骨董の世界で繰り広げられる事件である。澤村藤十郎氏が演じる物腰が柔らかそうながらも腹黒い骨董商の犯人が見事である。また、角野卓造氏が演じる美術館館長のやりとり(この、その、あのだよ!の三段活用)はユーモラスである。夢路いとし師匠が演じる骨董商も役柄にピッタリだ。
データ
あらすじ+人物相関図
骨董商・春峯堂のご主人は、美術館館長・永井薫と結託し、贋作の『慶長の壺』を真作と鑑定する。だがそれは、陶芸家・川北百漢が2人を告発するために作った壺であった。本物の慶長の壺は彼が所持しており、春峯堂が協会の理事を辞任しなければ、偽りの鑑定をした件を新聞社に話すという。
春峯堂は、川北の工房で彼を射殺すると真作の慶長の壺を持ち出した。永井が強盗の犯行に偽装している間、春峯堂は競売に参加してアリバイを完成させたのだった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:春峯堂のご主人
役者:澤村藤十郎
職業:骨董商
骨董店『春峯堂』を営み、美術協会理事も兼任する男性。理事の地位を悪用することで、錦織美術館にある展示品を重要文化財に指定、見返りに館長・永井薫から多額の報酬を受け取っていた。陶芸家・川北百漢は、贋作の『慶長の壺』を流出させ、それを本物であると鑑定したことに対し、協会を辞めねばその事実を公表すると迫ったため、永井と共謀して川北を殺害した。
今回の共犯:永井薫
役者:角野卓造
職業:美術館館長
錦織美術館館長の男性。美術協会理事である春峯堂のご主人に、自身の美術館にある展示品を重要文化財に指定して貰い、その見返りとして多額の金銭を受け渡していた。春峯堂の不正が発覚すれば、同時に自身の不正も発覚してしまうため殺人の共犯者となった。
今回の被害者:川北百漢
役者:夢路いとし
職業:陶芸家
陶芸家の男性。春峯堂のご主人が、美術協会理事として立場を悪用していること対して不信感を抱いており、彼を陥れるために贋作の『慶長の壺』を作り出した。案の定、春峯堂が真作であると偽りの鑑定を行ったことにより、この件を新聞社に打ち明ける用意をしていた。
小ネタ・補足・元ネタ
〇「春峯堂」の由来は1934年『春峯庵事件』という入札会の商品が全て贋作だった事件から。
「慶長の壺」は1960年『永仁の壺事件』で重要文化財に指定されたが贋作だった事件から。
〇『慶長の壺』…戦国時代の吉田織部が太閤秀吉に献上した壺。大坂夏の陣で、城と共に焼け落ちたとされてきたが、川北百漢が倉敷の骨董店で偶然にも発見していた。約400年ぶりの発見とされているが、架空の壺である。
〇永井薫が館長を務める「錦織美術館」は『専門学校東京ビジュアルアーツ』がロケ地だと思われる。美術館の入り口と学校の正門が酷似しており、立地や風景も似ている。
〇アヴァンタイトルで古畑が、事件で扱った大切な宝物として『壊れたカスタネット』を挙げている。1999年1月3日放送された『古畑任三郎 vs SMAP』で、作中の犯人・稲垣吾郎が所持していた物である。「動機の鑑定」は1996年2月21日放送のため先取りした演出である
〇Yahoo!で「しゅんぽうどう」と検索すると、『春峰堂のご主人』と推測変換がされる。実際は「峰」ではなく「峯」が正しい表記である。なお、シリーズ中で唯一名前がない犯人である。
〇『捨て目がきく』とは、春峯堂のご主人によると「あらゆる物を見逃さない能力」とだけ言及されるが、鑑定士・中島誠之助氏は著書¹⁾でこう述べている。『カラーバス効果』²⁾の一種だと思われる。
見ずとも見ていること、これが捨て目です。骨董商たる者、お客様の応接室にいようと雑踏のなかを歩いていようと、つねに心の一部は自分の商売のためになる事柄を求めて、心眼を凝視していなければいけません。(中略)いつどこに何が転がっているかわかりませんから、ボーッとしていないで、つねに気を張っていろということです。中島誠之助『南青山骨董通り』P.244より引用
刑事コロンボからのオマージュ
まとめ
古畑任三郎で評価が高いエピソードだ。理由としては『メッセージ性の高さ』があるのではないだろうか。今作品の柱は『物の価値』である。冒頭で古畑も語っていたが「本人にとっては大事でも他の人から見れば何の価値もなかったりする」との台詞がある。物語としても面白さに加え、視聴者が心に残るメッセージを感じることで、より作品が印象深いものに変わるのだ。
犯人が最後にとった選択は、犯人が目利きの能力が無く、間違った判断をしたためだと古畑は推理をするのだが、犯人は全てを知ったうえで決断を下していたことが分かる。ここで、先程のテーマ『物の価値』にちなんだ名セリフが響く。
犯人の説得力のある答え、澤村藤十郎氏の優雅な立ち振る舞いは何度見ても魅力的である。切れ者の古畑任三郎でさえ見抜くことができなかった、犯人側の深い心理というアクセントが効いている。
今作品では『骨董』の世界が中心になっており、古畑任三郎は初めてだらけで捜査を開始することになる。次第に徐々に知らなかった知識を身に着けていき、犯人からもその努力を認められ「よく勉強されましたね」と賛辞を贈られる。(刑事コロンボ『別れのワイン』を意識していると思われる)
見ている視聴者側にも、骨董についてはそこまで詳しい方はいないのではないだろうか。 私も『なんでも鑑定団』をたまに視聴する程度だ。知らないことが分かると楽しいし面白い。ドラマには「代理経験」の側面があるため、未知の領域を知ることができる面白さもこのエピソードにはあるのだ。
以上、『動機の鑑定』でした。
引用・参考文献
1)中島誠之助『南青山骨董通り』淡交社、1989年 244項
2)加藤昌治 『考具』CCCメディアハウス、2003年
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なるほど元々コロンボのワインの話しを意識して作ったのか
どうりで
私がコロンボで一番好きだったのがワインの話しで
古畑で一番好きなのがこの話しだったワケです
やはり何と言っても、最後のセリフが印象的でした
正確には覚えてないけど
「ただ古いだけの壺より、現代の名人が私を陥れるためだけに作った壺・・」みたいなセリフ
悪いヤツだけど物を見る目はプロフェッショナルって感じがとても好き
≫元々コロンボのワインの話しを意識して作ったのか
古畑が骨董について学び、犯人から「よく勉強されましたね」と賛辞をおくられます。#19『別れのワイン』ではコロンボがワインについて学び、「よく勉強されましたな」と賛辞をおくられます。トリックやストーリー構成に関しては#33『ハッサン・サラーの反逆』のアレンジになっております。
≫私がコロンボで一番好きだったのがワインの話しで古畑で一番好きなのがこの話しだったワケです
≫最後のセリフが印象的
わたしも大好きなエピソードです! 『別れのワイン』では、コロンボは犯人の心情を理解していき、犯人もまたコロンボを理解していく。互いに敬意と共感をもって物語が終わるドラマ性が魅力ですよね。反して、『動機の鑑定』では、切れ者な古畑任三郎でさえ見抜けなかった犯人の深い心理面が最後の台詞で明らかになる。それぞれのキャラクターの違いを楽しめます。
≫悪いヤツだけど物を見る目はプロフェッショナル
少し欠点といいますか、ギャップがあるキャラクターは好きになりますよね。