若き日のスティーヴン・スピルバーグが監督を務めています。作品全体を通してみると『暗い』印象があります。物語のストーリーがということではなく、陰影表現が濃く、この撮影技法こそがスピルバーグ節なのだと感じました。
そして、作中で2度殺人が発生するのも注目です。一度目の犯罪は計画的に殺害を行ったが、2度目の殺人は犯人にとっては不測の事態。例えば、アリバイ工作に利用されたことに気が付いたり、姿を見てしまったりなどの共犯者や目撃者が現れることがあります。
それを揺すりのネタに金銭を巻き上げようとするのですが、コロンボ作品においてはそういう輩は抹殺される運命にあることが多いです。そのため、第1の計画が完璧だったばかりに、第2の殺人から犯行が露呈してしまうのであります。
データ
脚本・ストーリー監修:スティーヴン・ボチコ
監督:スティーヴン・スピルバーグ
制作:リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク
音楽:ビリー・ゴールデンバーク
本編時間:76分
公開日:アメリカ/1971年9月15日 日本/1973年8月25日
あらすじ
コンビのミステリー小説家であるジェームス・フェリスとケン・フランクリンは、表向きには共同執筆だが、実際に執筆しているのはフェリスであり、口が達者なケンは執筆を行わない代わりに講演やサイン会、宣伝などのスポークスマンとして活躍していた。ある日、フェリスは新しい分野の作品に挑戦をしたいコとンビ解消を伝える。金遣いの荒いケンにとってそれは由々しき事態であった。彼を別荘のあるサンディエゴで射殺するとそれを殺人に偽装し、お互いにかけていた生命保険を獲得したのだった。
人物紹介(キャスト/吹き替え声優)
今回の犯人:ケン・フランクリン
役者:ジャック・キャシディ
吹き替え声優:田口 計(たぐち けい)
概要:表向きにはミステリー作家の男性。ジェームス・フェリスとは長年コンビを組み執筆活動を行っていると思われているが、一行も文章を書いたことがない。ジェームスは、ミステリーの執筆を辞め、社会派の小説を書きたいとコンビ解消を告げられる。スポークスマンとしての収入がなくなってしまうことから、彼の保険金を狙い謀殺を企てた。その後、雑貨店店主リリー・ラ=サンカから事件を目撃されており、第2の殺人に手を染めることになった。
キザったらしく貴族的な立ち振る舞い。口が上手いことから出版社との交渉、テレビ出演、インタビューに応じたり、映画会社に売り込みを行うなど、宣伝に関しての手腕を発揮している。その代わり、小説は全てジェームスが執筆を行う。
この点に関しては、彼の妻・ジョアンナも周知の事実であった。大変な人気を誇るメルヴィル婦人シリーズであるが、ここまでの反響を呼んだのは、もしかしたら文章としての面白さだけではなく、彼の宣伝手腕も兼ねていたのかも知れない。
金遣いが荒いようで、自宅には何点もの有名画家の絵を飾っている。サンディエゴに別荘を購入しており、警察の給料では買えないと豪語してみせた。一方で女性関係も多くあり、この点でも浪費が激しいようだ。
今回の被害者:ジェームス・フェリス
役者:マーティン・ミルキー
吹き替え声優:堀 勝之祐(ほり かつのすけ)
概要:ミステリー作家の男性。ケン・フランクリンとは長年コンビを組んでいるが、実際には彼1人で執筆を行ってる。彼が手掛けたミステリー小説『メルヴィル婦人』は15作品にのぼり、500万部のベストセラーという華々しい経歴を誇る。ミステリー小説家として地位を確立したが、社会派(シリアス)な作風の小説を書きたいという兼ねてからの目標があり、ケンにコンビ解消を告げた。
オフィスは高層ビルの一室であり、様々な怪しい雑貨類が飾られている。妻・ジョアンナによると、「小説のアイディアは身の回りにあらゆるもの」だそうで、人の会話や雑誌からも着想を得ているようだ。何か思いつくと、紙切れやマッチ箱にメモをする癖があるそうだ。
かなりの愛妻家であり、事件当日には妻と食事会に行く約束をしていた。ケンに連れられ別荘に向かうまでの間でも、妻に黙ってきたことを後悔している。殺害される直前に、心配されないようにと妻に電話をかけるように促され、アリバイ工作に利用されてしまった。
メルヴィル婦人シリーズの内容は、メルヴィル婦人が、小さな手がかりからどんな難事件も解決してしまうという話である。最高傑作と呼ばれる1本は『Prescription:Murdaer(殺人処方箋)』というタイトルである。
今回の被害者:リリー・ラ=サンカ
役者:バーバラ・コルビー
吹き替え声優:林洋子
概要:雑貨店店主の女性。サンディエゴにある別荘地の近くで小さな雑貨店を経営する。夫は小船の乗組員でコックをしていたが、10年前に亡くなっており未亡人である。ケンが別荘地にジェームスを連れたのを目撃しており、これによりジェームスがオフィスで殺害された偽のアリバイが崩れる。
これを脅しのネタにして、ケンに1万5千ドルの金銭を要求した。
(1949~1971年=1ドル:360円=540万円)
ケンとの取引後に湖へ遊覧を誘われるが、何かあるか信用はできないと、これを拒否(実際行ったら、湖のボートの上で撲殺されることになっていた)。察しは良かったものの、結局は自宅で殺害されることになった。イチゴには目がないらしい。
小ネタ・補足
〇監督は当時25歳の『スティーブン・スピルバーグ』氏である。斬新なカット、役者同士の顔の距離が近い、陰影の表現が濃い演出が見られる。23話『愛情の計算』では、スティーブン・スペルバーグという天才少年が登場している。
〇『メルヴィル婦人』の中で、最高傑作と呼ばれる1本は『Prescription:Murdaer(殺人処方箋)』と雑貨店店主リリー・ラ=サンカが語ってる。刑事コロンボの第1作のタイトルも同じく『殺人処方箋』であり、スタッフのちょっとした遊び心である。
〇被害者のオフィスには、メルヴィル婦人の肖像画が飾られている。40話『殺しの序曲』の犯行現場となる『シグマ協会』にも、メルヴィル婦人の肖像画がさりげなく飾られている。
〇アニメ『探偵オペラ ミルキィーホームズ』の第2期5話『コソコソと支度』というエピソードがあり、今作『構想の死角』のもじったタイトルである。作中では、「コロンちゃん」というロングコートのキャラクターが登場し、「うちの神(カミ)さんがね」や額に手を当てるポーズをとるなど、コロンボを意識している演出がある。古風なタイプライターで使用するキャラの場面もあり、これは、構想の死角の冒頭で被害者がタイプライターで小説を打っていたことからである。
〇コロンボ警部の愛車『プジョー・403』が初登場するエピソードである。『ピーター・フォーク自伝』P.160によると、撮影に使用する車をガレージで好きに選ぶように言われる。これといった車がなく帰ろうと出口で振り返ったら、ボロボロになりタイヤがパンクしていたプジョーを発見したと思い出をつづっている。
まとめ
コロンボさえも勘違いをした最後の決着劇は見事です。一切小説のアイディアを出してこず、文章の才能の無さを自覚しているケン・フランクリンという人物から語られる捨て台詞は印象に残りました。
コロンボ警部も認める第1殺人の素晴らしいアイデアは自分のものだと主張する、そのひきかえに罪を認めました。ここで否定してしまうと、まったく小説を書かないでいたことも認めてしまうことになるんですね。(被害者の妻にはバレてましたが……)
事件直後のインタビューでは、「パートナーがいなくなったのでメルヴィル婦人は書かない」と公言していました。世間には、ベストセラー作家という体を残しておきたかった。お金も大切ですが、それ以上に地位や名声が好きだったのかと思いました。
そして、この決着劇を見て、とあるコントの台詞を思い返しました。1本だけなら優れたアイディアは出せるのです。
「いや、先生のような面白い小説なんて、僕に書ける訳無いですもんねぇ」
「いやいや、そんなこと無いですよ。誰にでも、一生にたった一本なら面白い物語を作ることは出来るんだ。いやいや、何本も書かなきゃいけないのが、プロなんだろうけどねぇ」
「そんなもんですかねぇ…」 ラーメンズー小説家らしき存在ー
以上、「構想の死角」でした。
本作のオマージュ作品が「古畑任三郎・笑うカンガルー」ではないかと思っています。
>>本作のオマージュ作品
>>古畑任三郎・笑うカンガルー
・犯人と被害者の関係性(コンビを組んでいるが実態は相方が1人で作品を書いている。犯人は口が上手いスポークスマン)
・コンビ解消が事件のきっかけ
・被害者のどこにでもメモを書く癖
私もこの作品が「笑うカンガルー」でのキャラクター設定の原型になっていると思います。ストーリーの流れは、刑事コロンボ「権力の墓穴」が土台にあると思っています。『古畑任三郎における刑事コロンボのオマージュ』一覧を作っていますので、よろしければお楽しみください!