【VS.映画俳優】「月…。月と地球は約38万キロメートル離れています。そして月は一年に約3センチメートルずつ遠ざかっています。つまり、今日の月は昨日の月よりほんのわずか遠くにあるわけです。月は…」
データ
あらすじ+人物相関図
映画俳優・大宮十四郎は、撮影所所長・城田春彦に撮影所閉鎖計画の撤回を求めていた。懇願書も提出したのだが、すでに決まったことであると城田は一蹴した。そこで大宮は、殺陣のリハーサル中に城田を殺害する計画を思い立つ。
あらかじめ城田には間違った殺陣の段取りを教え、リハーサル中に動き誤ったため不可抗力で切ってしまう。さらに、小道具室にある模造刀と真剣を取り間違っていたと説明した。まもなく警察が到着し、事件は事故として記者会見が開かれるのだった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:大宮十四郎(おおみや じゅうしろう)
役者:小林稔侍(こばやし ねんじ)
職業:映画俳優
殺害方法:斬殺
動機:撮影所閉鎖の阻止
今回の被害者:城田春彦(しろた はるひこ)
役者:長谷川初範(はせがわ はつのり)
職業:撮影所所長
犯行計画/トリック
【リハーサル中の事故に偽装】
①大宮十四郎は、城田春彦に撮影所閉鎖を断られてしまう。そこで、翌日に撮影する殺陣の段取りを、今日中に練習してみようと促す。城田は出たがりな性格であり、役者として出演するのだ。大宮は殺陣の段取りも担当することがあり、間違った動き『右へ動く』を教えた。
②大宮は自分で刀を用意すると言い、小道具係・山本シュウに別件を頼む。小道具部屋に入ると、模造刀ではなく真剣を手に取った。そしてリハーサルが開始される。最後の動きで、城田は右へ移動した。これは本来予定されていない動きであり、そこを大宮は真剣を振り下ろし斬殺した。
③模造刀は本物と見分けがつかない程に精工な作りであり、不慮の事故であったことを訴えた。
視聴者への挑戦状
「私の勘が正しければ、これで事件は解決です。えー大宮十四郎は、明らかに殺意をもっていました。これは、事故ではありません。歴とした殺人です。彼の殺意を証明する手がかりは……お分かりですね。古畑任三郎でした」
三幕構成
小ネタ・補足・元ネタ
〇大宮十四郎が殺人を認めたときのセリフ「私はこれぽっちも後悔していない。これっぽっちもね。男にはね。命に代えてでも守らなきゃならないものがある。私はね、何回だってやるつもりだよ」や、撮影所は伝統があり歴史を守る必要があるなど、人物像としては刑事コロンボ28話『祝砲の挽歌』の犯人ライル・C・ラムフォード大佐に影響を受けているのではないだろうか?
ラムフォード大佐も、陸軍学校の閉鎖を阻止するべく殺人に手を染めた。罪を認めた際のセリフも「わたしは後悔していない。わたしは何度でもするだろう」と、良く似ている。
〇大宮十四郎が初めて主役を務めた映画『忠治、故郷へ帰る』の忠治は、実在する江戸末期の侠客であった「国定忠治」を題材とした作品である。大宮が舞台スタッフに頼み保管してもらった『月』は、赤城山のシーンとされている。
〇小道具係・山本シュウの役者は『梅津栄』である。
まとめ
第3話『笑える死体』と同様に、「殺意の証明」に対決の焦点が当たっているエピソードです。いかにして事故ではなく、計画的な殺人であったのかを立証するのかがポイントになります。最初から大宮十四郎が事故として罪を認めているため、刑事へ反発するという会話のやりとりが少ないですね。
男性犯人は、全て自分の私利私欲のために犯す殺人が多いのですが、今回は『撮影所閉鎖阻止』という大義名分を掲げての犯行です。犯人の個人的な思いだけではなく、そこに携わる撮影所スタッフの場面も見せることで、女性犯人に多い共感路線を、男性犯人で展開しようという狙いがあったんですね。
ドラマチックな展開を狙った本作品ですが、視聴者にとっては『撮影所』に対しての魅力を十分に説明できず、物足りなさを感じます。大宮十四郎が、伝統と歴史があり残す必要があると語りますが、やや弱いです。また、撮影所スタッフも「山本シュウ」に若干の場面があるのみで、こうった部分を強調できればまた違った雰囲気になったのかも知れません。
「イミテーション(模造刀)か真剣かはわかるのではないか?」や「今泉慎太郎と蟹丸警部の記者会見」など、トリックに対する疑問点、コメディ要素も付け足した結果、どうしても入れ込む時間がなかったのかも?
以上、『殺人リハーサル』でした。