「『赤か、青か』の犯人の動機は何だったでしょう?」
『古畑任三郎』第2シーズン4話『赤か、青か』は、木村拓哉氏をゲストスターに迎えたことで知られ、再放送がなかなか行われないエピソードとしても有名だ。
リアルタイムで視聴した方や、数少ない再放送、DVDなどで本作を観た視聴者の中には、ある違和感を覚えた人もいるのではないだろうか。
それは――
「犯人の動機と行動が、どこか噛み合っていない」という点である。
本記事では、この違和感の正体について考察し、筋が通るように想像(妄想)を膨らませていきたい。なお、今回は犯人の動機に深く触れるため、未視聴の方はネタバレ注意である。
犯人の動機を信じると浮かぶ疑問点
古畑任三郎「赤か、青か」事件のあらすじと犯行の流れ

天神大学電子工学部研究助手・林功夫は、深夜の遊園地「エキサイト・パーク」に侵入し、観覧車に時限爆弾を仕掛ける。帰り際、自転車の鍵を紛失していることに気づき、やむなくチェーンを切ったところを、巡回中の警備員・真鍋茂に発見されてしまう。林は持っていたマグライトで真鍋を撲殺した。
翌日、林は遊園地に「現金を用意しなければ観覧車を爆破する」と脅迫電話をかける。殺人事件の捜査に来ていた古畑任三郎の部下・今泉は、偶然にもその観覧車に乗っており、爆破のリミットまでに救出しなければならない状況に陥る。
警察の爆発物処理班が到着すると、爆弾の専門家として協力を依頼されたのが林功夫だった。
犯人・林功夫が語った動機と古畑の異例の行動
古畑と林による緊迫した心理戦の末、古畑は殺人事件の証拠を引き出し、さらにダミーコードを見抜いて正しいコードを切らせることに成功。爆破事件は未遂に終わる。
古畑は、3000万円という金銭目的の犯行はフェイクだと見抜いており、連行される直前の林に「真の動機」を問いただす。
邪魔なんだよ、あの観覧車。
あれのおかげで、時計台が見えなくなっちゃった。
だから排除を……。これが動機かな?
この身勝手な動機を聞いた古畑は、呆れたように首を振り、直後に林へ強烈なビンタを浴びせる。
犯人に対しては常に紳士的で、時に悪戯心や敬意さえ見せる古畑だが、直接手を上げたのは彼が唯一である。
このシーンに、視聴者は驚きと同時にある種の爽快感を覚えながら物語のエンディングを迎える。
――しかし、少し立ち止まって考えてほしい。
この動機を100%そのまま信じた場合、犯人の行動にはどうしても疑問が残ってしまうのだ。感じながら物語のエンディングを迎えるのである。だが、ちょっと待ってほしい。この動機を100%信じると、犯人の行動に疑問が生じてしまうのだ。
なぜ脅迫電話をかけたのか?動機と行動の矛盾
邪魔なんだよ、あの観覧車。
あれのおかげで、時計台が見えなくなっちゃった。
だから排除を……。これが動機かな?
繰り返しになるが、これが犯人自身の口から語られた動機である。
エピソードを見終えたあなたは、この時点で違和感を覚えなかっただろうか。
観覧車が邪魔なだけなら、脅迫電話をかける必要はまったくないのである。
観覧車を排除したいだけなら、黙って爆破すれば済む話だ。
それなのに林は、わざわざ遊園地に脅迫電話をかけ、さらにチケット売り場にも爆弾を仕掛け、「俺は本気だぞ」と言わんばかりにデモンストレーションまで行っている。
これは単なる排除目的の犯行とは思えないほど、手間とリスクをかけすぎている。
犯人の行動を整理すると見えてくる3つの不自然さ
考えられる理由を挙げてみよう。
- アリバイ作りのため?
⇒ 爆弾を仕掛けた時間が重要になるため、意味をなさない。 - 人的被害を避けるため?
⇒ それならなおさら、人のいない夜間に爆破すべきである。 - 動機を隠すため?
⇒ 隠したところで、脅迫と爆破では量刑に大きな差は出ないだろう。
やはり、「観覧車が邪魔だった」という動機だけでは、脅迫という行動が説明できない。
ここで重要なのは、犯人が語った動機が必ずしも真実とは限らないという点だ。
『古畑任三郎』の犯人たちは、最終的に誠実に動機を語ることが多い。しかし、林功夫だけは違う。最後までどこか捻くれた態度を崩さず、セリフの端々からもそれが伝わってくる。
「これが動機かな?」という台詞に感じる違和感【セリフ考察】
注目すべきは、「それが動機です」ではなく、**「これが動機かな?」**と言っている点である。
X(旧Twitter)上でやりとりをした、やっぱり古畑任三郎が好き(YappariFuruhata)氏も動機に関する違和感を覚えている。
「それが動機です」じゃなくて「それが動機かな」ですもんね。
100%の動機ではないのかもしれませんね。
(2021年8月18日『やっぱり古畑任三郎が好き』様のツイートより)
林の言葉には断言がなく、自分に言い聞かせているような浮遊感がある。
行動が先で動機が後から生まれた可能性
まるで、行動が先にあり、動機は後から取って付けたかのようだ。
ここで考えられるパターンを整理する。
- 動機は観覧車を爆破すること
- 動機は観覧車を爆破することではない
- 動機は観覧車爆破+別の動機がある
①は脅迫という行動と矛盾するため論外。
②は本人が「これが動機かな」と口にしている以上、除外する。
残る③――動機が複数あったと考えるのが最も自然である。
犯人が最後まで“騙し”に徹していた理由
Twitter上で、ボルドー(King_Bordeaux)氏から示唆に富んだ意見をいただいた。
“あの動機”が本当ならおかしいですよね。林功夫は終始“騙し”に徹しているから動機もフェイクなのでは?という気がします。半分は本当かもですが、半分(真の動機)は、爆弾のエキスパートとして犯罪によって自己顕示欲を満たそうとしたのでは。
(https://twitter.com/King_Bordeaux/status/1427883155604742145)より
半分の動機という点にはハッとした。また、作中の林の挑戦的な態度で『騙し』に徹しているという考えにも視野が広がる。『一つの事件に対し動機が一つでない』、観覧車も爆発させたいけどその他の動機を何かを考えていく。
マズローの欲求5段階説で読み解く林功夫の心理
誰かから脅されたわけでもないので、保身ではない。金銭面による犯行も古畑からフェイクだと見抜かれ、犯人も否定はしてないので除外とする。外的要因ではないと推測すると、自分自身のための犯行(内的欲求)である可能性が高いのである。

林は爆弾のエキスパートとして社会的地位を得ている。しかし、電子工学部助手という立場に満足していたかは疑問だ。
【尊厳欲求】
自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める欲求。尊重のレベルには二つある。低いレベルの尊重欲求は、他者からの尊敬、地位への渇望、名声、利権、注目などを得ることによって満たすことができる。
爆弾のエキスパートではあるが電子工学部助手というポジションである。もっと他者から認められたい、自分はもっと力があるのだと尊厳欲求を満たしたかった可能性がある。
【自己実現の欲求】
以上4つの欲求がすべて満たされたとしても、人は自分に適していることをしていない限り、すぐに新しい不満が生じて落ち着かなくなってくる。自分の持つ能力や可能性を最大限発揮し、具現化して自分がなりえるものにならなければならないという欲求。
『爆弾に関する知識を最大限に発揮して』事件を引き起こしたい願望があったのかも知れない。
犯人・林功夫のキャラクター性と観覧車を狙った理由【人物像】

最年少犯人・爆弾のエキスパートという立ち位置
天神大学電子工学部研究助手・林功夫は、古畑任三郎で登場する最年少犯人である。電子工学を専門にしており、その応用で爆発物に関しても高い知識を持ち合わせている。警視庁の爆弾処理のベテラン・左門から推薦を受ける程の専門家という立ち位置であった。
自らの研究室で作り上げた時限爆弾は、客が椅子に座った重みでスイッチが入る仕組みになっており、コード配線は「1989年ニューヨークのコロンバス・アベニューのテロで使われた爆弾と同じである」と、解説していた。
一方で、古畑任三郎からアリバイ証明やその友人はいるのかと尋ねられると、「いません!」と即答しており、孤独な人物像も浮かび上がる。
なぜ標的は観覧車だったのか?地理的・心理的理由
『爆弾騒ぎを起こして注目を浴びたい』、『爆弾を作り爆破させたい』など、単なるかまってちゃんであるならば、警備員から見つかった時点で自白をしていたはずである。だが警備員を殺害し、脅迫電話を掛け犯行を継続した。
爆弾を爆発させたいという欲求だけであるならば、チケット売り場を爆破していることから一応満足感は得ており、そのうえ単に観覧車を爆破させれば良い。それでもなお脅迫をして、最後には今泉と女性客を含む観覧車を爆殺しようとした辺りこだわる理由があるのだ。
観覧車に仕掛けた理由であるが、本人によると「目障りだったから」とのことだ。それ以外にも、彼は自転車で通勤をしている。天神大学から近距離にあり、移動しやすい位置にある遊園地『エキサイトパーク』の観覧車を第一候補に選んだわけである。
『爆弾のエキスパートとして犯罪により自己顕示欲を満たす』、『脅迫して警察が自分が作った爆弾を解体できるのか試す(できなければ観覧車は爆発)』等の動機だと仮定していく。 いずれにせよ動機に付属し観覧車も排除できるため、まさに絶好の標的だったわけだ。
『ゲームの達人』準備稿から読み解く隠された設定【裏設定考察】
『五代目メケメケ』様がTwitter上で公開していた、『ゲームの達人』の準備稿には、本編では使用されなかった設定やセリフが記載されており、次話『赤か、青か』を意識したような文章があることが伺える。
ゲームの達人の準備稿では、都心で犯行声明を出している『連続爆弾魔ゴンドー』という構想があったようだ。残念ながらドラマ化した際にはカットされており、この構想はお蔵入りとなってしまった。
爆弾処理のベテラン・左門と林功夫の過去を妄想する
さて、『赤か、青か』で名前だけ登場する人物がいる。『警視庁のベテラン爆弾処理班・左門』である。映画『ジャガーノート』の主人公「ファロン中佐」=「左門」というもじりだと思われるが、ストーリーの骨格もこの映画から影響を受けているのだ。左門と林功夫の2人は、準備稿にあった『連続爆弾魔ゴンドー事件』で知り合ったと推測する。
古畑のポジションは、爆弾解体にあたる『ファロン中佐』+犯人を追う『ジョン・マクロード警視』に当たり、暮陸の位置に左門がいるはずであった。だが左門は「ブリタニカ号爆破事件」で耳をやられて現場に来られなくなったため、代わりに犯人の林が彼の推薦により急遽現場に呼ばれている。
- 孤独な林青年を認めてくれた左門が現場で負傷したため、不甲斐ない警察組織に対する復讐。
- 左門から爆発物の知識で認められ自己顕示欲を満たすために犯行に及んだ。
- 爆弾魔に感化され自分でも爆弾を作ってみたくなった。
- 左門に(左門が負傷して不在である警察に)自分の爆弾を解体できるのか?
等、三谷幸喜氏の中ではこうバックグラウンドを立てていたのかも知れない。
犯人の真の動機とは何だったのか?3つの仮説【結論】
犯人が最後に語った動機を100%信用するならば、この事件の脅迫電話を掛けるという行動には矛盾が生じるのである。しかし、『一つの事件に対して動機が二つあった』と考えると、その矛盾は否定できる。
まとめると以下が林の動機だったと仮定する。観覧車を爆発させたいのが目的の場合、そうでない場合の3種類となる。
仮説➀ 爆弾のエキスパートとして自己顕示欲を満たしたかった
テロで使用した爆弾にも精通しており、自分で爆弾を作ってみたかったのではないか。自己顕示欲を満たすため、単に爆発させるのではなく、脅迫することで自分の爆弾に注目を向かせたかった。
仮説➁ 警察への挑戦
警察が解体できなければ爆破――
これは明確な「挑戦」であり、林の性格にも合致する。
爆弾には絶対の自信があったが、古畑からダミーコードまで見抜かれ解体されてしまう。自分のプライドを守るために、観覧車を爆発させたかったと強がってみせた。
「友情ってのは俺の場合、ちょっと違うかもしんないすね。しいて言えば挑戦かな?
『古畑任三郎vsSMAP』木村拓哉の台詞より引用
あ、坂本龍馬っているじゃないですか。彼って別に日本の将来のことを考えて頑張ったんじゃないと思うんですよね。ただ自分で新しいことがやりたかっただけなんじゃ」
『古畑任三郎vsSMAP』においては、古畑が「あなたのようなタイプが最もボロを出すことを経験から知っています」と、同じ逆トリックで嵌められた犯人・木村拓哉に聞かせるメタ的な演出がある。林功夫も同じタイプであると率直に受け止めると、今回の脅迫も何らかの挑戦だったのではないか?
仮説③ 恩師・左門を負傷させた警察への復讐
爆発物のエキスパートでありながらも孤独だった林青年だが、その才能を高く評価したのが左門である。そんな左門は「ブリタニカ号爆破事件」で耳を負傷している。
以下、白樺香澄(kasumishirakaba)氏の考察である。
左門さんの負傷が警察の指揮のミスによるもので、かつ現場復帰が絶望的な重傷だったとしたら。左門さんに私淑していた林は、エキサイトパークに「左門さんの腕なら確実に無力化できた」爆弾を設置し、かつ左門さんのいない警察に解体に失敗させることで、「警察が失ったものの大きさとその罪」に向き合わせようとしたのではないでしょうか?
古畑任三郎がビンタをした本当の理由【エンディング考察】
古畑は、最後に語られた動機が嘘であることを見抜いていたのだろう。
あのビンタは、最後まで素直になれない犯人に対する、教育的指導としての行為だったのではないか。
「あなたはメカのプロかもしれないが、私は人の心を読むプロです。
あなたが考えていることなんか、お見通しです」
この言葉こそが、本事件の本質を端的に表している。
振り返ってみると、犯人・林青年は終始、自分の本心を隠し、古畑と深く関わろうとしなかった。
上辺だけの挑発的な態度、相手を小馬鹿にするような物言い、そして古畑を「おっさん」と呼ぶしまつ――。
最後の動機を聞いた瞬間、古畑は「これも嘘だ」と即座に見抜いたのだろう。
最後の最後まで虚勢を張り、嘘を重ねる犯人に対して、言葉ではなく行動で伝える必要があると判断した。その結果が、あの一発のビンタだったのではないか。
後日談『消えた古畑任三郎』では、林は古畑を「暴力刑事」だと思っていたことが明かされる。
しかし彼もまた「古畑の心を読み」、あの行為が単なる暴力ではなく、**自分の心を見抜いたうえでの“愛のムチ”**だったことを理解したのだろう。その結果、良心を取り戻し、現在は模範囚となっているのだ。
「人を見かけで判断するな」とよく言われるが、現実には人はどうしても表面で判断してしまう。
「根はいいやつ」という言葉があるように、本質は往々にして外からは見えにくい。
もし犯人の語った動機を鵜呑みにしてしまえば、我々視聴者もまた、古畑から
「このバカたれがぁ!」
と、『古畑任三郎 vs SMAP』で見せた、デコを叩かれる教育的指導を受けることになるだろう。
人の言葉だけでなく、心の内を読むこと。
それこそが、このエピソードが視聴者に投げかけた問いだったのではないだろうか。
改めて問いたい。
問題――「『赤か、青か』の犯人の動機は、何だったのでしょう?」
ご意見やお知恵をお待ちしております。
以上、【犯人の動機と行動が矛盾してる問題についての考察】でした。



コメント
失礼します
再放送(7月3日)されたので、確かめました
爆弾を仕掛けるために乗り込んだのは「太陽」のゴンドラ
この間にゴンドラは移動 カギを探して降りたのは「月」のゴンドラです
翌日
今泉が乗っているのは「月」のゴンドラ
女性が乗っているのは「太陽」のゴンドラ
犯人は「太陽」のゴンドラに爆弾があると考え、行動しています
実際に爆弾が発見されカギも発見されたのは「今泉の乗ったゴンドラ」
ストーリとして間違ってないですか?
再放送ファンさま
疑問点ありがとうございます。私も再度確認しました。
結論から述べますと、今泉が乗ったゴンドラは『太陽』でした。
>>爆弾を仕掛けるために乗り込んだのは「太陽」のゴンドラ
>>この間にゴンドラは移動 カギを探して降りたのは「月」のゴンドラです
ここは間違いございません。1号車『太陽』に爆弾を設置&カギを紛失。
犯人が戻って来る間、2号車『月』に移動します。
>>翌日今泉が乗っているのは「月」のゴンドラ
>>女性が乗っているのは「太陽」のゴンドラ
ここが正しくは、今泉が『太陽』のゴンドラ。女性が『月』のゴンドラになります。
そのため、今泉の乗ったゴンドラで爆弾とカギが発見されており、物語の流れに問題はありません。
>>犯人は「太陽」のゴンドラに爆弾があると考え、行動しています
この点なのですが、犯人は『月』のゴンドラに爆弾を設置したと思い込んでいます。鍵を紛失した際、最後見たのが月のゴンドラであり、現場にて双眼鏡で見ていたのも月のゴンドラでした。そのため会話の矛盾が生まれ、よほど月のマークが印象に残っていたようだと古畑からも指摘されております。