【VS.チェスの世界チャンピョン】「犯人はあなた以外には考えれない」という状況証拠が完璧なエピソードなんですね。冒頭からチェスの駒につぶされそうになる悪夢はインパクトがあります。チェスの世界チャンピョンを決める大会前夜に起こるという殺人というのも、脚本的に面白いです。
被害者役の方が、スラムダンクの『安西先生』に見えてしょうがないのは私だけ?
データ
脚本:ジャクスン・ギリス
原案:ジャクスン・ギリス、リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク
監督:エドワード・M・エイブロムズ
制作::ディーン・ハーグローグ
ストーリー監修:ジャクスン・ギリス
音楽:ディック・デ・ベネディクティス
本編時間:74分
公開日:アメリカ/1973年3月4日 日本/1974年4月13日
あらすじ
チェス世界チャンピョンのエメット・クレイトンと、病気で引退した元世界チャンピョンのトムリン・デューディックとの直接対決がロサンゼルスで行われることになり、これは事実上の世界一決定戦で世界中の注目を浴びていた。この対決は、クレイトンの元・婚約者リンダ・ロビンソンの計らいで、彼を敗北させ地位と名誉を失墜させるため、親しいデューディックに頼み実現したのだ。
対決の前夜、クレイトンとデューディックはホテルを抜け出し、レストランで密かに手合わせをするのだが、結果はクレイトンの惨敗であった。観衆の前での敗北を恐れたクレイトンは、デューディックをホテルの裏側まで誘い出すと、稼働中のゴミ粉砕機に突き落とした。ディーディックが対決を恐れ、ホテルの裏口から逃げ出そうとして、足を滑らせ機械に巻き込まれたように見せかけたが、病院に搬送され一命を取り留めていたのだった。
人物紹介(キャスト/吹き替え声優)
今回の犯人:エメット・クレイトン
役者:ローレンス・ハーヴェイ
吹き替え声優:小笠原良知
追加吹き替え声優:田原アルノ
職業:チェス世界チャンピョン
概要:現チェス世界チャンピョンの男性。自身を献身的にサポートしてくれたリンダ・ロビンソンと婚約を約束していたが、魅力的な女性が現れて別れを告げる。リンダは復讐のため、母の友人で元世界チャンピョンのトムリン・デューディックとの直接対決を催された。対決前夜、密かに手合わせを行うも惨敗してしまう。勝てないと悟ったことから、稼働中のゴミ粉砕機に突き落とし事故死に偽装しようとした。
耳が不自由で左耳に補聴器を装着している。補聴器は集中したい時には電源を切り、無音のままチェスの対決に臨んでいる。読唇術を習得しており、補聴器なしでも相手の口の動きから言葉を理解することができる。
驚異的な記憶力の持ち主でもあり、過去のチェス世界戦の駒の配置や勝敗、その後の駒の動かし方などを記憶していた。この記憶力を活かして、トムリン・デューディックの常備薬リストを数秒見ただけで暗記。ゴミ粉砕機に突き落としても死なず、病院に搬送された彼の薬をすり替えることで殺人を成功させた。
世界チャンピョンの座を防衛するプレッシャーから、対決前日にはデューディックの顔をしたチェスの駒につぶされる悪夢を見る。文字通り重圧に押しつぶされた結果と言えよう。デューディックとの非公式戦で敗れた後は、苛立で部屋の壁に補聴器を投げつけて破壊してしまった。
今回の被害者:トムリン・デューディック
役者:ジャック・クリューシュン
吹き替え声優:松村彦次郎
概要:ロシア人の元チェス世界チャンピョンの男性。病気が理由でチャンピョンの座を退いていたが、昔から親しい友人の娘リンダ・ロビンソンから、現世界チャンピョンのエメット・クレイトンと対決してほしいと持ち掛けられ、今回の復帰戦に応じた。
引退しているが腕前は健在である。対決前夜にクレイトンと密かに手合わせを行い、7手先を読み切り41手をもって圧勝する実力(チェスの平均:40手~決着)であった。勝負師としての強さだけではなく、敗北したクレイトンに思いやりをもって接する優しさを兼ね備えた人物である。
病気は糖尿病とのこと。かなりのグルメであり、塩分の高い食事やワインを飲んでいる。低カロリーで砂糖抜きの料理を健康管理の医者から提供されているが、不味くて食べたくないと抜け出しては、レストランで食事を楽しんでいる様子。
そのため、クレイトンがすり替えた薬は、血糖値を下げる・上げるタイプの物であると考えられる。ゴミ粉砕機の中に転落であり低血糖状態にあるはず。おそらくは上げる薬を、下げる薬にすり替えたのではないだろうか?
グルメ以外の趣味としてはボーリングがある。コロンボが休日の楽しみにしていたボーリングをしようとした際に、デューディックが失踪したと連絡が入る。そんな彼がいた場所とは、こともあろうにボーリング場であった。
入れ歯を装着している。出歩く際には必ず、年代物の象牙でできたミニチェスセットを持ち歩いているとのこと。
小ネタ・補足
〇エメット・クレイトンの聴力の障害は、ノベライズ版によると、就職が決まり叔母の家に報告を兼ねて車を運転していたところ、道を大きく外れてきたタンクローリーを避けようとしたが衝突してしまう。その結果、感覚器官の破裂により聴力を失ったようだ。
〇リンダ・ロビンソンは、エメットが聴力を失ってからも献身的に彼を支えてチェスを進めた。チェスの王座になると、クレイトンは、スージー・バレンタインという女優と関係を持とうとして、リンダとの婚約を破棄していたとノベライズ版では記載されている。
〇被害者の『トムリン・デューディック』が、スラムダンクの安西先生、ケンタッキーのカーネル・サンダースに酷似していると思ったのは私だけではないはずである。ぜひ、画像検索で見比べていただきたい所存です。
〇今エピソードは、犯人『エメット・クレイトン』演じた『ローレンス・ハーヴェイ』氏の遺作である。胃ガンに侵されており、冒頭で少し酒を飲む以外は食事のシーンが一切ない。
〇チェスで勝てないだけで殺人? 東西冷戦状態の時代であり、対戦相手はソ連(ロシア)のトムリン・デューディック、西のエメット・クレイトンの対決という構図になります。チェスは知性の代名詞とも言われており、影響力が大きい競技です。アメリカ側にとってみれば東西冷戦の代理戦争であり、クレイトンの敗北は社会的な死にも繋がったのではないでしょうか。
まとめ
小さなコロンボの気づきが良いんですね。積み重なって積み重なって、最後にクレイトンの犯行にしか考えられない状況が作り出されるのは見事な展開です。忘れられない場面は、レストランでの小道具を使ったチェス対決で、映像的にもお洒落なやりとりでした。
普通ならば、稼働中のゴミ粉砕機に突き落とされたら死亡してしまいます。それなのに、なぜかデューディックが生きていた。その『なぜ』が、クレイトンの犯行以外にしか考えれないに繋がる。犯人と刑事の直接対決は、まさに盤上でのチェス対決さながら!
コロンボ警部の最後の台詞もオシャレです。「お気の毒だが、縦から見ても横から見ても明らかなんだ。この事件の犯人は〇〇〇〇なんだ」。縦8マス×横8マスの計64マス。チェス盤になぞらえた、ストーリーと一貫性のある締めくくりはお見事です。
以上、16話「断たれた音」でした。
私も被害者を見ていると安西先生がちらちらとよぎってしまいました。
「名探偵コナン」のアガサ博士にも似ていましたね。いつもより殺されてしまうのがつらかったです。
細かくて恐縮ですが、小ネタ・補足欄の「胃ガンに犯されており」は一般的には「侵す」の漢字が使われます。(犯すもあるようですが稀のよう)
仔猫様
再度修正箇所の連絡ありがとうございます!
≫「名探偵コナン」のアガサ博士にも似て
メガネ、口ひげ、白髪と似ている箇所も多いですね。漫画「名探偵コナン」の巻末では、様々な名探偵を紹介するコーナーがあり、『刑事コロンボ』は7巻目で紹介されておりましたね。
≫「胃ガンに犯されており」は一般的には「侵す」
お手数をお掛けしました。修正させていただきました。合わせて少しづつにはなりますが過去記事を推敲していきます。
コロンボ全話を見てからその役者さんの情報を検索した中で、1番驚いたのが今作ゲストスターのローレンス・ハーヴェイ氏でした。
まさか余命僅かの状態で撮影に挑んでいたなんてね。レストランのシーンでデューディックだけが食事をしている理由はハーヴェイ氏が既にまともな食事がでぎる状態ではなかったからか…
地位も名誉も失う不安に苛まれたクレイトン。
それを演じたのは迫りくる死に抗うローレンス・ハーヴェイ。
それを理解してから見直すと魂が震えた感じがしました。
≫ローレンス・ハーヴェイ氏 まさか余命僅かの状態で撮影に挑んでいたなんて
鬼気迫る演技です。チェスの才能に溢れながらも、元世界王者・トムリンに敗北する。ゲームは楽しむものだと諭すトムリンの優しさを感じられます。しかし、時間がないハーヴェイ氏とリンクするかのように、現在の地位から転落することを恐れる犯人。皮肉な幕切れです。