当時現役野球選手のイチロー氏が犯人役で登場するエピソードである。脚本・三谷幸喜氏と、演出・河野圭太氏へのインタビューによると、犯人にするにあたり配慮をしたそうで、アメリカで成功した寿司職人にしようかとも考えてようである。
最終的には、向島巡査との腹違いの弟という苦しい設定ではあるが、逆にフィクションであることを全面的に押し出す狙いもあったのだろう。
イチロー選手からは、『嘘をつきたくない』『フェアで行きたい』『銃や刺殺などはNG』など要望があったようだ。イチロー選手自身は古畑任三郎の大ファンであり、セリフ合わせの段階で、ほとんど最後まで暗記していたようだ。
データ
あらすじ+人物相関図
古畑任三郎とも公私を共にした向島音吉は、現在はホテルの警備員になっていた。フリーライター・郡山繁から強請られ、警察官の給料だけでは到底払い切れなくなったからだ。郡山を殺害し自殺するつもりであったが、腹違いの弟でメジャーリーガー・イチローが兄に代わり殺害を決意する。
その方法とは、一方的に殺すのではなく、用意した毒薬入りと蜂蜜入りのカプセルを互いに飲むというものであった。生き残ったイチローは、自身への手がかりとなるマッチの箱を助手席に残しその場を立ち去った。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:イチロー
役者:イチロー
職業:メジャーリーガー
メジャーリーガーである男性。腹違いの兄・向島音吉が、フリーライター・郡山繁から強請られており、自身が代わりに郡山の殺害を決意。自身も死ぬかも知れないフェアな方法で毒殺を決行した。
今回の被害者:郡山 繁(こおりやま しげる)
役者:今井朋彦
職業:フリーライター
フリーライターの男性。男性向け雑誌で風俗関係の記事を主に書いており、暴力団がらみの取材も行っていた。そんな折、向島に関する弱みを握ると腹違いの弟・イチローがいると調べ上げそれをネタに強請りを行った。
小ネタ・補足・元ネタ
〇ホテルのロケ地は、『ホテル オークラ東京ベイ』である。
〇向島によると、持っていた毒薬(ストリキニーネ)は、「警察にいた時の知り合いからくすねてきた」と語っている。向島も登場するミニドラマ『今泉慎太郎』の5話「慎太郎危機一髪」で、科学捜査研究所の桑原万太郎が持っていた毒薬である。彼からくすねたのだろう。
刑事コロンボからのオマージュ
まとめ
犯人側の犯行から描かれる倒叙形式のため、豪華な役者を犯人として起用することができる。通常のミステリーであるならば豪華なゲストは高確率で「犯人」である可能性が高い。それをミスリードとして、他のパッとでの登場人物を犯人にしたら「誰だお前」状態になってしまい興ざめである。
今回の事件は(当時)現役野球選手・イチロー氏をゲストに迎えた非常にキャッチーなエピソードだ。「客寄せパンダ的でしょ?」と思って観てみると、普通にイチロー氏の演技が上手いのである。
同情を受ける犯人にするために、被害者を悪党にするという『古畑任三郎vsSMAP』のような動機にし、『笑わない女』などの犯人側のルールを理解してゲームに臨むという構成になっている。
殺人もフェアでなければならないという信念の元、片方に毒薬が入ったカプセルを選ばせ、残ったほうのカプセルを自身でも服用するという体を張ったトリックだ。
毒薬を強制的に飲ませるのではなく、自身の命をかけた犯行であることが卑劣な殺人者というイメージから視聴者を遠ざける狙いがあったのだろう。
ミステリーとしては最初のとっかかりが上手い。助手席の下に落ちていた駐車券、足で消された吸いかけのタバコ、マッチがあるのに何故シガーライターを使用したのか。1つの謎が次の謎となり、最後にはイチローが事件に関与しているということが判明する流れは非常に美しい。
以上、『フェアな殺人者』でした。
野球で走者に気づかれないように野手がボールを隠し、走者が塁から離れた時に触球して走者をアウトにするトリックプレイを、俗に「隠し球」と言いますが、
この回は、犯人が「隠し球に引っ掛かる」さまを描いたもので、国民的野球選手をゲストスターに起用したに相応しい脚本だったと、15年ぶりに思いました
(イチロー自身も、本業で隠し球に引っ掛かったことが一度だけあります)
総督D様
コメントありがとうございます!
≫犯人が「隠し球に引っ掛かる」さまを描いたもの
上手い表現ですね‼ まさに野球選手の犯人を落とす見事な詰め手だったと感じます。
≫(イチロー自身も、本業で隠し球に引っ掛かったことが一度だけあります)
1回あるんですね。こちら初めて知りました!