ドラマ『刑事コロンボ』(原題:Columbo)の主人公、コロンボのトレードマークといえば?
ボサボサの髪、愛車のプジョー403、安葉巻など様々ありますが、最も印象的なのは「よれよれのレインコート」ではないでしょうか。
刑事コロンボ(ピーター・フォーク)が着用したコートブランドは、長年にわたり国内外のファンからの定説として「スペインのCortefiel(コルテフィエル)社製」だとされていました。
しかし、筆者が実際に当時の同型モデルを入手し、劇中映像や雑誌との細部を比較検証した結果、従来の通説を根本から覆す事実が判明しました。
本記事では、従来の「Cortefiel説」を再考証します。
そのうえで、入手した実物の比較データと海外ファンとの検証結果を交えたことで、『レインコートの真のメーカー』を特定したため、ここに新説を提示していきます。
【結論】刑事コロンボのレインコートのブランド・メーカーとは?

結論から述べます。
コロンボが劇中で着用している象徴的なレインコートは、長年ファンの間で信じられてきた「スペインのCortefiel(コルテフィエル)社製」ではありません。
本当は「スペインのCosta de Majorca(コスタ・デ・マジョルカ)」という会社のブランドです。
残念ながら現在は製造や販売が行われていません。
【新説】コロンボが着ていたのは『Costa de Majorca』
これまで国内外のコロンボファンの間では、『Cortefiel(コルテフィエル)社製」がほぼ定説のように語り継がれてきた歴史があります。
しかし、入手した同型のレインコートを、劇中の映像や雑誌写真などから再検証した結果、デザインや縫製仕様などの構造的特徴が完全に一致しました。
このことから、コロンボが着用コートは『Costa de Majorca』(コスタ・デ・マジョルカ)というブランドであると結論付けています。
この新説は、海外のコロンボファンコミュニティでも検証が行われ、当時のアパレル製造データの分析が進められたことにより、この説を補強する確証と高い支持を得ることができました。
では、なぜこれまで「Cortefiel社製」という誤った通説が広まってしまったのか?
次の章から、その背景と理由について深堀りしていきます。
なぜ間違った?長年信じられてきた「通説」の由来
ドラマ『刑事コロンボ』でコロンボが着用しているレインコートについて、公式から明確な回答は現在もなされていません。
海外のオークションでは、ピーター・フォークが着用したコートが過去2度出品されましたが、最低落札価格(約8万ドル〜12万ドル)に届かず不成立1に終わりました。
そのためコートにあるロゴ(タグ)を誰も知ることができていないのが現状です。

一方、Web上の各種コラムやメディアでは特定のブランドに関する言及がなされています。
それが、ファンの間において、最も広く支持されてきた『スペインのCortefiel(コルテフィエル)社製』という説です。
この発端はどこにあるのでしょうか?
通説の発端となったスペインの大手新聞「EL PAÍS」の記述
コロンボが着用したコートに関して、そのブランドを示唆する古い記述としては、スペインの大手新聞『EL PAÍS』で1995年5月4日の記事が確認できます。

この記事内では、以下のように紹介されています。
『la gabardina del teniente Colombo era de Cortefiel. Por absurdo que parezca, la marca del célebre pingo churriento del detective fue revelada ayer por el mismísimo consejero delegado. de la cadena de tiendas, Gonzalo Hinojosa』2
コロンボ警部のコートは、なんとコルテフィエル製だった。
あのように薄汚れたヨレヨレのボロ着のブランドがどこなのか、バカバカしく思えるかもしれないが、昨日ほかでもない同チェーンの最高経営責任者(CEO)、ゴンサロ・イノホサ氏自らの手によって明かされたのだ。
このように、Cortefiel社のCEOであった“ゴンサロ・イノホサ”(Gonzalo Hinojosa)氏が「劇中のコートは自社製品である」と明言しています。
その後、2014年6月26日や2024年7月13日の「EL PAÍS」の記事においても3、1995年の記事を根拠として、ピーター・フォークが着用したコートは『Cortefiel社製』と報じられました。
ネットを通じて拡散したファンサイトの影響
日本国内において、刑事コロンボのコートが『Cortefiel』であると広く浸透した背景には、「コロンボ 着用コート」などの検索キーワードで上位表示されていた『ヤフー知恵袋』内の回答(2009年)4が影響しています。
そこには、2008年から運営されているイギリスのファンサイト『THE ULTIMATE COLOMBO SITE!』と、その記事内容が紹介されており、これをきっかけとして国内外へ情報が広く拡散していったと考えられます。

サイト内の記事「Columbo’s Raincoat」では、情報提供者の”ホアキン・ガヤルド”(Joaquin Gallardo)氏が、スペインの新聞記事でコロンボのコートが『Cortefiel』であると紹介されているのを発見。
その後、製造メーカーのオフィスを直接訪問して、着用モデルであることを書面で確認したと紹介されています。
なお、この時言及された新聞記事こそが、
前項の「EL PAÍS」であったと推定します。
- スペインの大手新聞「EL PAÍS」の記事
- 『Cortefiel』のCEOが公表したという事実
- ファンによる実証的な裏付け
上記を踏まえ『Cortefiel説』は長らく決定打とみなされ、通説として定着するに至ったと考えます。
次章では、劇中映像と資料からコートの構造的特徴を整理し、従来説で挙げられたモデルとの間に存在する違和感について検証をしていきます。
映像と書籍から見るレインコートの構造的特徴
検証を始めるにあたり、まずは劇中の映像や参考書籍から、コロンボが着用しているレインコートのデザイン・構造的特徴を整理しておく必要があります。
一見するとごくありふれたベージュのレインコート(いわゆるバルマカーンコートやステンカラーコート)に見えますが、細部を注意深く観察すると、極めて固有の仕様を備えていることがわかります。
内部構造:雑誌『TV GUIDE』(JULY 27,1974)から判明した仕様
劇中でコロンボは常にレインコートを着ているため、コートの内側を確認する機会が限られています。
しかし、アメリカの『TV GUIDE(JULY 27,1974)』(p10~11)において貴重な内部を知ることができます。




大きな特徴として、首元に「白いタグ」と『金色のチェーン』が付属していることです。
雑誌写真は第4シーズンの準備期に撮影されたもので、27作『逆転の構図(原題:Negative Reaction)』(1974年)で確認できるコートの内側と一致します。
外部構造:劇中コートの決定的なデザインの特徴
劇中などから確認できる主な構造的特徴は、以下の通りです。
![]() | 【1.ボタンの打ち抜き仕様】 大きなボタンを閉めた時にも前に見えるデザインで、クラシカルな印象があります。また、最下段の小さなボタンのみ裏面に隠れています。 |
![]() | 【2.襟元にある2つのフックループ】 襟首のボタンで首元を閉じることができます。13話『ロンドンの傘』で襟元を閉め、レインコートとして使う場面がありました。 |
![]() | 【3.被せ蓋付きポケット】 両脇にボタンで留められる、やや斜めの被せ蓋付きポケットがあります。コロンボは被せ蓋を使わず、折り込んでポケットに入れていることが多いです。 |
![]() | 【4.腕先のターンバックカフス】 ボタンが2つ付いている腕先です。一度折り返して留める『ターンバック・カフス』という装飾がほどこされています。 |
通説との相違点:「Cortefiel」モデルに対する構造上の違和感
前章で整理した劇中コートの特徴を踏まえ、通説で「コロンボのコート」として挙げられてきた『Cortefiel』の実物と比較検証していきます
すると、これまで同一視されてきたデザインの中に、複数の差異が浮かび上がりました。
具体的な比較・疑問点は以下の通りです。

まず、『Cortefiel』のコートですが、ネットサイトでの閲覧や、検証のため2種類を入手しましたが、いずれも「金色のチェーン」が付いたモデルを確認することができませんでした。
また「Cortefiel」のロゴは大きく2種類あり、いずれも黒をベースとしたものとなっています。
書籍で見られた内部構造(金色のチェーンと白いタグ)の特徴とは一致しないことがわかります。

次に外部構造ですが、「前面の大きなボタン」、「被せ蓋付きポケット」、「ターンバック・カフス」などの特徴を見ることができます。
しかし、被せポケットにはボタンがなかったり、全面ボタンの最下段に小さなボタンがないなどの違いが見受けられます。
そして筆者は実際に『Cortefiel社』に、コロンボのコートについてメールで確認を行ったものの明確な返答を得ることはできませんでした。
確認数が少ないため、もちろんこれらの不一致は、「製造時期(年代)の違い」として片付けられてしまう可能性も否定できません。
次の章では、コロンボが着用したデザインに近い同型のコートを入手することができたため、それらをもとに比較検証した結果を述べていきます。
【実物検証】入手した同型モデルと劇中コートの細部照合


筆者は劇中で着用したコートと思われる同型モデルの実物を入手・検証することができました。
画像左:『殺人処方箋モデル』
画像右:『定番モデル』(第2作~69作まで着用)
入手した実物コートのデザインを、劇中静止画や関連書籍に掲載された画像と比較したところ、すべての要素が見事に合致することを確認できました。
劇中で1回だけ使用された「殺人処方箋モデル」の実物比較
パイロット版第1作『殺人処方箋(原題:Prescription: Murder)』(1968年)でピーター・フォークが着用していたコートです。
本作だけ別モデルを着用しています。


- 胸元と背中の横に伸びるライン
- 襟元のボタンを留める2つの輪っかが無い
- コート内部の装飾(背中に当たる部分がV字デザイン)
- 腕通しの色は淡いピンク色
これらの特徴をもとに、筆者が入手した以下のコートを確認してみると、ほぼ一致しています。


「定番モデル」の劇中画像・書籍画像とのディテールの一致
次に第2作から第69作までコロンボが着用した『定番モデル』を確認します。
左:America『TV GUIDE』(JULY 27,1974)p.10
右:筆者が入手したコート

前章で指摘した襟元のフック(2本の輪っか)の留め具構造、打ち抜きボタンの配置間隔、さらには被せポケットの有無や腕先のターンバックカフスを比較します。
入手個体は劇中のコロンボのコートとほぼ同一のデザインを備えており、ボタンの形状・縫製パターンに至るまで一致していることがわかります。
入手したコートにあるロゴと金色チェーンの特徴の合致



筆者が入手した2種類の同型のコートと、劇中や参考書籍の情報を比較検証したところ、両者ともデザインが一致しており、特徴でもある「金色のチェーン」と「白いロゴ」を確認することができました。
そして、入手したコートに縫われているロゴは、「殺人処方箋モデル」と「定番モデル」の両方に『Costa de Majorca』(コスタ・デ・マジョルカ)のタグがあります。
さらに生産国がスペインです。
海外ファンの反応:検証が進んだ「Costa de Majorca説」の信頼性
実物検証によって得られたデータと参考資料等の一致から、筆者はコロンボのレインコートを製造したメーカーおよびブランドとして、以下の結論を提示します。
コロンボが着用したコートの製造メーカー・ブランドは『Costa de Majorca』(コスタ・デ・マジョルカ)です。

刑事コロンボ『殺人処方箋モデル』や、以降の『定番モデル』も同様のタグが縫い付けられており、コートのデザインも劇中や雑誌で見られた特徴と完全に一致しています。
これまで長い間、コロンボのコートはスペインの大手アパレル企業である「Cortefiel(コルテフィエル)」社製であるという説が広く知られていました。
しかしこれは「スペイン製(Made in Spain)」、「頭文字がCから始まるブランド」という断片的な情報から、Cortefiel社のCEOであった“ゴンサロ・イノホサ”(Gonzalo Hinojosa)氏が思い違いをした可能性が考えられます。
本記事の実物検証により、長らく謎とされてきたピーター・フォークが羽織り続けたレインコートは、従来語られてきた「Cortefiel」というブランドではないと改めて断定します。
そして「Costa de Majorca」こそ、コロンボが着用したレインコートの真のメーカーおよびブランドであると結論付けます。
海外ユーザーによる「Costa de Majorca説」の検証と好意的評価
筆者が提示した「Costa de Majorca説」の考察および検証データをインターネット上で公開したところ、海外の『刑事コロンボ』ファンサイトから反響が得られ、強く裏付ける情報や、ポジティブなフィードバックを得ることができました。
海外のコロンボファンの中にも、かねてより「Cortefiel説」に疑念をいただいていたとの意見があり、その一人が”Vergara”(ベルガラ)氏でした。
ベルガラ氏も、コロンボのコートが「Cortefiel社製」という根拠を調べており、過去には実際にメーカーに確認を行いましたが明確な回答は得られていません。
筆者の実物照合をした記事を見た“Vergara”(2022年)7は、『Costa de Majorca』という製造メーカーについて調べ上げ、興味深い背景が浮かび上がってきました。
スペイン官報(1983年3月15日付)によると、 外国資本比率が高いスペイン企業リスト内に「Costa de Majorca」を発見し、外国人がスペインで設立した企業と推測。
米国特許庁官報第912巻では、商標「COSTA DE MAJORCA」(米国特許番号776,227)に登録されているのを確認。男女用レインウェアとして1962年8月3日に初使用された記録を特定。
パンアメリカン航空『Clipper Cargo Horizons』(1965年11月号)では、 同社の設立背景、経営陣、製造工場、流通ルートに関する詳細な取材記事を発見。
「コスタ・デ・マヨルカ」の企業歴史と概要
- 創業と経営陣: ニューヨークで紳士服を手掛けていたジェローム・クロップ(Jerome Krop)が、1959年のスペイン繊維貿易使節団の訪問をきっかけに創立。息子スティーブン(Stephen Krop)とともに経営。
- 生産拠点と技術: スペイン・カスペ(Caspe)の最新鋭工場に約165名の手縫い職人を配し、上質なピマコットンやスエードを用いた高価格帯(60ドル〜750ドル)の高級レインウェアを全工程手作業で手掛ける。
- 事業モデル: 輸出専用ブランドとして展開。生産量の約90%を米国の主要百貨店や専門店(約1,000店舗)へ航空貨物で輸出し、直販体制を確立。
これらを踏まえ”Vergara”(2022年)は、従来「コルテフィエル(Cortefiel)」製とされてきたコロンボのレインコートは、製造時期・仕様・ブランド名のイニシャル(C)の整合性から、実際には「Costa de Majorca」(コスタ・デ・マヨルカ)製である可能性が高いと評価しました。
上記にあるような流通状況が判明したため、『Costa de Majorca』は独立したメーカーブランドであり、『Cortefiel社』の別名義の商品名ではないことが明らかになりました。
また、同掲示板の”kevin”(ケビン)氏も以下のように述べています。
「There is absolutely no doubt in my mind that the true make of the coat is Costa de Mallorca and never was Cortifiel – just a mistake which led to decades of misattribution.」8
このコートの本当のメーカーはコスタ・デ・マヨルカであり、コルティフィエルではなかったことは私の心の中にはまったく疑いの余地がありません。これは何十年にもわたる誤った帰属につながった単なる間違いです。
このように、筆者が行った実物検証は、海外ファンコミュニティの反響も得ることができ、『コロンボが着用したコートメーカーの新説』としての妥当性を得ることができました。
まとめ:刑事コロンボを支えたレインコートの真実
本稿では、半世紀にわたりファンの間で通説とされた「刑事コロンボのレインコート」の製造メーカーについて、実物(同型モデル)を入手し検証を行いました。
長年信じられてきた「Cortefiel説」に対し、筆者が入手したコートは第1作『殺人処方箋モデル』や、それ以降で着用したレインコートのデザインが合致したこと。
このことから、ピーター・フォークが劇中で着用したコートは 「Costa de Majorca」(コスタ・デ・マジョルカ)が製造モデルという結論に至りました。
また、この新説は国外のファンコミュニティからも強い支持と検証データの補強を得ることができています。
長い年月を経て、着用したレインコートの正体が明らかになったことは、作品の衣装史における重要な一歩であり、今なお世界中で愛され続ける『刑事コロンボ』という名作への新たな理解を深めるきっかけとなるはずです。
以上、『【刑事コロンボ】コートのブランドを特定!通説と異なる真実を発見』でした。
参考・引用文献
- BONEHAMAS『THE ICONIC “COLUMBO” RAINCOAT AND SHOES WORN BY PETER FALK AND DETECTIVE COLUMBO, 1970S』(https://www.bonhams.com/auction/24465/lot/1145/the-iconic-columbo-raincoat-and-shoes-worn-by-peter-falk-and-detective-columbo-1970s/)2023年2月7日閲覧 ↩︎
- EL PAÍS『刑事コロンボのコートについて』(1995年)
(https://elpais.com/diario/1995/05/04/agenda/799538401_850215.html)2023年2月7日閲覧 ↩︎ - EL PAÍS『The Spanish department store that gave birth to Colombo’s raincoat: How Peter Falk got his hands on one of television’s most iconic garments』(https://english.elpais.com/culture/2024-07-13/the-spanish-department-store-that-gave-birth-to-colombos-raincoat-how-peter-falk-got-his-hands-on-one-of-televisions-most-iconic-garments.html)2026年8月20日閲覧 ↩︎
- Yahoo!知恵袋『『刑事コロンボ』が着ているコートはバーバリーでしょうか?』(https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1421911184)2021年10月10日閲覧 ↩︎
- THE ULTIMATE COLOMBO SITE!『Columbo’s Raincoat』(http://www.columbo-site.freeuk.com/raincoat.htm)2021年10月10日閲覧 ↩︎
- 『TV GUIDE(JULY 27,1974)』p.10より引用 ↩︎
- Vergara『Costa de Majorcaについて』(https://pub10.bravenet.com/forum/static/show.php?usernum=806565873&frmid=6&msgid=1401611&cmd=show)2022年9月25日 ↩︎
- kevin(https://pub10.bravenet.com/forum/static/show.php?usernum=806565873&frmid=6&msgid=1414106&cmd=show)2026年8月18日 ↩︎




