古畑任三郎 14話『しゃべりすぎた男』火花舞う法廷

古畑任三郎 14話 しゃべりすぎた男
法廷を舞台に緊迫した物語が展開する見事なエピソードだ。放送時間も通常より長く、第2シーズン再開を彩るゲスト・明石家さんま氏を犯人役に迎え、最も古畑任三郎を手こずらせ事件解決までに時間が掛かった名犯人が登場する作品である。
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データ

データ:詳しく見る

脚本:三谷幸喜

監督:関口静夫

制作:フジテレビ

演出:河野圭太

音楽:本間勇輔

本編時間:69分57秒

公開日:1996年1月10日

あらすじ+人物相関図

古畑任三郎 しゃべりすぎた男 人物相関図

弁護士・小清水潔は、有力弁護士の令嬢・稲垣啓子との婚約が決まっていた。結婚すれば、弁護士としての地位も向上するのだが、小清水にはもう一人の女性がいる。スタイリスト・向井ひな子だ。この関係を黙認する見返りに金銭を要求してきたため、小清水は邪魔になった彼女を殺害する。

交際を迫っていた今泉慎太郎に容疑が向くように偽装すると、今泉は彼女の遺体を見て驚くきその場から逃走。その後警察に確保されたのだった。拘置所で今泉は古畑に、大学同期の弁護士を呼んでくれるようにと頼む。その弁護士とは、今泉に殺人の罪を擦り付けた張本人、小清水清であった。

人物紹介(キャスト)

今回の犯人:小清水潔

役者:明石家さんま

職業:弁護士

小清水法律事務所を経営する弁護士の男性。有力弁護士の令嬢・稲垣啓子との結婚が決まり、邪魔になった恋人・向井ひな子を殺害。その罪を今泉慎太郎に擦り付けると、挙句に自分自身がその弁護を担当した。

弁護士としての腕は確かであり、冒頭で担当した裁判では、番外戦術を用いたやりとりで証言人の不確定さを証明して見せた。また、第1話『死者からの伝言』の犯人・小石川ちなみ事件も担当していたようで、こちらも無罪を勝ち取っている。


今回の被害者:向井ひな子

役者:秋本奈緒美

職業:スタイリスト

37歳独身でスタイリストの女性。今泉慎太郎、小清水潔とは大学で同じゼミに所属していた。小清水とは交際関係にあり、彼が有力弁護士の令嬢と交際を始めると、自身との関係を黙認する見返りに金銭を要求していた。

小ネタ・補足

『刑事コロンボ読本』での三谷幸喜氏のインタビューによると、本来は『ロックシンガー』の犯人であったが、明石家さんま氏の意見を聞き職業を弁護士に変更した¹⁾。

〇冒頭の裁判シーンで小清水は「鼻に眼鏡を付ける人ができるくぼみがある」と、裸眼で出廷した人物の視力について尋問する場面がある。映画『十二の怒れる男たち』²⁾からの引用である。また、三谷幸喜氏は『12人の優しい日本人』³⁾というパロディを制作している。

刑事コロンボからのオマージュ

ネタバレ注意

〇ストーリーの骨格としては、10話『黒のエチュード』を土台にしていると思われる。(不倫相手から関係を暴露すると脅され犯行に及ぶ。被害者に好意を寄せる人物が犯行現場に訪れており疑われるなど)また、同じく第2シーズンの1話である。

〇冒頭の裁判シーンで小清水は、「人は物を先入観で見る」と話した。刑事コロンボ1話『殺人処方箋』では、精神分析医の犯人が、「人は先入観で物を見る」というセリフがある。また、オープニングではロールシャッハ検査の映像が流れていた。

〇古畑任三郎と小清水潔が、犯行現場のアパートに車で移動する場面がある。しかし、小清水は現場には「一度も行ったことがない」と、とぼけるシーンがある。これは、刑事コロンボ21話『意識の下の映像』からの引用である。

まとめ

対決感あふれるエピソードである。古畑任三郎の部下・今泉慎太郎が殺人の容疑で逮捕されてしまうのだ。交際を迫っていた向井ひな子の遺体を見て、驚いてその場から逃げ去ってしまったのが大失態ですぐに警察から捕縛されることになる。

この時彼は、自律神経失調症を患っており休職中だったのだ。精神的に不安定でもあり、両手に血がべっとりとついて、パニックになって思わず逃げ出してしまいたくなったのだろう。大人しく自宅療養していればよかったのに、向井と会ってたのはダメである。

このエピソードで面白かったのは『犯人が罪を擦り付けて弁護しちゃう』点だ。これは見事な設定だとは思わないだろうか。 犯人視点から進む倒叙ものでは、弁護士の犯人がよく登場するのだが、殺人を別の人物に擦り付けて自分が弁護をするなんてそうあるものではない。

古畑は、今泉のことを今まで散々バカにしてきた。振り返っていると酷い扱いである。しかしこれは、古畑なりの愛情表現だったわけだ。小清水潔が怪しいと睨むや否や矛盾点をどんどん突き付けていく。でも小清水ものらりくらりと回避する、まさに倒叙の醍醐味である丁々発止のやり取りを満喫することができる。

特におススメなのが、40分30秒~の小清水の事務所でのシーンだ。ここから最後までノンストップで火花が散ったような展開が待ち受けている。古畑は言う「友人の人生がかかってるんです」。これが熱い。今泉慎太郎のことを初めて友人だと認めたことになる。あれほど役に立たないと言っておきながらだ。まったくもってツンデレである

また、ミステリーとしての解決編の鮮やかさは見事であった。小清水を演じた明石家さんまの良くしゃべるというキャラクター性、法廷ものの中でのやりとり。これが最後に一気に還元される。設定、展開、盛り上がるBGM、解決編の見事さ。どれをとっても素晴らしい物語である。

ラストの詰め手に対して、敏腕弁護士がそんなことで簡単に白状するかという意見があった。しかし直前で、婚約者・稲垣啓子が法廷から立ち去るシーンがある。元はといえば、有力弁護士令嬢と円満に婚約するために犯した殺人である。 殺人を犯してまでも守りたかったものを失ってしまったのだから心が折れてしまったのではないだろう。

以上、『しゃべりすぎた男』でした。

引用・参考文献

1)町田暁雄『刑事コロンボ読本』洋泉社、2018年 275項

2)シドニー・ルメット『十二人の怒れる男』オリオン・ノヴァ・プロダクション、1957年

3)中原俊『12人の優しい日本人』オデッサ・エンタテインメント、1991年

  1. こんにちは。ネタバレ防止で伏字にしますが、間違いのモトになった〇〇と△△って絶妙な組合せだと思いました。後者のあの呼び方は今では死語状態ですし、より形状的に間違えやすい物もたくさんありますよね。
    いかし、△△の他の呼び方や代替物の候補で思いつくのはみんなカタカナ語なんですよね…〇〇(和語)と思っていた小清水が、調書や芳賀への尋問を真剣に見聞きしていなくても、パッとカタカナ語が飛び込んできたら字面や語感の違いでさすがに気づいたかも知れません。もし早い段階で△△に訂正されていたら、古畑の推理のきっかけさえなかったと思います。

  2. 花畑様

    ≫間違いのモト
    ≫絶妙な組合せ
    視聴者側にとっても『〇〇だったり△△』と見えた人には見えてしまうのがミソですよね。御清水弁護士の、「人はモノを先入観でみる」という考え。冒頭の裁判でも、『どうみてもバナナ』。だけど、人によってモノの見え方が違うという論点から裁判を逆転していました。
     誰もがそう見えるというモノを、ただ一人だけ御清水は勘違いをしていた。多数派の中にいる少数派を生み出すという自分の得意な弁論術をそのまま返されてしまい、『決定的なミスをしてしまった』という空気感。思わず敏腕弁護士も自白を認めたくなる古畑警部補の心を折る誘導が上手いです。
     それにしても、粉々になっていたアレと同じモノを特定した芳賀刑事も凄い!
     

  3. 「自分が使った手段で、別の相手にやられる」というのはいろんな作品で見ますね
    自分は映画「大脱走」で検問のグッドラックに引っかかったマクドナルド中尉を思い出しました

  4. ≫映画「大脱走」
    ≫マクドナルド中尉
     面白い映画ですよね。それぞれエキスパートたちが協力し合い1つの脱走を企てる。ラストは悲しくもなります。情報屋として語学も堪能であるマックでしたが、仲間に注意するように指導していた”引っ掛け”で、つい口を滑らせてしまう。相手側の警察官も、たまたま口から出たのかもしれませんが大変優秀です。