古畑任三郎 13話『笑うカンガルー』意味が分かると怖い話

【VS.数学者】「ちょっと手を出してみてください。あ、いや、両手です。計算機が無くても掛け算が出来る便利な方法があるのをご存じですか。俗にいう『フランス式指電卓』です。

ではやってみます。例えば“7×8=56”の場合。左は7を表します。御一緒に、1,2,3,4,5,6,7。右は8を表します。御一緒に、1,2,3,4,5,6,7,8。ここまでよろしいですね。次は答えです。56。10の位は立っている指を足します。2+3で5ですね。で、1の位は折れている指を掛けます。3×2でさんにが6。ということで、5と6で56、“7×8=56”です。

九九を忘れた方はぜひやってみてください。では次に“8×9=72”にチャレンジ。よろしいですか。1,2…これ大変時間がかかります。お好きな方は自分でやってみてください」

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データ

データ:詳しく見る

脚本:三谷幸喜

監督:関口静夫

制作:フジテレビ

演出:松田秀知

音楽:本間勇輔

本編時間:95分45秒

公開日:1995年4月12日

あらすじ+人物相関図

笑うカンガルー 人物相関図数学者コンビ・二本松晋と野田茂男は、数学界で名誉あるアーバックル賞を獲得し、オーストラリアで授賞式を執り行っていた。二本松は数学者としては2流であるが、口下手で不愛想な野田に代わりマスコミ対応を行うスポークスマンであり、野田の妻・ひかるとは不倫関係にあった。

二本松が記者のインタビューに答えていると、ひかるから電話が入り「野田が死んでしまった」と相談を受ける。突き飛ばしたら死んでしまったらしく、二本松は階段から転落したように偽装工作を行うと、偶然旅行に来ていた古畑任三郎たちを証人にしてアリバイを作り上げた。

だが、二本松が現場に戻ってみると、死んだと思っていた野田が意識を取り返していた。さらに、数学界で長年謎とされてきた『ファルコンの定理』を解明したと話す。喜ぶ二本松だが、野田はコンビ解消を宣言する。二本松は、手柄を横取りするために野田を灰皿で撲殺すると、再び階段からの転落死に偽装した。古畑から追い詰められると、ひかるの部屋に凶器の灰皿を置き、罪を擦りつけたのだった。

人物紹介+キャスト

二本松晋 古畑任三郎

【©フジテレビビジョン『警部補 古畑任三郎「笑うカンガルー」より引用』】

今回の犯人:二本松晋(にほんまつ しん)

役者:陣内孝則(じんない たかのり)

職業:数学者

殺害方法:撲殺(灰皿)

動機:名誉の獲得

概要:詳しく見る
概要:35歳・数学者の男性。同じく数学者・野田茂男とはコンビを組んでおり、口下手で不愛想な彼に代わりマスコミや記者対応を行っている。また、野田の妻・ひかるとは不倫関係にありお互いを愛しあっている。そんな折、彼女から夫を殺してしまったと相談を受け、犯罪への一歩を歩むことになる。

当初こそ、ひかるを思っての偽装工作であったが、野田が息を吹き返す。そして、数学界で長年の謎とされている『ファルコンの定理』を解明したと話したのだ。そのうえで、コンビ解消を宣言されてしまい、ファルコンの定理を解明したという手柄を独占するために殺人に手を染めてしまった。

性格としては目立ちたがり屋である。アーバックル賞を獲得した際の衣装は白い着物であった。何年か前にはベストドレッサー賞も獲得し雑誌の表紙にもなったことがある。その時の写真はパンフレットにもなっている。野田の妻・ひかるによると「自分の名誉に傷がつくようなことはなさらない方」と評価されている。

また口が達者であり、野田と違い愛想が良いため記者からの評判は良いようだ。英語も上手く、記者の質問に答えたり、古畑の通訳を行っていた。授賞式後の予定に関しては「ゴルフしたい気分」と語る。反面、数学界では野田のスポークスマンであることは周知されており眼中にない存在であった。

改めて当初の目的としては、『不倫相手の野田ひかるから愛のない結婚生活から救う』ための犯行であった。それが、『ファルコンの定理』解明という、数学者として歴史に名を残せる功績が目の前に現れたのだ。その結果としては、罪を擦りつけるという真逆の行動に移すことになる。

ひかる「結局あなたはいつも自分のことしか考えてなかった……」
二本松「誰だってそうじゃないか?」
人間の本質とは自分本位である。二本松はそう導き出し自供をしたのだった。


野田ひかる 古畑任三郎

【©フジテレビビジョン『警部補 古畑任三郎「笑うカンガルー」より引用』】

今回の共犯:野田ひかる

役者:水野真紀(みずの まき)

職業:野田の妻

概要:詳しく見る
概要:野田茂男の妻。親の都合で決まった結婚であり、今年で5年になるようだ。夫婦仲は最悪であり、理不尽な暴力を受けている。夫とコンビを組んでいる二本松晋とは不倫関係にあり、離婚したならば彼と婚約をするつもりであった。

おしとやかな女性であるように描かれているが、古畑任三郎を前にして「今まで(夫を)2回殺そうと思った」などと打ち明ける大胆な一面も見られる。また、このエピソードの特徴としてはラストの台詞にある。古畑との会話から、彼女が計算高い悪女であるようにも見ることができるのである。

1回目の殺意は、目玉焼きの黄身が固すぎると頭を叩かれた時。
2回目の殺意は、飼っていたインコを、うるさいからと窓から捨てられた時である。

自らを男運が悪い女性と言っており、オーストラリアで男運が悪い女性を表すことわざ『カンガルーが笑う』を知っているなど、かなりコンプレックスであるようだ。夫婦でオーストラリアの授賞式に参加しているが部屋は別々で宿泊しており、部屋番号は4306号室であった。


野田茂男 古畑任三郎

【©フジテレビビジョン『警部補 古畑任三郎「笑うカンガルー」より引用』】

今回の被害者:野田茂男(のだ しげお)

役者:田口浩正(たぐち ひろまさ)

職業:数学者

概要:詳しく見る
概要:二本松晋とコンビを組む数学者の男性。「芸能人じゃないんだ」と、不愛想で口下手なため、マスコミなどの対応は二本松に任せて研究に専念している。「頭を使うのが俺、口を使うのがあいつ」と、役割分担をしているようだ。

家庭内となると話が変わる。妻・ひかるへは横暴を尽くしており、理不尽な暴力に及ぶこともある。妻からは「自分勝手でわがまま、憎しみしかなかった」。二本松からは「あいつは負けず嫌いだったたから勝つためにはなんでもやるんだ。汚い手でも平気で使うから気分が悪い」と酷評されている。

私生活においては方程式を閃くと、どこにでも計算式を書いたり、寝ぐせのまま自宅でパンフレットの写真撮影に応じたりしている。常識が通用しない変人とは、得てして天才肌多い。余談ではあるが将棋の羽生善治氏は、若い頃は寝ぐせのまま対局に挑むことが多かった。ただしこれは、身だしなみを整える時間を、別の時間に有意義に使える人間だけの特権である。

海外に行く際には、必ず『塩辛』を持っていくのが日課になっている。塩辛は自家製であり、とても臭いらしい。オーストラリア滞在中は、妻とは別々に宿泊しており、部屋番号は4212号室であった。

犯行計画/トリック

【ひかるから相談を受け、階段からの転落死に偽装】

①野田茂男は、妻・ひかると分かれる気はないと話す。逆上したひかるは、彼を突き飛ばすと「テーブルに頭をぶつけて死んでしまった」と、二本松晋に相談する。彼女に下にあるバーで待つように促した。

②二本松は、野田に塩辛と酒を大量に飲み込ませる。海パンに着替えさせて、腕時計をぶつけ22:30で時刻を止めた。室内の指紋を拭き取ると、遺体を野田を引きずって移動。階段から突き落とす。

③二本松とひかるはバーで合流。そこで、古畑と今泉と会話をしてアリバイを作る。途中で二本松は「トイレに行く」といい席を離れ、野田の部屋のドアノブに『ブレックファースト(朝食予約)』の札を下げた。ボーイは1時間おきに回収にくるため、この時間は野田が生きていたように偽装することができる。

【野田が生きており、今度は自分のために殺害】

①二本松は、野田の部屋に扇子を置き忘れたことに気が付く。古畑たちとトランプをしていたが、彼の姑息なやり方に怒り(演技)部屋から追い出した。野田の部屋に向かうと、ルームキーを遺体に持たせていたことに気が付く。階段に向かうが、なぜか野田の死体がない。部屋をノックしてみると、扉が開き、死んだと思っていた野田が生きていた。

②野田は、部屋のカベに数式を書き込んでいた。数学界で長年謎とされていた『ファルコンの定理』を解明したと言う。野田は自分でそれを発表するといい、二本松とのコンビ解消を告げる。手柄を独占したい二本松は、灰皿で野田を撲殺する。再び、遺体を階段から突き落とした。

③二本松は、その場から立ち去ろうとするが、ホテルスタッフが左右の通路から来てしまった。このままでは鉢合わせになってしまうため、野田から海パンを脱がせると、プールを泳いで向こう側のビーチへ逃げた。

④古畑から、徐々に追い詰められてしまう。野田を殺した凶器の灰皿を、ひかるの部屋の灰皿と交換する。彼女に殺人の罪を擦り付けたのだった。

推理と捜査(第2幕まで)

ネタバレ注意!
〇被害者は何も身に着けていない状態であった。また、首から肩こり用のスプレーの匂いがした。全裸でプールに入るとしても、これから泳ごうとする人がスプレーをするのか。また、海パンは履かないのに腕時計は装着しているのはおかしい。

〇遺体発見現場の目の前はプールになっている。通路から従業員が来たため、犯人が海パンを脱がせて泳いで逃げたのではないか。そうなると犯人は男性である。

〇ドアノブには、ブレックファースト(朝食予約)の札が下がっていた。しかし、朝食はゆで卵になっていた。被害者は朝食に半熟の目玉焼きしか頼まない。誰かが偽装するためぶら下げたようだ。

〇被害者の部屋の床は酒がこぼれており、犯人は被害者が塩辛で酒を飲んだように偽装している。また、塩辛を外国人は酒のつまみだとは思わない。そうなると、犯人は野田夫婦と近い日本人。もしくは、えらく酒好きな外国人である。

視聴者への挑戦状

「えー今回は、スペシャル2時間枠にふさわしい大変込み入った事件でした。野田さんの奥さんが自白しているにも関わらず、私は犯人は二本松先生だと確信しています。その手掛かりは、壊れた眼鏡。新聞写真、届いた手紙、そして壁の落書きです。

はい。あとはどうすればそれが証明できるのか。大変難しい問題です。皆さんも考えてみてください。解決編はこの後で…古畑任三郎でした」

三幕構成

笑うカンガルー 三幕構成

小ネタ・補足・元ネタ

〇ストーリーの流れとしては、刑事コロンボ25話『権力の墓穴』のアレンジである。このエピソードでは、妻を殺してしまったという夫から電話を受け、友人が偽装工作を行っていく。最後の決め手も同様な手法である。

〇登場人物に関しては、刑事コロンボ3話『構想の死角』から引用している。このエピソードでは、推理小説家コンビが、スポークスマンの相方とのコンビ解消を告げる。それが殺人の動機に繋がった。また、被害者・野田茂雄は、どこにでも思いついたメモを書く癖がある。構想の死角の被害者も同様の癖がある。

〇古畑任三郎と今泉慎太郎は、缶詰の懸賞でオーストラリア旅行を当てた。刑事コロンボ29話『歌声の消えた海』では、コロンボのカミさんが缶詰の懸賞に当たっている。

〇二本松晋と野田茂雄がアーバックル賞を獲得した論文『4次元空間におけるドメスティックな微分構造の発見』である。なお、内容は不明である。また、アーバックル賞は40歳未満の数学者にしか与えられない名誉ある賞とのこと。共に架空のものである。

『ファルコンの定理』とは、300年前にファルコンという学者が発見した定理である。彼の死後、定理の解き方を記録した書類が火事で焼失してしまい、長年解き方が分からないままであった。これを証明できれば、数学の歴史に確実に名前を残すと言われている。なお、架空の数式である。

『カンガルーが笑う』とは、オーストラリアの言葉で、意味は「男運が悪い女性」という意味だそうである。脚本を担当した三谷幸喜氏による造語だと思われる。

まとめ

スペシャルに相応しい入り組んだストーリー構成になっています。初の海外ロケではありますが、事件現場となるホテル内だけで会話が進むなど、オーストラリアの広大な景色を全く使用していないのも面白いですね。

このエピソードの魅力は、共犯となった二本松晋が、守るべき存在の野田ひかるを殺人犯にしてしまう流れにあります。第一の犯行で、死んだと思っていた野田が息を吹き返し『ファルコンの定理』を解明します。この定理を解明した数学者は歴史に名を残すとも言われており、結局のところは二本松は、名誉を独占するため殺人を犯します。

でも徐々に古畑から追い詰められてしまうと、なんと守るべき存在であった野田ひかるを、今度は逆に殺人犯に仕立て上げてしまうんです。これには最低! と思わず声をあげてしまうこと請け合いですが、それだけで終わるドラマではありません。

最期の古畑と野田ひかるの会話がまた印象的で含みがあるんです。古畑は言います「突き飛ばしただけでは眼鏡はあんな割れ方はしない」。もしかしたらひかるは、最初から野田茂男を殺そうとしたのかも知れないというのです。さて、二本松とひかるの最後のやりとりを聞いてみましょう。

ひかる「結局あなたはいつも自分のことしか考えてなかった……」
二本松「誰だってそうじゃないか?」

このやりとり、2週目で見てみるとまた180°違った雰囲気になるんですね。改めて、タイトルは『笑うカンガルー』です。オーストラリアのことわざで「男運が悪い女性」という意味です。つまり最初から「野田ひかる」が主役のエピソードだと捉えることができます。

主犯こそは二本松が活躍しております。しかし、真の犯人とは野田ひかるであり、殺害を庇ってくれるはずと踏んで、最初から自分も二本松を利用するつもりだったのかも知れないという、怖い話だと考えることができるんですね。でも裏切られてしまい、カンガルーに笑われてしまうんですね。

以上、『笑うカンガルー』でした。