【VS.市警察本部次長】コロンボの直属の上司にあたる人物が犯人として登場します。脚本家はピーター・S・フィッシャーであり、制作総指揮をするローランド・キビ―&ディーン・ハーグローヴが「コロンボの上司が犯人だったら?」という、お題の提示によって書かれたエピソードのようです。
警察の上位に位置する犯人であり、コロンボが徐々に核心に迫ってくるところで、捜査を制限してきます。捜査方法が限定されたなか、どうやってコロンボが犯人を逮捕するのかが見どころです。
データ
脚本:ピーター・S・フィッシャー
監督:ベン・ギャザラ
制作:エドワード・K・ドッズ
制作総指揮:ローランド・キビ―&ディーン・ハーグローヴ
音楽:ビリー・ゴールデンバーグ
本編時間:98分
公開日:アメリカ/1974年5月5日 日本/1974年10月5日
あらすじ
警察本部次長のマーク・ヘルプリンは、隣家の友人ヒュー・コードウェルから、妻のジャニスを殺してしまったと相談を受ける。マークは22時頃に自宅に電話を掛けるように指示しアリバイを作るように指示すると、マークはコードウェル邸に向かい、遺体をナイトガウンに着替えさせて貴金属を盗みだした。
忠告通りヒューは、22時に自分の自宅に電話をかけると、マークがそれを受け取り、電話で妻とのやり取り演じることで、妻はその時間は生存しているように見せかけた。マークが帰宅すると、妻マーガレットのいる寝室へ向かう。テラスに出ると、たったいまコードウェル邸から男が逃げて行ったとでっちあげて警察に通報した。
ここ数週間で物盗りが多発しており、寝ようとしていた彼女が物音を聞いてリビングに行ったところ殺害されたという筋書きを完成させる。翌日、マークは記者会見を行う。自分と妻が犯人の目撃者であると公表すると、その晩入浴中のマーガレットを浴槽に沈めて溺死させた。顔を見られた強盗が、今度はマーガレットを殺害したというシナリオで、ヒューに自分のアリバイ作りを協力するように脅しかけたのだった。
人物紹介(キャスト/吹き替え声優)
今回の犯人:マーク・ヘルプリン
役者:リチャード・カイリー
吹き替え声優:北村和夫
概要:ロサンゼルス市警察本部の次長である男性。隣家の友人ヒュー・コードウェルが妻を殺してしまったことを聞き、隠ぺいに協力。自身も妻であるマーガレットを殺害し、半ば強引にヒューを脅してアリバイ工作を行った人物。
毎週火曜日にクラブでギャンブルを行っている。このことは妻も承知で、毎回負け越して妻から金を借りることが多かったようだ。ヒューの事件日に限っては絶好調であり、3200ドルのダイス勝負に勝利している。(1974年5月1ドル=278円 3200ドル=88万9千6百円)
ここで運を使い果たしてしまったのか。はたまた、まだ運が味方していると思い、妻マーガレットの殺害計画を実行したのだろうか?
警察という職務を活かして、ここ数週間で頻発している物盗りの犯行と同じ手口でヒューの自宅に侵入し、強盗殺人に偽装した。このことからまっとうに職務に臨み、書類には目を通していることが伺える。
「全ての市民の安全を守るのが警察の役目です」と、表向きには記者質問に答えるも、妻が多額のお金を使い、慈善活動を行っていることに対してはまるで理解を示していない。慈善は偽善と見なしており、入浴中の妻を溺死させた。
ロサンゼルス市警にはコロンボ警部も勤務しており、彼が署内でも腕利きで通っていたことは周知であったはずである。彼の捜査が自身に迫ると、地位を活かし捜査権限を限定させ、他者を逮捕させるように仕組んだ。
今回の犯人:ヒュー・コードウェル
役者:マイケル・マクガイア
吹き替え声優:山本勝
概要:マーク・ヘルプリンの隣家の住人で古くからの友人の男性。不倫相手の元に向かう妻を口論の末に絞殺してしまう。当初は弁護士フレッドという男性に弁護を依頼するか、自首するかを迷っていた。マークに偽装工作をしてもらい一時は安心したようだが、今度はマークが妻を殺害し、その偽装工作に加担することになった。彼が安心できる日はないでのある。
殺すつもりはなかったと語っており、エピソード中は常におどおどした表情を浮かべ、眠れずに「コーヒーを飲み続けているんだ」と、自責の念にとらわれていた。カフェインを摂取し過ぎなんじゃないだろうか。
ベル・エア地区の1278番地フェアー・ファクス通りに住んでいるとのこと。マークの妻マーガレットの遺体をプールに投げ込む際には、覆面の代わりにストッキングを頭からかぶっていた。職業は不明であるが金銭は持っているようで、家政婦を雇っている。
今回の被害者:マーガレット・ヘルプリン
役者:ローズマリー・マーフィー
吹き替え声優:白坂道子
概要:マークの妻である女性。資産家であり多額の金を慈善活動に寄付している。麻薬中毒患者や娼婦に対しての慈善事業、前科がある人が正職に就けるように支援する活動を精力的に行い、今年の女性に選ばれ、ホルカムハウスでの演説が決まっていた。
夫マーク曰く、「寛大さと温かく人を迎えいれる優しさ」があるそう。40万ドルの大金を今まで慈善活動に使ってきたようだ。彼女に言わせると、「お金は武器と同じなのよ。正しく使いさえすれば社会を良くする道具になるわ」と語る。(1974年5月1ドル=278円 40万ドル=1億1120万円)
ギャンブル好きな夫のために、負け越した金額分を工面してあげたり、夫に対しては不自由なく生活を送らせていたようにも思える。マークにとってみれば、大事なお金を偽善に使っているように見えたのだろうか。お金は防具にはならなかったのである。
今回の被害者:ジャニス・コードウェル
役者:?
職業:ヒューの妻
概要:ヒュー・コードウェルの妻である女性。若い男性と不倫関係があり、腕時計などを貢いでいたようだ。不倫相手の元に向かおうとすると夫ヒューとの口論と末、逆上した夫により絞殺されてしまった。
アクセサリーや身なりに関しては気を付けており、貴金属・宝石は『AN CLEEF&ARPELS』という店で購入する常連客だ。3.6カラットの梨型のダイヤをバケットの小粒で取り巻いた8000ドルの指輪を注文したりしていた。(1974年5月1ドル=278円 8000ドル=222万4千円)
だが、不倫相手に貢ぐには金が必要である。そのような煌びやかな貴金属類は売り、ガラスなどの模造品に換えて身に着けていた。アクセサリーショップの店長ウェクスラー氏によると、「奥様はお美しくチャーミングでした。36にしましては……、 本人は大変若いつもりだった」と、軽く侮辱されている。死人に口なしである。
朝起きると寝間着(ナイトガウン)をクローゼットから取り出して枕の下にしまうことが習慣だそうだ。そうすることで、夜すぐに着替えられて便利らしい。
小ネタ・補足
〇犯人の地位は、ロサンゼルス市警察本部次長。役職的には警察署長代理で、組織の№2にあたる人物であった。
〇『AN CLEEF&ARPELS』で、コロンボ警部が時計のバンドを購入しようとした。バンドの値段である25ドルを腕時計の値段と勘違いしており、コロンボ警部の腕時計は25ドル以下のモデルを着用しているようだ。(1974年5月1ドル=278円 25ドル=6950円)
まとめ
3幕構成でエピソードを分解してみると、刑事コロンボでは変わったストーリー構成となっているんですね。といっても、第1幕の「主人公の紹介」の順番が違うだけですが。第1幕クライマックスで、犯人は警察本部の人間であることがわかるのがミソなんですね。
第1の殺人はすでに実行されていた後で、隠ぺい工作がメインになる話かと思いきや、共犯であったマークは妻マーガレットを殺害してしまうのです。庇った相手を今度は共犯にするのは面白いプロットだと感じます。
もったいなと感じるのが、マークが妻を殺害するという動機が薄い印象があります。マークがギャンブル好きですが、勝負に負けても妻がお金をしっかりと渡してくれます。妻の多額の財産を慈善事業に使い込んでいるというのが、やはりどうしても許せなかったのでしょうか? 殺人のリスクが大きいような気がしないでもありません。
コロンボ警部の活躍っぷりは署内では評判との話ですが、マークはそのことをあまり知らなかったのでしょうか? 警察組織ではトップになるほどに現場からは遠い存在になってくるように思っています。
そのコロンボの手腕さえも、自分の権力を使えば、殺人の罪を他者に被せることができるだろうと高を括っており、まさにそれこそが『権力の墓穴』だったのかもしれませんね。
以上、25話「権力の墓穴」でした。
これも『野望の果て』とならぶ小気味良いラストですね。犯人の憎々しさに関してはコロンボの上司であるこっちの方が上です。その上司がイライラしながら家宅捜索の指揮をする耳元でトリックの説明をする、まさにコロンボの醍醐味ですね。さらにそこが人違いならぬ『家違い』であることをこれでもかこれでもかと立証するコロンボ、う〜んもう言うことありません。
ところでこの題もことわざのもじりのようです。A Friend in Need Is A Friend Indeed. 困った時に助けてくれる友が本当の友、の後半で indeed を in deed と切り離すと『犯行における友』、発音はたぶんほとんど同じなんじゃないかと思いますが、字を見れば切れていることがわかるので、視聴者にはプロットが少し予告されているんだと思います。倒叙ミステリなので問題ないですね。
≫その上司がイライラしながら家宅捜索の指揮をする耳元でトリックの説明をする、まさにコロンボの醍醐味ですね
※窃盗犯を犯人に仕立て上げるための、消化試合のようなものだと犯人は行動に移す。そこで、しつこく話をしてくるコロンボ警部。ところが……といったところで、大胆な逆トリックが見事です!『犯人の上をいくトリックを使って、鉄壁の守りのどこに穴を開けていくかという面白さ』というのが堪能できます。Wikipedia-刑事コロンボの紹介画像が「権力の墓穴」のラストシーンで、編集された方も印象に残っているシーンなんでしょうね。
前回の「白鳥の歌」が、良い意味でストーリー展開が単純でわかりやすかったのに対し、今回の「権力の墓穴」は、やや複雑なストーリーでしたが、結末は、いかにもコロンボらしいと思いました。
アーティの「アホかいな」のセリフには、笑わされました。
それと、ジャニスの愛人が電話をしたときには出ず、夫からの電話にはなぜ出たのかの件は、アメリカの電話にもナンバー・ディスプレイがあるのかは知りませんが、もし誰からの電話なのかが簡単にわかる今なら、また違った展開になっていたと思われます。
アホです。様
ご感想ありがとうございます!
≫「権力の墓穴」は、やや複雑なストーリー
『第三の終章』の脚本を担当したピーター・S・フィッシャー氏の上質なミステリー作品になっています。互助殺人がテーマであり、登場人物も少し多めになっていますが、それぞれの証言や矛盾などをうまくまとめ、大胆な解決方法はお見事です! 旧シリーズでは、『自縛の紐』『逆転の構図』『5時30分の目撃者』の脚本も担当され、いずれも複雑かつ見事な殺人計画だったり、爽快なラストを飾る作品で大好きです。
≫アーティの「アホかいな」
ヴァル・アヴェリーさん演じるアーティは良いキャラしてますよね。コロンボ警部が彼に協力を求める中で出てくる、「ダメ」からの弱気なセリフなども実に人間臭く、「アホかいな」からのしてやったりの笑顔も素敵です。
≫ナンバー・ディスプレイがあるのかは知りませんが、もし誰からの電話なのかが簡単にわかる今なら
どの年代からアメリカには導入されていたんでしょうかね? 犯人たちにとっては、愛人からの21:30頃の電話はイレギュラーであり、やっぱりここからも足がついてしまうかも知れませんね。