【VS.落語家】「完全犯罪とかけて、日曜日にお父さんが作る晩ご飯と解く。その心は、必ず失敗します。お後がよろしい様で」
データ
あらすじ+人物相関図
落語家・気楽家雅楽は、独演会で兄弟子・気楽家苦楽の新作落語を無断で披露するつもりだ。兄弟子の作品を我が物にするために殺害を計画する。師匠・気楽家有楽との稽古を苦楽に身代わりを頼むと、その間に事務所から真打候補のリストを盗み出した。
アパートに帰宅した苦楽をナイフで殺害すると、彼に変装した雅楽は老人ホームへの慰問に参加し、この時間まで苦楽は生きていたよう見せかけた。その後、雅楽は打ち上げパーティーに参加して自身のアリバイも作り上げる。
苦楽は盗みだした真打候補のリストを見て、今年も真打にはなれないことに悲観して自殺をしたように見せかけたのだった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:気楽家雅楽(きらくや がらく)
役者:市川染五郎(現:松本幸四郎)
職業:落語家
殺害方法:斬殺(折り畳みナイフ)
動機:兄弟子の作品を我が物にするため
今回の被害者:気楽家苦楽(きらくや くらく)
役者:モロ師岡
職業:落語家
犯行計画/トリック
『成りすましを依頼し自殺の動機を作る』
①気楽家雅楽は、兄弟子・苦楽に頼み、師匠・有楽との稽古を代わってほしいと頼む。キャバクラで隙を見て苦楽のライターを盗んだ。翌日、雅楽に成りすました苦楽は、有楽との稽古に参加する。その間、雅楽は神楽坂にある事務所に侵入し『真打候補のリスト』を盗み出し、金庫のわざとずらすことで、防犯ベルを作動させた。
②雅楽は独演会で、苦楽の作品『タイムマシンで行こう』を無断で使用した。雅楽と苦楽はアパートに帰宅する。今後、自分の作品を無断したらそれ相応の措置をとると、使用の許可を断られたため、バタフライナイフで喉を切り殺害した。
③被害者のアパートからメモ帳のコピーを回収すると、苦楽に成りすまして、予定されていた老人ホームの慰問に参加する。その後、雅楽は一門の打ち上げパーティーに参加をした。
④雅楽は携帯に、18時30分頃に苦楽から電話があったとでっちあげる。「今年も真打ちにはなれなかった」。その後の調べで、泥棒が入った事務所には被害者のライターが発見され、自宅の机から盗まれたノートのコピーが見つかった。真打候補には苦楽の名前はなく、悲観しての自殺に見せかけた。
推理と捜査(第2幕まで)
視聴者への挑戦状
「えー、私の推理が正しければ。これで事件は解決です。やはりですね、あのダイイングメッセージは若旦那を指していたようです。そして、気楽家雅楽は自分が犯人であるという決定的な証拠を残していきました。果たしてそれは何か。引き続き、解決編をご覧ください。古畑任三郎でした」
小ネタ・補足・元ネタ
〇気楽家苦楽は古典落語をよく勉強し、それを新作落語に活かしていたと言われていた。新作落語『タイムマシンで行こう』は、大ヒット映画が放映される前に戻り、それと同じ映画を作って大儲けしようという内容である。噺の中では、『タイタニック』を先取りしようとしていた。
「しかし、このラーメンもケチなラーメンだな。チャーシューなんか透けて見えちゃってるよ」この流れは、古典落語『時そば』で、ちくわ入りのそばを食べる場面を参考にしている。
〇気楽家有楽が稽古で披露した落語は『野ざらし』の一節である。
「浅草弁天山から打ち出す暮陸奥の鐘。いんにこもって、ものすごくボーン……」
〇気楽家一門は独特なネーミングである。気楽家有楽、雅楽、苦楽、墜落、イラクと作中では登場した。墜落を演じたのは『柳家さん生』、イラクは『柳家さん光』である。
〇気楽家有楽を演じたのは、『梅野泰靖』氏である。刑事コロンボでは、犯人役として3度登場した『ロバート・カルプ』氏の声優を担当していた。
〇独演会のロケ地は、『府中の森芸術劇場』である。
まとめ
第3シーズンの開幕エピソードでございます。新キャラ・西園寺くんが正式加入となった本作品。第2シーズンの芳賀刑事のように、事件捜査の件から古畑警部補が浮いてしまわない仲介役ではなく、古畑警部補に代わり事件の解説を行ったり、今泉くんの出番が徐々に減ってきてしまうなど悲しい一面もあります。
トリックに関しては、やはりどこかしら破綻しているような気もします。『被害者を師匠の稽古に自分の身代わりに参加させる』のは、目が悪い師匠ではありますが、さすがに会話ぐらいはしないものでしょうか。仮にも甥っ子ですので、師匠よしっかりしてくれ! あえて身代わりに気が付いており、その後の事件展開から庇っていたのかも知れませんけど……。
また、被害者が目の前で『煮干し』を握りしめていました。何らかの意図があるのではないかと回収しなかったのもお粗末な犯人ではありますが、想像以上に血が出てしまったので気が動転してしまったとしましょう。
脚本的には、落語にかけた『トリック』と『ダイニングメッセージ』に絞っていった結果ではないかと思います。犯人の性格などもそれに合わせ、古典落語を知らないのでダイニングメッセージの重要性を見逃すなど上手く伏線が張られております。
なんといってもこのエピソードで見どころなのは、『梅野泰靖』さん演じる師匠の存在感でした。解決編では古畑vs犯人という構図がほとんどで、そこに3人目が最後まで加わることは稀(逆トリックなどで加わることがあるが途中で退席)でした。
犯行の動機となった犯人の心情や思いに対し、師匠が返す言葉。
「何も殺すことはねぇじゃねぇか」
ここからもう少し続くのですが、ぜひ見返してみてください。功を焦る弟子に対しての師匠の思いが伝わります。その後の一門引き連れて……の件は、個人的にやり過ぎな感じもしないでもないです。仮にも弟子・苦楽が亡くなっているのに扱いの差。悲しいよ、あたしゃ‼
師匠と弟子との絆を最後に持っていくことで、うまく締めくくられたラストにも見えます。
以上、『若旦那の犯罪』でした。