古畑任三郎『赤か、青か』犯人の動機と行動が矛盾してる問題についての考察

古畑任三郎 17話 赤か、青か

問題「『赤か、青か』の犯人の動機は何だったでしょう?」

古畑任三郎 第2シーズン4話『赤か、青か』は、「木村拓哉」氏をゲストスターに迎え、再放送が中々されないことでも有名なエピソードになっている。さて、リアルタイムでご覧になられたり、数少ない再放送、DVDで観たことがある視聴者の中には、ある違和感を覚える描写が存在する。

それは、『犯人の動機と行動の矛盾』についてである。この記事では、この点を考察し、筋が通るように妄想を膨らまさせていきたいと思う。今回のテーマは動機にも触れるため、未視聴の方はネタバレ注意です。

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犯人の動機を信じると浮かぶ疑問点

まずは、簡単なあらすじを記載する。

古畑任三郎 赤か、青か 人物相関図

『天神大学電子工学部研究助手・林功夫は、真夜中に遊園地『エキサイト・パーク』に侵入して、観覧車に手製の時限爆弾を仕掛ける。帰り際、見回りに来ていた警備員・真鍋茂に見つかり殺害してしまうのである。

翌日林は、遊園地に時刻まで現金を用意しなければ観覧車を爆発するという脅迫電話を掛ける。ベテラン爆弾処理班・左門が解体作業を行う予定であったが、前回の現場で負傷していた。代わりに爆弾のエキスパートとして林が推薦され、皮肉にも自身が爆弾を仕掛けた遊園地に出向くことになる。

一方、古畑は警備員殺しの事件で遊園地に訪れており、今泉は爆弾が仕掛けられた観覧車に乗ってしまう。時刻までに事件を解決しなけらば今泉の命はない。古畑は林の言動に対し、殺人事件と爆弾を仕掛けた張本人であると早々に見抜いたのであった。』

古畑と林による緊迫の心理戦。殺人事件の証拠を引き出し、ダミーコードも回避して、正しいコードを切らせたことで爆破事件を未遂に終わらせたのである。古畑は3000万円という金目当ての犯行はフェイクだと考えており、連行される前の林に事件の真の動機について訊ねるのだ。

邪魔なんだよあの観覧車。あれのおかげで、時計台見えなくなっちゃった。
だから排除を……。これが動機かな?

この身勝手な動機を聞いた古畑任三郎は、呆れたように首を振り、直後に林へ強烈なビンタをお見舞いする。犯人に対しては極めて紳士的、時に悪戯心、尊敬や親しみをもって接するのだが、彼に限っては唯一お灸をすえる形で”手をあげた”のだ。

この古畑の行動に対し、我々視聴者は驚きと同時に爽快感を感じながら物語のエンディングを迎えるのである。だが、ちょっと待ってほしい。この動機を100%信じると、犯人の行動に疑問が生じてしまうのだ。

わざわざ脅迫をしたという矛盾点

邪魔なんだよあの観覧車。あれのおかげで、時計台見えなくなっちゃった。
だから排除を……。これが動機かな?

繰り返しになるが、これが犯人の語った動機となる。エピソードを視聴し終えたあなたは、違和感にお気づきだったろうか? わざわざ遊園地に脅迫電話を掛ける意味がないのである。

観覧車が狙いなら単に爆発して排除すればいい。リスクを冒してまで脅迫をする必要がないのだ。ご丁寧にチケット売り場にも爆弾を仕掛けており、「俺は本気だぞ」と言わんばかりにデモンストレーションで爆破してみせた徹底ぶりである。

アリバイ作りのため?⇒爆弾を仕掛けた時間が重要なので意味をなさない。
人的被害を避けるため?⇒なおさら人がいない夜間で爆破させるべきである。
動機を隠すため?⇒隠したところで脅迫と観覧車を爆破するでは量刑に違いはないだろう。

なぜわざわざ脅迫したのか。犯人が語る動機を信じると必ず矛盾が生じるが、犯人が語る動機が真実とは限らないのである。古畑任三郎の犯人は、最後には誠実実直に動機を語って聞かせてくれるのだが、この林青年は、最後まで捻くれていることがセリフから見えてくるのだ。

動機を語る台詞の違和感

邪魔なんだよあの観覧車。あれのおかげで、時計台見えなくなっちゃった。
だから排除を……。これが動機かな?

再三に渡る掲載であり、「もういいよ」と思いたくなるのをこらえてほしい。

「それが動機です」じゃなくて「それが動機かな」ですもんね。100%の動機ではないのかもしれませんね。
2021年8月18日15:52『やっぱり古畑任三郎が好き』様のツイートより引用

違和感の正体である。林の語る動機に浮遊感があるのだ。「です」「だよ」等と断言はしておらず、『かな』と自分に言い聞かせている感じがあり、『動機の言語化』が済んでいなかった状態だったように感じる。行動が先で動機が後からできたのか?

ここで3つのパターンが浮かび上がる。

➀動機は観覧車を爆発させること。
➁動機は観覧車を爆発させることではない。
➂動機は観覧車を爆発させること、他にも動機がある。

➀に関しては、わざわざ脅迫をしている点で論外である。
➁に関しては、犯人は「これが動機かな」と口に出しているためひとまず除外とする。

残るは➂で、『観覧車を爆破するという動機もあるけれど、それ以外にも目的はあった』こう考えるのが自然であり、わざわざ脅迫電話を掛けるという犯人の行動に矛盾が生じない。動機がもう一つあったと考えると筋が通るのだ。この仮定で整理していく。

もう一つの動機とはなんであったのか?

半分の動機という点にはハッとした。また、作中の林の挑戦的な態度で『騙し』に徹しているという考えにも視野が広がる。『一つの事件に対し動機が一つでない』、観覧車も爆発させたいけどその他の動機を何かを考えていく。

誰かから脅されたわけでもないので、保身ではない。金銭面による犯行も古畑からフェイクだと見抜かれ、犯人も否定はしてないので除外とする。外的要因ではないと推測すると、自分自身のための犯行(内的欲求)である可能性が高いのである。

ボルドー様の、『爆弾のエキスパートとして犯罪により自己顕示欲を満たす』という意見に賛同していく。

マズローの欲求5段階説』である。社会的欲求に関しては、電子工学部助手として自らの研究室も持っている。ベテラン爆弾処理班からも推薦を受けるぐらい、爆発物のエキスパートとしての社会的地位を得ているので、これは満たしているのではないだろうか?

【尊厳欲求】
自分が集団から価値ある存在と認められ、尊重されることを求める欲求。尊重のレベルには二つある。低いレベルの尊重欲求は、他者からの尊敬、地位への渇望、名声、利権、注目などを得ることによって満たすことができる。

爆弾のエキスパートではあるが電子工学部助手というポジションである。もっと他者から認められたい、自分はもっと力があるのだと尊厳欲求を満たしたかった可能性がある。

【自己実現の欲求】
以上4つの欲求がすべて満たされたとしても、人は自分に適していることをしていない限り、すぐに新しい不満が生じて落ち着かなくなってくる。自分の持つ能力や可能性を最大限発揮し、具現化して自分がなりえるものにならなければならないという欲求。

『爆弾に関する知識を最大限に発揮して』事件を引き起こしたい願望があったのかも知れない。

犯人のキャラクター性と観覧車を標的にした理由

古畑任三郎 赤か、青か 林功夫

天神大学電子工学部研究助手・林功夫は、古畑任三郎で登場する最年少犯人である。電子工学を専門にしており、その応用で爆発物に関しても高い知識を持ち合わせている。警視庁の爆弾処理のベテラン・左門から推薦を受ける程の専門家という立ち位置であった。

自らの研究室で作り上げた時限爆弾は、客が椅子に座った重みでスイッチが入る仕組みになっており、コード配線は「1989年ニューヨークのコロンバス・アベニューのテロで使われた爆弾と同じである」と、解説していた。

古畑任三郎からアリバイ証明やその友人はいるのかと尋ねられると、「いません!」と言い返しており、(アリバイ証明できる?)友人はいないのかも知れない。


上記が犯人のキャラクター設定である。高度な専門的知識をもっており、テロで使用した爆弾についても記憶している。反面、社交性の無さなのか、周りとは自ら距離を置いているのか友人は一人もいないようだ。

『爆弾騒ぎを起こして注目を浴びたい』、『爆弾を作り爆破させたい』など、単なるかまってちゃんであるならば、警備員から見つかった時点で自白をしていたはずである。だが警備員を殺害し、脅迫電話を掛け犯行を継続した。

爆弾を爆発させたいという欲求だけであるならば、チケット売り場を爆破していることから一応満足感は得ており、そのうえ単に観覧車を爆破させれば良い。それでもなお脅迫をして、最後には今泉と女性客を含む観覧車を爆殺しようとした辺りこだわる理由があるのだ。

観覧車に仕掛けた理由であるが、本人によると「目障りだったから」とのことだ。それ以外にも、彼は自転車で通勤をしている。天神大学から近距離にあり、移動しやすい位置にある遊園地『エキサイトパーク』の観覧車を第一候補に選んだわけである。

『爆弾のエキスパートとして犯罪により自己顕示欲を満たす』、『脅迫して警察が自分が作った爆弾を解体できるのか試す(できなければ観覧車は爆発)等の動機だと仮定していく。 いずれにせよ動機に付属し観覧車も排除できるため、まさに絶好の標的だったわけだ。

『ゲームの達人』の準備稿にあった設定から妄想する

『五代目メケメケ』様がTwitter上で公開してくださった、大変貴重な『ゲームの達人』の準備稿である。準備段階のため、本編では使用されなかった設定やセリフが記載されており、次話『赤か、青か』を意識したような文章があることが伺える。

ゲームの達人の準備稿では、都心で犯行声明を出している『連続爆弾魔ゴンドー』という構想があったようだ。残念ながらドラマ化した際にはカットされており、この構想はお蔵入りとなってしまった。

さて、『赤か、青か』で名前だけ登場する人物がいる。『ベテラン爆弾処理班・左門』である。映画『ジャガーノート』の主人公「ファロン中佐」=「左門」というもじりだと思われる。ストーリーの骨格もこの映画から影響を受けているのだ。

古畑のポジションは、爆弾解体にあたる『ファロン中佐』+犯人を追う『ジョン・マクロード警視』に当たる。また、暮陸の位置に左門がいるはずであった。

しかし、左門は「ブリタニカ号爆破事件」で耳をやられて現場に来られなくなったため、代わりに犯人・林が彼の推薦で急遽現場に呼ばれている。では、左門と林功夫はどこで知り合ったのか? 準備稿にあった『連続爆弾魔ゴンドー事件』ではないだろうか。

左門から爆発物の知識で認められ、より自己顕示欲を満たすために犯行に及んだ爆弾魔に感化され自分でも爆弾を作ってみたくなった。左門に自分の爆弾を解体できるのか? 等、三谷幸喜氏の中ではこうバックグラウンドを立てていたのかも知れない。

色々考えて辿り着いた動機

犯人が最後に語った動機を100%信用するならば、この事件の脅迫電話を掛けるという行動には矛盾が生じるのである。しかし、『一つの事件に対して動機が二つあった』と考えると、その矛盾は否定できる。

まとめると以下が林の動機だったと仮定する。観覧車を爆発させたいのが目的の場合、そうでない場合の2種類となる。

➀『爆弾のエキスパートとして犯罪により自己顕示欲を満たしたかった説
テロで使用した爆弾にも精通しており、自分で爆弾を作ってみたかったのではないか。自己顕示欲を満たすため、単に爆発させるのではなく、脅迫することで事件や自分の爆弾に注目を向かせた

➁『警察(自分)への挑戦説』
爆弾を作り警察が解体できるか試しできなければ観覧車はついでに排除できる。爆弾には絶対の自信があったが、古畑からダミーコードまで見抜かれ解体されてしまう。自分のプライドを守るために、観覧車を爆発させたかったと強がってみせた。

「友情ってのは俺の場合、ちょっと違うかもしんないすね。しいて言えば挑戦かな?
あ、坂本龍馬っているじゃないですか。彼って別に日本の将来のことを考えて頑張ったんじゃないと思うんですよね。ただ自分で新しいことがやりたかっただけなんじゃ」

『古畑任三郎vsSMAP』木村拓哉の台詞より引用

『古畑任三郎vsSMAP』においては、古畑が「あなたのようなタイプが最もボロを出すことを経験から知っています」と、同じ逆トリックで嵌められた犯人・木村拓哉に聞かせるメタ的な演出がある。林功夫も同じタイプであると率直に受け止めると、今回の脅迫も何らかの挑戦だったのではないか?

まとめ

「あなたはメカのプロかもしれないが、私は人の心を読むプロです。
あなたが考えていることなんかお見通しです。」

古畑任三郎が犯人の嘘を完膚なきまでに見破った際のセリフである。思えば、犯人・林青年は心の内を秘め、あまり古畑に関わろうとしなかった。上辺だけで相手を小馬鹿にしたような言動、古畑へも「おっさん」呼ばわりである。

最後の動機を聞いた瞬間『これも嘘である』と古畑は見抜いたのであろう。最後の最後まで嘘を重ね素直になれない犯人に対して、教育的指導も兼ねた”アクション”を起こしたのである。

後日談『消えた古畑任三郎』において林は、「暴力刑事」だと思っていたようであるが、彼もまた『古畑の心を読み』愛のムチであったことを理解したのであろう。そのおかげで良心を取り戻し、現在は模範囚となっているのだ。

『人を見かけで判断するな』と言われているぐらい、見た目は重要である。『根は良いやつ』とは言うがまず人は表面を重視する。

今回、犯人の動機を鵜呑みにすると、古畑から、「このバカたれがぁ」とデコを叩かれる教育的指導を受けることになるだろう。「心の内や考えを読む」そういった力が我々視聴者にとっても必要であったのだ。

今一度、尋ねたい。問題「『赤か、青か』の犯人の動機は何だったでしょう?」
この記事の動機は確証がありません。その他こういった動機ではないかとお考えのあなた。ご意見やお知恵をお待ちしております。

以上、【犯人の動機と行動が矛盾してる問題についての考察】でした。