新幹線の車両内だけで完結する事件です。列車という逃げ場のない密室であり、なんといっても、鹿賀丈史氏が演じるどこか憎めない犯人と古畑とのやりとりが魅力的なのです。
天真楼病院の外科部長・中川淳一が犯人であり三谷幸喜ファンならばご存知の『振り返れば奴がいる』で登場する人物がスピンオフ出演するのが嬉しい作品なのだと思います。
データ
脚本:三谷幸喜
監督:関口静夫
制作:フジテレビ
演出:松田秀知
音楽:本間勇輔
本編時間:46分07秒
公開日:1994年6月1日
あらすじ
天真楼病院の外科部長・中川淳一(鹿賀丈史)は、妻から依頼を受けた興信所所長・宍戸隆(河原さぶ)から不倫現場を撮られてしまう。妻の父親は病院を経営し財産は彼女の名義で管理されているため、離婚をするとなれば現在の地位や財産も失ってしまうのだ。
東京行きの新幹線内で宍戸を買収しようとするが意思は固く断られてしまったため、睡眠薬を飲ませて眠っている宍戸の隣に座ると、フィルムが入っているコートを回収し、心臓麻痺に見せかけるためにカリウムを注射して殺害したのだった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:中川淳一
役者:鹿賀丈史(かが たけし)
概要:7号グリーン車両に座った医師の男性。天真楼病院では外科部長を務め、妻の父親は病院を経営している。宍戸隆に愛人との不倫現場を撮られてしまい、このことが妻に伝わると離婚することになる。財産は妻名義であり、離婚により現在の地位と資産を失うことを恐れ犯行に及んだ。
今回の被害者:宍戸隆(ししど たかし)
役者:河原さぶ
概要:号車両指定席に座った興信所所長の男性。中川純一の妻から依頼を受け不倫調査を行い、見事に倫現場を写真におさめた。中川純一は写真フィルムを、調査金の倍で買い取ろうと持ちかけたが断っている。「依頼人裏切ったら終わりなんだよ。この世界」と素晴らしい職業人である。
小ネタ・補足・元ネタ
〇古畑と中川医師がビッフェで会話するには、解決編前にも犯行現場で顔を見られたヤクザや女性の横を通る必要があり、中川医師はかなり緊張したはずである。(2020年09月30日:花畑様より情報提供)
〇中川淳一は、三谷幸喜が脚本を務めた『振り返れば奴がいる』に登場する人物である。天真楼病院で外科医師をしており、古畑任三郎へのスピンオフ出演となっている。
〇時系列的には、第5話『汚れた王将』で帰宅するために乗った列車での事件である。
〇22:30秒~画面に11号車のテロップが表示される際、子どもたちが走って来るシーンがあるが、そこで子どもの1人が持っている玩具は、1993年~1994年に放送された『勇者特急マイトガイン』の主役ロボ・マイトガインである。殺人特急なので特急に由来する玩具を持たせたのだろうか?(2023年09月03日:T-yoko様より情報提供)
刑事コロンボからのオマージュ
スタミナ酢豚弁当について
〇古畑任三郎が探していたスタミナ酢豚弁当を、中川医師はどこの駅で買ったのか?事件発生と解決区間はどこかなど『台本』を入手したことで解明しました。番外編としてお楽しみいただければ幸いです。
まとめ
計画はまさに大胆不敵。医者ならではの道具を用い、列車内という不特定多数の乗客がいる中での強行でした。列車内といういわば密室。逃げ場のない空間において、徐々に古畑から追い詰めていく犯人だが、「白状しますよ。殺したのは僕です」と余裕をみせる丁々発止のやりとりは見事です。
鹿賀丈史氏の演技が実に素晴らしく、裏表のある感情を見事に演じております。三谷幸喜氏の脚本『振り返れば奴がいる』の登場人物「中川淳一」が犯人として登場するのはファンにとって嬉しいエピソードになっていると思うのですが、私は原作未視聴であるためいずれ見なければと思っています。
三谷幸喜氏ならではの遊び心なのでしょうか 、『振り返れば奴がいる』のタイトルになぞらえた見事な落とし方は必見です。また、どこで犯人だと気が付いたのかというやりとりは、テレビ的で見事な演出でもありました。
以上、『殺人特急』でした。
これは気づきというか余計なツッコミなんですが
犯行再現実験の時、中川は2度も後ろ向きのまま客室に入り古畑の隣に座りました。これはその後ろの席にヤクザが座っていると思っての行動というのは理解できます。つまり、その前に実験(おばちゃんの目撃証言)のためにビュッフェ往復する時にヤクザがいる横を通ってきたということですよね。個人的にはそのシーンが見たかった。どんな顔して通り過ぎたのか(笑)
花畑様
再び楽しいご考察ありがとうございます!
11号車:今泉慎太郎(自由席)
10号車:ビッフェB(売店)
09号車:ビッフェA(食堂)
08号車:犯行現場(グリーン車)
07号車:犯人と古畑任三郎
車両編成的には、花畑様のツッコミの通り、犯人はどうしても犯行現場を通らなけらばならず、やはり相当緊張しながら進んで行ったんだろうなと思いました。
古畑警部補の影に隠れながら移動していく姿が思い浮かびます(笑)。誘いを断るのもなんだし、これほど気のいいお医者さんはおりませんね♪ せっかくなので車内図も作ってみたいと思います!
管理人さん、返答ありがとうございます。
初見で序盤にでたヤクザを覚えていた視聴者がどれだけいたか…ちょっと時間開き過ぎ?と感じたので
実験前にヤクザがいることをおさらいする意味でも前述のシーンを設けても良かったのでは、と思いました。
もう一つ、入れ替わっていた婆さん見て中川が呆然としてるところにヤクザがきて
「刑事さん、もう席に戻っていいかい?あ、倒れた男の隣にいたのコイツだよ」みたいなダメ押し展開なら
私的には120点でしたね(笑)
≫序盤にでたヤクザを覚えていた視聴者
忘れたか忘れないかぐらいの伏線がいいですよね。
脚本の三幕構成的には、『中間点』でもう一度登場しており、タイミング的には視聴者への配慮がなされているのかなと思っています。11号車のおばあちゃんの登場は、見返して「あーこの人か!」となりました(笑)
≫中川が呆然としてるところに
二度刺される感じで面白いかも知れませんね(笑)
>>忘れたか忘れないかの伏線
あの程度のエピソード(面通しの失敗とオチ)入ったくらいで伏線(ヤクザの存在)吹っ飛んでしまうような
レベルの自分に話をあわせていただいて、管理人さんホント恐縮です
鹿賀丈史さんのファンでもあり、この回のDVDは購入し、何度も見ています。
管理人さんのおっしゃる通り、鹿賀丈史の医者らしい狡猾さと手前勝手なふるまいが見応えがあります。中川医師のキャラクター設定のもととなっているTVドラマ「振り返れば奴がいる」も見ました。
ラストシーン、降り始めた雪を車窓から見ながら、古畑が「着くまで(または駅までだったか)もちませんでしたね」とつぶやきます。
これは「雪」と「犯人逮捕」のふたつをかけたものだと個人的に思っています。
古畑任三郎はセリフのうまさといい、役者の演技力といい、かなり洗練された作品シリーズでしたね。
じゅじゅこ様
コメントありがとうございます!
>>鹿賀丈史さんのファン
>>中川医師のキャラクター設定のもととなっているTVドラマ「振り返れば奴がいる」
大変素敵でいぶし銀ですよね。『殺人特急』の魅力は電車内の殺人事件という設定もさることながら、鹿賀丈史さんの演技力が大きいと思います。三谷幸喜さんは過去に手掛けた脚本から新作にも組み込んでこられるので、過去作を知っていると面白い作品も多いです。
>>ラストシーン、降り始めた雪を車窓から見ながら
こちら再確認したのですが、恐らく雪ではなく街の灯り(白く点々)かも知れません。間違っていたら申し訳ございません!
しかし、雪であるならば天候により中川医師の心情を表現した素敵な演出ですよね。刑事と犯人のお互いが笑顔で顔を見合わせ、最後は中川医師が儚げに車窓から外を眺める。小説版においては、「中川は黙って外を眺めた。そして中川先生は、悪あがきすることもなく、潔く犯行を認めた自分を無性に愛おしく思った。」(1994年、古畑任三郎『殺人事件ファイル』、p.371より引用)と締めくくられております。
この回も面白くて好きな回です。
古畑が中川をビュッフェに誘って、今泉君が目撃者の女性を面通しさせるシーンで、女性は被害者の隣にいたのは古畑で、中川の事は全然知らないと言ってます。
DVDを見返してみると、中川が犯行に及んで立ち去る時、網棚に荷物を乗せている彼女とバッチリ顔を合わせてるんですよね。
それなのに、面通しの時になると中川の事は知らないと言ってるのは何ででしょうね?
顔を見られた中川が、彼女に口止めをするシーンも無いですし、疑問です。
ちなみに、今泉君が乗っている車両で男の子が持っている玩具は、放送の前年にやっていたアニメ「勇者特急マイトガイン」の主役ロボ、マイトガインです。
T-yoko様
>>面白くて好きな回です。
限られた空間と時間内での事件かつ、鹿賀丈史さん&田村正和さんの名演が素敵で私も大好きな作品です。
>>今泉君が乗っている車両で男の子が持っている玩具
>>「勇者特急マイトガイン」の主役ロボ
これは知りませんでした、ありがとうございます!補足欄に追記させてください‼ 特急列車での事件ですので特急にちなんだ玩具に合わせたのでしょうかね?
>>今泉君が目撃者の女性を面通しさせるシーン
>>面通しの時になると中川の事は知らないと言ってるのは何ででしょうね?
忘れてしまったのだと思いました。中川医師と女性はバッチリと互いに顔が合っていましたが(女性は別の物を見ていたのかも?)、案外短い時間間隔だったのかも知れません。荷物整理で忙しく中川医師のことがあまり印象には残らず、しばらくして座席でゴソゴソとやっている古畑の方が怪しく記憶に残ってしまったのではないでしょうか。面通しの際、女性を見た中川医師が驚いておりましたし、女性もまた「(中川医師を見て)初めまして」「(古畑)刑事が犯人だったの?」と言っていましたので、口止めではないと思いました。