記念すべき第1作目にあたるエピソードです。犯人視点から始まる倒叙形式、コロンボ警部のキャラクターは、後の刑事ドラマに多くの影響を与えた色あせることのない作品になりました。そして公開から2018年をもって50周年を迎えております。
元々は1962年の舞台劇「殺人処方箋」として演じられました。犯人が主人公で、コロンボ警部は脇役的な立場だったのですが、主役を食うほどの人気ぶりだったようです。舞台でコロンボ警部を演じていたトーマス・ミッチェルですが、健康状態の悪化から舞台を降板。その後閉幕となりました。
「出演者たちがカーテンコールに現れると、観客たちは拍手を贈る。そこへトーマス・ミッチェル(刑事コロンボ役)が姿を見せると、拍手は天井を突き抜けんばかりに高まる。その後ろへ主演のジョセフ・コットン(犯人役)が現れると、拍手は静かになるんだ」
-刑事コロンボ レインコートの中のすべてーP.26より
脚本のリチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンクは映像化にあたり、ピーターフォーク演じる刑事コロンボを見るまでは、最後までトーマス・ミッチェルを配役したかったと述べていたようです。
データ
脚本:リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク
監督:制作:リチャード・アーヴィング
音楽:デイヴ・グルーシン
本編時間:99分
公開日:アメリカ/1968年2月20日 日本/1972年12月31日
あらすじ
精神分析医レイ・フレミングには、妻キャロルがいるが金銭目的で結婚しており、そこに愛などはなかった。そして、患者で若手映画女優ジョーン・ハドソンと愛人関係にあり、キャロルは夫の不倫にうすうすと気づきはじめる。夫婦の結婚記念パーティーの晩、不倫を止めなければ、財産をすべて差し押さえて離婚し、そのうえで社会的地位も失わせると最終通告をする。そんな妻を巧みに懐柔し、レイはメキシコへの「第2のハネムーン」と称して旅行へ誘うのでが、それは用意周到に練り上げた殺人計画の一部であった。
人物紹介(キャスト/吹き替え声優)
今回の犯人:レイ・フレミング
役者:ジーン・バリー
吹き替え声優:若山 弦蔵(わかやま げんぞう)
追加吹き替え:麦人(むぎひと)
NHK初回放送時声優:瑳川 哲朗(さがわ てつろう)
職業:精神分析医
概要:精神分析医の男性。資産家の妻キャロルとは金銭目的で結婚しており、妻よりもずっと若く、患者として診察を受けていた映画女優ジョーン・ハドソンと不倫関係となった。そのことをキャロルに咎められ、離婚を切り出されてしまう。また、不倫の事実を大々的に暴露されると、現在の社会的地位や金銭も失ってしまう。そこでジョーンと共犯になり、妻が殺害された時刻、アカプルコで旅行していたという鉄壁のアリバイを作り上げた。
アリバイ工作とは、ジョーンにキャロルの服に着替えさせて変装させるというものである。「人は固定観念によってものを見る。これが連想の基本さ」という、精神分析医としての確かな経験に基づき、その時間は妻が生きているものであると第三者に思い込ませた。
精神分析医としての診療料はかなり高いらしいが、技術は本物である。コロンボとは数日程度しか会っていないものの、彼の捜査方法をこう分析している。
レイ「チェンジ・オブ・ペース。実に計算されている。その小道具の葉巻までもね。ひとつ君を分析してあげよう。優れた知性をもつが、それを隠している。道化のようなフリをしている。なぜか。その外見のせいだ。押しも効かないし、尊敬もされない。その弱点を逆に武器とする。君は不意打ちをかける。見くびっていた連中は、そこで見事につまづく」
コロンボ「……いやー、こうやられちゃ手も足もでません。先生の前じゃ、よっぽど気をつけないと。良くわかってらっしゃる」と、コロンボも素直に認める。
当時41歳のコロンボ。精神分析のスペシャリストの助言により、この技をより一層磨いていったのだろうか? 徐々にボサボサ髪にヨレヨレのレインコートの出で立ちへ変化していった。
また、計画的な殺人者の心理をこう分析している。
「感情ではなく理性によっておこずけられている。学歴も高い。ある分野の専門家。非常に緻密で、勇気がある。いかなる犯罪にせよ勇敢で強靭な意思が必要。正常かもしれない、道徳に反しても、唯一の解決策なら用いる。捕まらない」
診察室には隠し扉があり、その中には酒が入っている。診療中にこっそりと飲めるようにとの理由らしい。また、ソファーは座る姿勢が良くないから置いていない。ミステリー小説は読まないようである。不器用なのか?ワイシャツの手首のボタンを閉めるのに時間が掛かっており、妻に閉めてもらっていた。
今回の共犯:ジョーン・ハドソン
役者:キャスリーン・ジャスティス
吹き替え声優:高島 雅羅(たかしま がら)
概要:大部屋所属の映画女優。主役の座を熱心に狙い過ぎるあまりノイローゼになってしまう。そのことで、精神分析医レイ・フレミングに受診していくうちに不倫関係に発展した。レイとは結婚をしたいようであるが、その妻キャロルはそれを許さないはずである。話し合いもしてみたいが、レイは不可能だと諭す。彼に言われるがままに、殺人の共犯者としての道を歩むことになる。
精神的に不安定な一面があり、犯行計画時にはオドオドとしている姿が多く見られるが、いざ本番となると表情が引き締まる。堂々とした口調で計画を実行していった。また、映画女優という職業柄、化粧に関するスキルが高い。モノクロ写真から、変装するキャロルのメイク特徴を見極めた。また、変装用のカツラも容易に入手してきており、レイにとっては理想の共犯者であったのだろう。[/su_spoiler]
今回の被害者:キャロル・フレミング
役者:二ナ・フォック
吹き替え声優:谷 育子(たに いくこ)
概要:資産家の父親をもつ女性。レイの大学在学中から交際は始まったようだ。結婚は10周年を迎え、自宅で友人たちを招き盛大にパーティーを開催した。しかし、レイが浮気していることに勘づいており、半年前に改善されなければ離婚すると宣言していた。だが改善が見られず、離婚したうえで不倫の事実を大々的に告発。彼の精神分析医としての地位を失わせる用意をしていた。
レイからは、『破壊的なインテリ』とまで裏では称されており、かなり頭は良かったようである。自身もまた知的教養が育まれていると自宅しており、レイが結婚記念パーティーがあるにも関わらず、往診(不倫)があるといい午前1時まで自宅に帰らない。普通の女性ならば怒鳴り散らすところをぐっと抑えて離婚を切り出していた。
ただ、レイがアカプルコへの旅行で遅くなっていたと聞くと、打って変わって明るい表情を見せた。以外と単純な性格であるのか、はたまた精神分析医のプロであるレイだからこその技なのであろうか?旅行から戻ると、部屋の模様替えをするつもりだったらしい。室内が冷たい色なので暖かい色にして、絵も分かりやすい生物か何かに変えるつもりだったようだ。しかし、その直後にレイに首を絞められることになるとは夢にも思わなかっただろう。
旅行に行くときのお気に入りの服装は、青いウールのドレス+青い革手袋+サングラスという出で立ちであった。青い色で統一しており、好きな色だったのだろうか?このお気に入りのコーデは、殺害計画の一部として利用されることになってしまう。
結婚記念パーティーで特別に用意したケーキには、ふんだんに火薬を使用している。もれなく火薬の味しかしない、大変体に悪そうなケーキである。
小ネタ・補足
〇コロンボ警部は32分40秒で登場する。お馴染みのレインコートの着用は43分50秒からである。今作で着ているレインコートは、胴部分に横に線が引かれているようなデザインになっており、エピソード2『死者の身代金』以降は、横に線が引かれているようなデザインは見られない。今回だけ着用したレインコートだと思われる。
〇キャロル・フレミングが首を絞められて倒れた際、グランドピアノの鍵盤に手が当たってしまう。どうでもいいが、その時の音は「ミ+ファ+ファb+ソ」である。
〇25:00~ジョーン・ハドソンがクリーニング店に電話を掛ける。その際の台詞によると、レイの自宅は『ウェルシア カンバランドマンション』だそうだ。なお、フロアは最上階らしい。
まとめ
「人は固定観念によってものを見る。これが連想の基本さ」
最後になぜ、レイ・フレミングは失敗をしてしまったのか。犯人の考えたトリックは、刑事によって返されることになります。犯行日は万全の体制で挑めるように、少しでも眠るようジョーンに渡した睡眠薬の伏線が見事でありました。
コロンボとフレミングの会話のやり取りが印象に残り、中でもこの台詞はぐっときます。
コロンボ「それでも、あたしたちはプロですからね。たとえば今の犯人にしてもです。頭は良いが素人ですからね。いっぺんこっきりしか経験してないわけです。ところが、あたしらにとって殺しって奴は仕事でしてね。年に100回は経験してるんです。ねぇ先生。これは大した修練です」
以上、「殺人処方箋」でした。