古畑任三郎 20話『動機の鑑定』古畑、唯一の推理ミス

スポンサーリンク

【VS.骨董商】「今日は私の宝物をご紹介しましょう。将棋の駒。何の変哲もないように見えますけど実はここに血痕が付いてるんです。それから数式の書かれたメモ用紙。ファルコンの定理といってまだ誰も解いた人のいない大変難しい数式なんです。まだまだあります。エキサイト君のキーホルダー、壊れたカスタネット、そして古くなったリンゴ。どれも私が扱った事件の証拠品です。

そう、宝物なんて物は本人にとっては大事でも他の人から見れば何の価値もなかったりするんです。こんながらくたでも私には大変大事な思い出が詰まってるんです。10万積まれたって人には渡せません。100万だって…100万ならちょっと考えます」

スポンサーリンク

データ

データ:詳しく見る

脚本:三谷幸喜

監督:関口静夫

制作:フジテレビ

演出:河野圭太

音楽:本間勇輔

本編時間:47分03秒

公開日:1996年2月21日

あらすじ+人物相関図

動機の鑑定 人物相関図骨董商・春峯堂のご主人は、美術館館長・永井薫と結託し、贋作の『慶長の壺』を真作と鑑定する。だがそれは、陶芸家・川北百漢が2人を告発するために作った壺であった。本物の慶長の壺は彼が所持しており、春峯堂が協会の理事を辞任しなければ、偽りの鑑定をした件を新聞社に話すという。

春峯堂は、川北の工房で彼を射殺すると、真作の慶長の壺を持ち出した。永井が強盗の犯行に偽装している間、春峯堂は競売に参加してアリバイを作った。単純な物取りの犯行にするつもりだったが、永井は川北の作品を盗んでおり、古畑任三郎から骨董に詳しい人物の犯行だと怪しまれてしまう。

永井は事件のことを自首しようとすると、春峯堂は彼を自殺に見せかけて殺害する。永井が館長を務めている美術館には川北の作品が隠されていた為、すべての罪を永井に擦り付けたのだった。

人物紹介(キャスト)

春峯堂のご主人 動機の鑑定 古畑任三郎

【©フジテレビビジョン『警部補 古畑任三郎「動機の鑑定」より引用』】

今回の犯人:春峯堂のご主人(しゅんぽうどう)

役者:澤村藤十郎

職業:骨董商

殺害方法:川北百漢(銃殺) / 永井薫(斬殺:日本刀)

動機:口封じのため

概要:詳しく見る
骨董店『春峯堂』を営み、美術協会理事も兼任する男性。理事の地位を悪用することで、錦織美術館にある展示品を重要文化財に指定、見返りに館長・永井薫から多額の報酬を貰っていた。陶芸家・川北百漢は、贋作の『慶長の壺』を流出させ、それを本物であると鑑定したことに対し、協会を辞めねばその事実を公表すると迫られる。永井と共謀して川北を殺害した。

本名は一切不明であり、屋号『春峯堂』と呼ばれている。和物専門で、自身も和服を愛用している。物腰柔らかな口調、表情を見せる一方で、川北百漢から理事を辞めるように迫られた後「私は脅迫に屈するような男じゃないんだ」と彼の殺害を決意。並々ならぬ意思を腹に据えている。

共犯・永井には単純な物取りの犯行に偽装するため、川北の作品には手を付けないよう忠告したにも関わらず、独断で作品をくすねてしまう。これにより、アリバイ作りのために参加した競りを引き延ばす時間が生じ、高麗『三耳壺』を35万円で落札していた。

古畑任三郎から、骨董の知識がある人物の関与が疑われると、自供しようとする永井を自殺に見せかけて斬殺。そのうえで、彼に全ての罪を擦りつけた。その際、本物『慶長の壺』で殴り壺を破壊している。隣には贋作があったにも関わらず、なぜ本物を破壊したのかが本作の見どころの1つである。

美術の世界でやっていくには『捨て目(あらゆる物を見逃さない能力)』が必要であると話し、この卓越した能力が逆に決め手となってしまい自供に転じる結果になったのは悲しいサガである。


永井薫 動機の鑑定 古畑任三郎

【©フジテレビビジョン『警部補 古畑任三郎「動機の鑑定」より引用』】

今回の共犯:永井薫

役者:角野卓造

職業:美術館館長

概要:詳しく見る
錦織美術館館長の男性。美術協会理事である春峯堂のご主人に、自身の美術館にある展示品を重要文化財に指定して貰い、その見返りとして多額の金銭を受け渡していた。春峯堂の不正が発覚すれば、同時に自身の不正も発覚してしまうため殺人の共犯者となった。

事件の発端となった『慶長の壺』は、春峯堂が真作であると偽りの鑑定を行った。文化庁推薦のお墨付きをもらい、錦織美術館で展示されることに対して新聞社を通じて大々的に告知されていた。

骨董品に対しての感受性は豊であり、本物の『慶長の壺』を川北百漢の工房で見た際には、思わず鳥肌が立ってしまったと話す。偽装工作の際には、川北の作品に対し「いい腕してるなぁ」と、思わず感嘆の声をあげる。その結果、こともあろうに作品を持ち出してしまい、骨董に対しての知識がある人物の犯行だと疑われるきっかけになってしまった。

事件が公になると、徐々に良心の呵責に耐え切れなくなる。食事もまともに取れず、寝ることもできないなど精神的に疲れが見られはじめる。自宅では旅行カバンに荷物を詰めて高飛びするつもりだったが、警察に自供する決意を固めた。このことを春峯堂に話すと、自殺に見せかけて殺害される。全ての罪を擦り付けられたのだった。


川北百漢 動機の鑑定 古畑任三郎

【©フジテレビビジョン『警部補 古畑任三郎「動機の鑑定」より引用』】

今回の被害者:川北百漢(かわきた ひゃっかん)

役者:夢路いとし

職業:陶芸家

概要:詳しく見る
陶芸家の男性。春峯堂のご主人が、美術協会理事として立場を悪用していること対して不信感を抱いており、彼を陥れるために贋作の『慶長の壺』を作り出した。案の定、春峯堂が真作であると偽りの鑑定を行ったことにより、この件を新聞社に打ち明ける用意をしていた。

日本屈指の陶芸家、日本の財産とも評価されている。国宝級の腕前を持ちながらも、その生活は貧乏状態であった。春峯堂のご主人によると「1つ(作品を)売れば1年は楽に暮らせる」ようだが作品を売ろうとしなかった。理由としては、金儲けの道具に使いたくなかったからだと言及されている。

本物の『慶長の壺』は、5年前に倉敷の骨董店で発見している。物の真贋を見極める鑑定に大切なのは『フィーリング』であると話している。身体は健康的で日々陶芸に打ち込んでいる。完成した作品に対しては創作ノートに簡単な評価を記帳していた。

犯行計画/トリック

【物取りの犯行に偽装。その後、共犯者の永井に罪を擦り付ける】

①春峯堂のご主人は、川北百漢の工房で彼を射殺する。本物の『慶長の壺』を盗み出した。その間、永井薫は工房内を荒らす。財布から現金を抜き取り、置時計の時刻を20:30に進め、テーブルに打ち付けて時間を止めた。

②春峯堂は武蔵野美術館で行われる、美術クラブの競りに参加する。永井に、川北の工房から20:00に電話するように促した。永井は、自身が館長を務める錦織美術館に戻ると、部下の女性から整理する書類を預かり「資料室にいる」と、部屋にカギを掛けて窓から抜け出した。

③永井は川北の工房に向かう。そこで、川北の作品を盗んでしまい20:00の電話に遅れてしまった。春峯堂は時間を調整するため『三耳壺』を競り落とした。20時過ぎに川北に成り済ました永井から、美術クラブに電話が入る。これでこの時間、川北が生きていたことになる。永井はその後、外側から工房の窓ガラスを割りカギを開ける。ガラスを割って侵入したように見せかけた。

④永井が川北の作品を盗み出したことで、骨董品に詳しい人物が事件に関与していると思われた。盗み出した作品は美術館の倉庫に隠している。永井は、アリバイがないことから警察に自供しようとしたため、春峯堂は彼を自殺に見せかけて殺害。全ての罪を永井に擦り付けた。

※永井殺害の際には、贋作の『慶長の壺』があったにも関わらず、本物の慶長の壺を使用して、永井を殴り壺を破壊していた。贋作ではなく、なぜ本物を破壊したのかが本作の魅力の1つである。

推理と捜査(第2幕まで)

ネタバレ注意!:表示する
〇被害者と最後に会ったのは、春峯堂のご主人と永井薫だった。被害者の工房にある棚に並べられた作品がごっそりと無くなっており、押し入ったとされる強盗は骨董に対して目利きのできる人物である。2人は骨董品に対しての知識がある。

〇遺体の表面にはガラス片が付着していた。死体の下ではなく上にである。つまり、窓ガラスが割れた時には、死体はすでに倒れていたことになる。

〇春峯堂は美術クラブの競りに参加して『三耳壺』を競り落としていた。和物専門の春峯堂が、どうして向こう(高麗三耳壺:朝鮮)の壺を買ったのかクラブの人たちは不思議がっていた。
A.突然ほしくなったんですね。壺が私を呼んだともいいましょうかね。あの場の雰囲気は独特でね。

〇永井は、被害者が死亡したとされる20:30には、美術館内にある資料室で書類の整理をしていたと話す。しかし、部下が20時過ぎにコーヒーを差し出しに扉をノックしたが反応がなかった。
A.寝てたんだろ

〇永井の美術館で『慶長の壺』について尋ねた時、目の前に慶長の壺が展示されているにも関わらず、永井は「初めてあの壺を見た時は鳥肌が立った」と話した。『あの』だと、まるで遠くにある壺のことをいっているようにも思える。
A.うちの田舎じゃこれぐらいの距離を「あの」って言うんだよ!この、その、あのだよ!!

〇被害者の工房で、古畑は初めて春峯堂と永井に会った。2人が出て行く間際、春峯堂は永井に対して「ジブタレ」と言っていた。言葉の意味は、出来が悪いという意味であった。

視聴者への挑戦状

「えー、もし私の推理が正しければ、春峯堂のご主人はある決定的なミスを犯しました。ヒントはこの壺の名前と形です。「うずくまる」……、古畑任三郎でした」

三幕構成

動機の鑑定 三幕構成

小ネタ・補足・元ネタ

〇「春峯堂」の由来は1934年『春峯庵事件という入札会の商品が全て贋作だった事件から。
「慶長の壺」は1960年『永仁の壺事件』で重要文化財に指定されたが贋作だった事件から。

『慶長の壺』…戦国時代の吉田織部が太閤秀吉に献上した壺。大坂夏の陣で、城と共に焼け落ちたとされてきたが、川北百漢が倉敷の骨董店で偶然にも発見していた。約400年ぶりの発見とされているが、架空の壺である。

〇永井薫が館長を務める「錦織美術館」は『専門学校東京ビジュアルアーツ』がロケ地だと思われる。美術館の入り口と学校の正門が酷似しており、立地や風景も似ている。

〇アヴァンタイトルで古畑が、事件で扱った大切な宝物として『壊れたカスタネット』を挙げている。1999年1月3日放送された『古畑任三郎 vs SMAP』で、作中の犯人・稲垣吾郎が所持していた物である。「動機の鑑定」は1996年2月21日放送のため先取りした演出である

〇Yahoo!で「しゅんぽうどう」と検索すると、『春峰堂のご主人』と推測変換がされる。実際は「峰」ではなく「峯」が正しい表記である。なお、シリーズ中で唯一名前がない犯人である。

『捨て目がきく』とは?  春峯堂のご主人によると、「あらゆる物を見逃さない能力」とだけ言及されているが、鑑定士・中島誠之助氏の著書によると、こう書かれている。

見ずとも見ていること、これが捨て目です。骨董商たる者、お客様の応接室にいようと雑踏のなかを歩いていようと、つねに心の一部は自分の商売のためになる事柄を求めて、心眼を凝視していなければいけません。(中略)

要するに骨董商は夢の多い商売で、いつどこに何が転がっているかわかりませんから、ボーッとしていないで、つねに気を張っていろということです。
中島誠之助著『南青山骨董通り』P.244より引用

またP.184には、誠之助氏の父親が、「お前たちは捨て目が利かないから駄目だ」との言葉を贈っていたと、例を交えて思い出を綴っている。本著書には、競りの掛け声なども説明がある。

加藤昌治 著『考具』読むと、恐らく『カラーバス効果』の一種だと思われる。

何色でも構いません。例えば「今日は赤だ!」と決めます。すると「今日は赤いクルマが多いなぁ」……何だかよく分からないけど妙に赤いクルマが目につくんです。屋外看板広告も赤いのが目に入る。これがカラーバス効果。

たぶん統計学的には赤いクルマの通行料はいつもと同じはずです。(中略)ところが自分が「今日は赤」と意識しただけで、やたらと目につくんですね。不思議です。見えるから見る、へ。SEEからLOOKに変わるんです。

これは色に限りません。自分が気になっていることに関する情報ってなぜか向こうから自分の目に飛び込んでくる気がします。そんな経験はないですか? わたしたちの頭や脳は「これが知りたいな」となかば無意識に思っていることを命令として捉えているのかもしれません。
加藤昌治 著『考具』P.44より引用

まとめ

古畑任三郎で評価が高いエピソードです。その理由としては『メッセージ性の高さ』があります。今作品のテーマは『物の価値』です。アヴァンタイトルでありましたが、「本人にとっては大事でも他の人から見れば何の価値もなかったりする」との台詞がありましたね。物語としても面白さに加え、視聴者が心に残るメッセージを感じることで、より作品が印象深いものに変わっていくのです。

テーマは、物語を構築するための土台なのだ。テーマは脚本の核であり、心臓であり、魂なのだ。つまりこういうことだ。あなたが書く脚本の中にあるほとんどの場面は、そして登場人物は、会話は、そして映像は、テーマを反映するべきなのだ。

あなたが書く物語というものは、単にそのテーマを見せるために必要な環境を創造するための道具に過ぎないのだ。だから、ほとんどの脚本家は、執筆を始める前にテーマを固める。言いたいことがはっきり理解できれば、その物語に従属するものが何で、関係ないものは何かが明確になる。【「感情」から書く脚本術 著:カール・イグレシアス P69より引用】

犯人が最後にとった選択『なぜ偽物の壺ではなく、本物の壺を割ったのか?』古畑は、犯人が目利きの能力が無く、間違って本物を割ってしまったと推理をしました。しかし、ちゃんと犯人は本物と分かっていて壺を割ったんです。ここで、先程のテーマ『物の価値』が出てくるんですね。

犯人が最後に語る説得力のある答え、立ち振る舞いは何度見ても魅力的です。切れ者の古畑任三郎でさえ見抜くことができなかった、犯人側の深い心理というアクセントが効いてますね。

また、今作品では『骨董』の世界が中心になっており、古畑任三郎は初めてだらけで捜査を開始しました。徐々に知らなかった知識を身に着けていき、犯人からもその努力を認められ「よく勉強されましたね」と賛辞を贈られます。(刑事コロンボ『別れのワイン』を意識していると思われる)

見ている視聴者側にも、骨董についてはそこまで詳しい方がおられないのではないでしょうか?知らないことが分かると楽しいですし、面白いですよね。ドラマには「代理経験」の側面がありますで、未知の領域を知ることができる面白さもこのエピソードにはあります。

以上、『動機の鑑定』でした。