名探偵コナンでは巻末に『名探偵図鑑』と題して、古今東西の探偵や刑事を紹介するミニコーナーがあります。名探偵コナン23巻では『古畑任三郎』が取り上げられ、作者・青山剛昌氏が好きなエピソードとして、本作品『汚れた王将』を挙げられています。
データ
脚本:三谷幸喜
監督:関口静夫
制作:フジテレビ
演出:河野圭太
音楽:本間勇輔
本編時間:46分06秒
公開日:1994年5月11日
あらすじ+人物相関図
将棋棋士・米沢八段(坂東八十助)は、タイトルを賭けて対局中であり、この1局を落とすと負けが確定する瀬戸際の状況である。対局の中盤、米沢は封じ手を宣言するが、本来なら次に指す一手を書き記さなければならないのだが白紙のまま封をして提出をした。
米沢の行動に不信を抱いたのが、対局の立会人・大石(小林昭二)である。不正行為を疑いこの件を実行委員会に報告すると話したため、口封じのために彼を自室で殺害すると、遺体を大石の部屋に運び出し、入浴中に風呂場で事故死したように偽装したのだった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:米沢
役者:坂東八十助(ばんどう やそすけ)
プロ棋士の男性。第八期竜人戦おいて中谷竜人と対局中で、連敗により後がない状況下にあった。封じ手に細工をして試合を有利に進めようとするが、立会人・大石に見咎められてしまい殺人を犯した。『合理的』という考えが信条である人物。エピソードでは米沢八段と呼ばれ名前は明かされていない。
今回の被害者:大石
役者:小林昭二(こばやし あきじ)
地元の将棋棋士の男性。米沢八段の封じ手での行動に不信を抱き、実行委員会に不正を報告しようとした。
小ネタ・補足・元ネタ
〇本作品の舞台は『扇屋』で今泉は将棋の町での対局と話をしている。将棋の町といえば山形県天童市だが、実際のロケ地は山梨県大月市『真木温泉』で撮影されている。
〇古畑が「新幹線に乗って酢豚弁当食べんの夢なんだから」と話している。この事件後、新幹線に乗って帰宅するようで、第8話『殺人特急』の直前のエピソードになる。
〇『竜人戦』は架空のタイトルである。現実に存在する将棋のタイトル戦は、【竜王戦、名人戦、叡王戦、王位戦、王座戦、棋王戦、王将戦、棋聖戦】の8大タイトルである。竜王戦と名人戦をもじってつけられたタイトルであると考えられる。また、タイトル戦は5番勝負か7番勝負である。今回の犯人である米沢は3連敗中とのことで、竜人戦は7番勝負であるようだ。
〇作中では『封じ手』の書き方に誤りがある。実際には、用紙は2枚用意される。盤上が描かれた紙に、赤のペンで動かす駒を丸で囲み、移動先まで矢印を引くことで示される。2通のうち1通は立会人が保管し、もう1通は対局場の金庫などに保管する。作中は用紙が2枚ではなく1枚であり、次の一手を黒ペンで記入している。
刑事コロンボからのオマージュ
古畑任三郎 | 刑事コロンボ |
将棋のタイトル戦中の殺人 | 16話『断たれた音』 チェスの世界チャンピオン戦中の殺人 |
立会人・大石(小林昭二) | 32話『忘れられたスター』 小林昭二は、ネッド・ダイヤモンドの吹替を担当していた |
立会人・立花(石田太郎) | 石田太郎は、二代目刑事コロンボの声優 |
不正したところ被害者に目撃される犯人の性格が解決編で影響する
⇒刑事コロンボ15話『溶ける糸』
今後考察したい部分
〇不成設定でどうにか勝つことができないだろうか?
まとめ
『合理的が信条の犯人』というキャラクター性を坂東八十助氏が見事に演じられておられます。そのような心情の持ち主が勝負に勝つために殺人を犯す。よほど大事な対局だったことが伺えます。古畑が最後に出した証拠ですが、それ自体が証拠にはなりません。合理性を求める彼だからこそ認めざるを得ないという、このエピソードの象徴とも言えるやりとりは見事でした。
米沢八段が作中で『負けて当然、勝って偶然』と将棋の格言を語るシーンがあります。将棋でいちばんスキのない布陣は、戦う前の状態、最初に並べた形だそうです。相手を攻めようと思ってひとつコマを進めるごとに、その鉄壁な布陣は崩れていく。どんどん攻めれば攻めるほど、相手に攻められるスキが大きくなってくる。だから負けるのが当たり前になるという意味です。
倒叙作品にも同じことが言えると思います。犯人たちは完全犯罪を目指し、あの手この手で自分の犯行を誤魔化そうとする。しかし、小細工をすればするほど、どこかに痕跡が残ったり、ボロが出たりしてしまう。まさに一手指す毎にスキが出てくる、そんな状態。
本当に捕まりたくないのであれば、戦う前の状態を維持すること。つまりそもそも殺人を起こさないに尽きるのだと思います。 殺人を犯した時点で犯人の負け。投了になってしまうのだから。
以上、『汚れた王将』でした。
初めまして。
この回を見返した後ふと思ったんですけど、対局二日目で使用した駒と将棋盤が米沢八段の部屋にあったものなら、対局前の駒を並べる時に飛車に着いた血痕に気付いて、「何だこれ?」となるんじゃないでしょうか?
本編ではたまたま米沢八段側の駒でしたけど、もし中谷竜人側の駒だったら、どんな展開になってたんでしょうね。
T-yoko様
返信遅れてしまい申し訳ありません。
≫この回を見返した後ふと思ったんですけど、対局二日目で使用した駒
≫対局前の駒を並べる時
≫本編ではたまたま米沢八段側の駒でしたけど、もし中谷竜人側の駒
ご明察の通りです‼ 将棋の公式試合では最初に盤上に駒をすべて出し、対局者同士で交互に1駒ずつ自陣に並べていきます。そのため、最初に血痕のついた飛車が裏の状態で出されていたらアウトでした。また、飛車が中谷竜人に取られてしまうと裏が見えてしまう可能性もありました。
中谷竜人側の飛車で試合が始まっていたら、変な汚れがあるもとりあえず裏にして飛車成にすると思います。テレビで中継もされていますので、しっかりと血痕が映り込み、試合後には『どこで血痕が付いたのか』という検証が始まり、米沢氏の犯行に繋がってしまうと思います。
明けましておめでとうございます。
返信ありがとうございます。
なるほど、公式の対局では当人同士が自分で駒を並べるんですね。
僕は、立会人が並べるんだと思ってました。
中谷竜人側に血痕付きの飛車があったら、あの無関心な竜人の事だから気にせず対局を続けて、米沢八段に負けていたでしょうね。
ドラマでは、米沢八段が飛車の血痕に気付いて成らなかった事から、人生がかかった勝負を捨ててまでも犯行を隠そうとして足が付いてしまいましたが、勝負に勝つため何食わぬ顔で飛車成りをしてたら、古畑もお手上げだったと思います。