1994年4月に初めて放送された『古畑任三郎』第1話の序盤でこんなセリフがあります。
古畑「バンズイインの取り調べは明日っからということで」
はじめてドラマを視聴した人は「なんのこと?」と感じたのではないでしょうか。それもそのはず、”バンズイイン”とは第4話『殺しのファックス』で登場する犯人・幡随院大(笑福亭鶴瓶)のことなのです。
さらに続く第2話『動く死体』では、第1話ですでに行動を共にしていた古畑と部下・今泉慎太郎の関係が初対面のような口ぶりで会話をしていることから、古畑任三郎は通常のドラマのように必ずしも1話から順を追って物語が展開されていないことがわかります。
この件について古畑任三郎のプロデューサー・石原隆氏は、インタビューで意図的にバラバラにしていると述べ1⁾、理由は視聴者に時間軸を直して楽しんでもらうためだと語っています2⁾。
このような製作陣の遊び心は古畑任三郎シリーズの1つの特徴になっており、第1シーズンに限らず、第2シーズンや第3シーズン、スペシャル回にも引き継がれております。
本記事では、古畑任三郎の全エピソードの時系列を正しく整理していくため、登場人物の台詞だけではなく小道具や背景などを含めて事件日を考察していきます。
確認方法と事件日の判断基準
- 『古畑任三郎 complete Blu-ray BOX』をもとに表と計測時間を作成しています。
- 台詞だけではなく背景や小物にも着目し、総合的に判断して日付けを割り出しております。
第1シーズンの時系列
| タイトル・事件日 | 根 拠 | 該当時間 | 
|---|---|---|
| 2話「動く死体」 犯人:中村右近(堺正章) 事件日:1994年2月初旬? | 犯人がタートルネックのセーターを着用。 | |
| 黒板のスケジュールに『2月18日(金)』と書かれている。 | 11分40秒 | |
| 古畑任三郎が今泉慎太郎の名前を聞いており初対面。 | 14分28秒 | |
| 6話「ピアノ・レッスン」 犯人:井口薫 (木の実ナナ) 事件日:1994年2月15日? | 今泉「15日になったところ」 | 06分50秒 | 
| ケヤキの葉が落ち切っている。 | 13分30秒 | |
| ウィーン少年合唱団のコンサートポスターが1994年6月10日。 | 28分32秒 | |
| 4話「殺しのファックス」 犯人:幡随院大 (笑福亭鶴瓶) 事件日:1994年3月13日 | 犯人の腕時計の日付が『13』の針を指す。 | 05分19秒 | 
| 最後のファックスの受信日時が 「1994年3月13日 23時04分」 | 42分06秒 | |
| 3話「笑える死体」 犯人:笹山アリ (古手川祐子) 事件日:1994年3月16日 | 古畑のシャツが『グレーストライプ』。 現場が家の近くなので自転車で来たと話す。 | 13分24秒 | 
| 被害者が夕べ購入したという東急ハンズのレシートが1994年3月16日。 | 30分54秒 | |
| 逮捕直前の壁掛け時計の時刻が20時15分。 | 42分50秒 | |
| 7話「殺人リハーサル」 犯人:大宮十四郎 (小林念侍) 事件日:1994年3月17日? | 古畑のシャツが『グレーストライプ』。 現場が家の近くなので自転車で来たと話す。 | 11分55秒 | 
| 古畑は家に帰ったばかりだったらしい。 | 13分35秒 | |
| 壁掛け時計が21時45分。 17日に解決した『笑える死体』から続けて捜査? | 15分51秒 | |
| 1話「死者からの伝言」 犯人:小石川ちなみ (中森明菜) 事件日:1994年3月26日 | 古畑「幡随院の取り調べは明日っからということで」 | 09分15秒 | 
| 食事レシートが1994年3月23日で3日後が事件発覚日。 | 19分05秒 | |
| 11話「さよなら、DJ」 犯人:中浦たか子 (桃井かおり) 事件日:1994年4月6日or7日 (桜の時期) | 中浦たか子のマネージャー・安藤から相談を受け古畑が脅迫状の件で相談を受ける。 ⇒安藤の高校時代の同級生のお姉さんが嫁いだ先のお父さんが小暮刑事で、安藤は小暮の紹介を受け古畑を紹介してもらう3⁾『最後のあいさつ』より前。 | 07分17秒 | 
| 壁掛けカレンダーが4月。 | 15分24秒 | |
| 朝刊のお悔やみ欄に6日で亡くなった方がおり通夜が8日午後から。 | 34分41秒 | |
| 今泉は走り過ぎて病院に運ばれた。痔が悪化し始めている? | 44分00秒 | |
| 10話「矛盾だらけの死体」 犯人:佐古水茂雄 (小堺一機) 事件日:1994年4月18日 | 今泉が痔の手術を受けている。 | 23分38秒 | 
| 被害者の検死報告書の日付『平成6年4月18日』 | 25分03秒 | |
| 9話「殺人公開放送」 犯人:黒田清(石黒賢) 事件日:1994年5月頃 (やや暖かい時期) | チンピラの服はアロハシャツ。 | 02分35秒 | 
| A子さんは先月の4日に失踪。 捜索願が出され今日で10日目。 | 15分42秒 | |
| A子さんの失踪当時の服装は黄色の薄手のセーター。 | 22分48秒 | |
| 5話「汚れた王将」 犯人:米沢八段 (坂東八十助) 事件日:1994年秋頃 | 小石川ちなみのサイン入りコミック本がある。 | 07分00秒 | 
| 古畑「新幹線乗って酢豚弁当食べんの夢なんだから」 | 09分30秒 | |
| 対局会場である扇屋の中庭の木々の葉が無かったり色づいている。 | 27分05秒 | |
| 8話「殺人特急」 犯人:中川淳一 (加賀丈史) 事件日:「汚れた王将」直後 | 犯人や被害者がコートを着用。(肌寒い時期) | |
| 古畑が新幹線に乗っており酢豚弁当を探しているため『汚れた王将』の直後。 | 03分27秒 | |
| 12話「最後のあいさつ」 犯人:小暮音次郎 (菅原文太) 事件日:1994年10月頃 (リンゴが旬な時期) | 小暮刑事に古畑が実家で採れたリンゴを渡す。 | 02分54秒 | 
| 13話「笑うカンガルー」 犯人:二本松晋 (陣内孝則) 事件日:1995年4月11日 | アーバックル賞の受賞記念のパーティーが1995年4月11日から12日に開催されているとの看板 | 02分55秒 | 
はじめに『動く死体』は古畑と今泉が出会っており最初の事件と位置付けられます。2番目に『ピアノ・レッスン』の理由についてですが、塩原音楽学院の中庭(ロケ地:世田谷区立希望丘公園)シーンでケヤキの木の葉が落ち切っているからです。
ケヤキの木が芽吹きはじめるのが4月頃で、3月中旬だと蕾が実っている思われます。しかし見当たりませんでしたので「2月15日」と考えました。(あと他エピソードと比較してまだ割と今泉に優しい感じがするような?)
『殺しのファックス』は犯人の腕時計とファックスの受診用紙の日付が合っているので「3月13日」で間違いないでしょう。ちなみに、ファックスの2通目『1994年1月15日15時42分』、7通目『1994年1月17日16時51分』と日付けにズレが生じております。
『笑える死体』もレシートの日付から「3月16日」と推定できました。次に『殺人リハーサル』の理由として古畑が着ているシャツが『笑える死体』と同じグレーストライプだからです。
どちらの犯行現場も古畑が自宅から近いため自転車で来たとも話しており、『笑える死体』(17日20時15分~)を解決後、続けて『殺人リハーサル』(17日21時45分前)の事件に向かったのではないでしょうか?
その他の事件に関しては、上記表にてご確認ください。
第2シーズンの時系列
| タイトル・事件日 | 根 拠 | 該当時間 | 
|---|---|---|
| 2話『笑わない女』 犯人:宇佐美ヨリエ (沢口靖子) 事件日:1994年~95年1月? | 古畑「君んち本棚あんの」今泉「ありません」 古畑「本どうしてるの」今泉「ありません」 ⇒後述の『しゃべりすぎた男』では今泉宅に本棚があるため買い集めたとすると初期の事件ということになる。 | 10分49秒 | 
| 3話『ゲームの達人』 犯人:乾研一郎 (草刈正雄) 事件日:1995年10月10日 | ワープロ画面の日付 『10/10 SUN 6:43』⇒曜日にズレがある | 08分31秒 | 
| 古畑「今夜打たれたものです。ワープロに登録された時のタイムが残っています」 | 41分48秒 | |
| 1話『しゃべりすぎた男』 犯人:小清水清 (明石家さんま) 事件日:1996年1月10日 | 今泉のアパートに突入するシーンで本棚と本がある。 | 19分14秒 | 
| 検察による事件内容の読み上げ「被告人は平成8年1月10日…」 | 34分00秒 | |
| 被害者の猫(ドモンジョ)は古畑が預かることになった。 | 45分30秒 | |
| 7話『動機の鑑定』 犯人:春峯堂のご主人 (澤村藤十郎) 事件日:1996年1月27日 | 錦織美術館の看板に「慶長の壺」展示期間が書かれており、『平成八年二月二日(以下不明)』 | 01分56秒 | 
| 春峯堂のご主人「それは通りません。一般公開は来週です」⇒2月2日の1週間前で1月27日 | 02分44秒 | |
| 錦織美術館事務室のホワイトボードに1月(下段)と2月(上段)が記入され、2月27日に赤マグネットが置かれている。 ⇒下段マグネットだと館長の背後で視認しずらいため上段に設置したとすると1月27日が事件日。 | 09分17秒 | |
| 今泉「披露宴どうでした」古畑「盛り上がったよ」 今泉「(小石川)ちなみちゃん綺麗だった?」 | 12分40秒 | |
| 4話『赤か、青か』 犯人:林功夫 (木村拓哉) 事件日:1996年2月2日 | 遊園地の警備員「冗談じゃねえよこのクソ寒いときに」 | 04分58秒 | 
| 芳賀刑事「タコ(今泉)は例の事件がまだ尾を引いておりまして。精神的に立ち直るまで私がフォローを」⇒酷い仕打ちを受けた『動機の鑑定』の後? | 08分00秒 | |
| 爆発物処理班「殺人事件に巻き込まれて話題になった」⇒『しゃべりすぎた男』より後。 | 15分08秒 | |
| 犯人の腕時計の日付が『2』と表示されている。 | 34分34秒 | |
| 5話『偽善の報酬』 犯人:佐々木高代 (加藤治子) 事件日:1996年2月7日 (断定できず放送日を採用) | 古畑「確か君(今泉)おばあちゃんと2人暮らし」 ⇒『しゃべりすぎた男』より後。 | 08分14秒 | 
| 壁掛けカレンダーが1月と2月のページ。 | 08分34秒 | |
| 6話『VSクイズ王』 犯人:千堂謙吉 (唐沢寿明) 事件日:1996年2月14日 | 壁掛けカレンダーが1月と2月。2月の欄が29日まであるので1996年1月or2月のいずれか。 | 13分36秒 | 
| 今泉「僕なんか拘置所思い出しちゃったですよ」 ⇒『しゃべりすぎた男』より後。 | 22分39秒 | |
| 毎朝新聞の日付『1996年2月14日水曜日』 | 41分37秒 | |
| 9話『間違えられた男』 犯人:若林仁 (風間杜夫) 事件日:1996年2月20日 | 鴨田「先月の中頃だったかな。花見先生の(出版記念パーティ)」 | 06分14秒 | 
| 壁掛けカレンダーが29日まで。 被害者の同居者は18日~20日まで合宿に参加中。 | 09分14秒 | |
| 同居人が留守番電話に残した伝言「合宿1日延びて帰るのは明日になりました」 | 22分53秒 | |
| 8話『魔術師の選択』 犯人:南大門昌男 (山城新伍) 事件日:1996年2月28日 (断定できず放送日を採用) | 古畑が猫(ドモンジョ)を動物病院に連れてきている。 | 01分25秒 | 
| 10話『ニューヨークでの出来事』 犯人:のり子・ケンドール (鈴木保奈美) 事件日:1996年3月13日 (断定できず放送日を採用) | 小石川ちなみが結婚後はアトランタで暮らしており古畑が会いに来ていた。⇒『動機の鑑定』より後。 | 05分20秒 | 
| 古畑たちが解決した事件の内容を語り、『赤か、青か』や『しゃべりすぎた男』の話が挙がる。 | 09分46秒 | |
| 24話『しばしのお別れ』 犯人:二葉鳳翆 (山口智子) 事件日:1996年3月27日 | 会場の調整室後方のタイムスケジュール表『3/27日(水)』 | 14分54秒 | 
| 25話『消えた古畑任三郎』 事件日:1996年4月6日 | 芳賀「古畑さんが消息を絶ってから今日で1週間になります」 | 46分36秒 | 
| 二葉「あ、そう。私の事件で最後なんだへえー」(3月27日) | 49分14秒 | |
| 芳賀「調べによると古畑さんが消えたのは土曜日。今泉さんが山荘に行った前の日です」(1996年3月30日土曜) | 91分02秒 | 
第2シリーズの特徴として、第1回『しゃべりすぎた男』(1月10日)が基準になることが多いです。古畑や今泉くんも印象に残っている事件のため他エピソードでも言及していることがあり、事件前か後かの判断材料にすることができます。
また第1話『死者からの伝言』の犯人・小石川ちなみに関するワードも出てきており、彼女が事件後は幸せな結婚生活を送っていることを知ることもできます。
さて、まずは『笑わない女』は初期の事件であると推測できます。今泉くんは「自宅に本棚や本が無い」と言っていますが、彼のアパートに突入するシーンがある『しゃべりすぎた男』では本棚や本もあることから少しずつ買い集めたのではないでしょうか?
次に『ゲームの達人』はワープロの日付が『10/10 SUN 6:43』となっています。古畑も解決編で「今夜打たれたものです」と明言しているためこの日で間違いがないと思います。ただし1995年10月10日は実際には火曜日であり花見先生は日付を直せずにいたのですかね。
また『間違えられた男』(2月20日)では”先月の中頃に花見先生の出版記念パーティーがあった”そうなのですが、彼の没後に遺作の出版記念パーティが行われたのでしょうか?
『しゃべりすぎた男』は1996年1月10日と明言されています。『動機の鑑定』が1月27日の理由として、冒頭で慶長の壺の展示案内看板が「二月二日」で、春風堂のご主人が「一般公開は来週」と言っているためこの日付けにしました。
そして『赤か、青か』は2月2日です。理由として『赤か、青か』の犯人・林功夫(キムタク)の腕時計の日付が2と表示されており、芳賀刑事「タコ(今泉)は例の事件がまだ尾を引いておりまして。精神的に立ち直るまで私がフォローを」という台詞から、今泉がローンで買った仏像を古畑に破壊された挙句に背中を踏まれるという『動機の鑑定』が該当していると考えるからです。
上記の芳賀刑事の台詞からWikipedia4⁾では『しゃべりすぎた男』⇒『赤か、青か』としていますが、案内看板の日付や林功夫の腕時計を踏まえると『動機の鑑定』が間に入るのではないでしょうか? それを踏まえると小物を用いて綿密に時系列を配置しているのだと驚きました。
また『偽善の報酬』で今泉はおばあちゃんと同居しているという設定でしたが、『しゃべりすぎた男で今泉のアパートにおばあちゃんがいない件』を疑問に思われる方がいると思われます。おそらく同居しはじめたのは『しゃべりすぎた男』以後になるからです。
今泉くんは警察官としてあるまじき大きな事件の当事者となり保護観察の意味合いや、その後のエピソードでは自律神経失調症も悪化していることから、保護者同伴による経過療養のもとで仕事に復帰できているのだと思います。
その他の事件に関しては、上記表にてご確認ください。
第3シーズン+スペシャル
準備中
ファイナルシーズン
準備中
まとめ
基本的に毎回起こる事件は舞台や動機もそれぞれがバラバラではありますが、古畑任三郎は事件を解決するとまた次の現場で完全犯罪を目論む巧妙な犯人と相対する1話完結型の物語ということは変わりありません。
連続ドラマのように数話飛ばしてしまうとドラマの内容が分からなくなってしまうことはないのですが、他のエピソードを見てみるとリンクしている部分も多く存在しており、とりわけ『時系列の組み換え』という演出はファンの間でも考察合戦を生んでいます。
『時系列を並び変えてみる』というちょっとした遊び心なのですが、ただ単に映像作品として受け身で視聴するだけではなく、ファンが波風を立て続けて楽しみながらコンテンツに参加することができるのです。これは古畑任三郎の大きな魅力であり今なお愛される由縁なのかも知れませんね。
第3シーズンとスペシャルもまとめている途中ですので、また数か月後にでも覗いてみてください。
以上、『「古畑任三郎」時系列の考察』でした。
参考資料・サイト
- フジテレビジョン『古畑任三郎 complete Blu-ray BOX』2018年,ポニーキャニオン
- 倒叙ミステリー研究会『古畑任三郎 結末の結末』1997年1月31日,三一書房
- SmartFLASH『古畑任三郎』シーズン3に隠された “秘密” を徹底検証
 (https://smart-flash.jp/entertainment/entertainment-news/287785/)2025年10月24日閲覧
- フジテレビジョン『石原隆が語る 古畑任三郎ファイナル』(https://www.fujitv.co.jp/m/furuhata/int_ishihara_02.html)2025年10月27日閲覧 ↩︎
- ディアゴスティーニ『古畑任三郎DVDコレクション第2号』2022年,p6より参照 ↩︎
- 三谷幸喜『古畑任三郎 殺人事件ファイル』1994年6月30日,フジテレビ出版,p290より参照 ↩︎
- Wikipedia『古畑任三郎のエピソード一覧』(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E7%95%91%E4%BB%BB%E4%B8%89%E9%83%8E%E3%81%AE%E3%82%A8%E3%83%94%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%89%E4%B8%80%E8%A6%A7)2025年10月24日閲覧 ↩︎

 
  
  
  
   
					 
					
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