宮永隆一(萩原利久)は「ツイてない」が口癖の男である。起業に失敗して借金を作ると、現在は建設作業員としてその日暮らしの生活を送るが、反社と繋がりのある債権回収人・佐久間康(ラランド・ニシダ)から追いつめられ暴行を受けてしまう。自分の身を守るために落ちていたレンチを振り回すと、打ちどころが悪く佐久間を殺めてしまった。
宮永はその場から離れようと道路に飛び出したところ、配信で活躍するマジシャン・ニンジャ赤影(本田力)が運転する車に撥ねられ気絶してしまう。彼の自宅で目をさますと、「この件は内密にしたい」と多額の治療費を受け取るのだが、テレビの緊急速報で逃亡犯だと気が付かれてしまい、驚いた赤影は足を滑らせて後頭部をテーブルに打ち死んでしまう。
そのうえ赤影に取材に来ていた黒羽ミコ(篠原涼子)と森野徹(バカリズム)に玄関で鉢合わせしてしまい、宮永は被害者のふりをしながらやり過ごすことになるのだった。
データ・スタッフ
脚本:中園勇也
音楽:野崎美波
演出:相沢秀幸
プロデュース:宮崎暖
制作プロデューサー:熊谷理恵
製作:フジテレビ
放送日:2024年6月7日
放送時間:46分
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:宮永隆一(みやなが・りゅういち)
役者:萩原利久(はぎわら・りく)
概要:建設作業員の男性。「ツイてない」が口癖であり、1人目は正当防衛で、2人目は過失致死で人を殺めてしまう。2人目の被害者の自宅から離れようとするが、取材の予定を組んでいた黒羽ミコと森野徹に玄関先で顔を見られたことで被害者になりすますことになる。
以前は実業家として友人・大城俊と『STARDUST SOLUTIONS』という会社を起業したが失敗し200万円ほどの借金を抱えてしまう。友人は新しい事業で成功しており現在も定期的に連絡をくれるのだが、彼の成功をねたみ、失敗し続けている自分を見せたくない虚栄心から接触は避けている様子。
アニメ『不屈のアルデバラン』という作品のファンらしく、自宅アパートにはグッズやTシャツが飾られており、建設現場で勤務する際にもアニメTシャツを着ていた。
今回の被害者:佐久間康(さくま・やすし)
役者:ニシダ(ラランド)
概要:債権回収人の男性(30歳)。反社と繋がっている『海老沼ファイナンス』の取り立て人であり、債務者・宮永隆一を追いつめて暴行を加えていたが、相手が振り回したレンチの当たりどころが悪く死亡してしまう。
封筒を見ると、『海老沼ファイナンス』の住所は、〒151-005「東京都渋谷区千駄ヶ谷7ー11ー2」汐空ビルディング2階にあるようだ。
今回の被害者:須藤健吾(すどう・けんご)
役者:本多力(ほんだ・ちから)
概要:マジシャンの男性。『ニンジャ赤影』名義で活動する配信者であり、飛び出してきた宮永隆一を車で轢いてしまう。「このことを公にしたくない」との理由で気絶した宮永を自宅に連れ込むと、治療費100万円で買収したヤバイ人間である。テレビの緊急速報で彼が殺人犯だと勘付くと、その場から逃げ出そうとするのだが足を滑らせテーブルに後頭部を打ち付け死亡してしまう。
忍者とマジックを融合させたネタが人気のようで、黒羽ミコと森野徹が大ファンであるため事件日にはインタビューを受ける約束を取り付けていた。儲かっているようで大豪邸には和洋折衷なインテリアが飾られていた。
その他キャスト
役名・概要 | 役 者 |
大城俊(おおしろ・しゅん) 青年実業家で宮永隆一の友人 | 三浦獠太(みうら・りょうた) |
久保碧(くぼ・みどり) 小説『歪な十字架』の2人目の被害者と同姓同名の人物 | 祷キララ(いのり・きらら) |
建設作業員(宮永隆一の同僚) | 堀丞(ほり・じょう) |
小川智弘(おがわ・ともひろ) | |
山本啓之(やまもと・ひろゆき) | |
『まじっくアキト』名義でマジック動画を配信している子ども | 松野晃士(まつの・あきと) |
女性アナウンサー | みずさわさりな |
古畑任三郎からのオマージュ
○「ツイていない殺人犯」がテーマの本作品は、同じく9話で放送された古畑任三郎『間違えられた男』から着想を得ていると思われる。ツイてない犯人が2人の男性を殺害し、「犯人は刑事の前で被害者になりすます」のである。
「何をやってもついてない日ってありますよね。しかし物は考えようで、一生の間に経験するツキっていうのは分量が決まっているって言います。つまり、大きい所でついている人は、その分細かい所でついてない。
だから決して挫けないようにしてください。ただですね、まれに大きなツキが巡って来る前に人生を終わってしまう、本当についてない人もいるそうで。願わくはあなたがそうでないことを祈って……」
【古畑任三郎 第2シーズン『間違えられた男』より引用】
小ネタ・補足
○黒羽ミコは遺体の隠し場所のアイディアとして『人間椅子』を挙げていた。江戸川乱歩の短編小説であり、醜悪な外見にコンプレックスを持つ椅子職人が、外交官の夫を持つ女流作家に当てた罪を告白する手紙から綴られる怪奇小説である。
○1人目の被害者・佐久間康の死因は、転倒時に頭部を地面に打ち付けたことが原因だと思われる。バランスを崩した際に受け身を取れず、太っている体形が災いして致命傷になるほどの過重が加わったのである。そうでなければ、凶器のレンチはあまりにも細すぎるだろう。
○犯人・宮永隆一が好きなアニメ『不屈のアルデバラン』は架空の作品である。「アルデバラン(Aldebaran)」とは、おうし座の固有名であり、アラビア語で「追いかける者(後に続くもの)」を意味している。『先に成功してしまった友人に追いつきたい』という願望があったのだろう。
まとめ(評価:普通)
連鎖するかのごとく不運に導かれた『ツイていない男』がテーマの本作品は、刑事の前で犯人が被害者になりすましたばかりに、とことん振り回されることになる世にも奇妙な1日といえるでしょう。バレないように逆に挙動不審な動きをしてしまう犯人には同情せずにいられません。
中盤以降、邸宅内で主要キャラだけのやりとりで物語が進行するのですが、萩原利久・篠原涼子・バカリズムの好演もあり、シュチュエーション・コメディのような会話劇を楽しむことができ、バカリズムさんの淡々としたツッコミが光っておりました。
他者になりすましたことで段々と追い込まれていく犯人なのですが、一体どこに遺体を隠したのかというミステリ部分もあるため最後まで楽しむことができます。ちなみに隠された遺体は画面内にちゃんと提示されており、録画した方はぜひ2周目にも注目してみてください。
マイナス部分としては、トリックを成功させるのには身体的に無理があると感じました。まず、車に撥ねられ腰を痛めている設定でしたが、身体が痛めている状態であのトリックを完結させるのは困難でしょう。冒頭の建設現場では、土嚢を運ぶのにもバランスを崩してしまうほどの弱い体力です。
そのうえ、犯人は見知らぬ家で間取りもわからない状態から8分間でトリックを完結させ、着替えまで済ましておりました。これはさすがに超人的な早さで、お前マジシャンみたいだな。
そういった細かい指摘はどうでもいいのですが、最も残念な箇所は解決場面でした。遺体が教えてくれたヒント=遺体の隠し場所というド直球な答えになっており、探偵が遺体の隠し場所を発見することができたのは、推理により自力で導き出した結果ではありません。
(でも、このような偶然性が運のない犯人である由来なのかも知れませんね)
さらに解決編の順番も、最初に遺体の隠し場所を視聴者に提示したうえで、トリック解説に進んで行きます。そのため『最後に明らかになる隠し場所』という意外性の余韻に浸れる時間はありません。
犯人に対して推理を述べ終えてから、最後に遺体の教えてくれたヒントが分かる演出に入るなど、解決シーンと探偵が気づいたヒントの順番を逆にしたほうが、謎解きを聞いた解放感を感じられたのにと思います。
また、演出で視聴者に見せておく部分・逆にそこを隠すのかと思う場面がありました。被害者になりすました犯人を揺さぶる小ネタは多いのですが、解決編でトリックに使用した物が突拍子もなく出てきてしまったため、色々と見せ方と順番が勿体ないエピソードだと感じました。
最後に、債権回収人の被害者を演じたラランドのニシダさんですが、アパートのドアノブをガチャガチャさせながら、リズムよく名前を呼ぶ声がしばらく耳から離れなくなるぐらい好きでした。
以上、イップス|9話『ツイてない男の運のツキ』ネタバレなし感想【評価:普通】でした。
参考サイト
・フジテレビ『イップス ニュース28』(https://www.fujitv.co.jp/yips/news/index28.html)、2024年6月8日閲覧
・フジテレビ『イップス ニュース30』(https://www.fujitv.co.jp/yips/news/index30.html)、2024年6月8日閲覧
・Wikipedia『アルデバラン』(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%87%E3%83%90%E3%83%A9%E3%83%B3)、2024年6月9日閲覧