【VS.ハリウッド女優】「視聴者への隠し事」があるエピソードなんですね。最後の最後で動機が判明します。刑事コロンボのエピソードのなかでもフェアかつ、自然に散りばめられた伏線は見事。全てが一致してエピソードの終幕を迎えます。
徐々に明らかになっていく事件。最後に犯人が語る真相とは何なのか。犯人と刑事の逮捕劇ではなく、コロンボが共感し得る相手とのヒューマンドラマの骨格にもなっているエピソードになります。いつものようにキレのある終わり方とは違い、犯人語りが魅力的です。
データ
脚本:ストーリー監修:ジャクスン・ギリス
原案:リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク
監督:ニコラス・コラサント
制作::ディーン・ハーグローグ
音楽:ディック・デ・ベネディクティス
本編時間:74分
公開日:アメリカ/1973年1月21日 日本/1974年6月15日
あらすじ
ハリウッドを代表する女優ノーラ・チャンドラーは、自身の映画撮影に金をつぎ込むも、どれも興行的には伸びず多額の損失を出していたが、帳簿を不正に操作することで負債を撮影所に押し付けていた。それを、芸能コラムニストのジェリー・パークスに掴まれてしまい脅迫を受けてしまう。
その晩ノーラは、ジェリーが書店でのサイン会を開いている間、彼の自宅にあるガレージにガソリンを撒き、帰宅したのを確認すると火を放ち車ごと爆発させた。その後、事件調査のため犯行現場にコロンボ警部と共に現れたのは、殺したと思っていたジェリーであった。爆発させた車に乗っていたのは秘書のジーンであり、彼女の死を聞いたノーラはその場に泣き崩れてしまうのだった。
人物紹介(キャスト/吹き替え声優)
今回の犯人:ノーラ・チャンドラー
役者:アン・バクスター
吹き替え声優:藤波京子
概要:ハリウッドを代表する女優。落ち目になってきており、自身を主役とする映画撮影に金をつぎ込んで復帰を図るが、興行的には伸びず多額の損失を出している。帳簿を不正に操作することで、負債を撮影所に押し付けていたが、芸能コラムニストのジェリー・パークスに掴まれてしまい脅迫を受けてしまう。そのため、口封じを狙い爆殺を狙ったのだが……。
子役時代から活躍をしてきたハリウッドを代表する女優だが、映画業界が衰退してからは活躍の場をテレビドラマに移した。未亡人であり、亡き夫は撮影所の所長だったようだ。彼が撮影所内に残した邸宅は、子役時代に建てられたもので、撮影の合間に休憩できるように現在も住んでいる。
ジェリー・パークスには落ち目になった女優と言われるが、その人気は健在ぶりで、金色の八角形というサングラス(逆にバレそう)越しでも、ノーラと見抜いたファンにより囲まれている。コロンボ警部も青春時代の憧れのスターと語っており、会ったときには嬉しさのあまり、カミさんに電話を掛けてみせた。(しかし買い物中で電話には出れず)
撮影には滅多にNGシーンを出さないが、精神的に辛くなった際には酒を飲み撮影に臨む。念のため作品撮影時には、水筒に入れた酒をスタッフが準備している。最後にコロンボ警部に全てを見抜かれ、罪を自白するときにも酒を口に含んでおり、精神的に追い込まれていたのだろう。
今回の被害者:ジーン・デイヴィス
役者:ピッパ・スコット
吹き替え声優:牧野和子
概要:ノーラ・チャンドラーの秘書である女性。彼女とは18年間を共にしている。イエスウーマンのようで、予定が入っていたにも関わらず、それを断り、ノーラの急なお願いを聞き入れた。
芸能コラムニストのジェリー・パークスとは交際関係にあり結婚を考えており、とにかく彼に夢中な様子である。ノーラから、彼が結婚するのは利用するためだと言われたときには、激高し声を荒げて見せるも、すぐに冷静さを取り戻した。
小ネタ・補足
〇コロンボ警部がノーラと会話した際、衣装デザイナーからネクタイを見立ててもらう場面がある。衣装デザイナーは『イーディス・ヘッド』氏であり、本人役で登場した。
〇『刑事コロンボ完全捜査ブック』P.60によると、犯人ノーラ・チャンドラーのキャラクターは、彼女を演じた役者「アンバク・スター」氏が主演の映画『イヴの総て』を意識しているようだ。
〇>>「Tクラブの指輪」って何???
吹替えでは『Tクラブ』と翻訳されましたが、英語だと『Shriner(シュライナー)』と言っています。いわゆる会員制クラブで、犯人の夫はその証として指輪を身に着けていました。
〇>>それが一体どんなクラブなのか
【真説フリーメイソン大百科(上巻)】によると、聖廟結社(シュライナーズ)、構成員は聖廟士と呼ばれています。1870年代~設立されたようですが、目的は息苦しさが増しつつあったロッジ活動に、娯楽という潤いをもたらすとのことです。
お堅い雰囲気だった時代に、様々な娯楽をして楽しもうという趣向があったのだと思われます。国内サイトの、『シュライナーとは | Japan Shriners』にも、設立の成り立ちから、主な活動についても詳しく記載がなされています。
まとめ
これまでの刑事コロンボに多かったパターンは、切れのある終わり方です。逃れられない証拠を突きつけられた犯人は、もはや何も言い返すこともできずエンディングを迎える。他にも犯人もそう多くは語らず、潔く負けを認めて画面外へ歩いていくことが多いと感じました。
このエピソードでは、敗北を認めた犯人の語りに対して、殺人を犯すに至った経緯に対して、コロンボ警部は否定はせずに傾聴していくのです。ただこの事件、もう1人犯罪者がいます……。
「カミさん記念品が好きでねぇ。レストラン行くたびに灰皿を盗んでいくんです」
コロンボ警部のカミさん。泥棒じゃないですか!
以上、14話「偶像のレクイエム」でした。
刑事コロンボ14話「偶像のレクイエム」。倒叙形式の奥にあるもう一つの犯罪を解き明かしていくという、極めて珍しい精緻な構成の作品でしたが、コロンボがノーラを自白に追い込むため最後にでっちあげる証拠「Tクラブの指輪」って何???
それが一体どんなクラブなのか、指輪に彼女のイニシャルがある(会員である)ことがどんな意味をもつのか……夫を失踪とみせかけて埋めた昔の犯罪と何のつながりがあるのか、さっぱりわかりません!
制作当時のアメリカの人なら説明なしで済んだんだろうけど、今となっては謎としか言えません
誰か知ってたら、教えてください!
ショパン大好き様
お問い合わせありがとうございます!
>>「Tクラブの指輪」って何???
吹替えでは『Tクラブ』と翻訳されましたが、英語だと『Shriner(シュライナー)』と言っています。いわゆる会員制クラブで、犯人の夫はその証として指輪を身に着けていました。
>>それが一体どんなクラブなのか
【真説フリーメイソン大百科(上巻)】によると、聖廟結社(シュライナーズ)、構成員は聖廟士と呼ばれています。1870年代~設立されたようですが、目的は息苦しさが増しつつあったロッジ活動に、娯楽という潤いをもたらすとのことです。
お堅い雰囲気だった時代に、様々な娯楽をして楽しもうという趣向があったのだと思われます。国内サイトの、『シュライナーとは | Japan Shriners』にも、設立の成り立ちから、主な活動についても詳しく記載がなされています。
>>指輪に彼女のイニシャルがある
指輪にはイニシャルは彫られていません。コロンボ警部が指輪を入れた封筒に、彼女(N.C「ノーラ・チャンドラー」)の名前が書かれていました。
>>昔の犯罪と何のつながりがあるのか
コロンボ警部から「ジェリー・パークスが指輪を持っていた」と言われ、すぐに犯人は帰宅して、灯りもつけずに『〇〇』まで向かい(ジェリーから掘り返されていないこと)確認しにいきました。コロンボ警部は自分の仮説(〇〇に埋まっている)を証明するため、彼女に指輪を見せた反応が見たかったんです。
被害者は、犯人の過去の秘密を知っていました。12年間黙認してきましたが、ジェリー・パークスと交際するにあたり、犯人はその過去の秘密を彼に打ち明けていたではないかと考えました。だから、ジェリーは指輪の場所が分かり、掘り返したのではないかと思ったのです。
せぷてい様
丁寧な返答、ありがとうございます! 疑問はほぼ解消し、私が誤解していた点もわかりました。会員制クラブ(Shriners)がフリーメーソンの一派とは、奥が深いですね。
あとわからないのは、ノーラの夫がその会員だったことをコロンボがいつ知ったか、という点で、どこかに伏線として述べられているはずなので…もう一度作品を見て探してみようと思うのですが、おわかりならご教示ください。
コロンボ警部がノーラ・チャンドラーと最初に会話をした、撮影所内の邸宅に夫の写真がありました。写真では指に指輪をはめており、コロンボ警部の叔父もシュライナーの会員で指輪を身に着けていたことからその存在を知ったのだと思います。
私はベスト10に入るんですが、これも意外と人気は低い。
アン・バクスターの細かい芝居やメル・ファーラーのクソ野郎感が素晴らしい。
視聴者を騙しにかかるストーリー展開もあって独特なエピソードでした。
私はまんまと引っ掛かり、中盤でアレ?アレ?と見事に惑わされました。
≫私はベスト10に入るんですが、これも意外と人気は低い。
意外な着地点に到達する面白い展開ですよね。ラストの犯人語りが印象に残ります。