そうでまだ手が出せずにいます。そのうち視聴してみたい……。
まとめ
脚本の巧みさと無駄のなさを見ていきます。最初の数分:オープニング(5W1H)の時点で主人公は心臓に持病があることが分かります。これから番組収録があるため、緊張による心臓への負担がないかを知りたかったのです。
いつ | 収録前 |
どこで | 楽屋 |
誰が | 主人公(アーサー・シンクレア) |
何を | 心拍数に異常がないかメーカーに測定依頼 |
なぜ | 緊張から心臓に異常がないか不安だから |
どのように | 神妙な面持ちで |
そして、次のシーンでは妻との遠距離電話の場面になります。彼女は夫の心臓を気遣って見せますが、不倫相手と一緒に寝ていたのです。そして、心臓に持病がある夫を拳銃の空砲を使い驚かせて殺害する計画を企てていることが分かるのです。
この冒頭からの流れで、何をメインに据えるのか? 以下がこの作品の柱(テーマ)であることが伺えます。
➀読心術師
➁秘密裏に謀殺
さて、アーサーが出演する番組では、見事に読心術を使い相手の心の内を見事に的中させます。本物の超能力者かと思いきや、後日自宅シーンで、やっぱりインチキ霊能力者であることが視聴者に提示されます。ここが面白さのポイントでもありましょう。
何でもお見通しのはずの読心術師が妻の殺人計画にまったく気が付いていない。気が付かずに残していた不倫相手の痕跡(タバコ)を咎められると、辻褄の合いそうな妻の嘘ですぐに納得してしまうアーサー。
視聴者は『馬鹿だねこの男は。読心術師なのに まったく心の内を見透かせてないじゃないの』というギャップともどかしさでストーリーに引き込まれていきます。さらに、拍車をかけていくかのように、アーサーが有能に見せかけて実に大したことのないように見えていく展開が続きます。
新聞記者を装い殺しに訪れてきた不倫相手・ギルから、インチキ霊能力者ではないかと追いつめられていく。果たして妻の殺人計画は成功するのか?
ここから先の展開はストーリーにツイストが掛かっていくのですが、中盤以降のお話になりネタバレのため記載はしません。ビデオのあらすじ紹介にはガッツリと書かれていますが止めておきます。
最後はゾッとする展開とだけ。重大な局面において選択肢が提示されます。私のなかで作品の柱をもう一度確認すると、『➀読心術師』『➁秘密裏に謀殺』だと考えました。そう思うと、最後の選択肢の答えは……。
以上、【テレビ映画『殺しの演出者』(ビデオ邦題:謎の完全殺人)あらすじと感想】でした。