第1話「殺人処方箋」は舞台劇をテレビ用の脚本へと作り直したのに対し、「死者の身代金」は最初からテレビ用に脚本が練り上げられています。この結果、作品のスケールが大きいものとなり、テレビの映像をフルに活かした編集となりました。
1話のコロンボでは捜査方法が確立されていましたが、このエピソードではコロンボというキャラクターが完成したように思います。ボサボサ髪にレインコートという姿。固かった表情もなくなり、笑顔が多くなっているのが印象的です。
データ
脚本・制作:ディーン・ハーグローヴ
原案:リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク
監督・制作総指揮:リチャード・アーヴィング
音楽:ビリー・ゴールデンバーク
本編時間:95分
公開日:アメリカ/1971年3月1日 日本/1973年7月7日
あらすじ
弁護士レスリー・ウィリアムスは、自宅で脅迫文書を作成すると、帰宅した弁護士会会長で夫のポールを銃で射殺した。その遺体を海へ遺棄すると、夫を誘拐したという脅迫文書を自分宛に送り、架空の誘拐事件を作り上げた。FBI監視下のもと、直前で身代金の入っていないバッグをすり替え、存在しない犯人に金を支払ったように偽装する。やがて夫の遺体は発見され、犯人不明のまま身代金は戻らないという筋書きを完成させたのだった。
人物紹介(キャスト/吹き替え声優)
今回の犯人:レスリー・ウィリアムス
役者:リー・グラント
吹き替え声優:山東 昭子(さんとう あきこ)
追加吹き替え:弥永 和子(やなが かずこ)
職業:弁護士
概要:弁護士の女性。野心家であり、弁護士会会長ポールとは社会的地位を獲得するために戦略結婚をしたており、愛のない生活に耐え兼ねたポールから離婚を切り出される。現在の社会的地位を保持するため、義理の娘へ遺産相続金を支払わない方法として、架空の誘拐事件をでっちあげ犯行に及んだ。
男性が多い弁護士業界において、女性であるがゆえに低く見られている。しかし、弁護士としての腕は確かであり、部下からは「州きっての有能な弁護士」と評価されている。作中の法廷シーンでは、酒場の階段から足を滑らせ仕事復帰ができなくなった男の訴訟を担当した。
酒場の運営会社(実際は酒場の階段の照明は暗く危険な状態であった)を弁護すると、階段から足を踏み外した男に対し「酒は飲んでいましたか?」「照明は足りてなくても酒は十分に足りていたようですね」と、ジョークを言い陪審員の笑いをとった。
彼女の法廷術は、相手弁護士の発言にことごとく異議を申し立て、発言権を少なくしていくことにある。その結果として、相手検事から圧勝をしてみせた。
ポールの前妻の娘である『マーガレット』とは折り合いが悪く、お互いを敵視している。そのため、スイスにあるチューリッヒの大学に入学させていた。
趣味は週に2回は自家用機に乗り空をフライトすることであり、初心者のコロンボに操縦を任せるなど肝のすわった人物である。欲深く・出世欲が強い。金で全てを懐柔できると思っている節があり、そこをコロンボに付け込まれてしまった。
被害者:ポール・ウィリアムス
役者:ハーラン・ウォード
吹き替え声優:水島晋(みずしま すすむ)
概要:弁護士の男性。登場37秒後に射殺されてしまい、セリフは「レスリー君は!」のみである。その後、遺体は毛布に包まれて海に遺棄され3日後に発見されようだ。人格円満な性格であり、同業者の弁護士からも尊敬を受けていた。そのため、連続5回も州の弁護士会会長に選出されていた。
レスリーによると「女性関係には動かし難い倫理観があり不倫などはもってのほか」とのこと。また、前妻との娘マーガレットによると、その真面目な性格から、なかなかレスリーに離婚を切り出せなかったと語っている。
結婚生活には愛がなく、レスリーには「こんな年寄りと結婚するんじゃなかった」とまで言われたようだ。離婚したら、弁護士事務所はそのまま譲るつもりだったようだ。ちなみに、コロンボ警部の見立てでは身長が190㎝あるらしい。
小ネタ・補足
〇コロンボ警部の大好物『チリ』が初めて登場するエピソードである。
〇コロンボファンである三谷幸喜氏の脚本『ラヂオの時間』で、「女弁護士と言えばパイロットです」というセリフがあり、このエピソードが元ネタではないだろうか。
〇マーガレットの役者は『パトリシア・マティック』である。1951年7月31日生まれで、2003年12月6日で亡くなられている。享年51歳で死因は癌だったようだ。(海外Wikipedia参照※英語です)
〇マーガレットが朝のリビングで見ていたモノクロテレビの内容は、ビリー・ワイルダー監督の映画『深夜の告白』である。
まとめ
この事件の発端は、レスリーの「欲深く・自信家」である性格に集約されています。彼女は殺人という最短距離のルートを選んでしまいました。邪魔になった夫を殺害するだけではなく、義娘への相続金も着服するという一石二鳥の計画だったのですね。
しかし、犯人の部下は彼女の腕の確かさを認め尊敬の念を抱いており、法廷のシーンでは相手側から圧勝という結果を残しています。地道に弁護士としての仕事を続けていれば、おのずと評価され確かな地位と名声を手に入れることができたのではないでしょうか?
ただこの時代、女性の社会進出への壁が大きかったのだと感じました。コロンボ警部も「よく勤まるね。ボスが女でしょ」と犯人の部下に聞いていました。弁護士として確かな腕を持っているが、女性という理由で誠実な評価を得られないため、弁護士会会長のポールと結婚して、確かな地位を獲得する必要があったんですね。
しかし、離婚が決まればこの地位が失われてしまう。これから先、女性弁護士として高みを目指していくためには、どうしても弁護士会会長の妻という肩書が欲しかったのであります。悲しい時代背景があるエピソードだとも思いました。
以上、「死者の身代金」でした。
やはり「身代金のために娘の年金まで換金」したのが最大のミス?!
それさえ残しておけば娘に口止め料を払うために身代金(紙幣番号を記録されている)の一部を出さなくて良かった!
それからレスリーは夫を撃つ時には立って撃つべきだった!
それがコロンボをして自宅が犯行現場じゃないかと勘ぐらせる原因?!
みんなはレスリーの電話でのやり取りがミスだと思いたいようだが、僕は全財産を換金したのが原因だと思いたい!
Vermilion Swan様
コメントありがとうございます!
>>「身代金のために娘の年金まで換金」したのが最大のミス?!
>>全財産を換金したのが原因
そうですよね。義娘の生活費だけでも確保していれば上手くいったように思えます。
犯人レスリーは帰国した義娘マーガレットに対し、「帰ってくるとは思わなかったわ」と話していました。
皮肉で言ったのかも知れませんが、義娘の帰国は予定外だったのではないでしょうか?
そのため、義娘への相続金も全部回収しようとして欲がでてしまったのでしょうね。
家族が誘拐され、命の危険があると知れば帰国してきても不思議ではないはず。
なのにレスリーはマーガレットが帰国してきたことに驚いていた。
この場面でレスリーという女の異質さが表れてますね。
演じたリー・グラントはアカデミー賞助演女優賞の常連ったほどの女優だそうですが、このエピソードを見ただけでその実力がよくわかります。
吹き替えた山東昭子さんは政治家になっていて役者活動は永らくやってないそうですね。
しかし何年か前、選挙特番で山東さんがコメントしていた場面をみましたが声を聞いて驚きました。レスリー吹き替えの時と変わってない!
あれ?40年は経ってるはずだし、役者活動も長年やってなくて、(特番当時)70歳半ばでこの声?
昔の役者ってスゴイなぁって思いました。
≫選挙特番で山東さんがコメントしていた場面をみましたが声を聞いて驚きました。レスリー吹き替えの時と変わってない!
そうなんですね! 政治家は声が武器ですから、声帯が衰えていないんでしょうね。
≫レスリーはマーガレットが帰国してきたことに驚いていた
金には代え難い人の思いがある。それが分からないレスリーの性格がうまく伏線になってましたね。