記念すべき第1作目にあたる作品である。作中にBGMはほぼなく、ラストシーンに少し流れる程度だ。音は「雨」と「雷」だけ。さらに、洋館という舞台だけで繰り広げられる会話劇は、舞台劇作家・三谷幸喜氏の脚本が冴えるエピソードといえる。
データ
あらすじ
少女コミック作家・小早川ちなみは、編集者・畑野茂と交際していたと思っていたが、遊ばれていただけであったことを知る。復讐のため別荘にある金庫室を利用して窒息死させると、彼女は再び別荘に訪れ金庫室で死体を発見したと警察に通報をした。
金庫の扉が閉まり出られなくなった不慮の事故で片付けられるはずだったが、大雨で土砂崩れが起こり警察はすぐに駆けつけられないという。その時、突然玄関のチャイムが鳴った。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:小石川ちなみ
役者:中森明菜
職業:少女コミック作家
概要:少女コミック作家の28歳女性。仕事で付き合いのある編集者・畑野茂と交際関係にあったが、弄ばれていたことに気が付き、彼を別荘にある金庫室に閉じ込め、窒息死させるという殺害計画を実行した。コミック作家という肩書にこだわりがあり、古畑から「漫画家」と言われると、「コミックです」と度々修正している。
今回の被害者:畑野茂
役者:池田成志
職業:編集者
概要:多数の女性と交際関係にある、プレイボーイな男性。小石川ちなみとは、仕事上の付き合いから交際に発展した様子。だが彼女との関係は遊びであった。殺害現場となってしまった別荘にもよく訪れていたようで、合い鍵も所有している。彼自身は運転免許を持っておらず、女性から連れてきてもらいホテル代わりに使用していたのだろう。
小ネタ・補足
〇作中に登場した漫画『カリマンタンの城』『アゼルバイジャンの夜は更けて』は架空の漫画である。原画を担当したのは漫画家『なんばくに』氏である。
〇『カリマンタンの城』は、ゆうきまさみ作『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』55話「星影の人」³⁾の小ネタとして名前が登場している。
刑事コロンボからのオマージュ
まとめ
1994年4月13日、刑事ドラマ『古畑任三郎』が放送された。犯人視点から犯行が描かれる『倒叙形式』を軸に事件が展開していく、日本版『刑事コロンボ』の誕生である。
本ドラマのプロデューサー・関口静夫氏は、フジテレビの刑事ドラマは代表作がなかったため、日本では成功例がないコロンボスタイルのドラマを成功させたいという思いから企画が始まった¹⁾と述べている。
脚本を担当した三谷幸喜氏はコロンボマニアでもあり、古畑任三郎の前には『やっぱり猫が好き殺人事件』という倒叙形式の特別ドラマを手掛け、コロンボを意識した台詞を確認することができる。今作品『死者からの伝言』の殺害方法も、刑事コロンボファンの方ならばご存じのエピソードから引用している。
これから日本版コロンボを始めるという告知であると同時に、同じトリックを用いることで自分なりのコロンボ像を確立したい狙いがあったのだろう。また、三谷氏は小学生時代から8㎜フィルムを使用し二次創作を撮影していたと語っており²⁾、この形式の作品は夢であったとも言える。
さて、雨の降る洋館で起きる殺人事件に突然訪れる刑事というサスペンスな展開になると思われるが、謎解きの側面も多く、少女コミック作家・小石川ちなみの哀しきドラマも堪能できる。彼女の『心情の変化』が見事であり徐々に警戒をしていた古畑任三郎に心を許していくのだ(ちょろい)。
このエピソードの面白い点は『被害者が握っていた白紙』『被害者の頭部の傷』という、犯人も一体なぜそのような状況になっていたのかが分からないことである。推理小説などでいうダイイングメッセージだ。この決まり手が非常に鮮やかかつシンプルであり、ある種ダイイングメッセージもののメタである。
以上、「死者からの伝言」でした。
引用・参考文献
1)『シナリオ 1997年2月号』シナリオ作家協会、1997年 p.48-49
2)町田暁雄『刑事コロンボ読本』洋泉社、2018年 p.268
3)ゆうきまさみ『じゃじゃ馬グルーミン★UP!(6巻)』小学館、1996年 p.49