古畑任三郎の台本を読む|笑える死体

今回読んでいく古畑任三郎の台本は、1994年4月27日放送の第1シーズン3話『笑える死体』です。

脚本家・三谷幸喜みたに こうきさん&プロデューサー・石原隆いしはら たかしさんによると、最初の撮影が「笑える死体」だと語っていました1

古畑が『セリーヌ』の自転車で登場したり、部下・今泉慎太郎いまいずみ しんたろうにデコパッチンをするなど、後のエピソードにも影響を与える要素が出ており、ドラマを方向づける意味でも重要なエピソードになっていると思います。

同時に古畑の貴重な喫煙シーンが見れるのは本作だけ!

簡単なあらすじとともに、台本と本編に違いがなかったのかを読んでいきましょう。

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簡単なあらすじ

精神科医・笹山アリ(古手川祐子)は、クリニックの元患者・田代慎吾(羽場祐一)と恋人関係にありましたが、田代は別の女性と婚約をしてしまいます。そこで笹山は自分を振った田代に復讐するため、人を驚かせるのが好きな彼の性格を利用しました

誕生日を祝うためにやって来た田代を部屋から閉め出すと、彼がストッキングを被りベランダから入ってくるように誘導するとバットで撲殺し、自分の部屋に強盗が押し入ったように装うことで正当防衛による殺人を主張します。

台本の外観

ドラマと比較1(年齢設定)

台本では田代慎吾(羽場祐一)の年齢が27歳でしたがドラマでは年齢が違います。

  • 田代慎吾の免許証にある生年月日は「昭和38年9月17日」
  • 東急ハンズで事件日に買ったレシートが「1994年3月16日」

昭和38年=1963年ですので、『31歳』と笹山アリより年上の設定に変更されていました。

余談ですが小説版では、笹山アリ=34歳。田代慎吾=27歳(7歳年下)となっています。

ドラマと比較2(デコパッチン)

古畑任三郎の第3話『笑える死体』ですが、古畑が今泉のおでこを叩く『デコパッチン』がはじめて登場する回になっています。

上記画像は、これから被害者は泥棒するつもりだったのに、わざわざ靴をベランダで揃えてから室内に入ったことを疑問に思い、そのことを今泉に尋ねる場面です。

ドラマでは、今泉が「クラリーノ」と靴のメーカーを答えた直後、古畑からデコパッチンを食らうのですが、台本ではそのような指示がありません。じつは撮影の際に田村正和さんが入れたアドリブだったそうです2

このアドリブが脈々と脚本制作にも受け継がれ、古畑が今泉から満足のゆく回答を得られなかったり不満をぶつける度にデコパッチンを披露していますね。総集編『消えた古畑任三郎』では、今泉がデコパッチンを愛のムチとして捉えているという台詞にもなっています。

ドラマと比較3(ビデオカメラの映像)

台詞に関しては本編と変わりはなく、ほとんどが台本通りのセリフ回しになっていました。しかし展開については、笹山アリのクリニックで古畑が会話した際のとあるやり取りがカットされています。

それは今作でも印象に残る、古畑がストッキングを頭から被りタバコを吸うシーンの後に続きます。

古畑「夜中にゴミ出す人が多いんで、マンションの管理人さんが隠しカメラをセットしたんです」

ドラマでは笹山アリが犯行直後、田代の用意した料理やパーティーグッズを黒いゴミ袋にまとめて、マンション内にあるゴミ置き場に捨てに行くという場面がありました。

実はこの部分がビデオカメラの映像として残っており、古畑がダビングしたビデオテープの映像を犯人に見せ、ゴミを出した時間について揺さぶるアイディアが台本の段階では残されていたのです。

その後は古畑と犯人が料理をするシーンのなかで、隠しカメラの映像に映っているタンスを調べると、2階の16号室の住人・岩崎さんが夜中の2時半頃に捨てたものであり、犯人は被害者の殺害後、ゴミを捨ててから警察に通報したことが証明され、改めて大した度胸の持ち主であると古畑から言われます。

まとめ

最初に書かれた原稿を「初稿」と言いますが、今回読んだ台本は「改訂稿」になります。関係者とやり取りをしながら要望や改善点などを吟味し、脚本家・三谷幸喜さんが加筆修正による微調整を行うことでドラマとしての完成度を高めた内容にしたのだと思います。

そんな中でも、『ビデオカメラの映像』という犯人を揺さぶるための展開がドラマ本編からは削除されていることが分かりました。

三谷幸喜さんが改訂版で加筆してなければ、おそらく初稿から残しておきたかったアイディアであり、古畑任三郎の世界でもカメラ映像が存在するのだということが個人的に驚きました。

というのもドラマでは監視カメラや隠しカメラが一度も登場しないのです。小説版第2作『殺意の湯煙』(2022年)で初めて物語の一部として組み込まれています。新聞連載作品でしたが、「三谷幸喜のありふれた生活(18)」にも収録されましたので未読の方はおススメです。

と色々書きましたが、デアゴスティーニ『古畑任三郎DVDコレクション(2)』では、台本にはビデオカメラの映像という設定があったこと、関係者の撮影時にあった思い出話がたくさん紹介されています。そちらをメインとしたうえで、本記事はどういった流れだったのかを知る参考程度になれば幸いです。

ちなみにデアゴスティーニになかった情報としては、ダビングしたビデオテープに古畑が下手くそなカードマジックを披露している映像が残っており、犯人から呆れられるという小ネタがありました。

以上、『古畑任三郎の台本を読む|笑える死体』でした。

参考・引用資料

  • 三谷幸喜『古畑任三郎 殺人事件ファイル』フジテレビ出版、1994年
  • ハヤカワミステリマガジン『カムバック、古畑任三郎( №752)』早川書房、2022年
  1. 町田暁雄 編『刑事コロンボ読本』洋泉社、2018年、p275 ↩︎
  2. デアゴスティーニ『古畑任三郎DVDコレクション(2)』2022年、p4 ↩︎

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