【VS.ゼネラルマネージャー】あなたは推理小説を創作したことがあるでしょうか? その中でも思いついたりしたトリックが、『完璧なアリバイ』があり『氷』を使った殺人という人がいると思います。このエピソードはまさにそれを駆使した計画殺人なのです!
また、今作は”アリバイ崩し”がコンセプトです。刑事コロンボの中で、純粋なアリバイ崩しは69作品のうち『アリバイのダイヤル』『仮面の男』の2作品に限られており、貴重なエピソードです。ラストの犯人とコロンボが無言で視線だけでのやりとりは釘付けです。
データ
脚本:ジョン・T・デュガン
監督:ジュレ三―・ケイガン
制作::ディーン・ハーグローグ
ストーリー監修:ジャクスン・ギリス
音楽:ディック・デ・ベネディクティス
本編時間:74分
公開日:アメリカ/1972年11月5日 日本/1974年5月18日
あらすじ
フットボールチーム『ロケット』のゼネラル・マネージャーであるポール・ハンロンは、ワグナー・スポーツの2代目社長エリック・ワグナーの殺害を計画していた。無能なうえ、やる気のないエリックを葬ることで会社を乗っ取り、さらなる事業拡大をする野心があったからだ。
フットボールの試合中にボックス席から抜け出したポールは、電話を駆使したトリックを用いて自身のアリバイを作った。そのうえで、自宅のプールで泳いでいたエリックを氷塊で殴り気絶させると、プールの飛び込みで頭を打ち付けて溺死した事故に偽装したのだった。
人物紹介(キャスト/吹き替え声優)
今回の犯人:ポール・ハンロン
役者:ロバート・カルプ
吹き替え声優:梅野泰靖
概要:「ワグナー・スポーツ」のゼネラルマネージャーである男性。御曹司として会社を引き継いだ現社長エリック・ワグナーは経営に無関心であり、自身が会社を乗っ取ろうと画策する。亡き先代社長の夢でもあった、『世界最大のスポーツ大国の実現』のため、さらなる事業拡大の野心を実らせた。電話と氷を駆使した殺人を考案し、プールでの事故死に偽装した。
最初は広報担当としてワグナー・スポーツに入社している。初代社長の死後は、2代目社長のエリックの補佐役として会社の実権を握る。ゼネラル・マネージャーとしてスポーツチームの監修も務めるようになった。
手腕は確かなもので、バスケットチームを買収し、スタジアムを2つ増築。エリックのため200万ドルを稼いでいる。物語の冒頭では、嘘かは不明ではあるが、カナダのホッケーチームの買収のため、エリックに署名をさせる名目で電話をしていた。(1972年11月1ドル=300円 200万ドル:6億円)
ロケットのメンバーとのコミュニケーションは上手くいっているようだが、コーチやワグナー家の弁護士からはあまり快く思われていない。弁護士ウォルター・キャネルが盗聴器を仕掛けていることに気が付き、それをアリバイ工作に利用している。
今回の被害者:エリック・ワグナー
役者:ディーン・ストックウェル
吹き替え声優:森功至
概要:ワグナー・スポーツ社長の男性。父が先代社長のため、死後は会社を引き継いだ。経営や事業拡大にはまったく興味はなく、酒に女のプレイボーイである。運営は全てポール・ハンロンに一任しており、自身は遊び惚けている。書類に署名する際などには、社長として記名はしている様子。
ロケットのコーチがエリックが亡くなったと聞いた際には心底驚き、コロンボが去った後にはベンチに腰を下ろして落胆した姿を見せ、妻シャーリーも取り乱すなどした。事業拡大の野心はないものの、人望的には長けており愛されている人物だったようだ。
小ネタ・補足
〇犯行現場となったプールで、コロンボ警部の革靴が水で濡れてダメになってしまう場面がある。その後、犯人ポール・ハンロンのオフィスで、弁護士ウォルター・キャネルと会話し、「すいませんけど、あなたのその靴、おいくらしました?」と尋ねる台詞がある。
『ピーター・フォーク自伝』P.187によると、これはアドリブだそうだ。視聴者も印象に残ったらしく、街中を歩いていると通行人から服装について「おいくらしました?」と聞かれることがあったようだ。
〇新刑事コロンボ56話『殺人講義』では、法学部の生徒たちにコロンボ警部が講義をする場面がある。そこで、台詞はないが足を持ち上げて革靴を見せるシーンがあり、プールで濡れたエピソードを語っていたのではないだろうか? この講義では、他エピソードを語る場面も見られた。また、ゲストとしてポールを演じた『ロバート・カルプ』が犯人の父親役で登場していた。
〇後半になって登場した『イヴ・パブコック』嬢っていったい何してたの? 彼女は派遣型性的サービス嬢(デリバリーヘルス)で、冒頭でエリックと関係があったのが彼女である。
エリック・ワグナーは、ポール・ハンロンに女性を用意するように指示しており彼女が派遣された。その際ハンロンは、エリックの妻シャーリーにバレないように、妻が慈善活動でアカプルコに出発するまでの間、秘書という名目で雇い入れていた。
そのことを彼女が派遣される前に、弁護士ウォルター・キャネルから雇われた私立探偵ラルフ・ダグスが掴み、パブコックに対して事務所の電話機に盗聴器を仕掛けるように賄賂を贈っていた。だがその一件は、ポールもまたパブコックを買収したために盗聴器が仕掛けられたことを知った。
この盗聴器が仕掛けられているというのを逆手にとって、ポールはアリバイ工作に転じる犯行計画を思いついたのである。なお役者は『バレリー・ハーパー』氏で2019年8月30日癌により80歳で亡くなれたようだ。吹き替え声優は『荒砂ゆき』氏が担当した。
まとめ
電話のトリックによりアリバイが完璧だとわかるまで、52分と時間がかかります。そのため、物語冒頭でなぜラジオをつけて電話などしているのなど、ミステリー好きや察しの良い視聴者以外には構成上で不親切な面も見られます。
ちゃんと伏線が貼られており、電話で会話している時に雑音が流れている演出があるんですね。ただ、この時点では視聴者には何のことやら分かりません。次々と現れる登場人物たちも、一体なにをしてきたのか不明瞭なまま物語が展開するのも複雑な要因になっています。
ノベライズ版は270Pあるのですが内90Pは上記の件で、犯人ポールと弁護士ウォルターが裏で情報をめぐる攻防戦が展開されているのです。ドラマだとこの部分がまるごとカットされており、途中からのスタートでちょっと複雑に感じてしまうんですね。
アイスクリーム屋の衣装をなんで犯人が持っていたのかなども知ることができるので、気になる方は読んでみてください。動機に関しては犯人の過去が関係しているなど、ドラマとは違った感じを受けます。
本当に狙いは会社の事業拡大? 実質的な会社の運営をポールに一任しています。社長であるエリックも誰からも嫌われてはいないし、ポールを信頼しています。署名だって断らなかったし協力的な姿勢でした。
ポールの本当の狙いは、エリックの妻であるシャーリーだと考えると面白いですね。作中での言及はなないものの、精神的に参っているシャーリーをポールは献身的に支えている場面がありました。
さらに、シャーリーは一件後、信用していた弁護士ウォルター・キャネルに距離を置き、ポール側へ寄っています。頼れる存在は会社の腹心として支えたポール・ハンロンだけ……、わたしはこんな構図を狙った殺人計画にみえました。
(邪魔な社長を消して、後釜で犯人がトップになって思うがままにしたいんだけですが……)
以上、12話「アリバイのダイヤル」でした。