古畑任三郎 34話『哀しき完全犯罪』ラストで一転する哀しさ

古畑任三郎 34話 哀しき完全犯罪

人間ドラマに重心があるエピソードである。古畑任三郎の中でも非常に哀しい話で、見終わった後に胸が痛くなる。最初は束縛される妻が冷血な夫に対しての犯行という目線で進んでいくのだが、ラストでこの価値観が一転する。

スポンサーリンク

データ

データ:詳しく見る

脚本:三谷幸喜

監督:関口静夫

制作:フジテレビ

演出:河野圭太

音楽:本間勇輔

本編時間:46分58秒

公開日:1999年5月25日

あらすじ+人物相関図

古畑任三郎 哀しき完全犯罪 人物相関図女流棋士・小田嶋さくらは、囲碁教室のテレビ番組にレギュラーとして出てみないかと持ちかけられる。同じく棋士で夫・小田嶋佐吉に報告するのだが、笑い者になっているだけだと仕事を辞めて専業主婦として家にいるように言われる。

夫に縛り付けられたままの生活に困窮した彼女は、マグライトで佐吉を撲殺する。アリバイ工作を行うと、熱狂的ファンによる強盗に襲われたように偽装した。

人物紹介(キャスト)

今回の犯人:小田嶋さくら
役者:田中美佐子

囲碁棋士の女性。夫の仕事の伝で知り合ったプロデューサーから、テレビでの囲碁教室の解説の仕事を行っていた。正式にレギュラーが決まるが、夫・佐吉から仕事を辞めて専業主婦として家にいるように言われてしまう。唯一外部の人との接点にもなり、仕事に生きがいを感じていたために、束縛の強い夫をマグライトで撲殺。熱狂的ファンによる強盗殺人に偽装した。


今回の被害者:小田嶋佐吉
役者:小日向文世

囲碁棋士の男性。段位は8段で有名な棋士だったようだ。自宅には多数の優勝トロフィーが飾られており、今事件では『天竜戦』『白竜戦』というタイトルのトロフィーを狙った熱狂的ファンによる強盗殺人に見せかけるのに利用された。

かなり几帳面な性格でもあり整理整頓を欠かせない。『ポンヌキ』という猫を飼っており、日ごとに決まった缶詰をあげている。妻・さくらと結婚する前から飼っているようで、姑のような存在である様子。

刑事コロンボからのオマージュ

ネタバレ注意

◯演出面では、刑事コロンボ32話『忘れられたスター』をイメージしていると思われる。鏡を見てほほ笑む犯人。夫の思いなど。

◯ラストの展開は、刑事コロンボ39話『黄金のバックル』からの引用である。着飾った犯人が、刑事に手引きされ退場をする。

まとめ

母から貰った大事なネックレスやイヤリングも、「お前には派手すぎる」「お前には似合わないんだ」と返してもらえない。妻がやりがいを感じ、レギュラーを手に入れた番組を、「向いてない」。人と会う機会がなくなってしまうと言うが、「家にいればいい」。

妻のやることなすことに事細かに指示を出す、挙句、妻の生きがいとなったテレビの囲碁教室までも辞めさせようとする横柄で神経質で嫌な夫。そんな『行動を縛り付けられる哀しい女性が犯人』という冒頭を視聴者は植え付けられる。

こんなひどい夫であるならば殺されても致し方あるまいという、復讐劇にもなるわけだが、いざ警察の捜査が始まると、夫が注意するように促していたミスであっという間に追い詰められてしまう。古畑にも全部がいけませんでした」と言われる始末。

最後の晴れ舞台に自室で着替える許可をもらう。化粧台の鏡越しで、自分が出演する番組がちょうど流れる。画面の中でとちってばかりの彼女と、それに重なるスタッフの笑い声。自分の力で番組が取れ、やっと1人前になれたと思っていたのは勘違いであったのだ。

夫の仕事を辞めるようにという冷たい発言は、放送を見て心を痛めた彼なりの思いやりから。彼女は道化でしかなかったのに、それにも気が付かないで満足気な表情。自分なりに精一杯おしゃれして、古畑の待つリビングに降りていく。

服装はちぐはぐで、古畑も何とも言えない表情を見せる。夫が服装を制限するのも、服を合わせるセンスが妻にはなかったから。自分を本当に愛してくれていた夫の真意に気付かずに、最後の最後まで空回りした不器用な犯人の哀しい事件である。

以上、『哀しき完全犯罪』でした。