遊園地を舞台に繰り広げられる爆弾魔との緊迫なサスペンスものである。ゲストに木村拓哉氏を迎えた本作は、タイムリミットが設定されている。今泉が乗った観覧車に時限爆弾が設置されているからだ。殺人事件は発生しているものの、それ自体に重点は置かれておらず、あくまでも爆弾解体を巡る攻防戦を主軸に描かれている。
データ
あらすじ+人物相関図
天神大学電子工学部研究助手・林功夫は、真夜中に遊園地『エキサイト・パーク』に侵入すると、観覧車に時限爆弾を仕掛けた。帰り際、自転車のカギを紛失したことに気が付き、しかたなくチェーンを切った所を見回りに来た警備員・真鍋茂に見つかり持っていたマグライトで撲殺する。
翌日、林は遊園地に現金を用意しなければ観覧車を爆発すると脅迫電話を掛ける。殺人事件の調査に来ていた古畑任三郎の部下・今泉は観覧車に乗っており、爆破のリミットまでに救出しなければならない。警察の爆破処理班が到着すると、爆発物のエキスパートとして協力依頼をされたのが林功夫であった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:林功夫(はやし くにお)
役者:木村拓哉
職業:研究助手
天神大学電子工学部研究助手の男性。自身の研究室で時限爆弾を作り上げると、遊園地『エキサイト・パーク』内の観覧車に仕掛けた。戻る際に自転車のカギを落としたことに気が付くと、しかたなくチェーンを切断した所を警備員・真鍋茂に見つかってしまう。顔も防犯登録番号も知られてしまったため、持っていたマグライトで撲殺した。
今回の被害者:真鍋茂
役者:金井大
職業:警備員
56歳、警備員の男性。去年できた遊園地『エキサイト・パーク』で勤務しており、2時~3時の見回りの際、自転車のチェーンを切り落とす林功夫を発見する。自転車の盗難が多いため、防犯登録番号をメモしていたところ、マグライトで2回後頭部を殴られて撲殺された。
小ネタ・補足・元ネタ
〇観覧車に仕掛けた爆弾は「1989年ニューヨークのコロンバス・アベニューのテロで使われた爆弾と同じ」と、林功夫が説明する。実際に爆弾テロは発生していない。
〇再放送されないエピソードの1つである。ジャニーズ事務所所属の木村拓哉氏が犯人役であるため、肖像権の管理関係から難しいようだ。
〇ロケ地となった遊園地は『国営ひたち海浜公園(公式サイト)』である。
〇本来、爆発物処理のベテランとして呼ばれるはずだった左門が「ブリタニカ号の爆破事件で耳をやられてしまい」療養中である。これは映画『ジャガー・ノート』で登場する、爆弾が仕掛けられた豪華客船「ブリタニック号」のもじりである。また、最後に導火線のどちらを切るかの攻防も大いに影響を受けている。
刑事コロンボからのオマージュ
考察を終えたポイント
〇『犯人の動機と脅迫電話を掛ける行為に矛盾がある』とコメント頂き、その点を考察した記事を書きました。確かにわざわざ脅迫電話を掛ける意味がありません。しかし、別の視点で探ってみると合理的な説明に繋がったかとは思います。
まとめ
当時23歳、木村拓哉氏が犯人役で登場する。他の犯人たちは会話を合わせる努力をしていますが、今回の犯人・林功夫はそっけない態度で冷めており、古畑任三郎を「おっさん」呼ばわりである。
この作品の魅力はなんといっても『時限爆弾によるタイムリミット』がある点だろう。これにより、古畑任三郎が急いで事件を解決しないといけない。なぜなら、爆弾が仕掛けられた観覧車には部下・今泉慎太郎が乗っているからだ。
犯人視点から進む倒叙形式は「どうやって犯人が追い詰められるか?」の物語とも言える。これに、タイムリミットが加わることで「時間内に爆弾処理できるか?」がプラスされるうまい脚本である。ラストで2重のハラハラドキドキが加わりサスペンスが倍増されるわけだ。
なんといっても最後が印象に残る。あの一件で後日談『消えた古畑任三郎』において、林は古畑のことを暴力刑事だと思っていたようだ。しかし、あれがあったからこそ刑務所では模範囚になることができたと、目を覚ますきっかけにも繋がっている。
以上、『赤か、青か』でした。
引用・参考文献
●リチャード・レスター『ジャガーノート』ユナイテッド・アーティスツ、1974年
被害者を殴った凶器は石じゃなかったでしょうか?
懐中電灯で殴り殺すのは相当な腕力がないと無理でしょうし、
石で殴ったものだと思ってました。
コメントありがとうございます!
懐中電灯ではなく、マグライトの方が正しいかもしれません。加筆させていただきます。
マグライトは懐中電灯よりも持ち手が長くなっており、海外の警備員は武器としても使用しています。このエピソードでは、リュックから取り出したマグライトで2度殴っていました。34話「哀しき完全犯罪」でも、女流棋士の犯人が夫を殺害する凶器として使用しております。
こんにちは
この前の再放送を見たら、林は連行される時にキーホルダーを持って(指に引っ掛けて)、叩かれた頰を抑えながら連れていかれました
ただ前のシーンではキーホルダーを林は持っていなくてタバコを吸おうとしていて、キーホルダーも机に置いてあったように思うのですが、画面の切り替わりが早くてよくわかりませんでした
何か意味があって林に持たせたのでしょうか?
たかい様
ご質問内容を確認させていただきました。
≫前のシーンではキーホルダーを林は持っていなくてタバコを吸おうとしていて、キーホルダーも机に置いてあったように思う
≫画面の切り替わりが早くてよくわかりませんでした
古畑任三郎は、キーホルダーをレターボックスの上に置きました。『画面の切り替わりが早くて』とのことですが、林がキーホルダーを回収した場面は映し出されておりませんでした。
何か金属音が鳴り、次に映るレターボックスの上からはキーホルダーは消えていますので、カメラで撮影されていない部分で林が左手の中に収めたのでしょう。タバコを吸おうとした手は右手で、連行されるシーンではキーホルダーを左手で持っていました。
≫何か意味があって林に持たせたのでしょうか?
続きになりますが、画面外のところでキーホルダーを林は回収しました。次の映像では、林は椅子に座り目線を下に落としながら手の平を確認する姿がありました。「こんなモノが決め手になるなんてな……」などと思いながら、回収したキーホルダーを見つめていたのではないでしょうか?
犯人の動機が観覧車を破壊することなら、なぜ脅迫電話をかけたのでしょうか。単に時限爆弾で観覧車を破壊すればよかったのではないかと思います。
お金を要求していれば、逮捕されたときに、観覧車を排除する、という真の動機を明らかにせずにすむ、というのはよく分かりません。真の動機がお金か観覧車を排除することかによって量刑が違うのでしょうか。
時限爆弾を夜中に爆発するようにしておけば人的被害はないわけですから昼間に爆発するようにしておいて電話で予告する必要はなさそうです。
アリバイという点では、時限爆弾を何時仕掛けたかが重要なので、昼間に爆発するようにして予告電話をすることはアリバイ工作にはならないと思われます。
そう考えるとフェイクの脅迫をしたのは物語を作る上での御都合主義かな、と思えます。
ともかく、私が重大な見落としをしていたわけではないのははっきりしたのですっきりしました。
土石流様のおっしゃる通り、ご都合主義と言われてしまいかねません。しかし、チケット売り場にも爆弾を設置し起爆しておりますので、脅迫をする何らかの目的があったのだと思います。
https://twitter.com/mekemeke1985/status/1423909830809460741
前話にあたる『ゲームの達人』の準原稿では、爆弾魔による犯行声明が続いているという設定があったようです。
せぷてい様
「『ゲームの達人』の準原稿」というものがどういうものなのか分からないのではっきりしたことは言えませんけれども、脅迫しようというはっきりした意思があったということは、脅迫がうまくいけばお金は得られるけれども観覧車は破壊されない、ということです。本来の目的である観覧車の破壊は実現しないわけです。ですから、本気で脅迫する気があった、ということと、本当の目的はお金ではなく観覧車の破壊だった、ということは両立しないと思います。
この事件の犯人とは別に爆弾魔がいてその人の犯行に見せかけようとしたのなら、ますます脅迫は必要ないことになります。
この台本は、いろいろな制約の中で書かれたものでしょうから論理的に説明しようとするのは野暮なのかも知れません。
色々考えてみて『動機の信憑性』に問題がありました。あの動機が本当であるならば脅迫に意味がありません。しかし嘘であるならば筋が通る展開が思いついたので、記事をまとめました。