【VS.将棋棋士】「パジャマのボタン止めてから、全部ずれていた事に気付く事って良くあります。パジャマを着る時は必ずボタン下 から止めてください。まず掛け違える事はありません。合理的に生きるっていうのはつまりそういう事で…」
データ
あらすじ+人物相関図
将棋棋士・米沢八段は、将棋のタイトルである竜人戦の対局中であった。成績は3連敗中で、この1局を落としてしまうと負けが確定してしまう瀬戸際の状況だ。対局の中盤、米沢は封じ手を宣言するが、白紙のまま封をして提出したのだった。本来なら次に指す一手を書き記さなければならない。
米沢の行動に不信を抱いたのは、対局の立会人・大石であった。米沢の不正行為を疑い、この件を実行委員会に報告すると話したため、彼を自室で殺害した。遺体を大石の部屋に運ぶと、入浴中の風呂場での事故死に偽装した。
たまたま大会がある旅館に宿泊していた古畑任三郎は、現場の状況から米沢が殺人を犯したと推理する。翌日、白紙の封じ手に一晩熟熟考した差し手を記入して対局を再開させた。対局は米沢が優勢に進めていく。だが終盤、米沢は飛車を成らず、勝てるはずの対局を棒に振ったのだった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:米沢
役者:坂東八十助(ばんどう やそすけ)
職業:将棋棋士
殺害方法:撲殺
動機:口封じ
今回の被害者:大石
役者:小林昭二(こばやし あきじ)
職業:将棋棋士
犯行計画
【入浴中の事故死に偽装】
米沢は自室で、ガラスの灰皿で大石の後頭部殴り殺害。遺体を大石の部屋まで運び出し、衣服を脱がせると浴槽へ入れる。お湯を入れ、浴槽に後頭部を擦り付けると、浴槽で転倒して後頭部を打ち付けた事故死に偽装した。被害者の衣服をベッド上で畳むと、自室に戻って血痕を綺麗に拭き取った。
【封じ手に細工】
竜人戦の対局中、封じ手を宣言する。本来なら、次に駒を動かす一手を記入する必要があるが、米沢は立会人たちに見つからないように白紙で提出し封をした。
翌日の対局で、立会人が封を切るとそこには、米沢が一晩熟考した一手が記載されており、勝負を優位に進めていった。なぜ、封をしていたはずの白紙に、次の一手が書き込まれていたのか?
視聴者への挑戦状
「思っていた通りでした。えー、試合に使った駒。夕べ米沢八段の部屋にあったものでした。今日のポイントはふたつ。まず、米沢八段が使った封じ手のトリック。そしてもうひとつ。なぜ八段は勝てるはずの勝負を捨てなければならなかったのか。今日はちょっと急いでますんでこの辺で。古畑任三郎でした」
三幕構成
小ネタ・補足・元ネタ
〇『竜人戦』は架空のタイトルである。現実に存在する将棋のタイトル戦は、【竜王戦、名人戦、叡王戦、王位戦、王座戦、棋王戦、王将戦、棋聖戦】の8大タイトルである。竜王戦と名人戦をもじってつけられたタイトルであると考えられる。また、タイトル戦は5番勝負か7番勝負である。今回の犯人である米沢は3連敗中とのことで、竜人戦は7番勝負であるようだ。
〇今泉が将棋の町での対局と話している。将棋の町といえば山形県天童市で『ほほえみの宿滝の湯』で竜王戦が開催されるが、実際のロケ地は山梨県『大月真木温泉』で撮影された。
〇古畑が「新幹線に乗って酢豚弁当食べんの夢なんだから」と話している。この事件後、新幹線に乗って帰宅するようで、第8話『殺人特急』の直前のエピソードになる。
〇立会人・大石を演じた小林昭二は、刑事コロンボ32話『忘れられたスター』で、ジョン・ペインの吹き替えを担当した。また、同じく立会人・立花を演じた石田太郎は、2代目コロンボの吹き替えを担当していた。
〇作中では『封じ手』の書き方に誤りがある。実際には、用紙は2枚用意される。盤上が描かれた紙に、赤のペンで動かす駒を丸で囲み、移動先まで矢印を引くことで示される。2通のうち1通は立会人が保管し、もう1通は対局場の金庫などに保管する。作中は用紙が2枚ではなく1枚であり、次の一手を黒ペンで記入している。
まとめ
米沢八段が『負けて当然、勝って偶然』と将棋の格言を語るシーンがあります。将棋でいちばんスキのない布陣は、戦う前の状態、最初に並べた形です。相手を攻めようと思ってひとつコマを進めるごとに、その鉄壁な布陣は崩れていく。どんどん攻めれば攻めるほど、相手に攻められるスキが大きくなってくる。だから負けるのが当たり前になるという意味だそうです。
倒叙作品にも同じことが言えると思います。犯人たちは完全犯罪を目指し、あの手この手で自分の犯行を誤魔化そうとします。しかし、小細工をすればするほど、どこかに痕跡が残ったり、ボロが出たりしてしまう。まさに一手指す毎にスキが出てくる、そんな状態。
本当に捕まりたくないのであれば、戦う前の状態を維持すること。つまりそもそも殺人を起こさないに尽きるのだと思います。 殺人を犯した時点で犯人の負け。投了になるんですね。
以上、『汚れた王将』でした。