【VS.指揮者】「子供の頃、何が怖かったかと言えば、薄暗い小学校の音楽室に飾ってあった作曲家の顔。あんな怖い物ありませんでした。バッハ、シューベルト、メンデルスゾーン、そしてベートーベン。中でも一番怖かったのは、ヘンデル。未だに音楽が苦手なのはあの肖像画のせいかもしれませんね。今の小学校にも飾ってあるんでしょうか?もしあったら先生、すぐにはずして下さい」
データ
あらすじ+人物相関図
指揮者 ・黒井川尚は、楽団のビオラ奏者・滝川ルミと愛人関係にあった。彼女から別れを切り出されると、思わず灰皿で撲殺してしまう。階段から転落死したように偽装すると、その夜の演奏会の指揮者として式台に立った。
演奏を聴いていく中、絶対音感によりクラリネット奏者・石森が指を怪我していることを聴き分ける。黒井川も同じ指を怪我しており、それは滝川の部屋にあったワインオープナーでつけた傷だった。石森が彼女の新しい恋人と確信した黒井川は、彼に罪を擦り付けようとしたのだった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:黒井川尚(くろいかわ なお)
役者:市村正親(いちむら まさちか)
職業:指揮者
殺害方法:撲殺(灰皿)
動機:別れ話のもつれ
今回の被害者:滝川ルミ
役者:街田しおん
職業:ビオラ奏者
犯行計画/トリック
『転落死に偽装』
①黒井川尚は、滝川ルミのアパートで、彼女から別れを告げられ灰皿で撲殺してしまう。部屋の指紋などを拭き取ると、遺体にコートを着せ外に運び出し、玄関に鍵を掛ける。鍵はコートのポケットに入れると、階段から楽器ケースと遺体を転落させた。
②その夜は雨で、階段から足を滑らせた事故死に見せかけたが、古畑任三郎から追及を受けて疑われてしまう。真夜中、彼女の新しい恋人で楽団のクラリネット奏者・石森のクラリネットを破壊する。その部品を被害者の部屋に仕込み罪を擦り付けた。
推理と捜査(第2幕まで)
視聴者への挑戦状
小ネタ・補足・元ネタ
〇刑事コロンボ10話『黒のエチュード』がモチーフである。指揮者が犯人で、楽団の奏者でショパンが好きな愛人が被害者。被害者に好意を寄せる、同じく楽団員に捜査の目を向けさせる。事件により被害者のペットが死に、灰皿が犯行に用いられる。
〇古畑任三郎29話『忙しすぎる殺人者』では、「絶対音感を利用して殺人を犯す男の話」を古畑が語っていた。正確に言えば、絶対音感を利用して殺人は行っていない。
〇クラリネット奏者・石森を演じたのは、『橋本さとし』である。
〇作中で利用された楽曲一覧
冒頭 | 『亡き王女のためのパヴァーヌ』 |
偽装工作時 | 『クープランの墓』 |
演奏会 | 『ボレロ』 |
古畑が思い出せない曲を言う西園寺/黒井川 | 『エリーゼのために』 |
被害者のお別れ会のBGM | 『エチュード Op.10-3 ホ長調(別れの曲)』 |
古畑が思い出せない曲を言う黒井川 | 『パガニーニによる大練習曲』第3番嬰ト短調「ラ・カンパネラ」 |
今泉がクラリネットで演奏した曲 | メロディー的に『越冬つばめ』だと思われる |
黒井川の収録時の曲 | 『交響的物語 ピーターと狼』 |
まとめ
『絶対音感殺人事件』なんて1度聞いたら忘れられない、声に出して読みたい。非常にキャッチーなタイトルなんですね。そのまんまストーリーとしても、「絶対音感を持つ指揮者が殺人を起こす」という興味をそそられそうな設定でもあります。
この作品のアイディアは前々からあったようで、24話『しばしの別れ』29話『忙しすぎる殺人者』でも、セリフの中で登場しておりました。29話では、「絶対音感を利用して殺人を犯す男の話」とのセリフがありましたが、実際には「絶対音感があることで古畑から疑われる話」になっています。
推理パートはやや弱く、『推理と捜査』の手数があまりありません。ライティングデスクのライトが左から当たっていたため、被害者は右利きであるなどは上手い疑問点だと思いました。推理パートが少ない分、それを補うためのギャグパートが多いんですね。
古畑任三郎が思い出せない曲。今泉慎太郎の音楽知識、犯人とのやりとりなど、ギャグパートの方に大きく時間が配分されており、喜劇作家・三谷幸喜氏を堪能できるエピソードでもありました。
犯人役に舞台俳優として活躍する『市村正親』さんを起用しており、テレビ俳優とは違った個性的な犯人像が印象に残ります。豪快で陽気でありながらも姑息な音楽家として見事ですね。ラストに古畑が分からないでいた曲が入ったカセットを渡し、退場するシーンもチャーミングでした。
以上、『絶対音感殺人事件』でした。