遺体の肛門におみくじが入っているという猟奇的な事件が発生します。一体何の目的としてそのようなことをしたのか、動機が一部伏せられた状態で進んでいくのです。
当初は「志村けん」氏を犯人役として想定していたようですが、志村さんが演じる黒岩博士も見たかったが、緒形拳氏が演じる強面でべらんめえ口調な黒岩博士も魅力的なのです。スルメをアルコールランプで炙るシーンは絶品でした。
一度だけ志村さんにドラマのオファーをしたことがある。「古畑任三郎」の犯人役。殺した人間の肛門におみくじを隠すという、とんでもなく馬鹿馬鹿しい犯罪は、完全に志村さんに当てて書いたもの。残念ながらスケジュールの都合で実現しなかった。
【三谷幸喜のありふれた生活(987回)】より引用¹⁾
データ
脚本:三谷幸喜
監督:関口静夫
制作:フジテレビ
演出:鈴木雅之
音楽:本間勇輔
本編時間:108分43秒
公開日:1999年4月6日
あらすじ
遺体の肛門から犯行予告のおみくじが発見される『猟奇的殺人事件』が発生する。古畑任三郎たちが捜査を進めると、おみくじが詰まった遺体の検視には監察医・黒岩健吾(緒形拳)と、助手・春木(栗田寛一)が行っているという共通点を発見した。監察医の2人が事件に関与していると疑うのだが、遺体におみくじを入れる目的が分からないでいた。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:黒岩健吾
役者:緒形拳
概要:監察医の男性。助手・春木と共に『おみくじ殺人』を実行した。医務院には専用の研究室があり、特製のタレにつけた『あたりめ』をピンセットでつまむと、アルコールランプで加熱した石綿網であぶり、マヨネーズを付けて召し上がっている。冷蔵庫には日本酒を入れており、勤務中にも関わらず酒をビーカーに注ぐとあたりめを酒の肴に1杯ひっかけている。
共犯者:春木
役者:栗田寛一
概要:黒岩健吾の助手の男性。黒岩博士と共に『おみくじ殺人』実行の共犯者となった。黒岩博士とは長年コンビを組んでおり、「とっつきがいい人ではない」とのこと。
小ネタ・補足・元ネタ
〇事件のアイディアとしては『ブラウン神父の童心』の「折れた剣」が似ている
〇助手・春木役の『栗田貫一』氏は、1996年金曜ロードショーで放送されたルパン三世『トワイライト☆ジェミニの秘密』の中で、変装したルパンで古畑任三郎のモノマネを行っている。台詞の中には「通りすがりの古畑です」というものあり、見た目は白いローブとターバンを巻いた民族衣装であった。
まとめ
演出がスタイリッシュである。早送りのように進む画面、モノクロで映し出される遺体のアップなど、最初に見たときは「いつもの古畑任三郎じゃない」という雰囲気を感じました。演出を担当したのは「鈴木雅之」氏です。
26作『古畑任三郎 vs SMAP』
27作『黒岩博士の恐怖』
29作『その男、多忙につき』
上記のエピソードを担当しているのですが、やはり『黒岩博士の恐怖』は毛並みが違います。冒頭の古畑任三郎が牢屋に入っており、西園寺刑事が面会に来る流れなどは、映画『羊たちの沈黙』を意識しているんですね。
さて、『遺体の肛門からおみくじ』が発見されるというプロットは実にユニークな掴みで、動機が伏せられている状態で進むため「一体どうなるんだ⁉」と先が見えないのがミソであります。黒岩博士は非常に強敵として描かれており、古畑・今泉・西園寺くんというチームでボスに向かっていくような構図になっているのが特徴的ですね。
1つ残念な点としてはラストの詰め手であります。アップになり映し出されているため、古畑の行動に対し「明らかに怪しい」と思ってしまいました。決め手の元ネタである刑事コロンボの某エピソードように、一見すると何の不自然さもないやりとりの中で証拠ができあがる場面があれば完璧だった。
以上、『黒岩博士の恐怖』でした。
引用・参考文献
1)三谷幸喜『三谷幸喜のありふれた生活(987回)』朝日新聞夕刊、2020年3月29日
● 『ブラウン神父の童心』東京創元社、2017年
● ●モンキー・パンチ『ルパン三世 トワイライト☆ジェミニの秘密』日本テレビ、1996年
●ジョナサン・デミ『羊たちの沈黙』ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント、1990年