【VS.詩人】旧コロンボの最終話になります。壮大なスケールで描かれる今エピソードは、殺人事件にプラスして、テロリストの武器輸送も阻止するというものになっています。どうやってコロンボは犯人を逮捕し、そのうえで武器輸送のトリックを見抜くのか?
データ
脚本:ハワード・バーク
原案:パット・ロビソン
監督:レオ・ペン
制作:リチャード・アラン・シモンズ
音楽:パトリック・ウィリアムズ
本編時間:97分
公開日:アメリカ/1978年5月13日 日本/1979年1月3日
あらすじ
詩人ジョー・デヴリンは、少年時代にテロリストであった過去を公表し、紛争の救済活動を行う反過激派の平和路線に転身していた。だが裏では、現在も過激派と繋がりがあった。
イギリスで大規模なクーデターを起こすため、オコンネル工業の同志と共に、紛争救済のはずの支援金で武器の大量密輸を計画していたのだ。
武器仲買人のヴィンセント・ポーリーとの交渉が進んでいたが、彼はその金を持ち逃げするつもりだったのだ。この事実を掴んだジョーは、裏切り者であるポーリーを「処刑」と称し射殺した。
人物紹介(キャスト/吹き替え声優)
今回の犯人:ジョー・デヴリン
役者:クライヴ・レヴィル
吹き替え声優:納谷悟朗
概要:詩人の男性。テロリストだった過去があるが、現在『北アイルランド援護協会』理事を務め、紛争の救済活動にあたっている。だが、裏ではいまだ過激派と連携をとっており、援護協会の募金をテロ活動の資金に利用していた。テロ活動のため、武器の大量密輸を仲買人ヴィンセント・ポーリーに依頼するが、銃の購入資金をそのまま持ち逃げしようとしたため、裏切り行為とみなして「処刑」した。
アイルランドの「ベルファースト」の町出身である。14歳の頃にテロリストをしており、ダイナマイトの運び屋をしていた。イギリス王室を爆発させる目的だったようだが逮捕されてしまう。その後、監獄に入れられたが脱走。アメリカに移り住むことになる。
脱獄を考えさせてくれたのは、独房の壁に書かれていた言葉。「すべてに正義を。自由に正義を」「人にはふさわしき贈り物を。我が望みはただそれのみ」である。この言葉は、アイルランドのテロリストである『マイクル・ドーラン』が掘り残したもので、後に絞首刑となったようだ。ジョーは深く感銘を受けたようで、現在に至るまでもその言葉を崇拝している。
アメリカで暮らした当初は生活に困窮していたようで、「生きるために何でもやった。多少悪いこともね」とのこと。大切なのは機転と逃げ足、寒さに強いことと語っている。逮捕歴があり、テロリストであった過去は公表しており、現在はイギリス製のセーターを愛用しているほどである。
楽器演奏の腕があり、マンダリンを使用して歌を歌ったり。ピアノでは「ラグ・タイム」を得意としている。話術も上手く、自身の過去をスタンダップ・ジョーク風に茶化して披露して見せた。本業は詩人であるが、エンターテイナーと言える。
ラグタイム:1897年~1918年のジャズが主流になる前に流行ったジャンル。アップテンポな曲調で、ノリが良いメロディーと、固定的な左手のリズムが心地良い。
詩人として出版するきっかけになったエピソードは、キャロル・ヘミングウェイのラジオ番組でこう語っている。「barで飲んでいたら出版社の人と激論して、社長の鼻をぶん殴ってから…」とのこと。詩集だけではなく最近では「Meet the Authon」という、自伝を出版した。ニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコ、ロサンゼルスのチャンドラー書店でサイン会を開いてきた。
かなりの酒好きで、行く先々の店にマイボトルが存在する。店員からも顔を覚えられている一方で、自身も店員の名前を憶えている。酒の銘柄は『アイリッシュ・デュー』を、男の飲み物と称して愛飲している。ビールは水とも称した。
飲みすぎないように「ここまで。ここを過ぎず」と、ダイヤの指輪でボトルに表面に擦り傷をつけて、飲む量を決めてからグラスに注ぐことが習慣になっている。残念ながらデブリンが好んでいるアイリッシュ・デューは架空の酒である。
仲買人ヴィンセントを殺害した際には、遺体に添えるようにアイリッシュ・デューのボトルを転がした。ラベルに書いてある言葉は、『人にはふさわしき贈り物を』である。お前には死がふさわしい……。そんな皮肉なジョークを込めたのだ。
もし武器が購入できたならば、イギリスのサザンプトンに運ばれた。「m11」という連射性能のある銃を使い、近距離から奇襲をかけて逃げる作戦だったようだ。なお、運ぶ予定は15日であった。
今回の被害者:ヴィンセント・ポーリー
役者:アルバート・ポールセン
吹き替え声優:灰地順
概要:武器仲買人の男性。酒や雑談は苦手と語っており取引は常に本題から入っていた。だが、酒は糖尿病で飲めなかったのであり、糖尿の規定値を超えると鳴るアラーム付のブレスレットを装着していた。今回ジョー・デヴリンは、過激派の仲間から彼を紹介してもらったようだ。
ジョーの作戦である近距離から奇襲をかけると聞いて選んできた銃は、「m11」「m10」「拳銃」などである。m10の方が強力であるが、持ち運びなどの面からm11をおススメしていた。合計500丁で1丁=300ドルで販売を予定していた。(1978年5月1ドル=226円 300ドル=67800円)
15日までの納期に、販売相手を急がせることができないと嘘を言い、30日納期になるとした。15日までに納期したいのならと、さらに5万ドルを上乗せすれば口利きをするという。合計20万ドルの金銭を要求した。(20万ドル=4520万円)
ホテルでの取引時、20万ドルを手に入れたならば高跳びして逃亡する予定であったが、ジョーに見抜かれてしまい、裏切者は「処刑」されてしまった。だが、前の実績はあったとジョーは語っており、今回ばかりは魔がさしてしまったようである。
ちなみに、殺害される前までの行動は、金ボタン付きの洒落たブレザーを着て、昼食は素晴らしいインドカレーを食べて、その後航空会社に訪れリスボン行のチケットを予約。取引から2時間30分後には逃亡する計画であったようだ。
小ネタ・補足
〇ラジオ番組のメイン・パーソナリティー「キャロル・ヘミングウェイ」はご本人である。
〇NHKで再放送する時、「石田太郎」氏の吹き替え版で放送されていた。これは、旧シリーズ45作品でコロンボ警部の吹き替え声優を勤めた『小池朝雄』氏の音源が長年行方不明となっていたことから。
その後、家庭用ビデオでの録画テープが視聴者から寄せられ、NHKでは放送可能な音質と判断。配給元ユニバーサルなどの了解を得て小池版を復刻、2010年に放送した経緯がある。(※一部石田太郎氏の吹き替えあり)
まとめ
実に大規模な犯罪がひしめいているエピソードなんですね。個人的な動機を通り越してテロ活動に加担していた犯人が登場しました。犯行計画とは実にシンプルなものでして、シンプルが故にわずかな証拠から犯人を導き出していく展開は魅力的です。
犯人は詩人でありテロリストという、陽気な一面と残忍な一面を兼ね備えた人物です。コロンボ警部とは、ピンボールやダーツ、ベッドで横になりながら連想。コロンボと酒の酌み交わして即興ジョークと仲良くやっているように見えますが、お互い内心は食ってかかって圧を感じました。
印象に残っているシーンが、コロンボ警部の車を空撮で撮影されているシーンです。コロンボ警部は船を追いかけようと車を走らせるんですが、その船には銃器を隠して大量に密輸しているかも知れないと思って必死に追いかけるんですね。そこに、ケルト音楽のようなBGMが重なり実に見事な緊迫感を与えてくれます。
以上、45話「策謀の結末」でした。
全体の構成とは関係ないが
ポーリーは英国人だったのか。デブリンを裏切った理由が知りたい。また殺人シーンでは先にポーリーがM11に弾を装填した後にデブリンが発射しているから殺人に関しては正当防衛とも言える様な。
Hamakiya健 様
コメントありがとうございます!
>>ポーリーは英国人だったのか
ホテルでの取引場面で、デブリンがポーリーに対して、「上乗せの5万で愛国心が蘇ったか」との台詞があります。また、アイルランド過激派の合言葉『我らのみ』を知っていた(教えてもらった可能性もありますが)ため、英国人であると思います。
>>デブリンを裏切った理由が知りたい
ポーリーは過去の取引では実績があるとのことでしたが、ドラマ内においては裏切った理由は言及されておりません。脚本を基に書かれた小説では、ジョージ・オコンネルが「強欲なアラブの武器商人に身を売った売国奴めが、とうとう本性を現しおった。しょせん我が祖国のために共に闘う同志ではない」(刑事コロンボ『策謀の結末/美食の報酬』二見書房、1993年、p32より引用)と述べております。
この点はドラマでは、ポーリーは『昼食は素晴らしいインドカレーを食べて』いたようですので、中東の武器商人と最終的な打ち合わせをしていたと推測されます。
>>先にポーリーがM11に弾を装填した後にデブリンが発射している/正当防衛
この点なのですが、弁護士が日本の法律に当てはめて事件を解説しているブログがあります。それによると『デブリンの前で銃に弾を込めた行為について、デブリンに対して銃口を向けてはいないので殺人未遂罪は成立せず、殺人予備罪にとどまるでしょう』(https://ebina.lawyer/news/%e7%ac%ac%ef%bc%94%ef%bc%95%e8%a9%b1%e3%80%80%e7%ad%96%e8%ac%80%e3%81%ae%e7%b5%90%e6%9c%ab/)と見解を述べておられました。それにしても、自分が贈呈した拳銃にやられてしまうのは皮肉な結末です。
ポーリーが裏切って逃亡しようとしていた、という事になってますが、それなら、何故ジェンセンの元にデブリンが注文したM11五百丁が揃っていたのでしょう? ジェンセンもポーリーに届ける手はずが整っていたと言っています。
ケリーが「ポーリーさんには気の毒な事をした」というセリフにデブリンが「罪なくして死んで行くのは彼だけじゃない」と応えているのも、ケリーとデブリンの思い込みで殺されてしまったように感じます。
ただ、ジェンセンはデブリンに「これだけ揃って十五万ドルなら安いもの」と言っているので、ポーリーが五万ドル余計に請求したのは確か。
推測ですが、ポーリーはデブリンと並行して別の商談を進めていて、必要になったから五万ドル余計に請求。その商談関連でリスボン行のチケットを予約。
デブリンとの最初の商談で「注文の品はどこにでも配達する」と言っていたように、自分がアメリカにいなくても金を受け取れば指定の場所にM11を届ける手はずは整えていた。
そうは考えられませんか?
アウラー様
考察ありがとうございます!
>>何故ジェンセンの元にデブリンが注文したM11五百丁が揃っていた
>>ジェンセンもポーリーに届ける手はずが整っていたと言っています
私もこの点は引っかかっておりました。元売りのジェンセンの手際が良いですよね。
>>ケリーが「ポーリーさんには気の毒な事をした」/デブリンが「罪なくして死んで行くのは彼だけじゃない」と応えている
>>ケリーとデブリンの思い込みで殺されてしまったように感じます。
なるほど!
>>ジェンセンはデブリンに「これだけ揃って十五万ドルなら安いもの」
>>ポーリーはデブリンと並行して別の商談を進めていて
>>デブリンとの最初の商談で「注文の品はどこにでも配達する」
>>自分がアメリカにいなくても金を受け取れば指定の場所にM11を届ける手はずは整えていた
ポーリーの行動に対し高飛びを計画しているのではないかという先入観から処刑した。これなら辻褄が合いますね! 勉強になります‼
それか、『ポーリーが逃亡しようとしていたという思い込み』で殺害したのではなく、同志として祖国のために闘う決意をした仲間だと思っていたのに、自分たちに嘘をついて5万ドル上乗せした裏切り行為に対して憤りを感じ処刑したという見方もできないでしょうか?
デヴリンが愛飲するウイスキー『Full’s Irish Dew』のスローガン『Let each man be paid in Full』は『各人に全額を支払わせよう(人にはふさわしき贈り物を)』と訳されています。ただ、アウラー様が指摘する、ケリーが「ポーリーさんには気の毒な事をした」からの台詞に違和感が生じてしまいそうです。
考察ありがとうございました! アウラー様のおかげで視点が広がりました。もう少し自分でも調べて文章としてまとめることができればと思います。