【VS.雑誌編集長】「何をやってもついてない日ってありますよね。しかし物は考えようで、一生の間に経験するツキっていうのは分量が決まっているって言います。つまり、大きい所でついている人は、その分細かい所でついてない。だから決して挫けないようにしてください。ただですね、まれに大きなツキが巡って来る前に人生を終わってしまう、本当についてない人もいるそうで。願わくはあなたがそうでないことを祈って…」
データ
あらすじ+人物相関図
雑誌編集者・若林仁は、妻の不倫相手を山荘のロッジで射殺した。糸を駆使したトリックで密室を作り上げ、その場を後にしたのだった。車で帰宅するつもりがタイヤがパンクしてしまい、偶然通りがかった鴨田巌の車に乗せてもらった。
さらに運が悪いことに、鴨田は若林のことを知っていると話す。一体どこで出会ったのか……。若林は彼に今日出会ったことは誰にも言わないように頼んだ。その場は了承した鴨田だったが、口が軽い彼は、自宅にある留守番電話に若林と会ったことを吹き込んでしまう。
山荘の殺人事件に関与していることがバレてしまうため、若林は鴨田を殺害し、鴨田宅に向かい留守番電話のテープを回収した。玄関から外へ出ようとしたとき、チャイムが鳴った。そこにいたのは、鴨田を尋ねてきた古畑任三郎であった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:若林仁(わかばやし ひとし)
役者:風間杜夫
職業:雑誌編集長
殺害方法:不倫相手(銃殺:猟銃)/ 鴨田巌(撲殺:石)
動機:不倫相手(復讐) / 鴨田巌(口封じ)
今回の被害者:????
役者:清水昭博
職業:????
概要:職業、氏名不詳の男性。若林の妻と不倫関係にあり、それを若林から見咎められて高尾山にあるロッジで射殺された。鴨田の話によると、若林の妻は大変な美人のようだ。若林仁の職業は雑誌編集者であり、同業者や執筆関係の仕事に携わっているのではないだろうか?
今回の被害者:鴨田厳(かもだ いわお)
役者:小野武彦
職業:(内緒)
犯行計画/トリック
【糸を駆使した仕掛けで密室での自殺にしたのだが……】
①妻の不倫相手を、高尾山にあるロッジで猟銃で射殺する。玄関にカギを掛けると、糸を駆使した仕掛けで、遺体の手にカギを握らせた。これで、密室で自殺したように見せかけられた。帰り道に車がパンクしてしまい、偶然通りがかった鴨田巌の車に乗せてもらった。
②鴨田は自分のことを知っているようだ。若林はまったく身に覚えがなく、ここで出会ったことを誰にも言わないでほしいと頼んだ。その場は了承した鴨田だったが、大変口が軽く、若林と出会ったことを自宅にある留守番電話に吹き込んでしまった。そのため、鴨田を殺害し、彼の自宅に向かう。
③鴨田宅に到着する。鴨田は、玄関横にある植木鉢の下にカギを置いていると話していた為、若林はそれで自宅内に侵入した。留守番電話のテープを回収して出ようとしたとき、チャイムが鳴る。そこには古畑任三郎がいた。そう言えば、鴨田は財布を拾っていたと話していた。古畑は、紛失届を回収しに来たのだった。若林は鴨田に成り済まし、どうにかやり過ごそうとしていく。
推理と捜査(第2幕まで)
視聴者への挑戦状
「えー、風変わりな事件でした。えー、私が会った鴨田さんは、やはり真っ赤な偽物でした。本物の死体が見つかった以上、彼がこの事件に関わっているのは明白です。今夜のポイントは私がどこで彼の嘘を見破ったか。ヒントは『サザエさん』古畑任三郎でした」
三幕構成
小ネタ・補足・元ネタ
〇「花見先生の出版記念パーティー」で若林仁を見たという台詞がある。これは、16話『ゲームの達人』の被害者である推理小説家・花見禄助氏のことだと思われる。そのため、今回の事件は16話前後のどちらかで起きた可能性が高い。
〇再放送されないエピソードの1つである。25:21~25:35の14秒で『サザエさん』のオープニングが使用されており、この部分が権利関係の都合上により再放送ができない箇所になっている。このシーンは作品内でも重要な仕掛けになっており、都合よくカットすることができないためである。
〇放送当時、フジテレビ系列では毎週火曜日19:00~『サザエさん』の再放送されていた。また、三谷幸喜氏は『サザエさん』の脚本を担当したことがある。
〇鴨田巌が若林仁と車内で交わした会話の中に、「俳優『平田満』を見た」と話すくだりがある。若林を演じた『風間杜夫』氏とは、1982年の映画「蒲田行進曲 」以降にコンビを組むことが多かったための演出である。
〇DVD表示では『間違えられた男』というタイトルであるが、『間違われた男』とも呼ばれている。ヒッチコック監督作に『間違えられた男』という同一の名前があり、これがタイトルの元ネタとされている。
まとめ
落差が見事なエピソードです。「雪山の山荘」+「糸による密室」と、本格ミステリーを思わせる舞台設定で第1の殺人を完了しました。一体どうやって密室トリックに古畑任三郎は挑むのか!
ところがどっこい、犯人が帰宅する途中で、車がパンクしてからは急転直下でギャグパートに移ります。何をやってもついてない1日を犯人・若林仁は迎えてしまうんですね。古畑任三郎と対峙してからは、とことん付きまとわれてしまい、挙句に完全に遊ばれてしまいます。
若林も何とかバレないようにと、別人になりきって話をしたり、同性愛者のフリをしたり、ボーリングでストライクを狙ったりとにかく必死です。古畑も負けじと、恩返しがしたい、持病の心臓発作など芝居をうって若林を逃してくれません。
どう考えても不自然な状況なのに、ヤケクソで乗り切るしかない状況というのが面白いですね。特に、鴨田(若林が成り済ました)がバリトンホテルに予定があると言い、更衣室で着替えた後のシーンは笑ってしまいます。
一方で、被害者となってしまった鴨田巌です。いい人なんですね。他のエピソードでは過失致死などで死ぬ被害者も多いのですが、今回は狙って殺されてしまいました。口が軽く若林と出会ったことを留守番電話に吹き込んだばかりにです。
今作は『なりすまし』がテーマですので、被害者に関する私生活というものが良く見えてくるんですよね。どういった友人関係があり、どういった家族構成なのか?どういった仕事で部屋には何を置いているのか。これらはストーリーに直結しています。
『俺、基本的に良い人だからさ』と鴨田は自分で公言しているように、何も悪さをしていないただ真面目に生きてきた男だったんです。同居人に「シゲル」というのもおり、大学のサークルに出かけているのだそうです。物語自体は犯人が逮捕されてお終いです。終始ギャグ調で進む話なだけに、帰宅したら、鴨田巌がない。失ったショックを考えると、非常に物悲しくもなるエピソードです。
以上、『間違われた男』でした。