狂言誘拐事件を主軸に置いたトリックであり、ノンストップで進行する物語のテンポの良さと緊迫感、ギャグ描写との塩梅も素晴らしい名作エピソードである。何といっても犯人を演じた笑福亭鶴瓶氏のラストの顔芸は後にも後にも先にもない見どころな演出だ。
データ
あらすじ+人物相関図
推理小説家・幡随院大は、別荘で妻・フサ子を殺害した。警察には妻が誘拐されたという脅迫文が届いたと通報する。ファックスは、別荘にあるパソコンのタイマー機能を使って予定された時刻に送られてくるように仕組んでおり、架空の誘拐犯を作り上げたのだ。
幡随院は、警察と共に行動をすることで鉄壁のアリバイを作った。そのうえで、自分で書いた脅迫文の通りに行動をしていく。最後には警察のミスにより、妻が誘拐犯に殺害されてしまうという小説家らしい手の込んだ計画であった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:幡随院大(ばんずいいん だい)
役者:笑福亭鶴瓶
推理小説家の男性。女秘書・河村ノリ子にぞっこんで愛人関係にあった。そのことを妻・フサ子にバレて揉めていた。別荘で絞殺後、予約機能を使いファクスで脅迫状が自分宛てに送信されるように仕組み、推理架空の誘拐事件を作り上げた。
今回の被害者:フサ子
役者:高柳葉子(たかやなぎ ようこ)
推理小説家・幡随院大の妻。夫の秘書・河村ノリ子が愛人関係にあることを知り、かなり揉めていたようだ。冒頭でのみ登場しロープで絞殺されてしまう。
小ネタ・元ネタ・補足
〇1話『死者からの伝言』で、古畑が警察と電話でやり取りする際「幡随院の取り調べ……」というやりとりがある。そのため、1話より前に起きた事件である。
〇撮影現場となったホテルは『浦安ブライトンホテル』である。
〇ノベライズ版『古畑任三郎』の三谷幸喜氏のあとがき¹⁾によると、投書によるダメ出しが一番多かった回である。犯人が幡随院でなければ不可能だとする根拠が、ファックスモデムを使用すれば誰でも可能であり推理が破綻してしまうそうだ。そのため、ノベライズ版では証拠の根拠が変更されている。
刑事コロンボからのオマージュ
まとめ
ファックスを使用し架空の誘拐事件を作り上げるという、犯人が推理小説家らしいユニークなプロットが光るエピソードである。刑事コロンボにも似た展開の話があるが、違いは最後まで誘拐事件として捜査が進んでいく点だ。これによりノンストップで事件が進行していくため緊迫感のあるシナリオになっている。
冒頭で遺体は穴に埋められてしまい、事実上の『死体なき殺人』として事件が発生する。誘拐事件としての捜査主権は古畑の上司にあたる『蟹丸警部』がもっているため、殺人事件担当の古畑はノータッチの状態で誘拐事件の行く末を見守っていくことになるのだ。
古畑は警部に助言することもなければ、犯人に対して妨害行動(しつこく質問はするが)もあまり取らない。犯人の行動・ファックスの内容などから、即座に幡随院が犯人であることを見抜くポイントが見事である。
描写として面白いのが、古畑や今泉が『甘い物を食べる→辛い物が食べたくなる→口直しに甘い物……。小説を読んだり』など、真剣に捜査する蟹丸警部たちから一歩引いた所で好き勝手に行動しているのが大変ユニークなのである。
頭脳明晰ですでに犯人をロックオンしている古畑だが、他の刑事たちは全然彼には注意を払わず、誘拐事件に気を取られている。真剣な捜査陣⇔自由気ままな古畑という、コントラストの対比構造が上手く効いている。
ギャグに拍車をかけるといえば忘れらないのが、笑福亭鶴瓶氏の顔芸だ。残忍な犯人の狂気の笑みと言うのだろうか、自らが考え出した誘拐事件を楽しんでいるような笑みは引き込まれる。ラストの証拠提示で幡随院が顔を次々変えて映し出される、今後のエピソードにはない演出も見どころになっている。
以上、『殺しのファックス』でした。
引用・参考文献
1)三谷幸喜『古畑任三郎 殺人事件ファイル』フジテレビ出版、1994年 416項
〇マーク・ダヴィッドジアク/黒井田雅行/あずまゆか『刑事コロンボ レインコートの中のすべて』角川書店、1999年
目を凝らしてよーく画面見たら紐状の物で首絞めてますから普通に●し方は「絞●」ではないかと…
≫目を凝らしてよーく画面見たら紐状の物
確認しました。ロープによる絞殺ですね、修正します。