【VS.ワイン製造会社の経営者】ドラマ性の高い作品で、ファンによる投票でも1位を獲得したエピソードです。殺人を犯すに至った「人生」を理解し、共感し得る犯人像があります。
いかに被害者に同情をさせないストーリー展開にするかが上手い脚本なんですね。よーく見てると、犯人は酷い奴なんですけど憎めない悲しさもあるのです。
データ
脚本:スタンリー・ラルフ・ロス
原案:ラリー・コーエン
監督:レオ・ペン
制作:ロバート・F・オニール
ストーリー監修:ジャクスン・ギリス
音楽:ディック・デ・ベネディクティス
本編時間:95分
公開日:アメリカ/1973年10月7日 日本/1974年6月29日
あらすじ
ワイン製造工場の経営者エイドリアン・カッシーニは、ワイナリーでワイン協会の有力者3人をもてなしており、秘蔵のワインを取りに社長室へ戻ると、腹違いの弟でオーナーのリック・カッシーニがいた。彼は4度目の結婚をするための資金づくりの為、安酒を大量生産する『マリノ酒蔵』にワイナリーを売却すると伝えにきたのだ。
ワインに人生を捧げてきたエイドリアンにとって、安酒酒蔵に売却することはプライドが許さず、激怒した彼は電話機を掴むとリックを殴りつけ気絶させた。手足を縛ったリックをワインセラーの中に入れ、空調装置を切ると数日後には窒息死するように仕組んだ。
予定通り、ワインの競売会があるニューヨークで1週間の滞在後、ワイナリーに戻ると、遺体をスキューバダイビングの衣装に着替えさせて海に投げ込んだ。ダイビング中に頭を打ち付け気絶し、そのまま溺死した事故に偽装したのだった。
人物紹介(キャスト/吹き替え声優)
今回の犯人:エイドリアン・カッシーニ
役者:ドナルド・プレザンス
吹き替え声優:中村俊一
追加吹き替え:塚田正昭
概要:ワイン酒造「カッシーニ・ワイナリー」の経営者。ワイナリーのオーナーは腹違いの弟リック・カッシーニで、経営を一任されている。儲け度外視な製造工程、会社の資金を趣味のワイン購入に充てるなど道楽で儲けにならないため、リックからワイナリー売却を宣言されてしまう。激怒し思わず置物で頭部を殴りつけ気絶させると、スキューバダイビング中の事故死に偽装する殺人へと発展させた。
父はイタリア人、母はイギリス人で名門の血を残したと語っている。父の遺産として、もともと現金を引き継いでいる。それを全てビンテージワインの収集に使い切ってしまうなど浪費癖がある。しかし、趣味となると人は盲目的に金を使い後悔しないものである。ニューヨークでは、1万8千ドルをワイン購入に使ったようだ。(1973年10月1ドル:266円 1万8千ドル=611万8千円)
「私の人生はワインあるのみ」と語るように、ビンテージワインを収集する目的は、「他のだれにも渡したくない」ことから。毎日14:30にワインをガラス容器(デカンター)に移し替え、新鮮な空気の入れ替えを行っている。誰にもこの作業は任せたことはないと証言し、このことはコロンボ警部に疑問を抱かせることにも繋がってしまった。
カルフォルニアにあるワイナリーは弟から任せられ、25年間経営をしている。趣味が仕事になったため、儲け度外視の経営。会社の経費で1本5000ドルのビンテージワインを買うなどやりたい放題だ。だがその情熱はワイン協会にも認められ、『今年の人』に選出されることが決まっていた。(1973年10月1ドル:266円 5000ドル=133万円)
製造しているワインは6種類あり、赤は3種類でバーガンディーの『ピノ・ノワール』『ギャメイ』、クラネットの『カベルネ・ソーヴィニョン』だ。白も3種類あるようだが内容は不明である。シャンパンは嫌いであり製造はしていないとのこと。
ワインに対しての味覚はすさまじく、酸化したワインの味の変化を感じとってみせた。これは世界に数人しかいないという離れ業である。酸化を言い当てたワインは『フェリエ・ヴィンテージ・ポルト45年物』だ。
目を輝かせ、水で料理の口直しをしてまで楽しみにするワインの味が酸化していたことはショックだったようで、そのワインを臭い水とまで罵った。人1倍温度変化に気をつけている彼が、殺人を犯すためにワインセラーのエアコンを切ってしまったことは残念でならない。
エイドリアンに恋心を抱いていた秘書カレン・フィールディングに事件の真相を掴まれて、結婚を迫られる。コロンボに罪を自供した際には、「結婚するより刑務所の方が自由かも知れませんな」と言い、独身貴族を謳歌したのである。
「生涯を通じて真に愛したのは、(ワイナリー)ここだけだった」、彼はそういうと、コロンボとの別れのワインを飲んだのである。最後に飲んだワインは『モンテフィアスコーネ』で、「最高のデザートワイン」と評価しているが、実際は相当な辛口ワインだそうだ。彼の味覚は特別らしい。
今回の被害者:リック・カッシーニ
役者:ゲイリー・コンウェイ
吹き替え声優:加茂喜久
概要:ワイン酒造『カッシーニ・ワイナリー』オーナーの男性。父の遺産としてワイナリーを受け継いだが、まったく経営に興味がなく、ワイン好きの兄エイドイアンに運営を任せていた。だが儲け度外視な経営で、自分自身は4度目の結婚を控えている。結婚資金獲得のためワイナリー売却を宣言した。
結婚資金を借りに兄に言った台詞は、「俺は高級な酒より現ナマ(現金)が欲しいんだ」である。ワイン大好き人間であるエイドリアンに、よりにもよって『1リットル69セント』という破格の安酒を製造している『マリノ酒蔵』に会社を身売りする算段をたて、エイドリアンに逆上されてしまった。
実際、兄には結婚資金を送る資金はあった。アリバイ工作のためだが、5000ドルの結婚祝い金を小切手で送っている。エイドリアンのワインに対するプライドを傷つけたことが、殺害される要因でもあったのだろう。(1973年10月1ドル:266円 5000ドル=133万円)
テレビ番組の報道によると、名の知れたスポーツマンでありプレイボーイ。「アマチュアのレーサーで多くのレースに勝ちトロフィーを得た。プロへの転向は拒否し、スポーツは金より楽しみのはず」とのコメントが流れたが、実際にはやっぱり現ナマが欲しかったのだ。
婚約者ジョアン・ステーシーとその友人の話によると、スポーツで体力を消費するため、かなりの大飯食いだった様子。嫌いな食べ物は芽キャベツで、それ以外なら何でも食べたとのこと。ボートレース/スカイダイビング/スキューバダイビングと楽しんでいたようだ。
父親はエイドリアンと同じだが、母親は違うとのこと。エイドリアン曰く、母親は「お前にどん欲な性質を残すことに功績を残した」と語っているが、どちらかといえば、兄のエイドリアンもどん欲ではないだろうか?
それにしても、ワイン好きなエイドリアンにワイナリーを受け継がさせなかった父の考えとしては、遊び惚けているリックに現金を渡してしまうと、一瞬で使い切ってしまいそうで、しっかりとした立場の職を与えて自立して欲しかったのではないだろうか?
小ネタ・補足
〇エイドリアン・カッシーニが、ニューヨークから帰国する際、航空機の中でワインを飲む場面がある。そこで、「不味い!」というような表情をしている。これは、酸化したワインを当てられる味覚の持ち主であるという伏線である。
〇27:20~コロンボと警官のかみ合わない吹き替え版の会話。「火、つけましょうか?」「いいんだよ節煙してるから……マッチ持ってる?」「(探す動作はするものの)いいえ持ってません」英語では実際には「鉛筆を持ってる?」と聞いているようだ。
〇『ちびまる子ちゃん』の第10巻67話『プロ野球開幕!!の巻き』というエピソードで、刑事コロンボを見ていたまる子と友蔵が、父・ひろしに、ラスト10分のところで野球中継にチャンネルを変えられてしまう。後日、学級委員の丸尾くんに結末を教えてもらうのだが、説明から『別れのワイン』を視聴していたようだ。
〇『VIAVINO(ヴィア・ヴィーノ)』という、日本のワイン愛好家の会があり、2013年のテーマ―は『別れのワイン』でした。作中で登場した料理とワインを味わうべく、ドラマだけではなく、海外ノベライズからも情報を得る徹底ぶりで、作中のワインの解説、考察もあり面白いです。
まとめ
コロンボ警部はワインを勉強をしていき、最後には犯人からも、「よく勉強されましたな」と、コロンボを認めるのです。最後にワインを通し、エイドリアン・カッシーニは最高の友人を得るのですが、すぐに逮捕という別れを告げることになるのです。
その縮図がラストの車内でワインを酌み交わすシーンに濃縮されています。いかに被害者に同情させないような脚本構成、演出の運びにするか、これが見事です。犯人のワインに対する情熱、その大切なワインを殺人を犯してダメにしてしまい、ワインを叩き割るシーンが悲壮感を上げています。
それにしても、40年かけてワインの道を極めたワインショップのおじさん。エイドリアンが言う、「酸化したワインの味を当てられるのは、わたしのほか世界に数人しかいない……」その中に含まれているのかが気になります。
以上、19話「別れのワイン」でした。
はじめまして。というか実は『仮面の男』のラストについてごちゃごちゃ書き込ませていただいた者です。丁寧なレスありがとうございます!
他の記事も読ませていただいたら、面白くてためになる記事がいっぱいなので、通りすがりの匿名でなくペンネームを使わせていただこうと思いました。H君というのは子供の頃からのコロンボファンで、私にコロンボの面白さを教えてくれた人です。
私も実はコロンボで初めて倒叙型ミステリというものを知り、犯人の上をいくトリックを使って、鉄壁の守りのどこに穴を開けていくかという面白さにはまりました。よろしくお願いします。
コロンボの原題はことわざのもじりとか、二重の意味が隠されているとか、味わい深いものが多いと思います。この『別れのワイン』も座布団一枚!と叫びたくなる題です。原題は Any Old Port in a Storm ですが、Old を取った Any Port in a Storm は、「どんな(小さい、またはボロな)港でも嵐の際には(安全地帯)」つまり「急場しのぎ」「苦肉の策」という意味らしいです。そこに Old が入ると、英語国民は「ん? 慣用句とちょっと違うけど・・・嵐の際にはどんなに老朽化した港でも??」と思いながらドラマを見始めて、ラストに至って「港」の意味が変わって「嵐にあったらたとえどんな年代物のポートワインでも」・・・台無しになっちゃうっていう意味だったのか!しかも「苦肉の策」が招いた結果!と気づく仕掛けになっているようです。
≫私も実はコロンボで初めて倒叙型ミステリというものを知り、犯人の上をいくトリックを使って、鉄壁の守りのどこに穴を開けていくかという面白さにはまりました。
※Hさんと共に長年のファンなのですね!私は2017年のBSで再放送していた、『5時30分の目撃者』『ビデオテープの証言』で刑事コロンボを初めて見まして、その面白さにのめり込みました。まとめブログのようなものを立ち上げましたが、まだまだニワカファンの勉強中です。記事も加筆修正していきます。
≫コロンボの原題はことわざのもじりとか、二重の意味が隠されているとか、味わい深いものが多いと思います。
※【Any Old Port in a Storm Port】で(港/「ポート」ワイン)で二重に掛かり、うまくミスリードさせたタイトルなんですね。先に全編を日本語訳のタイトルで見ました。後になってから原題を調べると、お洒落だったりユーモラスなタイトルばかりで、日本語タイトルとは大胆に変えたものも多くびっくりとしました!
初めましてm(__)m
金ちゃん!と申します。
いつも拝見させて頂いております。
BSPで再放送が始まったので、毎週貴殿の記事を読みながら見ております。
やはり、別れのワイン/Any Old Port in Stormは不朽の名作だと思います。
「よく勉強されましたな」に対して「最高の褒め言葉です」と返すエンディングは
泣きそうになります。
一点だけ「あらすじ」の記述でミスタイプを発見してしまったので、コメントさせて頂きます。
舞台はワイナリーがあるカリフォルニアなので、「帰国すると」ではなく「帰宅すると」が
正しいと思います。
揚げ足をとったようで申し訳ありませんが、気になって仕方なかったので
コメントさせて頂きました。
では失礼します。
金ちゃん!様
コメントありがとうございます!
≫別れのワイン/Any Old Port in Stormは不朽の名作
犯人視点で進むからこそ、ワインへの情熱を感じ取りながら視聴者はストーリーを感じることができますよね。殺人を犯してまでも守りたかったワイナリー。「全生涯を通じて、わたしが真に愛したのはここだけだった」。ここのセリフも非常に心にきます。
≫舞台はワイナリーがあるカリフォルニアなので、「帰国すると」ではなく「帰宅すると」が正しいと思います。
ご指摘ありがとうございます!確かに不適切な表現でした。前後の文章等を変更して『滞在後、空港からワイナリーに戻ると』にしてみました。
お手数をおかけしました。
初めまして。
「別れのワイン」を先日観ながら思ったのですが、犯人が貯蔵庫のスィッチを切るのは
良いのですが、コロンボの調べでは40度近い暑い日がワインを駄目にしたのであれば
遺体の腐乱の度合いも半端ではないのではないでしょうか?
コロンボの登場以前に腐臭で犯行の隠しようが無い様に思うのは私だけですかね?
コロンボ観てると突っ込みどころが結構多く「それを言っちゃ終しまいよ」なのは承知なのですが・・・失礼しました。
スリランカ様
コメントありがとうございます!
≫遺体の腐乱の度合いも半端ではない
その点、コロンボ研究の第一人者「町田暁雄」さんも考察を交えて言及されていました。
『1週間経った上にトンデモなく暑い日があったわけですから、死体はかなり腐敗していて、ウエットスーツを着せられるような状態ではなかったのでは?』(2020年8月9日 Twitterから参照)4ツイート続けて綴られています。
≫コロンボ観てると突っ込みどころが結構多く
トリックや展開などご都合主義なことが結構ありますよね。リアリティーを突き詰めてしまうのもアレですけど。
被害者役のゲイリー・コンウェイさんは、実はワイナリーのオーナーだったりします。役ではワイナリーをこき下ろしていましたが、実際の生活ではワインを愛する人だと知ってびっくりしたものです。
Licsak/なおみ様
>>被害者役のゲイリー・コンウェイさん
>>実はワイナリーのオーナーだったりします
>>実際の生活ではワインを愛する人だと知ってびっくり
そうだったのですね! 初めて知りました‼ ワインよりもお金を優先して安酒会社に売り渡そうとしましたが、作中のイメージとはギャップがありますね。