ミステリーマニアによる犯罪である。推理小説のような凝ったトリックが見どころであり、犯人・乾研一郎を演じる草刈正雄氏と古畑を演じる田村正和氏による二枚目コンビの対決も洋館を舞台に非常に画になる。
データ
あらすじ+人物相関図
花見家の主治医・乾研一郎は、推理作家・花見禄助の妻・常子と不倫関係にあった。妻の素行を不審に思った禄助は、探偵に調査を依頼して不倫の事実を掴む。だが禄助は、真相を知るのが怖いと調査結果を見ていないと言う。
そこで乾は、妻の気持ちを寄り戻すためと狂言自殺を提案する。だがそれは、乾の仕組んだ巧妙な殺人トリックであった。家政婦・亀山を証人に仕立てると、彼女が現場から離れた隙に常子と禄助を射殺する。禄助には事前に遺書も書かせており、妻の不倫を知った禄助による無理心中に偽装した。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:乾研一郎
役者:草刈正雄
職業:医師
花見家の主治医の男性。禄助の妻・常子と不倫関係にあった。禄助が妻の素行を疑い探偵に調査を依頼すると不倫の事実を掴まれる。禄助は調査結果を見ていないと話したため、彼と結託し、妻の気持ちを寄り戻すためだと狂言自殺を提案すると、それに乗じて常子と禄助を無理心中に見せ殺害した。
今回の被害者:花見禄助
役者:藤村俊二
職業:推理作家
56歳、推理小説家の男性。著書としては『電撃入籍殺人事件』『十六人の転校生』『やっぱり猫が死ぬ』である。古畑任三郎が禄助の本が好きであると乾に語ると「見識を疑う。分部のある大人が読む本じゃない」と酷評している。挿絵が多いようで、本格推理小説というよりもライトノベルに近いようだ。
今回の被害者:花見常子
役者:一色采子
職業:禄助の妻
37歳、禄助の妻。花見家の主治医・乾研一郎と不倫関係にある。禄助とは別れ、乾と婚約しようと迫っていた。
小ネタ・補足
〇冒頭で見える花見禄助の著書『やっぱり猫が死ぬ』は、三谷氏が脚本のドラマ『やっぱり猫が好き』からのパロディタイトルである。
〇被害者・花見禄助の元ネタはエラリー・クイーンの別名義『バーナビー・ロス』のもじりだと思われる。
〇物語の骨格やキャラ設定については、アガサ・クリスティー『アクロイド殺し』のオマージュである。舞台やキャラ設定、動機が似た展開となっている。三谷幸喜氏によるアレンジ作品『黒井戸殺し』でも当主の名前が『録助』である。トリックについては『ナイルに死す』からも含まれている。(※コメント欄にて教えていただきました)
〇禄助が読んでいた推理小説『三十六の悲劇』は、最近出た若い作家『望月連太郎』の献本とされる。元ネタは、推理小説家『法月倫太郎』氏だと思われる。著書に「一の悲劇」「二の悲劇」が存在する。
刑事コロンボからのオマージュ
まとめ
第2シリーズは特殊な展開(法廷、爆弾犯、犯人側のルール理解、凶器/動機当て、密室、安楽椅子探偵)などバリエーション豊かである。その中でも本作はスタンダードな倒叙形式だ。ゲストに草刈正雄氏を迎え、田村正和氏とのツーショットは華がある。
このエピソードに魅力を感じた部分は『ゲームの達人』というタイトル通り、まるで事件を楽しんでいるかのような犯人の立ち振る舞いである。自分の考え出したトリックに絶対的な自信を持ち「ゲームっていうのは人生と同じで勝たなきゃ意味がない」という信念があるのだ。
乾はエピソード中に「ミステリ作家を志したがものにならなかった」と語っている。そのため今回の事件では、推理小説家としての自信作をトリックに用いたのであろう。
偶然の結果に見える本作のクライマックスは、実は、すべての手がかりが花見の性格に収束されるという上質な解決だったのである。『古畑任三郎事件ファイル EPISODE16/ゲームの達人より引用¹⁾』
エピソード中、自分よりも劣ると蔑んでいたが、結局は友人に翻弄されてしまう物語であったのだ。
計画通りに進んでいたらならなんてそう人生は上手くいかない。人生をゲーム感覚で捉えていた犯人に対し、古畑任三郎が最後に返す台詞がカッコいい作品だった。
以上、『ゲームの達人』でした。
引用・参考文献
1)古畑任三郎事件ファイル EPISODE16/ゲームの達人
●アガサ・クリスティー/
●三谷幸喜『黒井戸殺し』フジテレビ、2018年
>狂言自殺を仕組んだ時にも、頭の側面から血を流したように見せず、こめかみに銃を撃ち死んだように見せかける
こめかみではなく額の真ん中では?
匿名様
ご指摘ありがとうございます! お手数おかけしました。
合わせて、返信遅くなり大変申し訳ございません。
花見禄助の概要で、間違いなく『額』でございます。文章の確認不足でした、修正させていただきました。
花見禄助の殺害後、乾がポケットにしまった拳銃型のライターはどうしたんでしょうか(処分するようなシーンは無かったような…)
事件発生直後は禄助の無理心中の可能性が高いと思われていたとはいえ、乾は死体の第一発見者ですから、当然警察から持ち物検査を受けるでしょうし、そこで被害者が握っていた拳銃とそっくりなライターが発見されれば、乾と被害者が共謀した狂言自殺の線が浮上し、事件解決も早まったように思うのですが。
乾の持ち物検査をしていないとすればドラマならではのご都合主義という感じがして若干興醒めしてしまいますね…(そもそも殺人現場の家の中でビリヤードしたりウイスキーを飲んだりしてる事がありえないんですが。笑)
しかし何度見ても古畑任三郎は面白いですね。いつかまた続編が見られるかもしれないと淡い期待を抱いていただけに残念でなりません。田村さんのご冥福を祈りたいと思います。
ねこ様
コメントありがとうございます‼
≫乾がポケットにしまった拳銃型のライターはどうしたんでしょうか
≫被害者が握っていた拳銃とそっくりなライターが発見されれば
本当にどこいったんですかね? 警察到着までの間にどこかに捨てたのでしょうか?
≫(そもそも殺人現場の家の中でビリヤードしたりウイスキーを飲んだりしてる事がありえないんですが。笑)
36話冒頭「こんなお便りが来てます。熊本県は阿蘇の河田さんですね。『古畑はよくプライベートで事件に遭遇するがあまりにもリアリティーが無い。いくらドラマの中の刑事とはいえ何でもありというのは如何なものか』…何でもありなんです。
≫何度見ても古畑任三郎は面白い
毎回豪華な出演者が登場し、違った犯行計画でどのように完全犯罪を成し遂げようとするのか。それに対し如何にして古畑警部補は事件を解決するのか。犯人との丁々発止のやりとりでしたり、人を殺めても守りたかった・得たかったモノとは何か。犯人側の犯行から描かれるストーリーだからこそ、心情面での面白さを堪能できました。やはり、刑事役となった田村正和さんの魅力が大きいですよね。本当に素晴らしい俳優さんでした。
この話、かの有名な「アクロイド殺し」のオマージュが随所にちりばめられてるんですね。
乾先生は少なくともクリスティ好きだったのでしょう(笑)
(ちなみに、三谷氏もクリスティ好きで有名。同作をアレンジして2018年にドラマ化した「黒井戸殺し」を自分は先に思い出しました。)
以下、ネタバレ注意の三作品共通点。
・被害者は、屋敷に使用人を雇えるほどの裕福な男
・男は、自分の妻(にしようとした女)と秘密の関係を持った犯人に殺される
・その女も、被害者より先に犯人のせいで死ぬ
・被害者は死ぬ前に女の真実が書かれた報告書(手紙)を受け取っていたが、視聴者(読者)視点では犯人に言及した箇所が読まれていない
・被害者か女が(狂言)自殺を図る
・犯人の職業が同じ、被害者とも近しい関係
・犯人は「犬」を想起する名前である
・被害者の(家からとされる)電話がきっかけで犯人が現場に入り、そこで犯行(証拠隠滅)を行う
・偽物の音(声)でアリバイを作る
・一人の探偵役と最後二人きりになった時、全てを暴かれる
クリスティの原作は登場人物かなり多いので、最低限まで削って、倒叙ものにアレンジしたという感じでしょうか。
(ちなみに三谷版の被害者の名前は「黒井戸禄助」で、女中さんの名前が「つねこ(恒子)」だったりします。)
古畑さんをシーズン1からまた見たくなってきました。
もう一つ、クリスティ作「ナイルに死す」(映画では「ナイル殺人事件」)のオマージュもあります。
以下、ネタバレ注意の共通点。
・三角関係にある内の二人が共犯関係にあり、もう一人を殺した後、全てを計画した主犯に共犯者も殺される
・最初に銃で撃たれた人物の傷は偽装であり、後から同じ個所を本物の銃で撃ち直した
但し原作の「銃撃を偽装しても、音とか硝煙反応とかきちんと調べられたら終わり」な点を、古畑版ではアレンジを加えてクリアしているのが興味深いです。
すぐろ様
詳しく解説ありがとうございます‼
≫かの有名な「アクロイド殺し」のオマージュが随所にちりばめられてる
≫同作をアレンジして2018年にドラマ化した「黒井戸殺し」を自分は先に思い出しました
≫クリスティの原作は登場人物かなり多いので、最低限まで削って、倒叙ものにアレンジしたという感じでしょうか。
クリスティ作品は未履修が多く勉強不足でした!履修します‼「黒井戸殺し」は観ました、ご教授いただいた点と内容を思い返してみると、『ゲームの達人』のストーリーですね♪ 犯人の犬の名前や、「黒井戸禄助」、女中さんの名前が「つねこ(恒子)」等、素晴らしい着眼点です!
≫もう一つ、クリスティ作「ナイルに死す」(映画では「ナイル殺人事件」)のオマージュもあります。
「ナイルに死す」は読んでました!この作品からもアレンジを加えていたんですね、気が付きませんでした‼ 勉強になります!!!!