コロンボの傑作エピソードとして度々あげられる作品で、開幕54秒で殺人が起きる。犯人が情状酌量(裁判などで憐れむところ)無しという非道な男であり、そんな犯人を「あっ」と言わせる、最後の追い込みと表情は見事です。
さらに犯人がぐうの音を出す前に、動かぬ証拠が提示されドラマが終わるという「見事な切れ味」。映像を活かした決め手の隠し方は、2週目で鑑賞するとまた面白い作品だと思いました。
データ
脚本:ジャクスン・ギリス
監督:ハイ・アヴァバック
制作:リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク
ストーリー監修:スティーヴン・ボチコ
音楽:ビリー・ゴールデンバーグ
本編時間:76分
公開日:アメリカ/1971年11月17日 日本/1973年7月21日
あらすじ
美術評論家のデイル・キングストンは、絵画収集家で叔父のランディ・マシューズを彼の自宅で射殺すると、強盗が押し入ったように室内を荒らした。待ち合わせをしていた恋人で共犯者のトレイシーが来ると、デイルはアリバイを作るために画廊パーティーに参加した。その間、彼女は自宅で警備員の巡回時間まで待機し、警備員が見回りに来る時間になると、2階の部屋から外に向けて銃を撃ち急いで外へ逃げだした。警備員は自宅内に入ると絵画と部屋が荒らされており、たった今 強盗が押し入ったように思わせたのだった。
人物紹介(キャスト/吹き替え声優)
今回の犯人:デイル・キングストン
役者:ロス・マーティン
吹き替え声優:西沢利明
概要:美術評論家の男性。叔父ランディー・マシューズの自宅で彼を射殺すると、強盗に襲われたように偽装した。その後、美術学生トレイシー・オコーナーを利用して、自身のアリバイを作ると彼女も殺害して口を封じる。叔父が所有する世界的名画コレクションを入手するべく、叔父殺しの罪を前妻エドナに擦り付けることで、遺産相続権を剥奪して絵画コレクションの入手を目論んだ。
10日前に叔父ランディから、遺産相続の変更についての手紙を受け取る。内容は、当初は自身が絵画コレクションを引き継ぐ段取りであったが、彼の前妻エドナ・マシューズに絵画を引き継ぐことに変更したという。彼女には絵画に関する知識はなく、長年に集めた名画が手元から離れてしまうことに憤りを感じ犯行に及んだのだろう。
美術大学を卒業後、美術評論家として活躍している。新聞批評やテレビの美術番組での解説、美術大学での講義や、博物館の委員会など、幅広く活躍している。画廊の女性によると、絵画評論は「パリ」「ロンドン」などのニューヨークを専門にしている様子。
アリバイ工作の為、画廊のパーティーに参加すると、婦人に囲まれ「人間万歳」「彼の絵は難解で分かるのは彼のサインぐらいさ」など饒舌を披露している。その時のはしゃぐ姿とは打って変わり、テレビ番組のスタッフにはキツイ物言いをしている。コロンボには敵意むき出して終始怒っているような態度であり、あまり育ちの良い性格とは言えない。
レギュラー番組の『デイル・キングストンの美の世界』は、16チャンネルが毎日放送しており、今回は「ゴヤ」の解説であった。なお、講義テキストも販売しており、もよりの書店で購入できるようだ。
叔父の絵画コレクションは、後半からはデイルが代わりに購入してきたもので、思い出深い品ばかりだったようである。一番好きな絵は、『ドガのパステル画』だそうだ。2枚で、50万ドルはくだらないと語っている。1971年11月:1ドル=328円 50万ドル=1億6千4百万円。
今回の被害者:ランディー・マシューズ
役者:ロバート・シェイン
吹き替え声優:なし
概要:グランドピアノで演奏中、開幕54秒で殺害されてしまう。皮肉にも最後に弾いていたのは、ショパン『別れの曲』である。パジャマを着ており、就寝前にピアノを弾くことが日課だったのだろうか?
126点からなる絵画は通称『マシューズ・コレクション』と呼ばれ、世界的にも知られており、展覧会にも貸し出しをしていたようだ。元々は絵画には興味がなく、結婚当時に妻エドナに無理やり博物館に連れて行かれたことで、新しい投資先として絵画を購入しはじめた様子。
10数年前にエドナと別れてからは、絵画収集に没頭する。事業を手放し絵画を購入し、借家で生活をしていた。2か月前に道でばったりエドナと会い、「世界的名画は個人で所有するべきでない」という、エドナの考え方を改めて聞き入れる。
当初はデイルに絵画を管理させるつもりであったが、エドナに絵画を相続させ、学校や博物館に寄贈させる段取りに遺書を書き変えた。昔は尖った性格で、様々な事業に手を伸ばし資産を増やしていったとのこと。
・就寝服を着てピアノを弾いていたのが22時以降
・デイルがパーティでアリバイ工作をしていた時刻が23時05分。
・警備員は1時間に一度見回りに来る。
ひどくどうでもいいが、このことから彼の就寝時刻は22時~24時の間だと考えられる。
今回の共犯:トレイシー・オコーナー
役者:ロザンナ・ホフマン
吹き替え声優:杉山佳寿子
概要:2~3ヶ月前に美術大学の講義でデイルと知り合い交際がはじまった。容姿端麗であり過去の交際相手は多かった様子。マシューズの自宅から逃走する算段を立てているのに、走り難く音の出やすいハイヒールを履いてきた。デイルの最終目的からすると、おそらく彼の指示でハイヒールを履いたのではないだろうか。デイルによると彼女の絵は、まるで才能はないと語っている。生かしておく絵の才能がない人物をあえて選んでいたとすると悲しいことである。
小ネタ・補足
〇コロンボ役『ピーター・フォーク』は、12歳の頃ニューヨーク州でのサマー・キャンプに参加して、そこで初めて演技というものを味わっている。その時、ピーターに演技指導を行ったのが犯人を演じた『ロス・マーティン』氏である。(出典:レインコートの中のすべて P.93より)
〇ピーター・フォークとロス・マーティン氏は、刑事コロンボで共演する前に、映画『グレートレースーThe Great Race』で共演している。奇しくもピーター演じるキャラに、ロス氏の計画は崩れ去っていた。
まとめ
「刑事コロンボ」の場合、犯人の紹介と完璧な犯罪描写から物語が始まらなければならない。だからラスト・シーンから書き始めることはまれだった。
レインコートの中のすべて-P.91より引用
先に「結末」を決め、その結末に向かって作品を考える「帰納法」で作られた作品です。最初からオチを決めて書くので、そのオチを最大限に発揮できる演出・設定にしやすく、ストーリー展開もブレることはなくなるため、本作品のような鮮やかな結末で幕を閉じることができました。
作中のふとした刑事と犯人のやりとりの中で、動かぬ証拠ができてしまうのは見事!「恐ろしく早い証拠づくり。俺でなきゃ見逃がしちゃうね」という、推理マニアのあなた。是非挑戦してみてください。1回目で分からなかった方は、録画しておいた2週目を見ても楽します。
切れ味の鋭いオチというのも魅力の1つですが、犯人の動機が後半まで伏せられて進むのも実に見事な話の運び方です。最初からコロンボ警部と犯人は敵対心バチバチの状態で進み、サスペンスフルな展開で、50分以上経ってから犯人の狙いというものが浮かびあがるのです。
開幕54秒の殺人。刑事と犯人の対決感。共犯者の殺害。徐々に浮かび上がる犯人の動機。そして僅かなやりとりから生まれた証拠。テンポ良く進み、スピード感のあるシナリオ展開は名エピソードたる由縁があります。
以上、第6話「二枚のドガの絵」でした。
ロス・マーティン、キム・ハンターの名演技が光る名作ですが、
ラストシーンの頭、コロンボがプジョーでやって来る場面が不自然なくらいずっと遠目から映っている理由。
これに気づいた時に演出家の意図に脱帽したのを覚えてます。
≫ロス・マーティン、キム・ハンターの名演技が光る名作
≫コロンボがプジョーでやって来る場面が不自然なくらいずっと遠目から映っている理由
初めて観た時は衝撃的なエピソードでした。ストーリーのスピード感がいいですよね。
「忘れちゃ困るよキングストンさん、あたしゃね・・・プロなんだ」と言う台詞がとても気に入っていたんですが、うん十年ぶりに再放送を見たらそのシーンは無言でした。
今はもう手元に無い小説版のものなのか、自分の妄想なのか(脳内では小池朝生さんの声で再生されてますw)、それからずっとモヤモヤした気分の晴れない作品なんです。もしお分かりになるのでしたら、白黒はっきり付けていただきたいです。
妄想で無いなら、自分の選ぶコロンボ名台詞の中でぶっちぎりの1位です。w
上記の台詞が問題があるようでしたら、サクッと消して下さい。
Utena様
≫「忘れちゃ困るよキングストンさん、あたしゃね・・・プロなんだ」
≫(脳内では小池朝生さんの声で再生されてますw)
≫妄想で無いなら、自分の選ぶコロンボ名台詞の中でぶっちぎりの1位です
手元にある『二枚のドガの絵(サラ・ブックス/二見書房』を調べてみると、ございました‼
ほとんどご記憶に近いです!スゴイ‼‼‼
小説の最後P.237の台詞で、「忘れちゃ困るよ、キングストンさん。私はプロなんだ」と締めくくられておりました。「あたしゃ」と記憶されていたので、やはり小池ボイスで読まれていたのでしょうね。
私も小説で読んだ部分がドラマとごっちゃになってしまうことがあります。最初に見た感動というモノは根深いですよね♪ 画像を載せたいのですが、コメント欄の使用上、貼り付けができません。ご了承ください。