テレビ局内で起きる密室殺人事件である。狙って密室になったわけではなく、結果として密室になったのが面白い。映像描写によるドラマならではのトリックかつ決め手でありそのポテンシャルを見事に発揮している。

データ

脚本:三谷幸喜
監督:関口静夫
制作:フジテレビ
演出:河野圭太
音楽:本間勇輔

本編時間:45分53秒
公開日:1996年2月14日

あらすじ+人物相関図

学習塾経営・千堂謙吉(唐沢寿明)は、テレビ番組『クイズ王』で7週連続勝ち抜きを達成したが、番組プロデューサーとのやらせで問題の内容を事前に入手していたのだ。この不正の噂を週刊誌に嗅ぎ付けられると、番組側は問題内容のリークをやめると一方的に通告する。

番組アシスタントが着る衣装には、出題内容に関する番号が縫い付けられており、千堂はそれを調べるため衣装室に入った。衣装を見るのを阻止する美術スタッフ・沼田(伊集院光)と揉み合いになり、アルミケースに後頭部をぶつけ死亡させてしまう。

衣裳室から立ち去ろうとするが、廊下ではお笑いコンビがネタの練習をしており出ることができなかった。偶然、番組に出演していた古畑任三郎たちが帰ろうとしたとき、局内に悲鳴が響いた。古畑が衣装室内で見たものは、クサヤの干物にまみれ横倒れる沼田の遺体だけであった。

人物紹介(キャスト)

今回の犯人:千堂謙吉(せんどう けんきち)
役者:唐沢寿明

概要:学習塾共同経営者の男性。テレビ番組『クイズ王』で7週連続勝ち抜きを達成したが、番組から出題内容に関するテーマをリークされており事前に情報収集を行っていた。週刊誌に不正を嗅ぎ付けられるとリークを止めると一方的に通告される。番組アシスタントが着る衣装には、出題内容に関する数字が縫い付けられており、それを確認するべく衣装室に入り、彼を阻止しようとした衣裳部屋スタッフ・沼田をはずみで突き飛ばしてしまい死亡させてしまう。

元々は青年実業家で、様々な事業に手を出すが失敗続きだった。クイズ王には遊び半分で応募して優勝。その後、番組側から「無敵のチャンピオンを作りたい」と言われ、出題内容に関するテーマを聞かされていた。ここで強調したいのが、自分から不正を依頼したことが1度もなかった点である。

番組のおかげで女性人気が高まり、CMにも出演するようになる。すると番組スタッフにダメ出しをしたり、演出や弁当に関して文句をいう傲慢な性格が現れるようになる。こういった高圧的な態度からも番組プロデューサーは嫌気がさし、不正を止めるきっかけに繋がったのではないだろうか?

不正に関しては、本番の1時間前に出題内容に関する番号を聞かされ、学習塾の仲間に電話して片っ端から調べさせるという人海戦術で情報収集を行っていた。この不正は彼の常人ならざる記憶力があってからこそなせる技である。


今回の被害者:沼田
役者:伊集院光

概要:衣裳部屋スタッフの男性。体重が100㎏ぐらいあり、犯行現場を見た初見では、畳で足を滑らせ箱に後頭部を強打して死亡したように思われていた。千堂からは、「ぬまっちゃん」と呼ばれており、飲み会で一緒に飲むぐらい関係はあったようだ。

ズボラな性格なようで、管理している赤穂浪士の衣装もあいうえお順にしておらず、衣装を取りに来る撮影スタッフからは、いつも衣装を並び替える必要があったと証言されている。しかしながら、千堂謙吉がクイズの出題テーマに関する衣装を見ようとした際には「止められてるんです」と、阻止するべく躍起になっていた。真面目な性格であったようだ。

小ネタ・補足・元ネタ

〇冒頭で千堂謙吉に挑戦した『岸』は、松尾貴史が演じている。『岸』は松尾氏の本名「岸邦浩」から命名されたと思われる。松尾氏は、クイズ番組で何度も優勝した経験がある正真正銘のクイズ王である。余談ではあるが、名探偵コナン11巻『テレビ局殺人事件』¹⁾では、犯人として本人役で登場している。実際にアニメでも声優を担当していた。この事件も犯人視点から進む倒叙形式である。

〇名前こそ伏せられているが、クイズ王の収録局は『フジテレビ』である。古畑任三郎は弁当はまずい、タクシーも出ない、最低の局で二度とここのテレビは見ないと憤慨している。壁を見ると『忍空』『るろうに剣心』『キャプテン翼』のポスターが貼られている。

〇クイズ王・千堂謙吉役の唐沢寿明氏は、後にクイズ番組の司会を担当している。『頭脳の祭典!クイズ最強王者決定戦!!〜ワールド・クイズ・クラシック〜』(2011年11月23日TBS)『THEクイズ神』(2012年6月29日TBS)

刑事コロンボからのオマージュ

(1)千堂謙吉は、自分の顔を短時間しかアップにさせず、すぐにカメラを切り替えたことをプロデューサーに怒りメイクセットに入る

⇒刑事コロンボ6話『二枚のドガの絵』
犯人が自分の顔を長時間アップさせないで、すぐにカメラを切り替えるようにプロデューサーに怒りメイク落としに入る

まとめ

どうやって密室から抜け出したのかが見事な作品です。小説のように文章でこのトリックを使うとなると、たちまち魅力がなくなってしまう、映像描写があるドラマならではのユニークなアイディアだと感じました。

真っ先に考えなければならないのは”前代未聞の奇想天外な舞台(殺人事件の現場など)”なのである。

著:若桜木虔『ミステリー小説を書くコツと裏ワザ』P.38より引用²⁾

これに習って脚本を振り返ると、奇想天外な現場『クサヤの干物にまみれた遺体』が良い味を出していますね。また、テレビ局内を舞台に限定することで、日本のドラマによくあるアレを証拠に利用できたのも面白いです。

それにしても、犯人・千堂謙吉ですが、テレビ局側から事前に問題に関する番号をリークされていたとしても、本番が開始される前までにそれらに関する問題を記憶していたことになり、記憶能力がずば抜けていますよね。

さらに、『クイズ王』では、対戦者同士が問題を出題する対決があるのですが、どうやって正解を判断しているのだろう。正解の音を鳴らしているため、スタッフの中にも即座に判断できる人物がいるのか、それとも出題者の自己判断に任せているのでしょうかね。

以上、『VSクイズ王』でした。

引用・参考文献

1)青山剛昌『名探偵コナン 11巻』少年サンデー、1996年
2)若桜木虔『ミステリー小説を書くコツと裏ワザ』青春出版社、2016年