古畑任三郎 第2シリーズ6話(#19)『VSクイズ王』密室トリック

古畑任三郎 19話 VSクイズ王

テレビ局内で起きる密室殺人事件である。狙って密室になったわけではなく、結果として密室になったのが面白い。映像描写によるドラマならではのトリックかつ決め手でありそのポテンシャルを見事に発揮している。

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データ

脚本:三谷幸喜
監督:関口静夫
制作:フジテレビ
演出:河野圭太
音楽:本間勇輔

本編時間:45分53秒
公開日:1996年2月14日

あらすじ+人物相関図

古畑任三郎 VSクイズ王 人物相関図

学習塾経営・千堂謙吉(唐沢寿明)は、テレビ番組『クイズ王』で7週連続勝ち抜きを達成したが、番組プロデューサーとのやらせで問題の内容を事前に入手していたのだ。この不正の噂を週刊誌に嗅ぎ付けられると、番組側は問題内容のリークをやめると一方的に通告する。

番組アシスタントが着る衣装には、出題内容に関する番号が縫い付けられており、千堂はそれを調べるため衣装室に入った。衣装を見るのを阻止する美術スタッフ・沼田(伊集院光)と揉み合いになり、アルミケースに後頭部をぶつけ死亡させてしまう。

衣裳室から立ち去ろうとするが、廊下ではお笑いコンビがネタの練習をしており出ることができなかった。偶然、番組に出演していた古畑任三郎たちが帰ろうとしたとき、局内に悲鳴が響いた。古畑が衣装室内で見たものは、クサヤの干物にまみれ横倒れる沼田の遺体だけであった。

人物紹介(キャスト)

今回の犯人:千堂謙吉(せんどう けんきち)
役者:唐沢寿明

概要:学習塾共同経営者の男性。テレビ番組『クイズ王』で7週連続勝ち抜きを達成したが、番組から出題内容に関するテーマをリークされており事前に情報収集を行っていた。週刊誌に不正を嗅ぎ付けられるとリークを止めると一方的に通告される。番組アシスタントが着る衣装には、出題内容に関する数字が縫い付けられており、それを確認するべく衣装室に入り、彼を阻止しようとした衣裳部屋スタッフ・沼田をはずみで突き飛ばしてしまい死亡させてしまう。

元々は青年実業家で、様々な事業に手を出すが失敗続きだった。クイズ王には遊び半分で応募して優勝。その後、番組側から「無敵のチャンピオンを作りたい」と言われ、出題内容に関するテーマを聞かされていた。ここで強調したいのが、自分から不正を依頼したことが1度もなかった点である。

番組のおかげで女性人気が高まり、CMにも出演するようになる。すると番組スタッフにダメ出しをしたり、演出や弁当に関して文句をいう傲慢な性格が現れるようになる。こういった高圧的な態度からも番組プロデューサーは嫌気がさし、不正を止めるきっかけに繋がったのではないだろうか?

不正に関しては、本番の1時間前に出題内容に関する番号を聞かされ、学習塾の仲間に電話して片っ端から調べさせるという人海戦術で情報収集を行っていた。この不正は彼の常人ならざる記憶力があってからこそなせる技である。


今回の被害者:沼田
役者:伊集院光

概要:衣裳部屋スタッフの男性。体重が100㎏ぐらいあり、犯行現場を見た初見では、畳で足を滑らせ箱に後頭部を強打して死亡したように思われていた。千堂からは、「ぬまっちゃん」と呼ばれており、飲み会で一緒に飲むぐらい関係はあったようだ。

ズボラな性格なようで、管理している赤穂浪士の衣装もあいうえお順にしておらず、衣装を取りに来る撮影スタッフからは、いつも衣装を並び替える必要があったと証言されている。しかしながら、千堂謙吉がクイズの出題テーマに関する衣装を見ようとした際には「止められてるんです」と、阻止するべく躍起になっていた。真面目な性格であったようだ。

小ネタ・補足・元ネタ

〇冒頭で千堂謙吉に挑戦した『岸』は、松尾貴史が演じている。『岸』は松尾氏の本名「岸邦浩」から命名されたと思われる。松尾氏は、クイズ番組で何度も優勝した経験がある正真正銘のクイズ王である。余談ではあるが、名探偵コナン11巻『テレビ局殺人事件』¹⁾では、犯人として本人役で登場している。実際にアニメでも声優を担当していた。この事件も犯人視点から進む倒叙形式である。

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〇名前こそ伏せられているが、クイズ王の収録局は『フジテレビ』である。古畑任三郎は弁当はまずい、タクシーも出ない、最低の局で二度とここのテレビは見ないと憤慨している。壁を見ると『忍空』『るろうに剣心』『キャプテン翼』のポスターが貼られている。

〇クイズ王・千堂謙吉役の唐沢寿明氏は、後にクイズ番組の司会を担当している。『頭脳の祭典!クイズ最強王者決定戦!!〜ワールド・クイズ・クラシック〜』(2011年11月23日TBS)『THEクイズ神』(2012年6月29日TBS)

刑事コロンボからのオマージュ

(1)千堂謙吉は、自分の顔を短時間しかアップにさせず、すぐにカメラを切り替えたことをプロデューサーに怒りメイクセットに入る

刑事コロンボ6話『二枚のドガの絵
犯人が自分の顔を長時間アップさせないで、すぐにカメラを切り替えるようにプロデューサーに怒りメイク落としに入る

まとめ

どうやって密室から抜け出したのかが見事な作品です。小説のように文章でこのトリックを使うとなると、たちまち魅力がなくなってしまう、映像描写があるドラマならではのユニークなアイディアだと感じました。

真っ先に考えなければならないのは”前代未聞の奇想天外な舞台(殺人事件の現場など)”なのである。

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著:若桜木虔『ミステリー小説を書くコツと裏ワザ』P.38より引用²⁾

これに習って脚本を振り返ると、奇想天外な現場『クサヤの干物にまみれた遺体』が良い味を出していますね。また、テレビ局内を舞台に限定することで、日本のドラマによくあるアレを証拠に利用できたのも面白いです。

それにしても、犯人・千堂謙吉ですが、テレビ局側から事前に問題に関する番号をリークされていたとしても、本番が開始される前までにそれらに関する問題を記憶していたことになり、記憶能力がずば抜けていますよね。

さらに、『クイズ王』では、対戦者同士が問題を出題する対決があるのですが、どうやって正解を判断しているのだろう。正解の音を鳴らしているため、スタッフの中にも即座に判断できる人物がいるのか、それとも出題者の自己判断に任せているのでしょうかね。

以上、『VSクイズ王』でした。

引用・参考文献

1)青山剛昌『名探偵コナン 11巻』少年サンデー、1996年
2)若桜木虔『ミステリー小説を書くコツと裏ワザ』青春出版社、2016年

  1. 千堂が出前を待ってる間に赤穂浪士の衣装を揃えますよね?アイウエオ順は別として、犯人側の並べる動機が何度見返してもわかりません。自分は「(シーンはないけど)沼田が千堂に準備を手伝ってくれるよう頼んだ」という推測に至りました。千堂もテーマを教えてもらえるかもと受けたんでしょう。結果として沼田は死んでテーマもわかったので並べる義理もないと思いますが…管理人さんはどうお考えですか?それとも動機になるシーンがあるのでしょうか?

  2. 花畑様
    ≫千堂が出前を待ってる間に赤穂浪士の衣装を揃えますよね?
    ≫犯人側の並べる動機
    ≫「沼田が千堂に準備を手伝ってくれるよう頼んだ」という推測

     面白いご考察ですね!考えてもみませんでした。花畑様のおっしゃるように、『沼田か千堂が手伝いを頼んだか申し込んだ』可能性もありますね。赤穂浪士の衣装は、恐らく忠臣蔵と書かれた段ボールに入っておりました。千堂が、奥のテーブル席で新聞を読みながら弁当を食べるシーンでは衣装が床に散らばっていたので、その前に何らかのやりとりがあったでしょう。
     
     それか、手伝う云々のやりとりはなく、『忠臣蔵のスタッフ』が赤穂浪士の衣装を取りに部屋へ入った際には、まっすぐ奥のテーブル席に向かっていました。沼田はそこに衣装を置いておくのが習慣だったのだと思います。沼田が乱雑に衣装整理を始めた直後、千堂が『テーマ衣装』が入った段ボールを発見、そのまま事件に至ったケースも考えられます。こうなってもやはり、自発的に千堂が衣装を並べ変えるという謎の行動をとります。

    1.思いもよらぬ行動に出たパターン。他作品になるのですが、刑事コロンボにおいては、コロンボ警部に犯行の矛盾点を指摘された場合、犯人の苦し紛れの言い訳として最も頻繁に使われる返答は、「心が動転している場合には、人は思いもよらぬ行動に出るものだ」というセリフがあります。

    2.無意識や条件反射。『パブロフの犬』や『オペラント条件』という行動心理があります。 条件や行動付けにより、毎日している行為が無意識のうちに本人が行っている状態になる。例えばいつも置いている持ち物を他の場所に置いたにも関わらず、いつも置いてある場所に無意識に寄ってしまった。梅干しを見ると唾液が出る、几帳面な人の場合は部屋が散らかっていたら無意識に片付け始めたり。千堂の場合も、「あなたの目はいつだって情報を探している」

     事件の決め手になったのは、無意識の内にクイズに関する情報を集め記憶するという、千堂の日常習慣によるものでした。赤穂浪士の衣装を並び替える行為も、彼にとっては記憶の照らし合わせ、クイズのように感じたのではないでしょうか?

    3.単純に暇だったので。待っている間どうしても手持ちぶたさになりますので、気持ちを落ち着かせるため自分が得意なことをしたのではないでしょうか? 反復練習であったり、得意なことをするとリラックス効果もあるので、千堂の場合はそれが赤穂浪士の衣装を整理することだったのかもしれません。

     『たばこの本棚』という開高健先生による、作家たちのたばこ事情をまとめたエッセイで、井上ひさし先生は大きな仕事をする前は、部屋を掃除してから執筆に取り掛かると綴っていました。よくある話では、急な仕事があるのに、勉強しなければならないのに掃除を始めてしまっていたなんて聞きます。散らばっているものを綺麗にしたり、整頓するとその行為に集中(もとい現実逃避)できるという大義名分も生まれます。心機一転、リラックスして大勝負に臨んだのかもしれません。

    管理人としては以上です。難しいですね。

  3. せぷてい様 返答ありがとうございます。

    思いつきや条件反射系は自分も考えましたが、それは最後の手段としてもう少し粘ってみました(笑)。
    衣装を揃える必然性があったとすれば、沼田から「この後すぐ衣装を受け取りに来る」と言う話が出ていたのかも知れません(不明のまま準備して予定より早すぎた場合却って怪しまれる可能性も)。これもまた沼田の死が揃える前でも後でも千堂のアリバイ(のないこと)には影響ないので放置しても良かったのでしょうが、もしかしたら千堂なりの償いの意図があったのかも…

    こんな感じで、いかようにも取れるところをあれこれ詮索するの大好きです。
    お気に障らなければ他のエピソード含めお付き合いいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。

  4. ≫沼田から「この後すぐ衣装を受け取りに来る」と言う話
    これはいいですね! 考えつきませんでした。衣装係としての沼田のずぼらな仕事ぶりを知らず、千堂は『あいうえお順』に整理整頓しておくものだと思い込んでいたと説明がつきますからね。ただご指摘の通り、死亡後に整頓する意味がないですよね。

    ≫千堂なりの償いの意図
    沼田「また飲みに行きましょうよ」なんて言っていたので、結構親しかったのかもしれませんね。千堂も沼ちゃんとか話しかけてましたしね。

    ≫お気に障らなければ他のエピソード含めお付き合いいただけると
    もちろんでございます! どうしても客観的に見れない部分もあるので、花畑別視点から今回新しい気付きをいただきました。よろしければ、またご意見をお伺いできたらと思っております。

  5. 本編とは関係有りませんし、管理人さんもご存知かも知れませんが、この時沼田役を演じていた伊集院さんがラジオでのトークのネタに繋がればという思いから、田村さん専用の椅子に盗み座ろうとしてスタッフに見つかり怒られたり、死体なのでブルーシートを掛けられた状態で、ブルーシートの下で変顔をしていたらうっかり田村さんに捲られてしまい、田村さんに大目玉を喰らう…等々、かなりアレなエピソードがあるのですよね…w

  6. みに様
    コメントありがとうございます!
    ≫伊集院さんがラジオでのトークのネタに繋がればという思い
    ≫田村さん専用の椅子に盗み座ろうとしてスタッフに見つかり怒られたり
    ≫ブルーシートの下で変顔をしていたら
    ≫田村さんに大目玉を喰らう

    そうだったんですね! これは初めて知りました‼ 伊集院さんも中々悪ですねwww
     

  7. ○忍空 ×空忍

  8. ありがとうございます! 修整しました。

  9. 先日はコメントありがとうございました。

    この話は千堂もある意味被害者だと思いますね…番組側が「無敵のチャンピオンを作る」という事で千堂に情報を横流ししたくせに、彼が勝ち進んで調子コキ始めたら今度は排除しようとする。彼からすれば「自分達が言いだした事なんだから最後まで責任取れよ!」と言いたくなる気持ちも解らなくはありません。

  10. タツノコアマ様
    >>千堂もある意味被害者だと思いますね
    >>番組側が「無敵のチャンピオンを作る」という事で
     千堂も言っていますが、自分から不正を依頼したことは1度もなかったのですよね。口に含んだ水を衣装が濡れるのを気にすることなく吐き出していたり、CMではダンスをするなど、茶目っ気のある人物だと思います。そういったキャラクター性も鑑みて、番組側としては視聴率を稼いでくれる恰好の存在だったのでしょうね。

    >>調子コキ始めたら今度は排除しようとする
     元々は青年実業家で、様々な事業に手を出すが失敗続きでした。クイズ王には遊び半分で応募して優勝。その後、番組側のやらせを受け入れ、結果として初めて彼にとって成功体験を納めました。番組のおかげで女性人気が高まり、CMにも出演するようになると傲慢な性格が目立つようになってしまい、演出や弁当に関して文句を言うようになる。立ち位置というのが上手く掴めていなかったばかりに、不正も勘付かれたし高圧的な態度にも嫌気がさしていた番組プロデューサーは用済みとばかりに切り捨てる。お互いに甘い汁を分け合ったので後はご勝手にと責任の所在を放り投げる番組制作の暗部を感じますね。

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