【VS.ピアニスト】「自分が人に嫌われてんじゃないかって心配している皆さん、安心してください。そういう場合は大抵本当に嫌われています。問題なのは自分が人に嫌われているのが分かってない人の方で…」
データ
あらすじ+人物相関図
塩原音楽学院理事長・河合健は、翌日の音楽葬のためホールでピアノのリハーサルを行っていた。ピアニスト・井口薫は、そこをスタンガンで襲撃、心臓に持病があった河合をショック死させた。その時、最低音Dのピアノ弦が切れてしまうのを発見する。
遺体はその晩に発見され、音楽学院の理事たちはピアニストの代役を見つける必要があった。そこで、代役を頼んだのが世界的ピアニストの井口薫である。だが、発言や言動がキツく、威圧的にも感じる彼女の性格は、音楽院の関係者にとって怖い存在でもあった。
井口は音楽院関係者に、コンサートホールにあるピアノの調律をするように促すが、彼女とは関わりたくない関係者たちは、なるべく接触をしないようにしてしまう。そんな中で音楽葬が始まると、井口は予定されていた『追想のレクイエム』ではなく、なぜか『北京の冬』を演奏したのだった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:井口薫(いぐち かおる)
役者:木の実ナナ
職業:ピアニスト
殺害方法:ショック死(スタンガン)
動機:ピアノを演奏するため
今回の被害者:河合健(かわい けん)
キャスト:中丸新将(なかまる しんしょう)
職業:学院理事
犯行計画
【スタンガンで襲撃しショック死させる】
①塩原音楽学院理事長・河合健は、翌日の音楽葬で弾く『追想のレクイエム』をホールで練習していた。そこを、ピアニスト・井口薫はスタンガンで襲撃。元々、心臓に持病があった河合をショック死させた。その時、最低音Dの弦が切れてしまう。
②遺体は見回りに来た守衛に発見される。井口はツアーでニューヨークに行く予定であった。空港に向かう途中に、代役として呼び戻される。音楽葬で河合の代役として、『追想のレクイエム』を弾くことになる。
視聴者への挑戦状
「えー、井口薫は河合健を殺害しました。方法はスタンガンによるショック死。証拠はありません残念ながら。しかし、彼女はひとつボロを出しました。彼を殺害したのが自分であると知らず知らずのうちに告白していたのです。考えてみて下さい。解決編はCM後に、古畑任三郎でした」
三幕構成
小ネタ・補足・元ネタ
〇故・塩原一郎の代表曲は『追想のレクイエム』であると、ほとんどの登場人物が話す。しかし、冒頭で河合健がピアノを弾きながら見ていた楽譜には『追悼のレクイエム』と表記されている。この曲は架空の曲である。また、井口が弾いた『北京の冬』も架空の曲となっている。
〇塩原音楽院のエレベーター制御装置は、第2話『動く死体』で使用された「すっぽん」の制御装置と同じ小道具であり再利用したようだ。
〇古畑任三郎が、井口薫を犯人だと思った瞬間『旅行カバンが軽すぎました。ハナから旅行なんか行くつもりなかったんです。嘘ででももう少し詰め込んでおくべきでしたね』は、同人ゲーム『探偵 蜘賀美種子の推理』エピソードⅡに、そのまま引用されている。
〇ピアニスト・中村紘子氏が、日本経済新聞紙上で連載していたエッセイに、エピソードのリアリティのなさを突っ込まれている。①コンサート用グランドピアノの一番低いD音の弦が切れることはない。②演奏の邪魔になりそうな服をリハーサルの段階でも着ている。③音楽葬で弾く代表曲『追想のレクイエム』が名曲に感じないなどなど、ノベライズ版「古畑任三郎」のあとがきでは、三谷幸喜氏は指摘され「恥ずかしかった」とつづっている。なお、中村紘子氏の文章は『どこか古典派』というエッセイ集で読むことが出来る。
まとめ
三幕構成でストーリーを分解してみると事件よりも、井口薫の性格、音楽院内での立場、経営方針に関する不信感など、犯人に関する事柄で進んでいきます。古畑が犯人を追い詰めるといった推理も少なく、犯人主体のエピソードと言えるでしょう。その犯人役に存在感のある木の実ナナさんが演じ、印象的な作品でもあります。
「自分が人に嫌われてんじゃないかって心配している皆さん、安心してください。そういう場合は大抵本当に嫌われています。問題なのは自分が人に嫌われているのが分かってない人の方で…」というアバンタイトルの通り、『嫌われ者』がテーマです。
序盤は徹底して『嫌われ者』として井口薫が描写されています。また、薫自身も学院関係者に威圧的な態度や、強い口調・言動であり横柄な人物のように見えます。しかし、彼女なりの信念をもってそういった態度をしていました。純粋に音楽に一生を捧げた塩原先生の意思を守るべく。
犯人・井口薫が尊敬する師、塩原一郎の音楽葬でピアノを演奏することになったのは、金儲け主義に走った現理事長・河合建です。そんな人物が音楽葬で演奏するのは許せなかった。尊敬する師のため殺人を犯し、自分自身が『追想のレクイエム』を弾こうと決めました。
しかし、結果として追想のレクイエムは弾けず、『北京の春』を弾きました。自分自身をハメようとしている音楽院関係者が、自分に恥をかかせようとしている思い込みがあったんですね。ラストシーンでは、真相を知り涙を流しながらも、立っている姿がとても美しいです。
「どうせなら追想のレクイエムを弾けばよかった……」、そんな彼女を思ってか、古畑は彼女に演奏を頼みますが、断るのです。この最後のセリフは耳に残ります。「わきまえなさい」
以上、『ピアノ・レッスン』でした。