【VS.女流棋士】「突然ですがあなた、大雑把な性格だって言われませんか?タンスの引き出し、ちゃんと閉めていますか?ブドウの種、全部飲み込んでいませんか?ジグソーパズル、力ずくではめ込んでませんか?ただですね、人間あんまりちまちましているのは考え物です。しかし一つだけいえるのは、大雑把な人間は完全犯罪には向いていないということ」
データ
あらすじ+人物相関図
女流棋士・小田嶋さくらは、ケーブルテレビの囲碁教室に、正式にレギュラーとして出てみませんかと持ちかけられる。同じく棋士で夫・小田嶋佐吉に報告するのだが、笑い者になっているだけだと、仕事を辞めて専業主婦として家にいるように促した。
仕事に生きがいを感じ、番組でも1人前と認められた矢先に降板するように言われた……。夫に縛り付けられたままの生活に困窮したさくらは、マグライトで佐吉を撲殺する。アリバイ工作を行うと、熱狂的ファンによる強盗に襲われたように偽装したのだった。
人物紹介(キャスト)
今回の犯人:小田嶋さくら
役者:田中美佐子
職業:囲碁棋士
殺害方法:撲殺(マグライト)
動機:束縛が強い
今回の被害者:小田嶋佐吉
役者:小日向文世
職業:囲碁棋士
犯行計画/トリック
『強盗殺人に偽装』
①小田嶋さくらは、小田嶋佐吉をマグライトで撲殺する。佐吉の鞄から携帯電話、自室の引き出しからはアラームを持ち出した。麻婆豆腐を料理すると、その後、18時の番組打ち合わせに参加できるようになったとプロデューサーに連絡を入れる。
②テレビ局に向かう前、川に『天竜戦』『白竜戦』の優勝トロフィーを捨てた。打ち合わせの途中、セットしていたアラームが鳴る。夫からの電話を装い嘘のやりとりを演じた。『麻婆豆腐を作ったから何も食べずに帰宅してほしい』。この時間は夫は生きているように見せかけた。
③自宅に戻ると、夫が死んでいると警察に電話をする。2階でコーヒーを飲んで落ち着いていたところ、揉み合った時、コートのボタンをむしり取られたことを思い出し、再び1階に下りてボタンを回収した。優勝記念トロフィーが紛失していることから、熱狂的なファンによる強盗殺人として捜査が進められる。
推理と捜査(第2幕まで)
視聴者への挑戦状
小ネタ・補足・元ネタ
◯演出面では、刑事コロンボ32話『忘れられたスター』をイメージしていると思われる。鏡を見てほほ笑む犯人。裏では夫なりの思いやりがあったなど。
◯ラストの展開は、刑事コロンボ39話『黄金のバックル』からの引用である。着飾った犯人が、刑事に手引きされ退場をする。
まとめ
人間ドラマに重心があるエピソードなんですね。古畑任三郎のエピソードの中でも非常に哀しいお話で、見終わった後に胸が痛くなります。最初は束縛される妻が、冷血な夫に対しての犯行という目線で進んでいくのですが、ラストでこの価値観が一転してしまいます。
母から貰った大事なネックレスやイヤリングも、「お前には派手すぎる」「お前には似合わないんだ」と返してもらえない。妻がやりがいを感じ、レギュラーを手に入れた番組を、「向いてない」。人と会う機会がなくなってしまうと言うが、「家にいればいい」。
妻のやることなすことに事細かに指示を出す、神経質で嫌な夫。そんな『行動を縛り付けられる哀しい女性が犯人』という冒頭を視聴者は植え付けられていきます。こんなひどい夫であるならば殺されても致し方あるまいという、復讐劇にもなるんですね。
いざ警察の捜査が始まると、夫が注意するように促していたミスであっという間に追い詰められてしまう。古畑にも、「全部がいけませんでした」と言われる始末。
最後の晴れ舞台に自室で着替える許可をもらう。化粧台の鏡越しで、自分が出演する番組がちょうど流れる。画面の中でとちってばかりの彼女と、それに重なるスタッフの笑い声。自分の力で番組が取れ、やっと1人前になれたと思っていたのは勘違い。
夫の仕事を辞めるようにという冷たい発言は、放送を見て心を痛めた彼なりの思いやりから。彼女は道化でしかなかったのに、それにも気が付かないで満足気な表情。
自分なりに精一杯おしゃれして、古畑の待つリビングに降りていく。服装はちぐはぐで、古畑も何とも言えない表情を見せる。夫が服装を制限するのも、服を合わせるセンスが妻にはなかったから。それにも気が付かないで満足気な表情の犯人は、刑事に手引きされ退場する……。
自分を本当に愛してくれていた夫の真意に気付かずに殺しても、「後悔はしていない」と満足気な様子。最後の最後まで空回りした、不器用な犯人の哀しい事件でした。視聴者側から見れば不幸だが、登場人物側から見れば幸せな結末。『メリーバッドエンド』な作風だと感じました。
以上、『哀しき完全犯罪』でした。