刑事コロンボ『仮面の男』は、表の顔は経営コンサルタント、裏の顔はCIA諜報部員という二面性のある犯人を演じたパトリック・マクグーハンの名演光るエピソードであります。ただ、ラストで言うオチがさっぱり分からずに唖然としたまま観終えた視聴者が多いのはないでしょうか?
今回はそのオチについて考察していきたいと思います。構成上、事件解決の決め手が含まれますのでご注意ください。
「仮面の男」のあらすじ
CIA西部地区責任者ネルソン・ブレナーは、死んだと思っていたエージェント「ジェロニモ」が現れて驚く。ネルソンはCIAという立場を利用し、2重スパイで荒稼ぎしていたのだ。その時の相棒がジェロニモである。ジェロニモは分け前を要求し、もし断ればスパイ活動をバラすと脅した。
ネルソンは支払いを承諾すると、新しく大金が入る仕事をしてみないかと誘った。その仕事は、スタインメッツという男から、海軍の暗号が入ったマイクロフィルムを買い取るというものだった。その晩、ジェロニモとスタインメッツから指示を受けたメルヴィルは商談を済ませる。
ジェロニモは帰路につこうとすると、待ち伏せをしていたネルソンから撲殺される。待ち合わせ場所に指定した海岸は「追いはぎ天国」と呼ばれ、強盗の聖地と呼ばれていた。強盗の犯行に見せかけると、次の日にはテープレコーダーを駆使した完璧なアリバイも作り上げたのだった。
問題のオチ

コロンボ警部はなんとか解決の糸口を見つけ、犯人逮捕に至るのですが、最後にこんなやりとりをして幕切れとなるののですが、よく分からない視聴者が続出してしまったのです。
コロンボ「笑い話があるんですよ」
犯人「ぜひ聞きたいね」
コロンボ「ある日ポーカーとね。麻雀が賭けをした」
犯人「どうなった?」
コロンボ「はじめはポーカーが優勢」
犯人「ところが後半、逆転」
コロンボ「そのとおり」
エピソードをまだ未視聴のあなた。面白いから観ようね。事件解決の糸口からジョークに繋がるのですが、なかなか難解になっています。
事件解決の糸口がオチに絡んでいる

ネタバレですのでご了承ください。
犯人は犯行時刻、テープレコーダーに原稿の草案を吹き込んでいたというアリバイを作りました。実際は殺人を行った後、部屋の時計の柱時計に細工して夜の11時を告げる音が入るように仕込んでいました。しかし、吹き込んだ草案の中に『中国がオリンピック不参加』を決めたことが入っていたのです。
そのニュースは朝6時に初めて全米に伝えられたもので、犯行時刻であった夜11時には誰も知るはずがない情報であり、このアリバイは崩れ去ったのです。
管理人の考察

犯人は賭け事が好きな人物で、自宅には麻雀セットとポーカーがありました。そこで初めてコロンボ警部は、麻雀という中国のゲームがあると教えてもらいます。その後、事件解決の決め手が「中国の表明」に繋がります。
コロンボ警部は、『麻雀=中国』にかけた洒落を思いついたのでしょう。賭け事(刑事が逮捕できるか犯人が逃れられるかの勝負)をする、「コロンボ=麻雀」「犯人=ポーカー」と見立てました。(シンプルに麻雀が中国、ポーカーがアメリカでもいいと思います)
コロンボ「笑い話があるんですよ」
犯人「ぜひ聞きたいね」
コロンボ「ある日ポーカーとね。麻雀が賭けをした」
犯人「どうなった?」
コロンボ「はじめはポーカーが優勢」
犯人「ところが後半、逆転」
コロンボ「そのとおり」
(はじめは)犯人側のアリバイがある限り(ポーカーが)優勢でした。(ところが後半は)最後の最後でそのアリバイが「中国」に関する事柄で崩れ、コロンボ警部(麻雀)が逆転したのです。
『ポーカーと麻雀どちらが勝ったのか理由を説明せよ』というクイズ形式であり、犯人は中国=麻雀に例えているのだとすぐに仕組みを理解したので、その答えを犯人から先に言われてしまい、コロンボ警部は「そのとおり」としか言いようがなかったのだと思います。
本当はコロンボ警部はこのようにイメージしていたのかも知れませんね。
コロンボ「笑い話があるんですよ」
犯人「ぜひ聞きたいね」
コロンボ「ポーカーと麻雀が賭けをした。はじめはポーカーが優勢。ところが後半…」
犯人「(考える)んーわからない。コロンボくん、どちらが勝ったんだい?」
コロンボ「(笑)麻雀です。だってあなたのアリバイは中国の参加表明で崩れたでしょう? 麻雀は中国のゲームですからね」
犯人「なんだ、そういうことか(笑)」
日本語字幕でのオチ

コロンボ「笑い話を」
犯人「聞きたいね」
コロンボ「中国人が心変わりを」
犯人「またか」
コロンボ「参加表明を」
犯人「どうかね……(少し間の考える)麻雀でも」
コロンボ「(笑)なるほど」
犯人「コロンボ君。中国はオリンピックじゃなくて、麻雀のゲームに参加表明をしたんだろう」と言いたいのだと思いますが、どうしても字幕で表現するには略す必要があり、あまり機能していない字幕になっちゃいましたね。
ノベライズ版のオチ
コロンボ「ブレナーさん。笑い話があるんですよ」
犯人「ほう?ぜひ聞きたいね」
コロンボ「今日、中国人が気を変えたそうで、ゲームに参加するそうですよ」
犯人「ゲームに?麻雀のだろ?」
コロンボ「わかっちゃいましたか」
こっちのほうが分かりやすいですね。
コロンボ「中国が参加しないっていってたんですけど、やっぱり参加するみたいですよ」
犯人「えっ!?そうなんだ!!」
コロンボ「麻雀のですよ(笑)」
犯人「そっちかよ(笑)」
みたいなリアクションを期待して、犯人を騙そうとコロンボが悪だくみますが、犯人にあっさりと見抜かれてしまうというオチになります。
オリジナル版(英語)のオチを考察
コロンボ「Would you like to hear something funny?」
(面白い話を聞きたいですか?)
犯人「I’d love to」(ぜひ聞きたいな) コロンボ「Today,the Chinese… they changed their minds.」
(今日中国人が考えを変えたみたいですよ)
犯人「Did they,again?」(またかい?)
コロンボ「They’re back in the games.」(ゲームに参加するそうですよ)
犯人「In the games.Mah-jong」(ゲームって麻雀のことだろ)
コロンボ「(笑)Mah-jong.」(麻雀www)
さて、何言っているのかさっぱりですね。これに関しては、以前コメントにて教えてくださった方がおりましたので詳しい解説をどうぞ‼
麻雀は欧米人の間でもわずかながらやる人がいますが、ルールは簡略化されてたりします。基本的にはトランプのセブンブリッジやジン・ラミーと似てますよね。
それで、ジン・ラミーで上がりの時に「ジン」と言うので、そこからの発想で、上がった時に「マージャン」という掛け声をかけるんです。ですからラストはこう訳せば不可解ではなくなるとおもいます。オチというほど面白くないしめくくりですが。
コロンボ「ブレナーさん、この話には面白い続きがあるんですが、お聞きになりますか」
ブレナー「ほう、ぜひ聞きたいね」
コロンボ「中国人の気が変わって、やっぱりオリンピックに出るそうです」
ブレナー「おいおいまたかい・・・これでロンてわけか」
コロンボ「たしかに・・・これで上がりです」
さらに、演出上のミスも教えてくださりもう私の出る幕はないですね。
劇中、終わり近くでコロンボがブレナーの書斎で麻雀セットを初めて目にして、ブレナーに名前を聞く場面がありますね。でもコロンボが知ったのは名前だけで、ルールについては何も知らないわけです。
これはオリジナルの演出ミスですね。他の作品だとコロンボが独自に調べて雑学に詳しくなる場面が描かれることがよくありますが、ゲームの名前を聞いただけでラストの伏線にするのは無理があります。
その他の英語版のオチの考察
ブログ『寅さん亭日乗』の考察。
深読みして、ChineseはChinaからCIAと、gamesは犯人が関与した職務と読みかえれば
Columbo 「小話があるんですけど。」
Brenner 「ぜひ聞きたいね」
Columbo 「今日、CIAがね、CIAが気を変えたそうです。」
Brenner 「そうかい。またかね。」
Columbo 「ゲームを再調査するそうです。」
Brenner 「わかったよ。君が言っているゲームは、オリンピックのことではなく、私の仕事のことだろう。麻雀をそろえた豪華な生活が捜査されるということだろう。」
Columbo 「麻雀(マイジョブ、my job)ですよ。」追い込みが不十分だったので、今度はコロンボがCIAを使って圧力をかけ、自供を翻さないようにする。
ブログ『安葉巻の煙』の考察。これが正解に近いような気がします。
この作品が作られた1975年当時の政治状況を考えれば、 比較的わかりやすいジョークだと思いますよ。60年代の中ソVSアメリカの対立で始まったベトナム戦争が、 70年代初頭の米中接近、中ソ対立の政治状況下で終結したのが まさにこの1975年。
Columbo “Today, Chinese, they changed their minds.”
というのは、「中国は気が変わってまたソ連寄りになったよ」というニュアンスのセリフで、Brenner “Did they again?”
というのは状況によってソ連に接近したり、アメリカに接近したりと態度をコロコロ変える中国 が「また気が変わりやがったのか」という皮肉っぽい切り返しで、Columbo “They’re back in the games…”
の「game」は米中ソの政治戦略的駆け引きを示した言葉なわけです。
で、政治の話かと思わせておいて、実は麻雀の話だったと。これがおもしろいかどうかっていうと、おもしろいわけありませんが、 アメリカンジョークって、まぁこんなもんでしょ。テレビ版、小説版の翻訳ともBrenner の”Did they again?” というセリフのニュアンスを表現できていないので、 「政治の話と思わせておいて実は麻雀」という会話の妙を 日本語でうまく伝えきれてないのだと思いました。引用:『安葉巻の煙』
シナリオ初稿ではどうなっていたのか?
本来ならコロンボ警部のセリフで締めくくられる予定だったようです。
シナリオ初稿では「笑える話がありましてね、中国がやっぱりゲーム(オリンピック)に戻るそうです」というコロンボのセリフで終わっていた。
引用:『刑事コロンボ完全捜査ブック』P.101
まとめ
翻訳するにあたり、「額田やえ子」先生は大変苦労されたと思います。役者の動く口に合わせ全体を表現する必要があるからです。いろいろとまとめてみましたが、アメリカンジョークなラストは様々な観点から意味合いが変わり、視聴者の数だけ考えの違いもありました。
アメリカでの麻雀のルールの違い、当時の世界情勢など、当時の日本人視聴者はよほど詳しくないと知る由もありません。下手に意味を説明するとナンセンスになっちゃうし、そのまま翻訳しても意味不明で終わってしまう。
ギリギリまで文字数を減らし、なるべくジョークになるような話。そう考えると笑いというものは難しいものです。ギャグは解説してしまうものではなく、その場の空気感と雰囲気を楽しむものです。自分なりの解釈というものもあると思いますので、その感受性を大事にしてみてはどうでしょうか。
その他、こういった意味のニュアンスではないか? 違うエピソードや作品でも疑問点がありましたらお気軽にどうぞ。第1回勝手に解決‼お悩み相談所の内容は以上です。
以上、『刑事コロンボ「仮面の男」オチの意味を解決しよう』でした。
コメント
ジョークって頭良くないから、私一人で笑っていて寂しい思いをしたものです。 どうしてジョークが分からないのかと…自慢ではないですが、今は皆分かってきてるみたいですね。
兎に角、刑事コロンボは最高に面白いですね。
鈴木克己様
コメントありがとございます!
>>寂しい思いをしたもの
>>どうしてジョークが分からないのかと
コロンボ警部が「面白い話があるんです」と前置きしており、視聴者としては笑いのハードルが上がってしまったのでしょうね。ストレートで面白さが伝わるギャグではありませんので、言葉の相互関係・類似点を理解することが求められます。英語から日本語に変換するにあたり、ギャグの解釈も幅ができて視聴者によりギャグの捉え方が変わってくるもの面白いですね。
>>刑事コロンボは最高に面白い
完全犯罪を目論む犯人と一見冴えない刑事による丁々発止のやりとり。通常のミステリーと比べ、犯人の内面が強調されますので、それにより生まれる人間ドラマ。コロンボ警部も変に正義を振りかざし犯人に説教を垂れることなく、対象者理解に務めていく姿勢は相談援助者として尊敬しています。
オチより納得がいかないのが逮捕の決め手となった「朝まで中国のオリンピック不参加表明がされてないでしょう」って点。
なんせ情報局の西部地区のドンだってんだから先に知ってても全然不思議じゃないとおもうんですよ。
シュタインメッツとバレた時点で局長に始末されかねないから、もう逮捕される気まんまんだつたということですかねー。(ハッサンサラーみたいに)
ガガンボ様
コメントありがとうございます。
>>オチより納得がいかないのが逮捕の決め手
>>情報局の西部地区のドンだってんだから先に知ってても全然不思議じゃない
この点やはり気になりますよね。敏腕CIAエージェントなら一般人が知り得ないあらゆる情報を掴めると言い切れるのではないかと私も思いました。ただ、CIAのコリガン部長は、『ネルソンは西部地区支部長で、太平洋沿岸から南米地区からの情報を担当している』とコロンボ警部に語っておりましたので、中国に関する情報は管轄外ではないかと追い打ちをかけるのではないかと考えています。
>>もう逮捕される気まんまん
なるほど! 秘密裡に暗躍する組織ですので情報が知られた時点で危ういですものね。