45分枠での古畑任三郎の最終回です。1つの事件を2週に分けて放送しており、実質的には90分のスペシャルと考えても良いのではないでしょうか。1話完結型で展開してきた型を破り、そのうえで殺人犯ではなく犯罪組織と対決をする異例なシチュエーションで物語が展開していきます。
データ
脚本:三谷幸喜
監督:関口静夫
制作:フジテレビ
演出:河野圭太
音楽:本間勇輔
本編時間:46分05秒(37話)/45分21秒(38話)
公開日:1999年6月15日(37話)/6月22日(38話)
あらすじ+人物相関図
動物愛護団体『SAZ』の過激派メンバー・牟田(小原 雅人)は、団体の機密情報が入った鞄を持ち逃げしたが追い詰められ射殺された。しかし、牟田が盗んだ鞄は電車内に取り残されており駅の遺失物保管所に預けられてしまう。メンバーのリーダー・日下光司(江口洋介)は、鞄を回収するため、列車の運行システムをハッキングし、架空の列車ジャックを演じるのであった。
犯人(キャスト)
今回の犯人:日下光司(くさか こうじ)
役者:江口洋介
概要:動物愛護団体『SAZ』過激派グループのリーダーである男性。メンバーの機密情報が入った鞄が駅の遺失物保管所に預けられてしまったため、列車の運行システムのメインコンピューターをハッキングして架空の列車ジャックを演出した。
今回の犯人:山本一郎
役者:山崎一
概要:動物愛護団体『SAZ』過激派グループのメンバーである男性。メンバーの機密情報が入った鞄を持ち逃げした「牟田」を裏切者として処刑した。拳銃の扱いに長けており、ドラマの後編では、車の運転席から走行中のタイヤを撃ち抜いている。
今回の犯人:浅香忠夫
役者:斎藤洋介
概要:動物愛護団体『SAZ』過激派グループのメンバーである男性。SAZの動物愛護の考えに浸透しており、その歪んだ愛が過激派への加入要因にも繋がってしまったのだろう。非暴力主義であり、暴力的解決方法の「山本一郎」に度々制止を掛け「気を抜くな」と注意をする場面もあった。
今回の犯人:大和田五郎
役者:水道橋博士
概要:動物愛護団体『SAZ』過激派グループのメンバーである男性。コンピューターを使用してシステムに侵入する『ハッカー』を担っており事件の中心となり暗躍した。性格的に動物愛護には興味はないと思われる。自分の実力を試せる場所、思う存分に遊べるようにとメンバーになったのではないだろうか。ハッキング中は笑顔が多く、メガネを装着して作業をしている。
今回の犯人:江田
役者:杉崎浩一
概要:動物愛護団体『SAZ』過激派グループのメンバーである男性。大柄な体系で、口数はそう多くはない。メンバーの中で唯一名前が明らかにされておらず、『SAZ』のチャリティーグッズであるTシャツを着ているのも彼だけであった。
被害者(キャスト)
今回の被害者:牟田(むた)
役者:小原雅人
概要:動物愛護団体『SAZ』過激派グループのメンバーである男性。一味の秘密のアドレスを書いた手帳を鞄に入れて持ち逃げ、警察公安に売り渡そうと奔走したが、山本一郎により裏切者として銃殺される。
小ネタ・補足・元ネタ
○後編において、古畑任三郎が暗転シーンで「2週に渡ってお送りしたこの事件、どうやら今週中に解決できそうです。ちなみに来週は『GTOスペシャル』をお送りする予定です」と語る場面がある。そのため再放送時は、ドラマ上の演出であり実際には放送されないことがテロップで表示される配慮がなされている。
○動物愛護団体の『SAZ』とは、「SAVE ANIMALS OF ZOO(動物園の動物たちを守れ)」との略である。一部のメンバーが過激派となり、建物を爆破したり、動物園から動物を逃がしたりさせているようだ。母体は真っ当な愛護団体で過激派の行為には迷惑しているとのこと。キーホルダーやTシャツ、マグカップなどのチャリティーグッズを販売したりもしているそうだ。
〇古畑任三郎の携帯電話の着信音は『ゴールデン・ハーフ「黄色いサクランボ」』
西園寺くんの携帯電話の着信音は『斉藤由貴「卒業」』である。
〇列車のコントロールセンター局長・武藤田を演じたのは、『ささきいさお』氏である。
また、前編で山本一郎の殺人事件を目撃したストリートミュージシャンは、お笑い芸人『はなわ』氏が演じていた。
〇09:44~「”ひさご”のママも同じことを言っとったよ」という武藤田のセリフがある。『刑事コロンボ読本』の鼎談記事によると、企画当初は古畑常連の小料理屋だったようだ。そこの女将と古畑が過去に何か関係があったようなことを匂わせる会話をさせるように言われたようだ。
三谷「企画当初、事件が終わったら古畑が必ず行く小料理屋を作れって言う人がいましたね。名前も決まってて『ひさご』っていう(笑)」刑事コロンボ読本 274項より引用
刑事コロンボからのオマージュ
(1)ドラマ最終回。動物愛護団体を隠れ蓑にするテロリストが犯人で、被害者は組織を裏切り射殺される。⇒刑事コロンボ45話「策謀の結末」旧シリーズ最終回。北アイルランド援護協会を隠れ蓑にするテロリストが犯人で、被害者は組織を裏切り射殺される。
まとめ
古畑任三郎でサスペンスな展開と言えば、17話『赤か、青か』があります。もし古畑が犯人を逮捕できなければ、今泉が爆死するという大きな代償が分かりやすく設定されており、そのうえで観覧車になぜ爆弾を設置したのかという驚きの動機がよりエピソードを際立たせました。
今作品もサスペンス色が強く『架空の列車ジャックを演出する』大胆な作戦ですが、やっていることが「駅の紛失物保管所に入れられた鞄を取り戻す」というチープさがちらつきます。殺人=捕まったら終了という分かりやすい構図ですが、鞄=組織の壊滅? と、代償の対価が不明瞭に感じます。
ましてや、そのような大掛かりな計画をでっちあげる必要性はなく、人目を忍んで紛失物保管所の扉をこじ開けてしまえばいいのではないでしょうか。それに犯人の計画も完璧なものではなく、もしも身代金を入れる鞄が他にも保管されていたのならば、作戦は失敗に終わってしまいます。
さて、32話『古畑、古い友人に会う』では、『えー本当は最終回に持ってこようと思っていたこのエピソード』と古畑が述べています。では、どうしてこのエピソードを最終回に持ってくる必要があったのかを考えると、リスペクト先の刑事コロンボに合わせる目的があったのだと感じました。
古畑任三郎の記念すべき第1作『死者からの伝言』は、刑事コロンボ『死者のメッセージ』のトリックをそのまま流用した形になっていました。それと対になるかのように、古畑の最終回である今作品は、刑事コロンボ旧シリーズ最終回のアレンジになっているのです。
愛護団体を隠れ蓑にする犯罪組織が相手で、被害者は組織を裏切ったために処刑される。それと同時に水面下で進行する壮大な計画をどう見破るのか。そこから逆算してこのストーリーを作った結果、2週に分けての90分枠になったのでしょう。
『コロンボに始まりコロンボに終わる』。三谷幸喜さんは、そのような思いを込めて古畑シリーズの幕を閉じたかったのだと思います。
以上、『最後の事件・前編と後編』でした。
日本映画専門チャンネルでの放送を見返していて気付いたんですが、今泉君が電車のコントロールセンターで殺人犯であるSAZの山本一郎を見かけて尾行するシーンの場所は、シーズン1の桃井かおりさんが犯人の「さよなら、DJ」で、桃井さん演じるおたかさんの犯行を検証するため、今泉君が何度も走らされたラジオ局の廊下と同じ場所で撮影されてますね。
「さよなら、DJ」の、今泉君がザ・ベンチャーズの「10番街の殺人」をバックに正攻法のルートを走って戻ってきて、古畑があまりの遅さについうとうとしてベンチで寝ているシーンとカメラアングルがほぼ同じでした。
T-yoko様
≫今泉君が電車のコントロールセンターで殺人犯であるSAZの山本一郎を見かけて尾行するシーンの場所
≫「さよなら、DJ」で、今泉君が何度も走らされたラジオ局の廊下と同じ場所で撮影されてますね。
再確認させていただき間違いございませんでした。ソファーの色は変わっていましたが、柱や階段の位置、なにより黄色い扉が残っておりましたね。『さよなら、DJ』はフジテレビ局内で撮影でしたので、電車のコントロールセンターもフジテレビ内での撮影だったのですね。同じ場所とは気が付きませんでした、教えてくださりありがとうございます‼