刑事コロンボ 32話『忘れられたスター』逆に忘れられないスター

【VS.往年のミュージカル・スター】これは前情報なしで見ていただきたいエピソード。

記憶を消してもみたいと思うエピソードです。最後がカッコいいし思いに胸が打たれます。でもやっぱり、記憶は消えたくないなぁ……。

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データ

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脚本:ウィリアム・ドリスキル

監督:ハーヴェイ・ハート

制作:エヴァレット・チェンバース

ストーリー監修:ピーター・S・フィッシャー&ビル・ドリスキル

音楽:ジェフ・アレキザンダー

本編時間:99分

公開日:アメリカ/1975年9月17日 日本/1977年1月3日

あらすじ+人物相関図

忘れられたスター 人物相関図

懐かしいミュージカル映画の名場面を集めた番組「ソング&ダンス」が放映された。これが大ヒットして、往年のミュージカル・スターであるグレース・ウィラーと、共演したネッド・ダイヤモンドは再び脚光を浴びる。

これを機会にグレースは、ブロード・ウェイのミュージカルでカムバック公演をしたいと考えていた。だが、グレースの夫ヘンリー・ウィリスは、そのミュージカルの出資金を断る。是が非でもミュージカルを開催したい彼女は、その晩に夫の殺害を決意したのだった。

グレースは自宅の試写室で映画を見ることが習慣で、召使レイモンドはフィルム交換の時間になるとやってくる。その間にグレースは試写室から抜け出し、睡眠薬を飲んで眠っている夫を射殺した。自殺に偽装するために扉の内側に鍵を掛けると、バルコニーから木を伝い再び試写室へと戻った。

就寝前の最後の見回りに、レイモンドがヘンリーに返事を掛けるも返答はなかった。扉には鍵がかかっており、心配になったヘンリーは扉をこじ開けると、ベッドで横たわるヘンリーを発見したのだった。

人物紹介(キャスト/吹き替え声優)

グレース・ウィラー

【NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン:刑事コロンボ「忘れられたスター」より引用】

今回の犯人:グレース・ウィラージャネット・リー

吹き替え声優:鳳八千代(おおとり やちよ)

追加吹き替え声優:幸田直子(こうだ なおこ)

職業:往年のミュージカル・スター

殺害方法:銃殺(32口径リボルバー)

動機:ミュージカルを開く出資金を断られてしまったため。

概要:詳しく見る

引退寸前のミュージカル・スターである女性。ミュージカル映画の名場面を集めた番組『ソング&ダンス』が大ヒットしたことで、再び脚光を浴びる。これを機にブロード・ウェイで秋のミュージカルを公演する計画を立てていたが、夫ヘンリー・ウィリスに出資を断られたため殺害を決行した。

ブロード・ウェイで今どきミュージカルをするとなると、50万ドルが必要だそうだ。さすがに夫もこれには同意はできない。だが、金銭など問題ではないことが彼女自身にあったため、夫は出資を断っていたのである。(1975年9月1ドル=299円 50万ドル=1億4千950万円)

『ソング&ダンス』の収録後、自宅に帰るとすぐに睡眠薬を回収し、ナイトガウンの下には動きやすい服に着替えていた。準備をした後に、夫と出資金の相談をしていたため、断られた際には殺害計画をすぐに実行するつもりだったようだ。

23時から試写室でフィルム映画を見ることが日課となっている。アリバイ作りに観ていた映画は、『Walking My Baby Back Home』で彼女が1番好きな映画である。

ネタバレ注意!

実は末期の脳腫瘍に侵されており、診断の名手であるヘンリーはその症状に気づいていた。ミュージカルで激しい運動を行うことにより、脳の腫瘍が傷つき死亡してしまう恐れがあったことから、彼女の身を案じてミュージカルの出資金を断っていたのだった。

さらに、脳腫瘍の影響により記憶が失われていた。エピソード中に見せる、苛立ちや物忘れなどは記憶低下による不穏症状である。認知症状のマニュアルを見てみると、腫瘍が前頭葉に発生すると記憶に関する事柄が失われるようだ。

このことから、彼女は前頭葉系の脳腫瘍であったことが伺える。脳腫瘍を除去することで、認知機能の改善が期待できるのだが、すでに彼女は手術困難な状態であった。今エピソードでは、すでに殺人事件を起こしたことすらも忘れていたのだ。


ヘンリー・ウィリス

【NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン:刑事コロンボ「忘れられたスター」より引用】

今回の被害者:ヘンリー・ウィリスサム・ジャフェ

吹き替え声優:巌金四郎(いわお きんしろう)

職業:元内科医

概要:詳しく見る
グレースの夫で70歳の男性。内科医は半年前に引退したが、病院の顧問は続けているようだ。妻グレースからミュージカルの出資を求められたが、これを退ける。前々から計画していた世界一周旅行に行くように諭した。

家族同然の付き合がある「ウェストラム医師」によると、診断の名手で、自身の病気の診断は自分で済ませていたそうだ。自身の病気は前立腺に関する症状。簡単な手術であり、命を脅かすような病気ではない。手術は最後の手段と考えているようで自然に任せている様子。

読書家でもあり、近くの書店のお得意様にもなっている。最後に読んでいた本は、『マクトウィグ夫人の変身』である。コロンボ警部によると、「ふざけた(いい意味で)内容の本で、この世の終わりに読むような本ではない」とのこと。

彼は本を読むときに、読み終えたページの端を折って『しおり』代わりにする。これは大量に本を読む人がするという『ドッグイヤー』という名称である。折った形が犬の耳の形に似ていることから名付けられている。

23時に睡眠薬を飲んで牛乳で服用している。薬が効くまではベッド上で本を読むことが日課のようだだ。老眼でテレビや本を読むときはメガネを装着し、歩く際などには装着していない。

以前、駐車場に泥棒が侵入したようで、パトロールを1時間おきに依頼している。また、護身用のために車のダッシュボードに銃を置いていた。

犯行計画/トリック

【自殺に偽装】

①グレースは、食器棚の中にある睡眠薬『フェノバルビタール』の錠剤を1つ持ち出す。寝室で夫ヘンリーに、ミュージカルの出資を依頼するも断られる。ヘンリーが部屋から出ていくと、錠剤を潰して飲み物の中に溶かし込んだ。

②23時~グレースは映画『Walking My Baby Back Home』を映写室で見る。その時間になるとヘンリーは睡眠薬を服用する。映画の途中でグレースは抜け出すと、中庭を通って車の中から拳銃を取り出す。召使が映画フィルムの交換時間になる前に戻った。

③召使がフィルム交換のために映写室に訪れる。グレースは会話後にナイトガウンを脱いで、下に着こんでいた動きやすい服で、再び映写室を抜け出しヘンリーの寝室へ向かう。ヘンリーは睡眠薬を2倍飲んでいるため眠っている。机の中から、彼の病気の診断書を取り出す。読んでいた本を脇の机に移動させて、診断書をベッドの上に置いた。

④ヘンリーに拳銃を握らせて射殺。部屋にカギをかけ、バルコニーから木をつたい中庭に降りて映写室へ戻った。だが、映写室ではフィルムが切れてしまっており、急いで繋ぎ直す。

⑤01:00に映画が終わり、召使と会話。召使は見回りにヘンリーのところへ向かうが返事はない。扉を破ると死亡していた。診断書の病状から、気分が落ち込み自殺したように見せかけた。

推理と捜査(第2幕まで)

ネタバレ注意!
○自殺したというが、召使の話によると落ち込んでいる様子はなかった。また、以前から世界一周旅行を計画していたようだ。被害者は睡眠薬を服用し本を読んでいた。これから自殺するのに、睡眠薬を飲むだろうか?

○読んでいた本は、「マクトウィグ夫人の変身」。ふざけた内容(ユーモアとウィット)の本で、自殺の前に読む本ではない。さらに被害者には、読み終えたページの端を折り曲げ、しおりの役目にする習慣があった。読んでいた本には端が折られた様子がなかった。

○被害者には病気があり手術を勧められていた。そのことを悲観しての自殺だと思われたが、それほど深刻ではなく手術は簡単な部類である。

○被害者は、ガレージにある車まで拳銃を取りに行ったことになる。だが、被害者が履いていたスリッパの底がまったく汚れておらず、外を歩いた形跡がない。被害者はいつ銃を取りにいったのか?

○現場の寝室には鍵がかかっていたが、寝室のバルコニーのそばには木があった。木を伝うことで中庭に降りることができた。

○被害者の遺体から、通常の倍の量の睡眠薬が検出された。

○グレースが見ていたとされる映画『Walking My Baby Back Home』の上映時間は1時間45分である。しかし、事件当日は23:00~01:00まで映画を観ていた。すると上映に2時間かかっていたことになる。なぜ15分も余計にかかったのか。

三幕構成

忘れられたスター 三幕構成

小ネタ・補足

〇往年のミュージカルスター役「ネッド・ダイヤモンド」を演じたのは、『ジョン・ペイン』氏である。1936年~1957年まで映画俳優として活躍した、本物のミュージカルスターである。本エピソード「忘れられたスター」が、最後の出演であった。

〇犯人グレース・ケリーが、アリバイ工作で観た映画『Walking My Baby Back Home(ウォーキング・マイ・ベイビー・バック・ホーム)は、演じた『ジャネット・リー』氏が1953年に実際に主演していたミュージカル映画である。邦題「恋人を家に送って歩く道」で、DVDやVHSでも販売していない。

〇ヘンリー・ウィリスが服用していた睡眠薬は『フェノバルビタール』である。コロンボ警部によると、フェノバルビタール5mg(1錠)を服用していたと語り、遺体からは倍検出されたようだ。だが、この薬は通常成人1日30~200mgで、1日1~4回服用する。不眠症の場合は1回30~200mgを就寝前に服用することになっており、明らかに量が足りていないが、気休め程度に服用していたのではないだろうか?

まとめ

99分というエピソードであり通常74分のエピソードより長いです。そのため、普段コロンボ警部の語られることのない話。「射撃テストをさぼっている」ということが明らかになります。ピーター・フォーク自身も時間を持たせるために、いくつもの場面に直面したと述べています。初期のコロンボという謎のキャラクターに、徐々に人物像が形成されてきているとも言えます。

エピソードに関しては、役者の方々の演技が素晴らしいです。コロンボ警部がわき役に見えるぐらいに、往年のミュージカルスターたちの演技を堪能できるんですね。ちょっとした表情や高貴なふるまいはお見事です。

グレースの言動なども後々に意味が気づかされます。最後のミュージカル音楽のフィナーレで終わる余韻は、じんわりと目頭が熱くなりました。

以上、32話「忘れられたスター」でした。