【VS.往年のミュージカル・スター】これは前情報なしで見ていただきたいエピソード。まだ観てないあなた。読んではいけません。プラウザバックして新鮮な気持ちで視聴していただくことを切に願います。初めての感動は一度だけです。それを無駄にしないでね!!
記憶を消してもみたいと思うエピソードです。最後がカッコいいし思いに胸が打たれます。でもやっぱり、記憶は消えたくないなぁ……。
データ
脚本:ウィリアム・ドリスキル
監督:ハーヴェイ・ハート
制作:エヴァレット・チェンバース
ストーリー監修:ピーター・S・フィッシャー&ビル・ドリスキル
音楽:ジェフ・アレキザンダー
本編時間:99分
公開日:アメリカ/1975年9月17日 日本/1977年1月3日
あらすじ
懐かしいミュージカル映画の名場面を集めた番組「ソング&ダンス」が放映されると、往年のミュージカル・スターであるグレース・ウィラーは再び脚光を浴びる。これを機会に彼女は、ブロード・ウェイのミュージカルでカムバック公演をしたいと考えていたが、夫のヘンリー・ウィリスは、そのミュージカルの出資金を断る。是が非でもミュージカルを開催したい彼女は、その晩に夫の殺害を決意する
グレースは自宅の試写室で映画を見ることが習慣で、召使レイモンドはフィルム交換の時間になるとやってくる。その間にグレースは試写室から抜け出し、睡眠薬を飲んで眠っている夫を射殺した。自殺に偽装するために扉の内側に鍵を掛けると、バルコニーから木を伝い再び試写室へと戻った。
就寝前の最後の見回りに、レイモンドがヘンリーに返事を掛けるも返答はなかった。扉には鍵がかかっており、心配になったヘンリーは扉をこじ開けると、ベッドで横たわるヘンリーを発見したのだった。
人物紹介(キャスト/吹き替え声優)
今回の犯人:グレース・ウィラー
役者:ジャネット・リー
吹き替え声優:鳳八千代
追加吹き替え声優:幸田直子
概要:引退寸前のミュージカル・スターである女性。ミュージカル映画の名場面を集めた番組『ソング&ダンス』が大ヒットしたことで、再び脚光を浴びる。これを機にブロード・ウェイで秋のミュージカルを公演する計画を立てていたが、夫ヘンリー・ウィリスに出資を断られたため殺害を決行した。
ブロード・ウェイで今どきミュージカルをするとなると、50万ドルが必要だそうだ。さすがに夫もこれには同意はできない。だが、金銭など問題ではないことが彼女自身にあったため、夫は出資を断っていたのである。(1975年9月1ドル=299円 50万ドル=1億4千950万円)
『ソング&ダンス』の収録後、自宅に帰るとすぐに睡眠薬を回収し、ナイトガウンの下には動きやすい服に着替えていた。準備をした後に、夫と出資金の相談をしていたため、断られた際には殺害計画をすぐに実行するつもりだったようだ。
23時から試写室でフィルム映画を見ることが日課となっている。アリバイ作りに観ていた映画は、『Walking My Baby Back Home』で彼女が1番好きな映画である。
今回の被害者:ヘンリー・ウィリス
概要:サム・ジャフェ
吹き替え声優:巌金四郎
概要:グレースの夫である元内科医の男性(70歳)。内科医は半年前に引退したが、病院の顧問は続けているようだ。妻グレースからミュージカルの出資を求められたが、これを退ける。前々から計画していた世界一周旅行に行くように諭した。
家族同然の付き合がある「ウェストラム医師」によると、診断の名手で、自身の病気の診断は自分で済ませていたそうだ。自身の病気は前立腺に関する症状。簡単な手術であり、命を脅かすような病気ではない。手術は最後の手段と考えているようで自然に任せている様子。
読書家でもあり、近くの書店のお得意様にもなっている。最後に読んでいた本は、『マクトウィグ夫人の変身』である。コロンボ警部によると、「ふざけた(いい意味で)内容の本で、この世の終わりに読むような本ではない」とのこと。
彼は本を読むときに、読み終えたページの端を折って『しおり』代わりにする。これは大量に本を読む人がするという『ドッグイヤー』という名称である。折った形が犬の耳の形に似ていることから名付けられている。
23時に睡眠薬を飲んで牛乳で服用している。薬が効くまではベッド上で本を読むことが日課のようだだ。老眼でテレビや本を読むときはメガネを装着し、歩く際などには装着していない。
以前、駐車場に泥棒が侵入したようで、パトロールを1時間おきに依頼している。また、護身用のために車のダッシュボードに銃を置いていた。
小ネタ・補足
〇往年のミュージカルスター役「ネッド・ダイヤモンド」を演じたのは、『ジョン・ペイン』氏である。1936年~1957年まで映画俳優として活躍した、本物のミュージカルスターである。本エピソード「忘れられたスター」が、最後の出演であった。
〇犯人グレース・ケリーが、アリバイ工作で観た映画『Walking My Baby Back Home(ウォーキング・マイ・ベイビー・バック・ホーム)』は、演じた『ジャネット・リー』氏が1953年に実際に主演していたミュージカル映画である。邦題「恋人を家に送って歩く道」で、DVDやVHSでも販売していない。
〇ヘンリー・ウィリスが服用していた睡眠薬は『フェノバルビタール』である。コロンボ警部によると、フェノバルビタール5mg(1錠)を服用していたと語り、遺体からは倍検出されたようだ。だが、この薬は通常成人1日30~200mgで、1日1~4回服用する。不眠症の場合は1回30~200mgを就寝前に服用することになっており、明らかに量が足りていないが、気休め程度に服用していたのではないだろうか?
まとめ
99分というエピソードであり通常74分のエピソードより長いです。そのため、普段コロンボ警部の語られることのない話。「射撃テストをさぼっている」ということが明らかになります。ピーター・フォーク自身も時間を持たせるために、いくつもの場面に直面したと述べています。初期のコロンボという謎のキャラクターに、徐々に人物像が形成されてきているとも言えます。
エピソードに関しては、役者の方々の演技が素晴らしいです。コロンボ警部がわき役に見えるぐらいに、往年のミュージカルスターたちの演技を堪能できるんですね。ちょっとした表情や高貴なふるまいはお見事です。
グレースの言動なども後々に意味が気づかされます。最後のミュージカル音楽のフィナーレで終わる余韻、被害者ヘンリー・ウィリスの思いなども考えると、じんわりと目頭が熱くなりました。視聴者への隠しごとがあるエピソード展開なのですが、それを気付かせない構成が上手いですね。
以上、32話「忘れられたスター」でした。
今回は、見ごたえのある内容でした。
このページの冒頭に「まだ観ていないあなた、読んではいけません」と書かれていたのも、良く分かります、私は、終わるまでは見ないようにしていますが。
今回の結末は、私にとっても想定外と思いましたが、こんな結末も有りかと言うことです。
私も小ネタをいくつか言わせていただくと、まずヘンリーがベッドからリモコンでテレビを消したこと。アメリカではリモコンテレビは早くから常識だったようですが、日本でも61年前に初の機種が発売されていたそうです。しかし普及したのは70年代後半頃からでした。
劇中で上映された映画「ウォーキング・マイ・ベイビー・バック・ホーム」で歌われていた、フォスターの「草競馬」は、小学校の音楽の教科書にも記載されていましたが、偶然にもNHKで土曜夜に放送されていた頃の裏番組「クイズダービー」でも使われていました。
今回も「パルビタール」という睡眠薬が利用されましたが、これは「白鳥の歌」など、コロンボには良く登場する薬でした。
グレースの自宅でのパーティに招待されたコロンボ刑事は、いつものヨレヨレのコートから、タキシードを着た正装で出席されました。こうした正装のコロンボ刑事は、なかなか見ることが出来ないのでは無いでしょうか。私も最初はコロンボ刑事とはわからなかったくらいでした。
最後に、グレース役を演じられた女優ジャネット・リーが、1958年に、カーク・ダグラス、トニー・カーティスと共演され、リチャード・フライシャー監督の「バイキング」のDVDを、一部だけ再生しました。若い時も、このコロンボに出演された頃も、綺麗な女優さんでした。
≫フォスターの「草競馬」は、小学校の音楽の教科書にも記載
≫NHKで土曜夜に放送されていた頃の裏番組「クイズダービー」でも
様々な場面で使われているんですね!
≫こうした正装のコロンボ刑事は、なかなか見ることが出来ない
固定したイメージがありますのでギャップがありますよね。
旧シリーズでは、#15『溶ける糸(手術着)』#17『二つの顔(エプロン姿)』#26『自縛の紐(スウェット)』#28『祝砲の挽歌(ランニングシャツ)』#29『歌声の消えた海(アロハシャツ)』#36『魔術師の幻想(違うコート)』
新シリーズでは#53『かみさんよ、安らかに(喪服)』#60『初夜に消えた花嫁(タキシード)』#62『恋におちたコロンボ(パジャマ)』#64『死を呼ぶジグソー(様々な服で変装)』と違ったお姿を披露されております。
このエピソードでファンが考えるキモが、
[グレースはいつ犯行の記憶がなくなったのか?]です。
私は何度も見返してジャネット・リーの演技をみる中で、
[犯行を終えて自室に戻った時には犯行の記憶から消えていたのではないか]と考えています。
慌てた様子の召使いさんの声が聞こえた時にグレースは『え?』という表情を浮かべたように見えます。
記憶があるならこのリアクションは不自然です。
これは脚本家や演じた役者に聞いてみないとわかりませんが、そのあたりを考察するのも楽しいです。
≫私は何度も見返してジャネット・リーの演技をみる中で[自室に戻った時]
私もそこからじゃないかと思ってます。確証がなく断言はできないのですが、鏡を見る恍惚な表情など、どこか自分の世界に入り込んでいるようにも思えます。フリーザ世代様も指摘されているように、声が聞こえてからの驚いた表情。自分の世界から引き戻されたかのように戸惑いを見せています。
認知症の人の多くは、時空を超越していると言われています。今私たちは現在を生きていますが、記憶能力に障害がある人は、思い出の中の時間で生きていることが多いのです。ですので新しい環境には慣れず、昔の記憶ばかりを覚えている。ダンスレッスンの場面でも昔の踊りは完璧でしたが、新しい振り付けは覚えられていませんでしたね。