【VS.テロリスト】「皆さんの前に登場して早5年、これまでさまざまな犯人と出会ってきました。発作的にしろ計画的にしろ彼らには罪を犯すだけの理由がありました。今回登場する犯人はそう言った意味では最も危険なタイプの犯人と言えるかもしれません。すなわち、犯罪をゲームとしてしか考えていない人物…手強そうです」(37話)
「これまで私が関わってきた多くの犯罪者たち。彼らに共通しているのは、誰一人逮捕の瞬間、悪あがきをしなかったと言うこと。彼らは犯行を認めた後、進んで自供してくれました。誇り高き殺人者。そして、それが私の自慢でもあるのです」(38話)
データ
あらすじ+人物相関図
動物愛護団体『SAZ』の過激派メンバー・牟田は、機密情報が入った鞄を持ち逃げしたが、追い詰められ射殺された。しかし、牟田が盗んだ鞄は電車内に取り残されたために、駅の遺失物保管所に預けられてしまったのだった。
メンバーのリーダー・日下光司は、鞄を回収するため、列車の運行システムのメインコンピューターをハッキングして架空の列車ジャックを考案した。
犯人(キャスト)
今回の犯人:日下 光司(くさか こうじ)
役者:江口 洋介
職業:動物愛護団体リーダー
動機:鞄の奪還
今回の犯人:山本 一郎
役者:山崎 一
職業:動物愛護団体メンバー
殺害方法:銃殺(牟田)
動機:組織を裏切った為
今回の犯人:浅香 忠夫
役者:斎藤 洋介
職業:動物愛護団体
今回の犯人:大和田 五郎
役者:水道橋博士
職業:動物愛護団体
今回の犯人:江田
役者:杉崎 浩一
職業:動物愛護団体
被害者(キャスト)
今回の被害者:牟田(むた)
役者:小原 雅人
職業:動物愛護団体
犯行計画/トリック
『架空の列車ジャックを演出する』
①牟田が盗んだ鞄は電車内に取り残されたために、駅の遺失物保管所に処理されてしまう。浅香忠夫は鞄を取りに伺うが、本人であることを証明することができずに引き返す。今週一杯まで保管するが、その後は警視庁の遺失物センターに回されるようだ。
②鞄には『SAZ』のキーホルダーが付けられている。過激な行動を繰り返している危険な団体とマークされているため、入念に確認され、鞄の中に隠している機密情報が書かれた手帳も発見されると思われる。そうなれば捕まってしまうため、鞄の回収を画策する。
③23:29 コントロールセンターの裏にあるお寺を占領する。
23:35 浅香忠夫は、警視庁の公安部と語り、「下りの最終電車(705E)をハイジャックするという犯行声明があった」とでっちあげておく。
④23:48 列車運行システムのメインコンピューターをハッキングして、架空の列車ジャックを演出した。その後、小銭の身代金1000万円を用意し鞄に詰めるように指示する。偶然居合わせていた古畑任三郎が事件に疑問を抱き始め、浅香は助けを求める。
⑤リーダー・日下光司は、大和田五郎にハッキングと交渉を任せると、山本一郎/江田と共にコントロールセンターに出向き、公安部として事件を誘導した。小銭を入れる丁度良い鞄として、遺失物保管所にあった『例の鞄』を使用させた。
⑥4つの鞄は4つの場所(1「第3小学校の校門前」2「八幡様の境内」3「近代美術館のモニュメント前」4「市民球場のグラウンド」)に届けるように指示が出る。日下、山本、江田、浅香が車で運び出し、そのまま鞄を回収する。
推理と捜査(第2幕まで)
視聴者への挑戦状
小ネタ・補足・元ネタ
○動物愛護団体の『SAZ』とは、「SAVE ANIMALS OF ZOO(動物園の動物たちを守れ)」との略である。一部のメンバーが過激派となり、建物を爆破したり、動物園から動物を逃がしたりさせているようだ。母体は真っ当な愛護団体で、過激派の行為には迷惑している。キーホルダーやTシャツ、マグカップなどのチャリティーグッズを販売したりもしているそうだ。
〇古畑任三郎の携帯電話の着信音は『ゴールデン・ハーフ「黄色いサクランボ」』
西園寺くんの携帯電話の着信音は『斉藤由貴「卒業」』である。
〇ストーリーとしては、刑事コロンボ45話『策謀の結末』を意識していると思われる。刑事コロンボ旧シリーズの最終回で、犯人はテロリストで援護団体を隠れ蓑にしている。被害者は組織を裏切り射殺される。古畑任三郎もドラマ枠の最終回で、犯人はテロリストで愛護団体を隠れ蓑にしている。被害者は組織を裏切り射殺される。
〇列車のコントロールセンター局長・武藤田を演じたのは、『ささきいさお』氏である。
〇09:44~「”ひさご”のママも同じことを言っとったよ」という武藤田のセリフがある。『刑事コロンボ読本』の鼎談記事によると、企画当初は古畑常連の小料理屋だったようだ。そこの女将と古畑が過去に何か関係があったようなことを匂わせる会話をさせるように言われそうだ。
三谷「企画当初、事件が終わったら古畑が必ず行く小料理屋を作れって言う人がいましたね。名前も決まってて『ひさご』っていう(笑)」刑事コロンボ読本 P.274より引用
まとめ
45分枠での古畑任三郎の最終回になります。1つの事件を2週に分けて放送しており、実質的には90分のスペシャルと考えても良いでしょう。1話完結型で展開してきた掟を破り、そのうえで殺人犯ではなく、犯罪組織と対決をする異例なシチュエーションで物語が進みます。
『架空の列車ジャックを演出する』という大胆な作戦なのですが、やっていることが「駅の紛失物保管所に処理されてしまった鞄を取り戻す」というチープさがちらついてしまいます。殺人=捕まったら終わりという分かりやすい構図ですが、鞄=????と、代償の対価が不明瞭なのです。
サスペンスで言えば、17話『赤か、青か』があります。もし古畑が犯人を逮捕できなければ、今泉が爆死してしまうという大きな代償というものが分かりやすく設定されており、そのうえで観覧車になぜ爆弾を設置したのかという驚きの動機がよりエピソードを際立たせました。
32話『古畑、古い友人に会う』では、『えー本当は最終回に持ってこようと思っていたこのエピソード』と古畑が述べています。どうしてこのエピソードを最終回に持ってきたのか? やはり、リスペクト先の刑事コロンボに合わせているのだと思います。
記念すべき1話『死者からの伝言』は、刑事コロンボ『死者のメッセージ』のトリックをそのまま流用した形になっていました。古畑の最終回を意識した今作品は、刑事コロンボ旧シリーズ最終回のアレンジなのです。敬意を称し、『コロンボに始まりコロンボに終わる』として古畑シリーズの幕を閉じたかったのだと思います。
愛護団体を隠れ蓑にする犯罪組織が相手で、被害者は組織を裏切ったために処刑される。それと同時に水面下で進行する壮大な計画をどう見破るのか。そこから逆算し、このストーリーを作っていった結果、犯行計画の尺を縮めることができず2週に分けての90分枠になったのも頷けます。
以上、『最後の事件・前編と後編』でした。