派手な演出、ドロドロとした人間関係。そんな展開が多い新刑事コロンボシリーズだが、ここにきて再び『パトリック・マクグーハン』が犯人として再登場する。さらに、彼は監督も務め、旧コロンボシリーズのような『刑事VS犯人』というスタンダードな倒叙形式に仕上げてくれた。
犯人の職業と犯行計画が見事である。死の引受人である葬儀屋エリック・プリンスは、被害者の遺体を火葬にしてしまうのだ。すべては灰にしてしまえば、証拠なんざ残らない。ブラックなエピソードでユーモアもあるラストは素晴らしい。
データ
脚本:ジェフリー・ハッチャー
監督・共同製作総指揮:パトリック・マクグーハン
制作:クリストファー・セイター
制作総指揮:ピーター・フォーク
音楽:ディック・デ・ベネディクティス
本編時間:90分
公開日:アメリカ/1998年10月8日 日本/1999年9月23日
あらすじ
葬儀社社長エリック・プリンスは、かつての愛人で芸能レポーターのヴェリティ・チャンドラーに過去の悪事を突き止められ、自身がメインパーソナリティーを務める番組で暴露すると話す。事件発覚を恐れたエリックは、葬儀社にある遺体の処置室で彼女を殺害する。
棺に入れる遺体をすり替え火葬すると、その晩にはヴェリティの自宅に侵入し自分に関する記事を消去した。新たに麻薬に関する記事を打ち込むと、麻薬絡みの記事を書き誘拐されたように見せかけたのだった。
人物紹介(キャスト/吹き替え声優)
今回の犯人:エリック・プリンス
役者:パトリック・マクグーハン
吹き替え声優:有川博
銀河万丈版:山野史人
概要:サンセットブルーバードにある『ハバランド・プリンス葬儀社』の社長。元々はイギリスから来た売れない役者であり、アメリカでも役者としては実らなかった。その後、葬儀社に転職をする。そこで、社長ハバランドから気に入れられて共同経営者になった。すでにハバランド氏は亡くなっているようだ。
社長であるが、経営だけではなく業務にも関わっている。葬儀会場の装飾指示や段取り作り、神父の弔辞に関しては数秒単位での調整を促していた。しかし裏では、芸能リポーターのヴェリティ・チャンドラーに、遺体を情報源に裏取引も行っていた。遺体を調べれば、同性愛や薬物依存は痕跡で分かるようだ。ただ、新しい女性ができヴェリティを捨てることになる。
1975年9月に女優ドロテア・ページの遺体からダイヤの首飾りを盗み出す。それを資金に事業を拡大していた。盗み出した方法とは、喉の奥にダイヤの首飾りを押し込み隠す。その後、火葬してダイヤを回収するという酷いやり方である。遺体を情報源にしていたこと、ダイヤの首飾りの件を暴露すると言われ、殺害に至った。
今エピソードの冒頭では、24件目の葬儀社も無事に買収していたことがわかる。また、自社でヘリコプターも持っており、パイロットも勤務させている。火葬した遺灰を骨壺に入れ遺族に渡し、海へと撒く、いわゆる『海葬(海洋散骨)』をしているようだ。葬儀の値段に関しては、従業員がコロンボに説明をするシーンがあり、そのコースの1つに4万3000ドルと紹介されていた。
さらに、今年最高の葬儀ディレクターにも選ばれており、その際のスピーチでは「葬儀ディレクターより、葬儀請負人と呼ばれたい」と話している。ディレクターとして彩るのではなく、請け負うという需要的な表現とし、死を尊重し敬いという表向きの発言である。
酒は好まないのか?パーティー会場では、葬儀会社の人々が酒を飲んでいたのに対し、オーダーしたのは『オレンジジュース氷なし』である。またオフィスでは、紅茶ダージリンをコロンボに振る舞った。
今回の被害者:ヴェリティ・チャンドラー
役者:ルー・マクラナハン
吹き替え声優:此島愛子
銀河万丈版:小宮和枝
概要:芸能リポーターであり、週末にゴシップを言う番組のメインパーソナリティーでもある女性。かつてエリック・プリンスとは愛人関係にあり、彼に新しい女性ができたことに対し、不満があった。そこで、葬儀中にダイヤの首飾りが無くなった事件を捜査し、エリックが犯人である証拠を掴む。復讐のため生放送での暴露を目論んでいた。
生放送のタイトルは『暴かれた葬儀屋の欲望と悪事』である。このことは、わざわざエリックと対面し発言している。「悔しがる顔を見れて良かったわ」と上機嫌だったが、その代償に殺害されるとは夢にも思わなかったであろう。日曜日の放送終了後には、盛大なパーティーも予定していたようだ。
車は修理中とのことで、ドロシア邸のガードマンの話によれば、3日前にタクシーに乗った女性が来たと言っている。このことから、少なくとも3日前には車は故障していたようだ。エリックによると『赤いベンツ』に乗っていたとの台詞がある。なお、ガードマンによれば、その際の服装は、黒い大きな帽子/真っ赤な服だったとのこと。赤い色が好きだったのであろう。
番組にはメールを送ることができ『vicious_rumors_hollywood_hearteat.com』である。一旦メールはオフィスにあるパソコンに送られる。そして、秘書ドジャー・ギャンブルスが操作を行い、彼女の携帯電話にメールを転送するようである。
愛犬にフレンチブルドッグの『ルウェラ』がいる。生後12週の子犬であり、3日前に飼い始めていた。12枚撮りのフィルムには、11枚も犬の写真が残っており可愛がっていた様子。室内飼いであり、夜はチキンのドッグフードを食べさせていたようだ。
小ネタ・補足
○凶器に使用した「トロカール」とは?:遺体のガス抜きのための道具である。全体が金属製であり、先端が針のような形状になっている。遺体に突き刺すことで体内に溜まるガスを排出させ、身体が膨らんだり破裂しないようにするようだ。今回は持ち手の部分で殴りつけ殺害した。
〇犯人エリック・プリンスのアシスタントの女性は、パトリック・マクグーハンの長女『キャサリン・マクグーハン』である。
〇ラストシーンに、「あなたのような人物を25年追いかけてきました」というコロンボ警部のセリフがある。34話『仮面の男』の伏線回収である。仮面の男の犯人が変装した『スタイン・メッツ』の風貌が、まさに今作の犯人エリック・プリンスに瓜二つ。また、殺害シーンのカメラアングルも仮面の男と同一になっている。
〇コロンボ警部の愛犬・ドッグが登場するのは、この作品で最後である。
まとめ
職業と犯行計画の一体感が素晴らしいストーリーである。不謹慎ではあるが『死体なき殺人』+『葬儀屋』という組み合わせ。死の引受人である葬儀屋が犯人ならば遺体を火葬してしまえば証拠が残らないというこのブラックなアイディアは見事だ。
ストーリーの癖が強い新・コロンボだが、このエピソードは正統派な作風であり、コロンボ警部と同年代の犯人なだけに対等な関係の駆け引きも楽しめる。
葬儀社社長の立場と設備を活かした職業とトリックの一体感。遺灰をすり替え、2人の遺体を同時に火葬する。死者への敬意を欠いた死の引受人による不謹慎な遺体なき殺人。コロンボ警部が最後に発した皮肉な台詞が光る、まさに葬式がテーマな作品であった。
以上、『復讐を抱いて眠れ』でした。
要領のいい、行き届いた解説ありがとうございました。
お役に立てたようで幸いです‼