古畑任三郎 3話『笑える死体』正当防衛を主張します

古畑任三郎 3話 笑える死体

精神科医が患者の性格を利用するトリックを用いる。第一話『死者からの伝言』と同じく女性犯人が、自分から離れた男性を手に掛ける復讐劇に分類されるが、古手川祐子氏が演じる強い女性というキャラクターが古畑との対決感を生んでいる。

この作品で後にも先にもないのが『古畑任三郎が喫煙者』であるという設定である。あのシーンを撮影したかっただけのために組み込まれたのだろうという、名場面になっているのでぜひ視聴する機会があれば見ていただきたい。

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データ

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脚本:三谷幸喜

監督:関口静夫

制作:フジテレビ

演出:河野圭太

音楽:本間勇輔

本編時間:46分07秒

公開日:1994年4月27日

あらすじ+人物相関図

古畑任三郎 3話「笑える死体」 人物相関図精神科医・笹山アリと、クリニックの元患者・田代慎吾は恋人関係であった。だが、田代は別の女性と婚約をしてしまう。復讐のため、人を驚かせるのが好きな田代の性格を利用し、正当防衛による殺人を実行したのだった。

人物紹介(キャスト)

今回の犯人:笹山アリ

役者:古手川祐子(こてがわ ゆうこ)

職業:精神科医

精神科医の女性。クリニックの元患者・田代慎吾と交際していたが、別の女性と婚約したことを知り強い復讐心を抱く。彼の性格を利用し正当防衛を主張する殺人計画を画策した。非常に気が強く女性らしさとはやや遠い位置にあるように感じる。


今回の被害者:田代慎吾(たしろ しんご)

役者:羽場裕一(はば ゆういち)

職業:シェフ

フランス料理店に勤務するシェフの男性。笹山神経外科クリニックの元患者で、アリと交際をしていたようだが別の女性と婚約してしまう。人を驚かせるのが大好きな性格をしており、それを計画に利用されてしまった。

刑事コロンボからのオマージュ

ネタバレ注意

〇正当防衛を主軸においたトリックは、7話『もう一つの鍵』から着想を得ていると思われる。

〇古畑任三郎が、ストッキングを被ったままタバコを吸えることを確認した。元ネタは、刑事コロンボ31話『5時30分の目撃者』である。コロンボの推理の「ストッキングで覆面をしたままタバコは吸えない」というのを否定してみせた形となっている。

この件に関しては、『刑事コロンボ読本』の三谷幸喜氏の鼎談記事¹⁾で三谷氏の思いが語られている。なお、5時30分の目撃者の犯人マーク・コリア―も精神科医である。

まとめ

古畑任三郎で1番最初に撮影が開始された²⁾エピソードであり、多数のエピソードで演出を手掛ける河野圭太氏が担当をした作品である。初めて演出をすることになったためか、証拠品の提示についてこのような指摘がされている。

本作にはミステリドラマとして惜しい点が1つだけある。それは、詰め手となる〈一番目につきやすい物ほど見つけにくい物証〉が、事件篇のどのシーンにも映っていないことである。『古畑任三郎事件ファイル』EPISODE03/笑える死体より引用³⁾

確かに冒頭で被害者・田代が目線で何かを匂わせる演出があるものの物証の提示がされていない。また、田代の行動も人を驚かせるためにそこまでするのかというほどアグレッシブな動きがあるのが気がかりだ。

この作品で忘れられないのが、田村正和氏が、ストッキングを被ってタバコを吸うシーンである。吸った後に煙が目に染みたのか、シパシパとしているのもユーモラスな場面だ。さらに料理を使ったやり取りなど鎌をかける会話が絶妙である。

動機としては、第1話「死者からの伝言」の犯人、小石川ちなみと同じものであり、恋人であった男性が実は別の女性と交際しており自分は本命ではなかった。決定的な違いは性格にある。ちなみは完璧な復讐ですが、アリの場合は「プライドの問題」であると作中で語っている。

笹山アリは、強い女性像が全面的に伺えるキャラクター像であり、田代慎吾と冒頭で会話した際には、「私って怖い?」との問いかけに、笑顔であった田代は萎縮したのか無言で頷いている。人を驚かせるのが好きな田代にとっては、精神科医で心の内を見透かされている彼女とは馬が合わず、別の女性と婚約したのかも知れない。

以上、「笑える死体」でした。

引用・参考文献

1)2)町田暁雄『刑事コロンボ読本』洋泉社、2018年 277項、275項

3)『古畑任三郎事件ファイル』EPISODE03/笑える死体