【VS.化学工場専務】倒叙形式の作品において重要なのは、”犯人の魅力”、”犯行計画”…そして”職業”だと感じます。今回の犯人は計画において自身の能力をフル活用しています。職業と特技の一体感こそが、倒叙形式のストーリーに結束が生まれます。
第1シーズンは3話~8話と、当初は6本の予定でテレビ局と契約。そして撮影されてきました。しかし、テレビ局側が試写会時に見た内容の面白さに惹かれ、追加で”もう1本”とお願いして、急遽撮影することになったのが”死の方程式”になります。
突然撮影が決まったエピソードのため、他の作品と違い時間がない中での脚本の練り上げとなりました。コロンボ役のピーター・フォークも「最も(オチが)弱い作品」と述べています。
テレビ局側の要望を断ればいいのではないかと思うあなた。ピーター・フォークがシリーズの1本を監督したいとテレビ局側に打診していたのです。色々とテレビ局側との攻防もあり、フォークが撮影をストライキしたり……。結果として「もう1本追加したら良いよ」との交換条件で撮影するハメになりました。
データ
あらすじ+相関図
スタンフォード化学工業社長の息子ロジャー・スタンフォードは、現社長である父の妹の婿デビット・バックナーと敵対していた。バックナーは会社を身売りする計画を立てていたからだ。バックナーはロジャーが会社の金を研究と遊びに使い込み、ギャンブルやドラッグ、車泥棒もやっていた事実を掴んでおり、それをネタに会社から追い出すとちらつかせる。
バックナーがいなくなれば不正が明るみに出ることはなく、また自身が社長になることで会社を身売りせずに済む。ロジャーは手製の起爆爆弾をバックナーが愛用している葉巻ケースに仕掛ける。彼が会議に向かう車での移動中に起爆させ殺害を実行したのだった。
人物紹介(キャスト/吹き替え声優)
今回の犯人:ロジャー・スタンフォード(ロディ・マクドウォール)
吹き替え声優:野沢那智(のざわ やすとも)
職業:化学工業会社専務
殺害方法:手製爆弾
動機:会社の身売りを阻止するため
今回の被害者:デビット・バックナー(ジェームス・グレゴリー)
吹き替え声優:大木民夫(おおき たみお)
職業:化学工業会社社長
今回の被害者:クインシー(ローレンス・クック)
吹き替え声優:飯塚昭三(いいづか しょうぞう)
職業:社長の運転手
概要:社長専属の運転手である男性。実態は元刑事であり、『ハリージェー・オニール』という偽名を用い、社長の指示に従って素行調査などを行っていた。
犯行計画/トリック
【自動車での移動中に爆殺。そのうえで自身が社長になる】
①ロジャー・スタンフォードは暗室で時限爆弾を作る。そして、デビット・バックナーの愛用の葉巻ケースに爆弾を取り付けた。その後、ロジャーは秘書ヴァレリー・ビショップと話している間、バックナーのスーツから葉巻入れを抜き取る。
②秘書が外出の荷物をまとめ終えた後、葉巻入れを机の下に落としておく。バックナーの車の整備士に、自身の車の点検をさせる。その間、気づかれないようにバックナーの車の中からも葉巻ケースを抜き取る。そして爆弾入った葉巻ケースと入れ替えた。
③バックナーと運転手クインシーは、「パイン・ワイルド」の別荘まで車で移動する。バックナーは葉巻を吸いたいが、葉巻入れがない。クインシーから助手席の葉巻ケースを渡してもらう。箱を開けると時限爆弾が作動して車ごと爆殺された。
④ロジャーは、クインシーの宿舎のワープロで偽造文書を作成。またワープロを持ち帰り、クインシーの自宅に置いた。クインシーはスパイ活動もしており、これを利用して偽造文書で副社長の不正をでっちあげた。写真の合成も行い、バックナーと秘書との不倫写真もでっち上げた。
⑤筆頭株主であるバックナーの妻は、不信感から秘書と副社長を会社から追放する。自動的にロジャーが社長に就任した。
推理と捜査(第2幕まで)
三幕構成
小ネタ・補足
〇社長デビット・バックナーを演じる『ジェームス・グレゴリー』は、12話『アリバイのダイヤル』のフットボールチームのコーチ役を演じる。また、妻ドリス・バックナーを演じた『アイダ・ルピノ』が、24話『白鳥の歌』で被害者役も演じている。
〇秘書ヴァレリー・ビショップ役の『アン・フランシス』は、15話『溶ける糸』の被害者役も演じている。副社長ローガンを演じる『ウィリアム・ウィンダム』は、1話『殺人処方箋』の犯人フレミングの友人役で登場する検事役であった。
〇犯人ロジャー・スタンフォードはカメラ好きとして描かれている。演じている『ロディ・マクドウォール』はアマチュア写真家の一面もあり、5冊の写真集を出している。
〇『刑事コロンボの秘密-p.98-』によると、「刑事コロンボ」は当初6本の予定でドラマを組まれていた。テレビ局側が人気が出たために、もう1本追加でシナリオを出して欲しいと要求。制作陣は怒ったが、コロンボ役『ピーター・フォーク』が、1本監督をするという条件で、急遽『死の方程式』の製作が決まってしまったという経緯がある。そのため、このエピソードの製作期間は極めて多忙なものだったと振り返っている。
まとめ
お調子者の犯人が印象に残るエピソードなんですね。これに加えて、野沢那智さんのアテレコは素晴らしいですね。言動は飄々としているんですが、犯行計画ときたら下衆の極みでございます。
秘書ヴァレリー・ビショップとの交際は完璧に偽装不倫写真を用意するために仕組んだことで、計画に利用して切り捨ててしまいました。(困ったことがあったら援助するとは言ってましたが)両親の会社を身売りしたくないという動機は「イイハナシダナー」なんて思ったりもします。
それともう1点は、広大なアメリカの景色なんですね。広大な工業地帯をカートで移動してみたり、長い長いロープウェイから見下ろす遥か下の地面。日本のロケでは垣間見ることができない人間が作り上げたロケーションを堪能できます。規模が違いにびっくりです。コロンボ警部の台詞を借りると「資本の力って偉大ですな」。
以上、8話『死の方程式』でした。