深夜ラジオの生放送中に起きる事件です。桃井かおり氏が演じるどこか気だるい雰囲気の犯人なのですが、犯行計画のためにラジオ局内を全力疾走するのが見どころです。古畑の部下・今泉も全力疾走する羽目になるのが面白かったです。後に度々話がでる『赤い洗面器の男』が登場するのも今作が初めてです。
データ
脚本:三谷幸喜
監督:関口静夫
制作:フジテレビ
演出:松田秀知
音楽:本間勇輔
本編時間:46分01秒
公開日:1994年6月22日
あらすじ
ラジオDJ・中浦たか子(桃井かおり)は、付き人・沢村えり子(八木小織)に恋人を奪われてしまう。中浦は今週一杯で彼女に解雇を告げ、選別に愛用している赤いセーターをプレゼントするが、これは用意周到に準備した殺人計画の一部であった。
ラジオの生放送中『サントワマミー』が流れる空き時間を利用して、中浦は局内の抜け道を疾走すると、駐車場にいる沢村を撲殺した。前々から自分宛に殺害を予告する脅迫文を送りつけており、愛用していた赤いセーターを着ていた彼女が、間違えて殺されてしまったかのように偽装したのである。
人物紹介/キャスト
今回の犯人:中浦たか子
役者:桃井かおり
概要:歌手でありラジオDJでもある女性。付き人・沢村えり子に恋人を奪われたため、生放送中『サントワマミー』が流れる3分程の空き時間に、ラジオ局内の抜け道を利用し駐車場まで疾走。復讐のために彼女を殺害した。
スタッフからは「おたかさん」と呼ばれている。気だるい雰囲気な彼女であるが、ラジオが始まると一転はつらつと喋りまくる。
今回の被害者:沢村エリ子
役者:八木小織(やぎ さおり)
概要:中浦たか子の付き人である女性。たか子の交際相手を取った挙句、歌手である彼女のもとで、まだまだ唄の勉強がしたいなどと図々しい以外の何者でもない。
小ネタ・補足
〇中浦たか子が、沢田エリ子を殺害時に放った台詞、「痛い……?」は、犯人役・桃井かおりが三谷幸喜に許しを請いて言ったアドリブらしい¹⁾。(出典:古畑任三郎大辞典-p.269より)
〇三谷幸喜脚本の映画『ラヂオの時間』の中で、今回の犯人・中浦たか子が登場している。
刑事コロンボからのオマージュ
古畑任三郎 | 刑事コロンボ |
自分宛てに脅迫文書を送りつける。被害者には自分と同じ服装をさせることで、存在しない犯人に間違って殺されたように見せかける筋書き | 20話『野望の果て』 |
ラジオ局内を時間内に行き来して犯行に及ぶ | 43話『秒読みの殺人』 テレビ局を時間内に行き来きして犯行に及ぶ |
レコードプレーヤーに針を落とそうとするが、犯行直後のために手が震えてしまい役目を譲る | 19話『別れのワイン』 ワインを移し替えようとするが、犯行直後のために手が震えてしまい役目を譲る |
古畑「人がね、いつもと違うことするっていうのは気になるんだよ」 | 30話『ビデオテープの証言』 「人が普段と違うことやると何かあるんじゃないかと、すぐ思っちゃって」 |
事件解決に繋がる決定的証拠 | 34話『仮面の男』 |
まとめ
男性を奪われ、復讐のため犯行に及ぶ愛憎劇です。復讐ものの見せ場として最大の特徴は、『復讐=目的』という点にあり、犯行の瞬間に犯人にとっての最大のドラマが完了してしまうデメリットがあるのですが、本作品ではその後も見せ場が続きます。犯人を演じた桃井かおり氏の気怠い感じ、独特の雰囲気が実に見事に物語にハマっているのです。
エピソードの中盤に、犯人自らが「彼氏を奪われていた」という動機を語ったのが大きいかも知れませんね。自身は捕まらないという絶対的な自信を垣間見ることができるため、動機が復讐でありながらも、刑事との丁々発止の対決感も味わうことができるのです。反面、古畑の捜査が徐々に迫ってくるのを感じると、焦りからラジオに集中できなくなってくる緊張感も素晴らしかったです。
さて、トリックの筋書きなのですが、ラジオDJ・中浦たか子が脅迫されていて、彼女の赤いセーターを着ていた付き人・沢村えり子が間違われて殺されるという設定でした。しかし中浦を狙っての犯行ならば、その時間はラジオの生放送をしているのだから間違えるはずがないという矛盾が浮かんだのですが、休憩時間に車に戻ってくる可能性もゼロではないのだろうなと思い直しました。
以上、『さよなら、DJ』でした。
お久しぶりです。(灰色の村にコメントした者です)
昨日この話を見たのですが、手が震えていたから作家(?)さんに針を落とさせたのかはわかりましたがどうして手が震えていたのですか?
achan様
お久しぶりです!
≫手が震えていたから作家(?)さんに針を落とさせた
≫どうして手が震えていたのですか?
「犯行直後だったため」だと考えています。犯行時は興奮状態にありました。その後は徐々に興奮が覚めてきて、殺人をしてしまったという実感、恐怖感(安堵感?)で手が震えてしまったのではないでしょうか? また、走ってきたために心拍数が挙がり、手の震えを抑える余裕もなかったのだと思います。
番組内の『LP復活委員会』では、貴重なレコードを取り扱っていると語られています。手が震えた状態ではレコードを傷つける可能性があると思い、構成作家に針を落とす役目を譲りました。これの元ネタは、刑事コロンボ19話『別れのワイン』で、犯行直後であったために手が震えてしまい、貴重なワインを移しかえる役目を他者に譲ります。
返信ありがとうございます。わかりやすい解説でモヤモヤがスッキリしました。三谷幸喜さんが刑事コロンボのオマージュとして作ったみたいな事を言ってたのを思い出しました。刑事コロンボ「別れのワイン」見てみたいと思います。あと、主役の田村正和さん亡くなってしまいましたね。
≫刑事コロンボのオマージュとして作ったみたい
わたしは「古畑任三郎」から「刑事コロンボ」に入ったのですが、オマージュした点がとても多くありました。また、古畑にはないコロンボの楽しさも堪能できますよ!
≫主役の田村正和さん亡くなってしまいましたね。
訃報を知り驚きました。最後までミステリアスな佇まいを崩さないスターでした。
古畑任三郎の中でも、大好きな回です。
桃井かおりのあの独特の雰囲気とセリフまわしが楽しめますよね。
何度も長い髪をかき上げ、片方にまとめる仕草や、
古畑が自分を疑い始めたと知ったとき、煙草を持ちながら「え? え?え?、もしかして、あなた」
と言うときの表情はもう、桃井かおりにしかできないような笑。
最近のドラマでは男女ともに喫煙シーンはなくなりましたが、
この回では登場人物の個性を伝えるため、小道具として使われている場面が多いですね。
被害者が車中でたばこを吸ったり、足でカーラジオをオンしたりする場面があり、
はすっぱな人間性を表しています。
この回を取り上げていただき、ありがとうございます。
じゅじゅこ様
コメントありがとうございます‼ お返事遅くなり申し訳ございません。
>>古畑任三郎の中でも、大好きな回
>>桃井かおりのあの独特の雰囲気とセリフまわし
私も大好きなエピソードです! 桃井かおりさんの気怠い雰囲気、ラジオが始まった際のテンション、殺害シーンの闇の深さなど。緩急の差と表情を大変見事に演じられており名犯人です。『ねとらぼ調査隊』にて、2022年5月10日から5月17日のインターネット投票では、視聴者が好きなシーズン1の作品として2位にランクインしております。
>>最近のドラマでは男女ともに喫煙シーンはなくなりました
>>登場人物の個性を伝えるため、小道具として使われている
90年代を境にドラマや映画においても喫煙シーンは無くなってしまい悲しいです。余裕のなさといいましょうか、焦りを表現するための演出はタバコならではですよね。色々な感情表現を支えてくれます。
>>被害者が車中でたばこを吸ったり、足でカーラジオをオンしたりする場面
>>すっぱな人間性
付き人でありながら恋人を奪い、その上で歌手として勉強を続けたいという貪欲さ。一人だし自家用車内ではありますが、そういった描写からもかなり放漫な性格であることが伺えますよね。
古畑は必ずしも時系列が放送順ではない事は有名な話ですが、この話と前回の矛盾だらけの死体は時系列が逆だったでしょうね…
この回の今泉はラジオ局を何回も走らされて病院へ担ぎ込まれましたが、この時に痔を発症させたか持病が悪化(走るに適さない身なりでの突然の無理な運動、それによる足腰への多大な負荷が原因)で緊急入院。
前回での古畑の「この病院今朝行ってきた所だよ」という台詞からして、恐らく古畑はおたかさん逮捕後にすぐ今泉が担ぎ込まれた病院へ行ったのではと僕は予想しています。
周りに古畑話ができる人間がいないので、この場を借りてお話しされていただきました。
タツノコアマ様
>>この話と前回の矛盾だらけの死体は時系列が逆だったでしょうね
古畑任三郎は必ずしも放送順通りにエピソードが繋がってはいない、といった遊び心があるのが面白いですよね、
>>ラジオ局を何回も走らされて病院へ担ぎ込まれました
>>この時に痔を発症させたか持病が悪化
>>恐らく古畑はおたかさん逮捕後にすぐ今泉が担ぎ込まれた病院へ行ったのでは
ここで痔が悪化としたっぽいですよね。書籍情報としては、【倒叙ミステリー研究会『古畑任三郎 結末の結末』三一書店、1997年、p.164】
に古畑任三郎 第1シーズンの時系列情報が考察されており、今泉くんが痔の悪化で入院した『矛盾だらけの死体』の回で、被害者の検視報告書が「94年4月18日」と記載されていることから、これ以前に『さよなら、DJ』の事件が起こったと考えられています。